アボコート軟膏はどのくらいの強さのステロイドなのか

アボコート(一般名:ヒドロコルチゾン酪酸エステル)は、1975年から発売されている「ロコイド」というステロイド外用剤のジェネリック医薬品になります。

ステロイド外用剤とは、皮膚に塗るタイプのステロイド剤の事です。主に皮膚の炎症を抑えるために用いられますが、塗り薬であるため炎症を抑えたい部位にのみ作用させることができ、飲み薬のように全身に作用するわけではないため安全性に優れます。

ステロイド外用剤にはたくさんの種類があるため、それぞれがどのような特徴・特徴を持つのかは分かりにくいものです。

アボコートはどのような特徴のあるお薬で、どのくらいの強さを持ち、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。

ここではアボコートというお薬の強さや特徴についてみていきます。

 

1.アボコートの特徴

まずはアボコートの全体的な特徴とその強さを紹介します。

アボコート軟膏は皮膚に塗るステロイド外用剤であり、皮膚の炎症を抑える作用があります。その強さはステロイド外用剤の中では「弱め」になります。

ステロイド外用剤の主なはたらきとしては次の3つが挙げられます。

  • 免疫反応を抑える
  • 炎症反応を抑える
  • 皮膚細胞の増殖を抑える

ステロイドは免疫反応(身体がばい菌などの異物と闘う反応)を抑える事で、塗った部位の炎症反応を抑える作用があります。これにより湿疹や皮膚炎を改善させたり、アレルギー症状を和らげたりします。

また皮膚細胞の増殖を抑えるはたらきがあり、これによって皮膚を薄くする作用も期待できます。

アボコートもステロイド外用剤の1つですが、外用ステロイド剤は強さによって5段階に分かれています。

【分類】 【強さ】 【商品名】
Ⅰ群 最も強力(Strongest) デルモベート、ジフラールなど
Ⅱ群 非常に強力(Very Strong) アンテベート、ネリゾナ、マイザーなど
Ⅲ群 強力(Strong) ボアラ、リンデロンV、リドメックスなど
Ⅳ群 中等度(Medium) アルメタ、ロコイド、キンダベートなど
Ⅴ群 弱い(Weak) コートリル、プレドニンなど

この中でアボコートは「Ⅳ群(中等度)」に属します(アボコートはロコイドのジェネリック医薬品デスノデ、ロコイドと同じ強さです)。

表記上は「中等度」となっていますが、御覧のようにステロイドの中では弱い方になります。

Ⅴ群に属するステロイドは作用が非常に穏やかであるため処方される機会は多くはありません。そのためⅣ群は治療によく用いられるステロイドの中では弱いもの、と考えて問題ありません。

ステロイドはしっかりとした抗炎症作用(炎症を抑える作用)が得られる一方で、長期使用による副作用の問題などもあるため、皮膚症状に応じて適切に使い分ける事が大切です。

強いステロイドは強力な作用がありますが、一方で副作用も生じやすいというリスクもあります。反対に弱いステロイドは作用は穏やかですが、副作用も生じにくいのがメリットです。

アボコートはステロイド外用剤の中では穏やかであるため、強力に炎症を抑えるためには力不足ですが、副作用のリスクも少なく治療する事ができます。

また安全性が高いため、顔や陰部などといった皮膚が薄い部位・敏感な部位にも比較的安全に使えるという点もメリットになります。

しかしステロイドはどれも長期間に渡って使用を続けているとすると、過剰に皮膚の細胞増殖を抑制して皮膚を薄くしてしまったり、免疫力を低下させてばい菌に感染しやすい状態を作ってしまったりといった副作用が生じる可能性があります。

アボコートもそういった副作用が生じる可能性はあるため、必要な期間のみ使用し漫然と塗り続けないことが大切です。

またアボコートは「ロコイド」のジェネリック医薬品であるため、先発品のロコイドよりも安い事もメリットの1つになります。

以上からアボコート軟膏の特徴として次のような事が挙げられます。

【アボコートの特徴】

・Ⅳ群(中等度の強さ)に属するステロイド外用剤である
・炎症を抑える作用、免疫反応を抑える作用、皮膚細胞の増殖を抑える作用がある
・ステロイドの中で効果は穏やか
・顔や陰部などの皮膚が薄い部位にも使いやすい
・ステロイドであるため、長期使用による副作用に注意
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

 

