アデスタンクリーム(一般名:イソコナゾール硝酸塩)は1982年から発売されている塗り薬で、抗真菌薬に属します。
抗真菌薬とは、真菌(カビ)をやっつけるお薬のことです。アデスタンクリームは塗り薬ですので、主に皮膚に感染した真菌(皮膚真菌症)に対して用いられます。
日常で感染する皮膚真菌症には、白癬(いわゆる水虫)やカンジダなどがあり、アデスタンクリームはこのような真菌をやっつけるために用いられています。
抗真菌薬にもいくつかの種類があります。どれも総合的な有効率に大きな差はないとも言われていますが、それぞれのお薬ならではの特徴もあります。
アデスタンクリームは抗真菌薬の中でどのような作用を持っていて、どのような効果が期待できるお薬なのでしょうか。
アデスタンクリームの特徴や効果・効能、副作用についてみてみましょう。
目次
1.アデスタンクリームの特徴
まずはアデスタンの特徴をざっくりと紹介します。
アデスタンクリームは、皮膚に感染した白癬・カンジダ・癜風といった真菌を殺真菌する作用を持つ外用剤になります。
アデスタンはイミダゾール系という種類の抗真菌薬になります。
抗真菌薬には「真菌の増殖を抑えるもの(静真菌作用)」と「真菌を殺すもの(殺真菌作用)」がありますが、イミダゾール系は後者であり殺真菌的に作用します。
そのため効果も強力であり確実な効果が期待できます。
日常で遭遇する事の多い真菌には「白癬(いわゆる水虫)」があります。また免疫力が弱い方だとカンジダが悪さをしたり、皮脂が多い方だと癜風(マラセチア)が悪さをする事もあります。
このような真菌に対して殺真菌作用を持つのがアデスタンになります。
アデスタンは塗り薬(外用剤)であるため、塗った部位のみに効き、全身にお薬が回ることが少ないという利点があります。安全性に優れるのはアデスタンをはじめ、抗真菌薬外用剤のメリットの1つです。
アデスタンのデメリットとしては、作用時間が短く、1日2~3回に分けて塗る必要がある事です。近年の抗真菌薬は1日1回の塗布で良いものが主流であるため、1日に複数回塗らないといけないのは手間になります。。
アデスタンをはじめとした皮膚真菌症に対する塗り薬は効果に大きな差はないため、極論を言えばどれを用いても大きな間違いはありません。
その中でアデスタンの特徴を強いて挙げると、次のようなことが挙げられます。
【アデスタンクリームの特徴】
・白癬・カンジダ・癜風などに対して殺真菌的に作用する
・1日2~3回塗らないと効果が安定しない
・塗り薬で全身に作用しないため、副作用が少ない
2.アデスタンはどのような疾患に用いるのか
アデスタンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
下記の皮膚真菌症の治療
〇白癬:体部白癬(斑状小水疱性白癬、頑癬)、股部白癬(頑癬)、足部白癬(汗疱状白癬)
〇カンジダ症:指間びらん症、間擦疹、乳児寄生菌性紅斑、爪囲炎、外陰部カンジダ症、皮膚カンジダ症
〇癜風
抗真菌薬であるアデスタンは、皮膚に真菌(カビ)が感染してしまった時に用いられます。
日常において、皮膚に感染する可能性のある真菌というのはほとんどが白癬菌(皮膚糸状菌)になります。
白癬菌が足に感染すると「足部白癬」(いわゆる「水虫」)、
白癬菌が身体に感染すると「体部白癬」(いわゆる「たむし」)、
白癬菌が股(また)に感染すると「股部白癬」(いわゆる「いんきん」)と呼ばれます。
また、カンジダ菌は健常人の体内にも普通に生息している「常在菌」なのですが、これがしばしば悪さをしてしまう事があります。特にストレスや疲れなどで免疫力が低下している時に活性化してしまう事があります。
具体的には、水仕事をしている方などの指の間に生じやすい「カンジダ性指間びらん症」や爪周囲に生じやすい「カンジダ性爪囲炎」、陰部・股間・脇・乳房の下などの密閉された環境で生じやすい「カンジダ性間擦疹」などがあります。
また乳児はまだ免疫力が低いためカンジダが悪さをしてしまう事があり、これは乳児寄生菌性紅斑と呼ばれます。特にアトピーなどで皮膚にステロイドを塗っていたりすると、生じやすくなります。
また女性では外陰部や膣内でカンジダが増殖してしまう事もあります。外陰部であればアデスタンクリームの塗布で良いのですが、膣内であればアデスタンの膣錠がありますので、それを用いて治療します。
癜風も真菌(カビ)の一種である「マラセチア」が原因となる皮膚真菌症です。自覚症状が乏しいため気付かれにくい傾向がありますが、皮脂の多いところに生じやすく、脂漏性湿疹の原因にもなります。
アデスタンクリームはこれらの疾患に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
アデスタンの有効性を見た調査では、
〇白癬菌に対する有効率は81.9%
・体部白癬に対する有効率は90.6%
・股部白癬に対する有効率は91.9%
・足部白癬に対する有効率は61.5%
〇皮膚カンジタ症に対する有効率は91.6%
・指間びらん症に対する有効率は96.0%
・間擦疹に対する有効率は86.0%
・乳児寄生菌性紅斑に対する有効率は94.6%
・爪囲炎に対する有効率は95.2%
・外陰部カンジタ症に対する有効率は96.4%
・その他の皮膚カンジタ症に対する有効率は95.7%
〇癜風に対する有効率は100%
と報告されています。
また真菌全体を通して菌陰転率(菌が検出されなくなった率)は89.5%と報告されており、しっかりとした効果が得られる事が確認されています。
