アルピニー座薬(坐剤)(一般名:アセトアミノフェン)は1980年から発売されているお薬で、アセトアミノフェン系(AAP)解熱鎮痛剤と呼ばれる種類のお薬になります。
アセトアミノフェン系は多くの領域で、「痛み止め」「熱さまし」として広く用いられています。安全性も高いため、発熱時や痛みが生じた時にまず検討するお薬でもあります。
痛み止めや熱さましにはNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)などもあり、それぞれ特徴や作用には違いがあります。医師は痛みの程度や性状に応じて、その患者さんに一番合いそうな痛み止めを処方しています。
アルピニー坐剤はどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここでは、アルピニー坐剤の効能や特徴、副作用などを紹介していきます。
目次
1.アルピニー坐剤の特徴
まずはアルピニー坐剤の特徴を紹介します。
アルピニー坐剤は解熱(熱さまし)や鎮痛(痛み止め)作用を持つ坐薬です。効果は穏やかですが、安全性に優れるため、小児や高齢者などによく用いられます。また坐薬のため、口からお薬が飲めないような方にも投与する事が可能です。
アルピニー坐剤はアセトアミノフェン系(AAP)と呼ばれるお薬で、解熱(熱さまし)・鎮痛(痛み止め)作用を持ちます。
高い熱が出たり、痛みが出たりする疾患は非常に多いものです。風邪(急性上気道炎)や肺炎、胃腸炎、尿路感染症、腰痛、頭痛、関節痛、癌など幅広い疾患に対して症状を和らげるために用いられています。
解熱鎮痛作用を持つお薬としては、アセトアミノフェン系以外にもNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)があります(ロキソニン、ボルタレン、ブルフェン、セレコックスなど)。
NSAIDsとAAPは解熱鎮痛作用を持つ事は同じなのですが、両者にはいくつかの違いがあります。
まず効果の強さとしてはNSAIDsの方が強く、しっかりと解熱・鎮痛をしてくれます。しかし安全性ではAAPが勝ります。特にNSAIDsで問題となるような消化器症状(胃痛、胃炎、胃潰瘍など)はAAPではほとんど生じません。またNSAIDsは喘息を誘発する事があるため喘息の方には使いずらいのですが、AAPは比較的安全に使えます。
作用的にはNSAIDsが抗炎症作用(炎症を抑える作用)を持ち、それが解熱鎮痛作用の一因となっているのに対して、AAPは抗炎症作用を持たず、炎症を抑えるはたらきとは別の機序によって解熱・鎮痛作用を発揮している事が分かっています。
色々と書きましたが、ざっくりというと
「効果は穏やかだけど、安全に使えるのがアセトアミノフェン(AAP)」
「効果は強いけど、副作用にも注意が必要なのが非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)」
と言えるでしょう。
またアルピニーは坐剤(座薬)であるのが大きな特徴です。座薬とは肛門に入れるお薬の事です。肛門に入ったお薬は体温で溶けて直腸粘膜から吸収され、作用を発揮します。
お薬を肛門に入れるというと抵抗を感じる方が多いと思いますが、何らかの理由で口からお薬を飲めない方にとっては、座薬というのは非常に重宝します。
例えば小さな子供が肺炎でぐったりしてしまい、口を開けてくれない。でも解熱剤を何とかして使って熱を下げて楽にしてあげたい。このような時、飲み薬を無理矢理口の中にねじ込むのは危険ですが、座薬なら安全に投与する事が出来ますよね。
あるいは寝たきりで飲み込む力が低下している高齢の方が熱を出してしまって苦しそうな時、口からお薬を投与したら誤嚥(薬が気管に入ってしまう)が生じるかもしれません。しかし座薬なら安全に投与する事が出来ます。
座薬はこのような場合に用いられ、そのため小児や高齢者に投与される事が多い剤型になります。
以上からアルピニー坐剤の特徴として次のような点が挙げられます。
【アルピニー坐剤の特徴】
・鎮痛作用(痛みを抑える)、解熱作用(熱を下げる)がある
・NSAIDsと比べると効果は弱いが安全性に優れる
・NSAIDsと異なり抗炎症作用はほとんどない
・NSAIDsと異なり胃腸に負担をかけない、喘息の方にも使いやすい
・坐薬であり、小児や高齢者によく用いられる
2.アルピニー坐剤はどのような疾患に用いるのか
アルピニー坐剤はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
小児科領域における解熱・鎮痛
アルピニー坐剤は解熱・鎮痛作用を持つため、
- 熱を下げる
- 痛みを抑える
のどちらかの目的で投与されます。
具体的な適応疾患が書かれていませんが、「発熱」「痛み」を生じる場合には広く用いる事が出来ます。