2.アボコートはどのような疾患に用いるのか

アボコートはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。

【効能又は効果】

湿疹・皮膚炎群(進行性指掌角皮症、ビダール苔癬、脂漏性皮膚炎を含む)、痒疹群(蕁麻疹様苔癬、ストロフルス、固定蕁麻疹を含む)、乾癬、掌蹠膿疱症

難しい専門用語がたくさん並んでおり、これを見ただけではどのような皮膚に使えばいいのかイメージしずらいかもしれません。

皮膚の炎症を抑えたり皮膚を薄くする作用を持つのがステロイド外用剤になりますので、皮膚に炎症が生じている時や皮膚が厚くなってしまった時にアボコートは幅広く効果が期待できます。

進行性指掌角皮症とはいわゆる「手荒れ」の事で、水仕事などで手を酷使する事により手の皮膚が傷ついてしまい、炎症を起こしてしまう疾患です。

ビダール苔癬とはストレスなどが原因となり皮膚の一部に痒みや苔癬が生じる疾患です。主に首の後ろや大腿部などに生じます。

これらの疾患はアボコートの炎症を抑えるはたらきが効果を発揮します。

ストロフルスはアレルギー反応の1つで、主に虫に刺された後に生じる皮膚の腫れです。またじんま疹もアレルギーの一種です。

掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)とは、自己免疫疾患になります。自己免疫疾患は免疫(ばい菌と闘う力)が何らかの原因によって暴走してしまい、自分自身を攻撃してしまう病気です。掌蹠膿疱症では、免疫の異常によって手足に膿胞(膿が溜まった皮疹)が出来てしまいます。

アレルギー疾患や掌蹠膿疱症のような自己免疫疾患は、免疫が過剰にはたらいてしまっている結果生じているため、アボコートの免疫力を低下させる作用が効果を発揮します。

乾癬(かんせん)とは皮膚の一部の細胞増殖が亢進していしまい、赤く盛り上がってしまう状態です。

乾癬にはアボコートの皮膚細胞増殖を抑制するはたらきが効果を発揮します。

注意点としてステロイドは免疫(身体が異物と闘う力)を抑制するため、ばい菌の感染に弱くなってしまいます。そのため、細菌やウイルスが皮膚に感染しているようなケースでは、そこにステロイドを塗る事は推奨されていません。

アボコートはジェネリック医薬品であるため有効率の詳しい調査は行われていませんが、先発品の「ロコイド軟膏」においては、

  • 接触皮膚炎への有効率は90.8%
  • アトピー性皮膚炎(乳児湿疹を含む)への有効率は87.1%
  • 神経皮膚炎(ビダール苔癬を含む)への有効率は86.7%
  • 脂漏性湿疹への有効率は81.8%
  • 貨幣状湿疹への有効率は77.3%
  • 急性湿疹への有効率は84.4%
  • 慢性湿疹への有効率は78.9%
  • 手の皮膚炎への有効率は41.7%
  • 痒疹群への有効率は84.6%
  • 尋常性乾癬への有効率は83.6%
  • 掌蹠膿疱症への有効率は27.3%

と報告されています。

 

3.アボコートの作用機序

皮膚の炎症を抑えてくれるアボコートですが、どのような作用機序を有しているのでしょうか。

アボコートの作用について詳しく紹介します。

 

Ⅰ.免疫抑制作用

アボコートはステロイド剤です。

ステロイドには様々な作用がありますが、その1つに免疫を抑制する作用があります。

免疫というのは異物が侵入してきた時に、それを攻撃する生体システムの事です。皮膚からばい菌が侵入してきた時には、ばい菌をやっつける細胞を向かわせることでばい菌の侵入を阻止します。

免疫は身体にとって非常に重要なシステムですが、時にこの免疫反応が過剰となってしまい身体を傷付けることがあります。

代表的なものがアレルギー反応です。アレルギー反応というのは、本来であれば無害の物質を免疫が「敵だ!」と誤認識してしまい、攻撃してしまう事です。

代表的なアレルギー反応として花粉症(アレルギー性鼻炎)がありますが、これは「花粉」という身体にとって無害な物質を免疫が「敵だ!」と認識して攻撃を開始してしまう疾患です。その結果、鼻水・鼻づまり・発熱・くしゃみなどの不快な症状が生じてしまいます。

同じく皮膚にアレルギー反応が生じる疾患にアトピー性皮膚炎がありますが、これも皮膚の免疫が誤作動してしまい、本来であれば攻撃する必要のない物質を攻撃してしまい、その結果皮膚が焼け野原のように荒れてしまうのです。

このような状態では、過剰な免疫を抑えてあげると良いことが分かります。

ステロイドは免疫を抑えるはたらきがあります。アボコートは塗り薬であるため、塗った部位の皮膚の免疫力が低下します。

 

