アドエアディスカス・アドエアエアゾール(一般名:サルメテロールキシナホ酸塩/フルチカゾンプロピオン酸エステル)は2007年から発売されているお薬で、気管支喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療薬として用いられている吸入剤です。
口から吸入することで直接気管に作用し、気管の炎症を抑えたり気管を拡げることで息苦しさなどの症状をやらわげてくれます。
吸入剤には多くの種類があり、それぞれ配合されている成分も異なっています。そのため、それぞれの吸入薬にどのような作用があって、どの吸入剤が自分に適しているのかというのはなかなか分かりにくいところだと思います。
吸入剤の中でアドエアはどのような特徴のあるお薬で、どんな作用を持っているお薬なのでしょうか。
アドエアの効果や特徴・副作用についてみていきましょう。
1.アドエアの特徴
まずはアドエアの特徴についてみてみましょう。
アドエアは主に慢性期(維持期)の発作予防に用いる吸入剤です。2つの成分を配合することによりしっかりと喘息の予防をしてくれます。飲み薬と異なり全身への作用が少ないため、副作用も少なく安全に用いることができます。
通常、吸入剤というのは2つの用途があります。
1つ目が発作が生じた時、今生じている発作を取り敢えず抑えるために用いる「発作止め(レリーバー)」です。これには「メプチン」「サルタノール」などがあり、効果は長くは続かないものの即効性があります。主に即効性のβ2刺激薬が用いられます。
【β2刺激薬】
アドレナリンβ2受容体を刺激するお薬。気管の平滑筋をゆるめることで気管を拡げるはたらきを持つ
2つ目がこれからの発作を起きないようにするための「予防薬(コントローラー)」です。多くの吸入剤はこれに属し、ステロイド剤、ステロイドとβ2刺激薬が混ざったもの、抗コリン薬などがあります。即効性はありませんが、長時間作用し続け、発作が起きないように気管を守ってくれます。
この中でアドエアは「予防薬」になります。喘息の発作が起きている時に慌てて吸入しても効果は得られませんが、普段から定期的に吸入をしておくことで喘息の発作が生じにくくなります。
アドエアは、ステロイド(フルチカゾンプロピオン酸エステル)とβ2刺激薬(サルメテロールキシナホ酸塩)という2つの成分が配合されているお薬です。
ステロイド(フルチカゾンプロピオン酸エステル)は炎症を抑えるはたらきがあります。喘息やCOPDでは、気管に炎症が生じていることが症状を引き起こす原因になっているため、炎症を抑えると呼吸苦・咳・痰などの症状を和らげることが出来ます。
【喘息】
アレルギー反応によって気管支が収縮してしまい、呼吸苦などの症状が生じる疾患。
【COPD】
慢性閉塞性肺疾患。以前は「肺気腫」と呼ばれていた。タバコによって肺胞が破れたり気管支が炎症によって狭くなり、呼吸苦などが生じる疾患。
β2刺激薬(サルメテロールキシナホ酸塩)は気管を拡げる作用があります。喘息ではアレルギー症状によって気管が狭くなってしまうことで呼吸苦が生じます。またCOPDでも慢性的な気管の炎症により気管は狭くなっています。これを広げてあげると、症状は楽になります。
アドエアはこの2つの成分によって喘息発作が起きないように、そしてCOPDによる呼吸苦が生じないように気管をしっかりと守ってくれます。またステロイドとβ2刺激薬はお互いがお互いの作用を強めあうという特徴を持っており、それぞれを単独で投与するよりも高い効果が得られます。
アドエアのような吸入剤は飲み薬と比べて副作用が少ないというのも大きなメリットです。吸入したアドエアはほぼ気管にのみの塗布となるため、飲み薬のように全身にお薬が回りにくいのです。ステロイドは通常の飲み薬であれば長期間投与すると副作用の心配がありますが、吸入によって気管にのみ作用させる吸入剤はその心配も大分少なくなります。
アドエアは大きなデメリットのないお薬ですが、強いて言えば「1日2回の吸入が必要であること」「発作時には使えない事」がデメリットとして挙げられます。
これを改良したものとして最近では、
- シムビコート(1本で発作止めと予防薬の両方として使える)
- レルベア(1日1回の吸入で効果が持続する)
といった吸入薬も発売されています。
以上から、アドエアの特徴として次のようなことが挙げられます。
【アドエアの特徴】
・喘息やCOPDなどの呼吸器疾患に用いられる
・呼吸苦・咳・痰などを改善させてくれる
・ステロイドとβ2刺激薬が配合されている
・喘息発作を抑える予防薬であり、発作止めとしては使えない
・気管にのみ作用するため、全身への副作用が少ない
・1日2回の吸入が必要である
