タンナルビン末(一般名:タンニン酸アルブミン)は1906年から発売されている止瀉剤になります。止瀉剤とはいわゆる「下痢止め」のお薬のことです。
止瀉剤の中でタンナルビンは 穏やかに効き、副作用も比較的少ないお薬です。非常に古いお薬ですが、その効果と安全性は評価されており、現在でも下痢症を中心に用いられています。
タンナルビンはどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているのでしょうか。
タンナルビンの効果や特徴についてみていきましょう。
目次
1.タンナルビンの特徴
まずはタンナルビンの特徴について、かんたんに紹介します。
タンナルビン末(一般名:タンニン酸アルブミン)は下痢止めになり、主に軟便や水様便といった下痢症を改善させるために用います。
タンナルビンの下痢止めとしての作用は主に収斂(しゅうれん)作用によるものになります。収斂作用とは、組織を収縮させる(引き締める)作用の事です。タンナルビンは腸管粘膜を収縮させることにより、炎症を抑えてくれます。これにより腸管の炎症によって生じていた下痢を改善することが期待できます。
またタンナルビンは腸管粘膜に膜を張ることで腸管を保護するはたらきや腸管の動きを抑えるはたらきもあり、これも収斂作用に含まれます。
タンナルビン(タンニン酸アルブミン)はタンニン酸とアルブミン(タンパク質)が結合していている物質になります。タンニン酸単独では収斂作用がありますが、タンニン酸アルブミンは収斂作用を示しません。そのためタンナルビンが収斂作用を発揮するにはタンニン酸アルブミンがタンニン酸とアルブミンに分解される必要があります。
なぜこの2つに物質を結合させているのかというと、口腔内や胃内で収斂作用を発揮させないためです。タンニン酸アルブミンは口腔や胃では作用しません。小腸の膵液(アルカリ性消化液)でタンニン酸とアルブミンに分解されるように設計されており、腸でのみ収斂作用を発揮するように作られているのです。
タンナルビンの下痢を抑える作用は穏やかで強くはありません。しかし、その分重篤な副作用も少なく安全性に優れるお薬です。
デメリットとしては、
- 牛乳アレルギーの人は使用できない(アレルギー症状が生じる可能性がある)
- 鉄剤との併用が出来ない
などがあります。
ちなみに下痢というものは、基本的には止めない方が良いものです。そのため下痢止めもなるべくなら使わない方が良いものです。
なせならば下痢が生じている時は、必要があって下痢になっていることが多いからです。
例えば腸管に細菌が感染してしまって下痢が生じている「感染性腸炎」の場合、身体は細菌を早く体外に流し出したいために腸管の動きを活性化させ、その結果下痢になってしまっていることがあります。
この時にタンナルビンなどで腸管の動きを抑えて細菌を排出させにくくしてしまうと、下痢自体は確かに一時的に治まるでしょうが、細菌は腸内でどんどん増殖してしまうのでしょう。
そのため、下痢をお薬で抑える時には「その下痢は本当にお薬で止めても大丈夫なのか」という事を慎重に判断しないといけず、下痢が生じたら安易に使っていいものではありません。
ここからタンナルビン末の特徴として次のようなことが挙げられます。
【タンナルビン末(タンニン酸アルブミン)の特徴】
・腸管粘膜を収縮させることで炎症を抑えて下痢を改善させる
・腸管で被膜を作り、腸管粘膜を保護するはたらきがある
・腸管の動きを抑えるはたらきもある
・作用は穏やかだが、安全性も高い
・下痢止めは極力使うべきではないため、適応は慎重に
2.タンナルビンはどんな疾患に用いるのか
タンナルビンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。タンナルビンの添付文書を見ると、次のように記載されています。
【効能又は効果】
下痢症
タンナルビンは下痢止めになりますので、主な適応は下痢症になります。
ただし注意点としては、感染を伴う下痢症への使用は推奨されていません。
細菌やウイルスが腸に感染している場合、私たちの身体は腸を活発に動かすことで菌やウイルスを体外に排泄しようとします。
その時、タンナルビンなどの下痢止めで腸管の動きを抑えてしまうと、菌やウイルスがなかなか排泄されなくなり、感染がかえって長引いてしまう可能性が高くなるためです。
3.タンナルビンにはどのような作用があるのか