また原則は小児に用いるお薬になりますが、大人に使って不都合があるわけではありません。一般的な成人に使う機会は滅多にありませんが、飲み薬を飲む力が落ちてしまっている高齢者に用いられる事は臨床上よくあることです。
アルピニー坐剤の有効率は、
- 急性上気道疾患(一般的な風邪など)への有効率は76.2%
- 急性下気道疾患(肺炎など)への有効率は81.3%
- その他の発熱疾患への有効率は79.1%
と報告されています。
ただし上記疾患にアルピニー坐剤が有効なのは間違いありませんが、注意点としてアルピニー坐剤を始めとする解熱鎮痛剤は根本を治す治療ではなく、あくまでも対症療法に過ぎないことを忘れてはいけません。
対症療法とは、「症状だけを抑えている治療法」で根本を治している治療ではありません。
例えば肺炎によって高熱を来している方にアルピニー坐剤を投与すれば、確かに熱は下がるでしょう。しかしこれは肺炎の原因である細菌をやっつけているわけではなく、あくまでも熱を下げているだけに過ぎません。
対症療法が悪い治療法だということはありませんが、対症療法だけで終わってしまうのは良い治療とは言えません。対症療法と言われて、根本を治すような治療も併用することが大切です。
肺炎であれば、アルピニー坐剤を使用しつつも、
- 細菌をやっつける抗生物質も投与する
- 免疫力を高めるために食事・水分をしっかりとる
などの根本的な治療法も併せて行う必要があるでしょう。
3.アルピニー坐剤にはどのような作用があるのか
アルピニー坐剤は「アセトアミノフェン系(AAP)」という種類に属します。このアセトアミノフェンはどのような機序によって解熱・鎮痛作用を発揮しているのでしょうか。
実はアセトアミノフェンは古くから用いられているお薬であるにも関わらず、その作用機序はいまだ明確に解明はされていません。
しかし「恐らくこのような作用機序であろう」という知見はそろってきているため、ここでは現時点で考えられているアセトアミノフェンの作用機序について紹介します。
Ⅰ.解熱作用
アルピニー坐剤をはじめとしたアセトアミノフェンは、解熱作用(熱を下げる作用)があります。
この作用機序は完全には解明されていませんが、おそらく投与したアセトアミノフェンが脳の視床下部にある体温調節中枢に作用する事で、解熱作用が生じるのではないかと考えられています。
より具体的に言うと、アセトアミノフェンが体温調節中枢に作用すると、
- 身体の水分の移動(発汗を促す)
- 末梢血管の拡張
が生じます。水分というのは温度を調整するのに重要な役割があります。例えば私たちは運動すると汗をかきますが、これは汗を皮膚表面に分泌する事で運動で上昇した体温を下げるというはたらきがあるのです。
水分は蒸発する時に周りの熱を奪うことが知られており、これを「気化熱」と呼びます。汗は気化熱によって皮膚の熱を奪い、それによって体温を適切な温度に下げているというわけです。
また手足の末梢の血管が開くと、そこに多くの血液が集まって熱が放散されやすくなり、これも体温を下げる役割となります。
アセトアミノフェンはこのような機序によって解熱作用を発揮すると考えられています。
ちなみにアルピニーをはじめとしたアセトアミノフェンは、高熱を正常な体温に下げる作用はありますが、正常な体温を更に下げてしまうという事はほとんどありません。
Ⅱ.鎮痛作用
アルピニー坐剤をはじめとしたアセトアミノフェンは、鎮痛作用(痛みを抑える作用)もあります。
この作用機序も完全には解明されていませんが、おそらく投与したアセトアミノフェンが脳の視床と大脳皮質に作用する事で痛みを感じにくくさせているのだと考えられています。
より具体的に言うと、
- プロスタグランジン
- カンナビノイド系
- セロトニン系
などといった痛みに関与する物質に影響を与えると考えられています。
プロスタグランジンは、痛みを誘発する作用を持つ物質です。そのためプロスタグランジンが低下すれば痛みが和らぐと考えられます。実際アセトアミノフェンはプロスタグランジン濃度を低下させることが報告されています。
カンナビノイドは「脳内麻薬」とも呼ばれ、分泌される事で痛みを感じにくくさせます。またセロトニンは主に気分に関わっている物質ですが、痛みにも関与している事が知られています。
セロトニンが低下する事で生じる疾患として「うつ病」がありますが、うつ病患者さんの約6割は症状として頭痛・腰痛・肩痛などの痛みを認めている事が報告されています。ここからセロトニンの低下は痛みを悪化させ、セロトニンを増やす事で痛みが和らぐという事が推測されます。
4.アルピニー坐剤の副作用
アルピニー坐剤にはどんな副作用があるのでしょうか。
アルピニー坐剤の副作用発生率は、0.09%と報告されております。副作用はほとんどなく、安全性の高いお薬だといっても良いでしょう。
生じうる主な副作用としては、
- 低体温
- 下痢
- 発疹
などがあります。
また頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- ショック、アナフィラキシー
- 中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)
- 急性汎発性発疹性膿疱症
- 劇症肝炎、肝機能障害、黄疸
- 喘息発作の誘発
- 顆粒球減少症
- 間質性肺炎
- 間質性腎炎、急性腎不全
が報告されています。
これらの重篤な副作用は一応記載があるものの、臨床をしていてお目にかかることは滅多になく、適正に使用している限りは大きな心配はいりません。
ただし高用量使っている方は、肝臓に負担がかかりやすいという事は覚えておきましょう。アルピニーのようなアセトアミノフェンを長期間・高用量使用し続けている場合は、定期的に肝機能などを測定し、異常を見落とさないようにすべきです。
また、アルピニー坐剤は次のような方には原則禁忌(基本的には使ってはダメ)となっていますので注意しましょう。
1.重篤な血液の異常のある方
2.重篤な肝障害のある方
3.重篤な腎障害のある方
4.重篤な心機能不全のあるかた
5.アルピニー坐剤に過敏症の既往歴のある方
6.アスピリン喘息又はその既往歴のある方
5.アルピニー坐剤の用法・用量と剤形
アルピニー坐剤は次の剤型が発売されています。
アルピニー坐剤 50mg
アルピニー坐剤 100mg
アルピニー坐剤 200mg
また、アルピニー坐剤の使い方は、
通常、乳児、幼児及び小児には、体重1kgあたり1回10~15mgを直腸内に挿入する。投与間隔は4~6時間以上とし、1日総量として60mg/kgを限度とする。なお、年齢、症状により適宜増減する。ただし、成人の用量を超えない。
となっています。
アルピニー坐剤は投与してから30分以内に効果が表れ始め、2~3時間ほどで効果は最大となります。
34.5℃~36.5℃で溶けるように作られていますので、肛門に入れると体温で自然と溶けていきます。しかしすぐに溶けるわけではありませんので、肛門に入れたあとは坐薬が出てしまわないようにしばらく押さえておくことが推奨されています。
またアルピニー坐剤は肛門から入れる坐薬になりますので、使用する前は出来るだけ排便を済ませた後が良いでしょう。投与後すぐに排便してしまうと、入れたアルピニーも一緒に排泄されてしまう可能性があるためです。
坐剤(坐薬)というと、使用に抵抗がある方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、口から薬を飲めるような状態であればわざわざアルピニー坐剤を選択するケースは滅多にありません。
アルピニー坐剤が実際に使われるのは、解熱・鎮痛作用のあるお薬を投与したいけども、何らかの理由によって口から投与できないようなケースです。
よくあるのが、小さなお子様が熱を出して不機嫌になってしまい、薬を飲むのを拒否してしまったり、ぐったりしてしまってお薬を口から飲めなくなってしまうような場合です。
このような場合、飲み薬であれば投与ができませんが、坐剤であれば他者が肛門にいれる事でお薬を体内に投与する事が出来ます。
使い方としては「通常、小児に・・・」と書かれており、小児にしか使えないような書き方がされていますが、別に大人に効かないお薬というわけではありませんので、成人に使っても問題ありません。
例えば、寝たきりの高齢の方で、飲み込む力が弱くなっていて飲み薬を飲ませるのは危険だという状況であれば、アルピニー坐剤を用いた方が良いでしょう。
このようにアルピニー坐剤は、臨床現場では主に小児と高齢者に多く用いられています。
6.アルピニー坐剤が向いている人は?
アルピニー坐剤はどのような方に向いているお薬なのでしょうか。
アルピニー坐剤の特徴をおさらいすると、
・鎮痛作用(痛みを抑える)、解熱作用(熱を下げる)がある
・NSAIDsと比べると効果は弱いが安全性に優れる
・NSAIDsと異なり抗炎症作用はほとんどない
・NSAIDsと異なり胃腸に負担をかけない、喘息の方にも使いやすい
・坐薬であり、小児や高齢者によく用いられる
といった特徴がありました。
解熱鎮痛剤の中で、アルピニーのようなアセトアミノフェンのメリットは安全性に優れるという点です。
効果は穏やかですが、安全に用いる事ができるため、安全性を重視して解熱・鎮痛を行いたい場合に適したお薬です。
このような特徴からアセトアミノフェンは、解熱・鎮痛の際にまず最初に用いられる事の多いお薬です。まずはアセトアミノフェンから試してみて、効果が不十分であればNSAIDsなどの効果のより高いお薬に切り替えるという使い方がされます。
アセトアミノフェンの中でのアルピニーの特徴は坐剤(坐薬)である事です。坐剤のメリットは口から飲めないような状態でも投与する事が出来る点です。
ここから
- ぐったりしたり不機嫌になってしまっているお子様
- 飲み込む力が低下している高齢者
に用いるのに適したお薬です。