2.アドエアはどのような疾患に用いるのか
アドエアはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
・気管支喘息 (吸入ステロイド剤及び長時間作動型吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)・慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫)の諸症状の緩解(吸入ステロイド剤及び長時間作動型吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)
アドエアは気管の炎症を抑え、気管を拡げる作用を持つお薬であるため、気管に炎症が生じている疾患、気管が狭くなってしまう疾患に対して用いられます。
具体的には「気管支喘息」と「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」になります。
気管支喘息においては、吸入ステロイドとβ2刺激薬は初期から推奨される治療法になるため、アドエアは初期から検討されるお薬になります。
一方COPDにおいては、まずは抗コリン薬などの気管支拡張剤が選択されることが多く、アドエアはそれでも効果がない場合に検討されるお薬になります。また保険適応上は、COPDに対してはアドエア250ディスカスかアドエア125エアゾールしか適応はなくその他の剤型は適応になりません。
【抗コリン薬】
副交感神経から分泌されるアセチルコリンのはたらきをブロックするお薬。気管では副交感神経は気管を収縮させるはたらきを持つため、これをブロックすると気管は拡がる
同じ呼吸器の疾患でも、喘息とCOPDでは治療法が異なり、アドエアの位置づけも異なるのです。
3.アドエアはどのような作用があるのか
アドエアはどのような作用機序によって、喘息やCOPDの症状を改善させてくれるのでしょうか。
アドエアの気管への作用について詳しく紹介します。
Ⅰ.抗炎症作用
アドエアには「フルチカゾンプロピオン酸エステル」というステロイドが配合されています。ステロイドには「抗炎症作用」があり、フルチカゾンもこの作用を狙って配合されています。
ステロイドには飲み薬や塗り薬などもありますが、これらも同じ作用があります。飲み薬のステロイドは全身の炎症を抑えるために用いられ、関節リウマチなどの自己免疫性疾患や重症の感染症などに用いられることがあります。
塗り薬のステロイドは皮膚の炎症を抑えるために用いられ、主に皮膚炎(アレルギー性皮膚炎など)に用いられます。
同じようにアドエアに含まれる「フルチカゾンプロピオン酸エステル」は、気管の炎症を抑えるために用いられます。
喘息では気管にアレルギーが生じてしまい、それにより気管に炎症が生じます。炎症が生じると気管が腫れるため、気管が狭くなり、呼吸苦や咳・痰などが生じます。COPDでも、タバコなどによって気管や肺が慢性的にダメージを受けており、慢性炎症のような状態になっています。
このような状態の気管にステロイドを使用すると、気管の炎症が軽減します。すると気道の腫れが和らぐため、呼吸苦・咳・痰の改善が得られるのです。
ちなみにステロイドである「フルチカゾンプロピオン酸エステル」のみを主成分とした吸入薬には「フルタイド」があります。
Ⅱ.アドレナリンβ2刺激作用
アドエアには「サルメテロールキシナホ酸塩」というβ2刺激薬が含まれています。
アドレナリンという物質が作用する部位をアドレナリン受容体と呼びますが、アドレナリン受容体には、α受容体とβ受容体があることが知られています。
β受容体は、心臓の収縮力を強めたり脈拍を早める作用(強心作用)や、気管にある平滑筋という筋肉を緩めて気管を広げたり、また血管の平滑筋を緩めることで血圧を下げるることで気管を拡げる作用があります。
そしてβ受容体にもいくつか種類があります。
主に心臓に存在し、心臓の収縮力を強めたり脈拍を早めるのがβ1受容体になります。また主に気管や血管に存在し、気管や血管を拡げるのがβ2受容体になります(それ以外にもβ3受容体もありますが、今回はあまり関係ないので省略します)。
気管支喘息・COPDに対して効いて欲しいのは主にβ2受容体になります。
アドエアに含まれるサルメテロールはβ受容体の中でもβ2受容体に対して選択性が高く、気管を広げる作用のみにはたらき、心臓などには作用しにくい特徴を持っています。このため、サルメテロールは「β2刺激薬」と呼ばれています。
また吸入することにより局所にのみ塗布されるため、全身の血圧を下げるといった副作用も生じにくくなっています。