Ⅱ.抗炎症作用

上記のようにアボコートをはじめとしたステロイドには免疫力を低下させる作用があります。

これによって炎症が抑えられます。

炎症とは、

  • 発赤 (赤くなる)
  • 熱感 (熱くなる)
  • 腫脹(腫れる)
  • 疼痛(痛みを感じる)

の4つの徴候を生じる状態のことです。今説明したように感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。

みなさんも身体をぶつけたり、ばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあると思います。これが炎症です。皮膚に炎症が起こることを皮膚炎と呼びます。皮膚炎も外傷でも生じるし、ばい菌に感染することでも生じるし、アレルギーでも生じます。

ステロイドは免疫を抑制することで、炎症反応を生じにくくさせてくれるのです。

 

Ⅲ.皮膚細胞の増殖抑制作用

アボコートをはじめとしたステロイド外用剤は、塗った部位の皮膚細胞の増殖を抑えるはたらきがあります。

これも主に副作用となる事が多く、強いステロイドを長期間塗り続けていると皮膚が薄くなっていき毛細血管が目立って赤みのある皮膚になってしまう事があります。

しかし反対に皮膚が肥厚してしまうような疾患(乾癬や角化症など)においては、ステロイドを使う事で皮膚細胞の増殖を抑え、皮膚の肥厚を改善させることも出来ます。

 

4.アボコートの副作用

アボコートの副作用はどのようなものがあるのでしょうか。またその頻度はどのくらいなのでしょうか。

アボコートはジェネリック医薬品であるため、副作用の詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「ロコイド」では副作用発生率は軟膏で0.3%と報告されており、アボコート軟膏も同程度だと考えられます。

アボコートは塗り薬で全身に投与するものではないため、副作用は多くはありません。しかしステロイド剤ですので、漫然と塗り続けないように注意は必要です。

生じる副作用は多くが局所の皮膚症状で、

  • 皮膚炎
  • 乾皮様皮膚(皮膚が乾燥したようになってしまう)
  • 痤瘡様疹(にきび様の湿疹ができてしまう)
  • 痒感(かゆみ)

などになります。

いずれも重篤となることは少なく、多くはアボコートの使用を中止すれば自然と改善していきます。長期間使えば使うほど発生する可能性が高くなるため、ステロイドは漫然と使用する事は避け、必要な期間のみしっかりと使う事が大切です。

また滅多にありませんが、ステロイド外用薬を長期・大量に塗り続けていると全身に作用してしまい、

  • 緑内障(眼圧亢進)
  • 白内障

などが生じる可能性があると言われています。

ステロイド外用剤の注意点としては、ステロイドは免疫力を低下させるため免疫力が活性化していないとまずい部位に塗布してはいけません。具体的にはばい菌感染が生じていて、免疫がばい菌と闘わなくてはいけないときなどが該当します。

このような状態の皮膚にアボコートを塗る事は禁忌(絶対にダメ)となっています。

ちなみに添付文書には次のように記載されています。

【禁忌】

(1)細菌・真菌・スピロヘータ・ウイルス皮膚感染症、及び動物性皮膚疾患(疥癬、けじらみ等)
(2)本剤に対して過敏症の既往歴のある患者
(3)鼓膜に穿孔のある湿疹性外耳道炎
(4)潰瘍(ベーチェット病は除く)、第2度深在性以上の熱傷・凍傷

これらの状態でアボコートが禁忌となっているのは、皮膚の再生を遅らせたり、感染しやすい状態を作る事によって重篤な状態になってしまう恐れがあるためです。

 

5.アボコートの用法・用量と剤形

アボコートには、

アボコート軟膏 0.1% 5g (チューブ)
アボコート軟膏 0.1% 100g (プラスチック容器)

といった剤型があります。

ちなみに塗り薬には「軟膏」「クリーム」「ローション(外用液)」などいくつかの種類がありますが、これらはどのように違うのでしょうか。

軟膏は、ワセリンなどの油が基剤となっています。長時間の保湿性に優れ、刺激性が少ないことが特徴ですが、べたつきは強く、これが気になる方もいらっしゃいます。また皮膚への浸透力も強くはありません。

クリームは、水と油を界面活性剤で混ぜたものです。軟膏よりも水分が入っている分だけ伸びがよく、べたつきも少なくなっていますが、その分刺激性はやや強くなっています。

ローションは水を中心にアルコールなどを入れることもある剤型です。べたつきはほとんどなく、遣い心地は良いのですが、保湿効果は長続きしません。しかし皮膚への浸透力は強く、皮膚が厚い部位などに使われます。

アボコートの使い方は、

通常1日1~数回適量を塗布する。なお、症状により適宜増減する。

と書かれています。実際は皮膚の状態や場所によって回数や量は異なるため、主治医の指示に従いましょう。

 

6.アボコートの使用期限はどれくらい?