タンナルビンはどのような作用機序で下痢を抑えているのでしょうか。その作用を紹介します。
Ⅰ.収斂作用
タンナルビンに含まれるタンニン酸には収斂作用があります。
収斂作用とは、組織や血管を縮めて炎症を抑える作用の事です。タンナルビンは腸管内に存在するタンパク質を変性させることにより、収斂作用を発揮します。
Ⅱ.腸管粘膜保護作用
タンナルビンは粘膜表面でタンパク質と結合し、被膜を作ることで腸管粘膜を保護するはたらきもあります。
これもタンナルビンの収斂作用によるものです。
そのため、腸管粘膜が傷ついていたり、ダメージを受けている場合にタンナルビンはそれを保護してくれるため良い効果が期待できます。
Ⅲ.腸管の運動を抑制する
タンナルビンは収斂作用によって、腸管の動きを抑えるはたらきもあります。
4.タンナルビンの副作用
タンナルビンは、腸管の炎症を抑えるはたらきが主ですが、それ以外にも被膜を作って腸管粘膜を保護したり、腸管の運動を抑えることで下痢症を改善させてくれます。
このような効果のあるタンナルビンですが、一方で副作用はどうなのでしょうか。
タンナルビンの詳しい副作用発生率の調査は行われていないため、正確な副作用発症頻度は不明ですが、印象としては副作用の発生率は多くはありません。
可能性のある副作用として、
- 食欲不振
- 便秘
などといった、腸管の動きを抑えすぎることによる副作用が挙げられます。これらの副作用は多くの場合でタンナルビンの量を適切に調整すれば改善します。
また、タンナルビンは
- 肝機能障害
が生じることがあるため、タンナルビンを長期間使用する場合は定期的に血液検査をすることが望まれます。
頻度は稀ですが、タンナルビンの重篤な副作用として、
- アナフィラキシー様症状、ショック
などが生じる可能性があります。特に牛乳アレルギーがある方で起こりやすく、そのためタンナルビンは牛乳アレルギーの方には禁忌(絶対に使ってはダメ)になっています。
また感染が疑われるような下痢(感染性胃腸炎など)にも原則として用いてはいけません。感染性腸炎にタンナルビンを用いて腸管の動きを抑えてしまうと、腸管内で悪さをしている病原菌(細菌・ウイルスなど)が増殖しやすくなり、いつまでも腸管から排出されなくなってしまうからです。
現状では感染がある場合でも、タンナルビンを使うメリットの方が高いと判断されれば用いられることもありますが、少なくとも安易に用いていいものではないのです。
またタンナルビンは、鉄剤と一緒に服用してはいけません。併用するとタンニン酸と鉄が結合してタンニン酸鉄となってしまい、お互いの作用がなくなってしまうためです。
5.タンナルビンの用法・用量と剤形
タンナルビンは、
タンナルビン末(タンニン酸アルブミン) 500g
の1剤形のみがあります。
とは言っても、500gの瓶をそのまま処方される事は少なく、薬局で1gなどに分けて袋に入れてくれます。
タンナルビンの使い方は、
通常、成人1日3~4gを3~4回に分割経口投与する。なお、症状により適宜増減する
と書かれています。
6.タンナルビンが向いている人は?
以上から考えて、タンナルビンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
タンナルビンの特徴をおさらいすると、
・腸管粘膜を収縮させることで炎症を抑えて下痢を改善させる
・腸管で被膜を作り、腸管粘膜を保護するはたらきがある
・腸管の動きを抑えるはたらきもある
・作用は穏やかだが、安全性も高い
・下痢止めは極力使うべきではないため、適応は慎重に
というものでした。
タンナルビンはタンニン酸による穏やかな収斂作用が主なはたらきです。収斂作用は組織を収縮させることで炎症を鎮めるはたらきのことです。
そのためタンナルビンは組織がダメージを受けて軽度の炎症を生じる場合に良い適応となります。
ただし腸管の感染症に腸管に炎症が生じて下痢となっている時は、基本的には下痢は止めてはいけません。
下痢は基本的にはお薬で無理矢理抑えない方が良いものです。下痢がひどくて、その下痢を止めるメリットが止めないメリットよりも大きい場合にのみ、服薬するようにしましょう。
例えば、このまま下痢が続けば脱水になってしまいそう、電解質のバランスが崩れてしまいそう、という時には検討しても良いでしょう。
適応を主治医に慎重に見極めてもらい、必要な時にのみ使用するようにしましょう。