ちなみにサルメテロールのみからなる吸入薬には「セレベント」があります。セレベントは主にCOPDの治療に対して用いられます(β2刺激薬は単独では気管支喘息には用いられません)。
喘息・COPD治療薬に使われるβ2刺激薬には
- SABA(吸入短時間作用性β2刺激薬)
- LABA(吸入長時間作用性β2刺激薬)
の2種類があります。
SABAは即効性がありますが、効果は長くは続きません。そのため喘息発作が起きた時に抑える「発作止め」になります。
LABAは即効性はありませんが、効果が長く続きます。そのため、発作をすぐに抑えることは出来ませんが、発作が起きないように「予防する」お薬になります。
アドエアに含まれるサルメテロールはLABAに属し、長時間効くお薬になります。実際、サルメテロールは約12時間の気管支拡張作用がある事が確認されています。
ちなみにこれら「ステロイド」と「β2刺激薬」はお互いがお互いの作用を強めあう事が確認されています。両者を配合しているアドエアはそれぞれを単独で投与するよりも高い効果を得ることができます。
ステロイドはアドレナリンβ2の受容体の数を増やす作用があり、この作用によってβ2刺激薬による気管支を広げる作用が増強されることが動物実験で確認されています。
またβ2刺激薬はステロイドが作用する部位であるグルココルチコイド受容体の核内への移行を促進することが確認されており、これによりステロイドの作用を増強することが期待できます。
4.アドエアの副作用
アドエアにはどんな副作用があるのでしょうか。
アドエアは吸入剤であり、飲み薬と違って全身にほとんど作用しません。安全性は高いお薬だと言って良いでしょう。
ただし吸入することで口腔内や咽喉頭、気管には塗布されるため、これらの部位に副作用が生じることはあります。
副作用発生率は、
- 気管支喘息への投与に対する副作用発生率は17.4%(小児は2.2%)
- COPDへの投与に対する副作用発生率は33.0%
と報告されています。数字を見ると副作用の数自体は少なくはありませんが、重篤なものが生じる可能性は低いお薬になります。
主な副作用としては、
- 嗄声
- 口腔カンジダ症
- 頭痛
- 咽喉刺激感
- 振戦
- 肝機能異常
- 鼻炎
などがあります。アドエアは、ステロイドとβ2刺激薬の配合剤ですので、それぞれの副作用が生じます。
ステロイドは炎症を抑えてくれる効果が期待できる反面で、「感染に弱くなってしまう」というリスクがあります。それにより嗄声や口腔カンジダ症などが生じやすくなってしまいます。稀ですがひどい場合には肺炎に至る事もあり得ます。
β2刺激薬は気管の平滑筋を緩めることで気管を広げる作用があります。同様に血管の平滑筋を緩める作用があります。これにより喉が痛くなったり、頭痛が生じることがあります。
またβ2刺激薬も多少はアドレナリンβ1受容体に作用してしまうため、これにより振戦などが生じることもあります。
頻度は稀ながら重篤な副作用としては、
- ショック、アナフィラキシー
- 血清カリウム値の低下
- 肺炎
が報告されています。
低カリウム血症はアドエアに含まれるサルメテロールの作用によるものです。サルメテロールは「Na+/K+ ATPase」という酵素を活性化します。この酵素は血液中のカリウムを細胞内に取り込み、代わりにナトリウムを血液中に放出します。
この酵素のはたらきが強まりすぎると血液中のカリウムが低くなってしまうのです。
アドエアを長期間吸入する場合は、定期的に血液検査などをしておくことが望ましいでしょう。
ちなみにアドエアは
- 有効な抗菌剤の存在しない感染症
- 深在性真菌症
の患者様には投与禁忌になっています。
これはアドエアがステロイドを含有しているためです。ステロイドは炎症を抑えてくれる効果がある反面で、免疫力を下げてしまう作用があります。免疫力とは病原菌に対して抵抗する力のことで、これが弱まるとばい菌に感染しやすくなってしまいます。
元々、難治性の感染症にかかっている方にステロイドを使用してしまうと、更にばい菌が悪さをしてしまう環境になるため、このような方への投与は認められていません。
5.アドエアの用法・用量と剤形
アドエアにはどのような剤型があるのでしょうか。
アドエアは、
アドエア100ディスカス 28吸入用
アドエア100ディスカス 60吸入用アドエア250ディスカス 28吸入用
アドエア250ディスカス 60吸入用アドエア500ディスカス 28吸入用
アドエア500ディスカス 60吸入用アドエア50エアゾール 120吸入用
アドエア125エアゾール 120吸入用
アドエア250エアゾール 120吸入用
といった剤形があります。
アドエアの後についている「ディスカス」「エアゾール」とはそれぞれどういった剤型の事なのでしょうか。