3.アデスタンにはどのような作用があるのか
アデスタンには、どのような作用があるのでしょうか。
アデスタンの作用は真菌(白癬・カンジダなど)をやっつける事ですが、どのような機序で真菌をやっつけているのかを説明します。
アデスタンは主に2つの作用から抗真菌作用(真菌をやっつける作用)を発揮します。
1つ目は、真菌細胞の細胞膜を変化させる作用です。アデスタンは真菌細胞の細胞膜に結合し、膜透過性に変化を与えます。簡単にいうと、真菌の細胞膜に「穴をあける」ようなイメージを持って頂いて良いかと思います。
真菌細胞の細胞膜がもろくなると、真菌細胞の細胞内にある成分が細胞外へ流出し、真菌細胞が壊れてしまうというわけです。
2つ目は、アデスタンは真菌細胞膜の重要な構成成分であるエルゴステロールの合成を阻害し、細胞膜を「もろく」する作用があります。
抗真菌薬は真菌細胞を殺すお薬ですが、あまりに毒性が高いと同時に「人の細胞」も殺してしまう危険が出てきます。そうならないよう、真菌にだけ効いて人の細胞には効かないような工夫が必要になります。
エルゴステロールは真菌細胞の細胞膜には存在しますが、人の細胞には存在しません。そのためエルゴステロールを標的にすれば、真菌細胞のみ効率的にやっつけることができます。
この2つの作用により、アデスタンは真菌をやっつけてくれるのです。
4.アデスタンの副作用
アデスタンクリームにはどのような副作用があるのでしょうか。またその頻度はどのくらいなのでしょうか。
アデスタンの副作用は多くはありませんが、真菌を「殺す」お薬であるため、時にヒトの身体にも害を及ぼすことがあります。
しかしアデスタンは塗り薬ですので、副作用も局所に留まる事がほとんどであり、全身性の重篤な副作用はほとんどありません。
アデスタンクリームの副作用発生率は1.4%と報告されています。
報告されている副作用としては、
- 発赤
- 瘙痒
- 刺激感
- 接触皮膚炎
- 疼痛
などが挙げられます。いずれも塗った皮膚局所の副作用であり、全身性の副作用はほとんどありません。
いずれもアデスタンが皮膚を刺激してしまうために生じます。ただし重篤となることは少なく、多くはアデスタンの使用を中止すれば自然と改善していきます。
5.アデスタンの用量・用法と剤型
アデスタンは、
アデスタンクリーム1% 10g
の1剤型のみがあります。
また、主にガンジダ性の膣炎に用いるアデスタンとして、
アデスタン膣錠 300mg
も発売されています。
アデスタンクリーム及び外用液の使い方は、
1日2~3回患部に塗布する。
と書かれています。
アデスタンは1日に2~3回塗らないといけず、これはやや手間になります。現在使われているほとんどの抗真菌薬の塗り薬は、1日1回の塗布で1日中効果が持続するため、アデスタンの作用時間の短さは1つの欠点かもしれません。
ちなみに塗り薬には、「軟膏」「クリーム」「外用液」などがありますが、これらはどう違うのでしょうか。
軟膏は、ワセリンなどの油が基材となっています。保湿性に優れ、刺激性が少ないことが特徴ですが、べたつきは強く、これが気になる方もいらっしゃいます。
クリームは、水と油を界面活性剤で混ぜたものです。軟膏よりも水分が入っている分だけ伸びがよく、べたつきも少なくなっていますが、その分刺激性はやや強くなっています。
外用液は水を中心にアルコールなどを入れることもある剤型です。べたつきはほとんどなく、遣い心地は良いのですが、保湿効果は長続きしません。刺激性が強めというデメリットがある反面で、浸透力が高く、皮膚が厚い部位でも効果が期待できます。
それぞれ一長一短あるため、皮膚の状態に応じて主治医とよく相談し、使い分ける事が大切です。
アデスタンにはクリーム剤しかありません。そのため、もし軟膏や外用液の方が適切な部位に生じた皮膚真菌症であれば、アデスタン以外のお薬の方が良いこともあります。
軟膏のメリットは保湿性に優れ、刺激性が低いことですので、クリームを塗ると刺激感が強かったり痛かったりするような部位であれば、軟膏剤がある抗真菌薬の方が良いかもしれません。
また外用液のメリットは浸透力が高い事です。皮膚が厚い部位に生じているような真菌感染や、皮膚の比較的内部まで真菌が行ってしまっていると判断される場合も、外用液がある抗真菌薬の方が良いかもしれません。
6.アデスタンが向いている人は?
以上から考えて、アデスタンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
アデスタンの特徴をおさらいすると、
・白癬・カンジダ・癜風などに対して殺真菌的に作用する
・1日2~3回塗らないと効果が安定しない
・塗り薬で全身に作用しないため、副作用が少ない
というものでした。
強いての特徴を挙げましたが、皮膚真菌症に対する塗り薬はいくつかの種類がありますが、極論を言えばどれを使っても大きな違いはありません。
「この水虫は絶対にアデスタンじゃないとダメだ!」というケースはほとんどなく、実際はどれを使っても改善が得られます。
そのため、自分の使いやすさや好みである程度選択しても構わないでしょう。
アデスタンはクリーム剤のみしかなく、軟膏や外用液がありません。そのため、軟膏や外用液が好ましい部位に生じている真菌感染であればアデスタン以外を用いた方が良いでしょう。
またアデスタンは1日2~3回塗らないといけないというのがやや手間ですので、1日1回塗布のお薬が良いという事であれば、別の抗真菌薬を選択しても良いと思います。