アボコートの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。

「家に数年前に処方してもらった塗り薬があるんだけど、これってまだ使えますか?」

このような質問は患者さんから時々頂きます。

これは保存状態によっても異なってきますので、一概に答えることはできませんが、適正な条件で保存されていたという前提(室温保存)だと、「3年」が使用期限となります。

 

7.アボコート軟膏が向いている人は?

以上から考えて、アボコート軟膏が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

アボコート軟膏の特徴をおさらいすると、

・Ⅳ群(中等度の強さ)に属する外用ステロイド剤である
・炎症を抑える作用、免疫反応を抑える作用、皮膚細胞の増殖を抑える作用がある
・ステロイドの中で効果は穏やか
・顔や陰部などの皮膚が薄い部位にも使いやすい
・ステロイドであるため、長期使用による副作用に注意
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

というものでした。

ここから皮膚の免疫反応が過剰となり、炎症が生じている際に使用する塗り薬だと考えられます。

ステロイドの中では効果は穏やかであるため、比較的軽症の皮膚状態や皮膚が過敏な部位(皮膚が薄い顔や陰部)に向いているお薬でしょう。

またアボコート軟膏はジェネリック医薬品であり、薬価が安いというのもメリットの1つです。お薬代をなるべく安くしたいという方にも向いています。

しかしこれはステロイド全てに言えることですが、漫然と使い続けることは良くありません。ステロイドは必要な時期のみしっかりと使い、必要がなくなったら使うのを止めるという、メリハリを持った使い方が非常に大切になります。

 

8.先発品と後発品は本当に効果は同じなのか?

アボコートは「ロコイド」というお薬のジェネリック医薬品になります。

ジェネリックは薬価も安く、剤型も工夫されているものが多く患者さんにとってメリットが多いように見えます。

しかし「安いという事は品質に問題があるのではないか」「やはり正規品の方が安心なのではないか」とジェネリックへの切り替えを心配される方もいらっしゃるのではないでしょうか。

同じ商品で価格が高いものと安いものがあると、つい私たちは「安い方には何か問題があるのではないか」と考えてしまうものです。

ジェネリックは、先発品と比べて本当に遜色はないのでしょうか。

結論から言ってしまうと、先発品とジェネリックはほぼ同じ効果・効能だと考えて問題ありません。

ジェネリックを発売するに当たっては「これは先発品と同じような効果があるお薬です」という根拠を証明した試験を行わないといけません(生物学的同等性試験)。

発売したいジェネリック医薬品の詳細説明や試験結果を厚生労働省に提出し、許可をもらわないと発売はできないのです、

ここから考えると、先発品とジェネリックはおおよそ同じような作用を持つと考えられます。明らかに効果に差があれば、厚生労働省が許可を出すはずがないからです。

しかし先発品とジェネリックは多少の違いもあります。ジェネリックを販売する製薬会社は、先発品にはないメリットを付加して患者さんに自分の会社の薬を選んでもらえるように工夫をしています。例えば飲み心地を工夫して添加物を先発品と変えることもあります。

これによって患者さんによっては多少の効果の違いを感じてしまうことはあります。この多少の違いが人によっては大きく感じられることもあるため、ジェネリックに変えてから調子が悪いという方は先発品に戻すのも1つの方法になります。

では先発品とジェネリックは同じ効果・効能なのに、なぜジェネリックの方が安くなるのでしょうか。これを「先発品より品質が悪いから」と誤解している方がいますが、これは誤りです。

先発品は、そのお薬を始めて発売するわけですから実は発売までに莫大な費用が掛かっています。有効成分を探す開発費用、そしてそこから動物実験やヒトにおける臨床試験などで効果を確認するための研究費用など、お薬を1つ作るのには実は莫大な費用がかかるのです(製薬会社さんに聞いたところ、数百億という規模のお金がかかるそうです)。

しかしジェネリックは、発売に当たって先ほども説明した「生物学的同等性試験」はしますが、有効成分を改めて探す必要もありませんし、先発品がすでにしている研究においては重複して何度も同じ試験をやる必要はありません。

先発品と後発品は研究・開発費に雲泥の差があるのです。そしてそれが薬価の差になっているのです。

つまりジェネリック医薬品の薬価は莫大な研究開発費がかかっていない分が差し引かれており先発品よりも安くなっているということで、決して品質の差が薬価の差になっているわけではありません。