ディスカスは紫色の丸い形をした剤型です。お薬は「ドライパウター」という形状で入っており、自分の力で吸い込むことでお薬が気管まで到達します。
一方でエアゾールは「エアゾール」という形状であり、押すことで薬液が噴霧される剤型です。
ドライパウダーとエアゾールは、エアゾールの方が粒子径が小さいため、肺の奥にまで届きやすいというメリットがあります。
また服用時を考えると、ドライパウダーは自分の力で吸うため、自分のタイミングで吸えるというメリットがありますが、吸う力の弱い小児や高齢者では吸入が難しい事があります。エアゾールは押すとお薬が噴霧されるため、吸う力が弱い方でも吸いやすいですが、吸うタイミングを噴霧のタイミングと合わせないといけないというデメリットがあります(スペーサーというものを使えばタイミングは自分で調整もできます)。
遣い心地としては、ドライパウダーには乳糖が含まれているため甘味があり、これが嫌だと訴える患者さんもいらっしゃいます。
アドエアにはディスカスもエアゾールもいくつかの用量の剤型がありますが、これらの用量の違いはフルチカゾンプロピオン酸エステル(ステロイド)の量の違いになります。サルメテロールキシナホ酸塩(β刺激薬)の量はどの剤型も同じです。
ディスカス剤は、
アドエア100ディスカス:サルメテロール50μg、フルチカゾン100μg
アドエア250ディスカス:サルメテロール50μg、フルチカゾン250μg
アドエア500ディスカス:サルメテロール50μg、フルチカゾン500μg
となっています。
またエアゾール剤は、
アドエア50エアゾール:サルメテロール25μg、フルチカゾン50μg
アドエア125エアゾール:サルメテロール25μg、フルチカゾン125μg
アドエア250エアゾール:サルメテロール25μg、フルチカゾン250μg
となっています。
アドエアの使い方としては、
<気管支喘息>
通常成人には・アドエア100ディスカス 1回1吸入
・アドエア50エアゾール 1回2吸入を1日2回吸入投与する。なお、症状に応じて以下のいずれかの用法・用量に従い投与する。
・アドエア250ディスカス 1回1吸入
・アドエア125エアゾール 1回2吸入を1日2回吸入投与。
・アドエア500ディスカス 1回1吸入
・アドエア250エアゾール 1回2吸入を1日2回吸入投与。
小児には、症状に応じて以下のいずれかの用法・用量に従い投与する。
・アドエア50エアゾール 1回1吸入
を1日2回吸入投与。
・アドエア100ディスカス 1回1吸入
・アドエア50エアゾール 1回2吸入を1日2回吸入投与。
<COPD>
成人には・アドエア250ディスカス 1回1吸入
・アドエア125エアゾール 1回2吸入を1日2回吸入投与する。
と書かれています。
アドエアのようなステロイド吸入剤は吸入後にうがい・口すすぎをすることが推奨されています。ステロイドは免疫力を弱めてばい菌が感染しやすい環境にしてしまうためです。
うがいをして口の中のステロイドを洗い流すことにより、口腔内にばい菌が繁殖するのを防げます。
6.アドエアが向いている人は?
以上から考えて、アドエアが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
アドエアの特徴をおさらいすると、
・喘息やCOPDなどの呼吸器疾患に用いられる
・呼吸苦・咳・痰などを改善させてくれる
・ステロイドとβ2刺激薬が配合されている
・喘息発作を抑える予防薬であり、発作止めとしては使えない
・気管にのみ作用するため、全身への副作用が少ない
・1日2回の吸入が必要である
といったものでした。
アドエアは喘息で使用することの多い吸入剤になりますが、その最大の特徴は1剤で2つのお薬を配合しているという点です。
近年では2つの成分が入った配合剤も増えてきましたが、アドエアはそのはしりとなった吸入剤になります。
薬効が半日ほどであるため、1日2回の吸入が必要であり、また発作時には使えないため、発作止めのお薬も持っておく必要がありますが、2つの成分が入っている事によりしっかりと喘息が生じないように予防してくれます。
注意点としては、ディスカスとエアゾールの含有量の違いが挙げられます。ディスカスはエアゾールの倍量が入っているため、エアゾールからディスカスに切り替える場合やその反対の場合には、吸入回数を間違えないように注意しなければいけません。
また吸入剤というのは当たり前ですが、しっかりと気管や肺に届くまで吸い込まないと効果が得られません。正しい吸入法が出来るように医師や薬剤師からしっかりと指導を受けるようにしましょう。ネットでも吸入法の動画なども製薬会社から配布されていますので、ぜひご覧になってください。