ノルバスク(一般名:アムロジピン)は、1993年から発売されている降圧剤です。
降圧剤というのは「血圧を下げるお薬」の事で、主に高血圧症に用いられるお薬です。ノルバスクは降圧剤の中でも「カルシウム拮抗薬」という種類になります。
ノルバスクはカルシウム拮抗薬の中で、一番処方数が多いお薬です。それはその確実な降圧力や1日を通してしっかりと効果が続く持続力が評価されているからでしょう。
カルシウム拮抗薬の代表選手であるノルバスクは、多くの製薬会社からジェネリック医薬品も発売されています。
一口に降圧剤といっても、その種類には様々あります。どれも血圧を下げる作用がある事は同じですが、その機序やそれ以外の付加的な作用は降圧剤によってそれぞれ異なります。降圧剤を服用する場合は、それぞれの特徴を踏まえて、その人に最適な降圧剤を選んでもらう事が大切です。
ここではノルバスクについて、その特徴や効果・副作用などについて紹介していきます。
目次
1.ノルバスクの特徴
まずはノルバスクというお薬の全体的な特徴について紹介します。
ノルバスク(一般名:アムロジピン)は「カルシウム拮抗薬」という種類の降圧剤になります。そのため、まずはカルシウム拮抗薬の特徴について見てみましょう。
【カルシウム拮抗薬の特徴】
・ダイレクトに血管に作用するため、血圧を下げる力(降圧力)が確実 |
カルシウム拮抗薬の最大の特徴は、血圧を下げる力(降圧力)がしっかりしている点です。
降圧剤(血圧を下げるお薬)にはカルシウム拮抗薬の他にもいくつかあります。
代表的なものを上げると、
- ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
- ACE阻害剤(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
- 利尿剤
- α遮断薬
- β遮断薬
などがありますが、単純に血圧を下げる力だけをみればカルシウム拮抗薬にかなうお薬はありません。
カルシウム拮抗薬は血管を拡張させる事で血圧を下げます。このように血管にダイレクトに作用するため確実に血圧を下げてくれるのです。また血管にダイレクトに作用するという事は、その他の余計な部位に作用しないという事でもあるため、余計な作用(副作用)が少ないとも言えます。
カルシウム拮抗薬は、価格が安いのも利点の1つです。血圧を下げるコストパフォーマンスという見方をすれば、かなり優れたお薬と言えるでしょう。
では次に、カルシウム拮抗薬の中でのノルバスクの特徴を紹介します。
【カルシウム拮抗薬の中でのノルバスクの特徴】
・カルシウム拮抗薬の中でも副作用が少ない |
ノルバスクはカルシウム拮抗薬の中でも「第3世代」と呼ばれ、一番新しい世代に属します。
カルシウム拮抗薬は元々副作用は少なめのお薬なのですが、第1世代・第2世代から更に改良が重ねられた第3世代のカルシウム拮抗薬であるノルバスクは、中でも特に安全性の高いお薬になります。
またノルバスクは作用時間が非常に長いお薬です。半減期(お薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間)は30時間以上であり、1日1回の服用で1日を通してしっかりと効果は持続します。
血圧はある時間のみ下げればいいというものではありません。1日を通してしっかりと下げる事が重要ですので、24時間しっかりと効き続けるノルバスクは非常に優れた降圧剤だという事が出来ます。
ノルバスクが現在でも広く処方されているのは、このような医師に高く評価されているからでしょう。
以上からノルバスクの特徴として次のような点が挙げられます。
【ノルバスクの特徴】
・強力な降圧作用 |
2.ノルバスクはどのような疾患に用いるのか
ノルバスクはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
高血圧症、狭心症
実際の臨床では、圧倒的に高血圧症の治療に対して用いられています。
ノルバスクはカルシウム拮抗薬に属します。カルシウム拮抗薬は、血管の周りを覆っている平滑筋という筋肉を緩める作用があります。周囲を覆っている筋肉が緩めば血管は広がるため、血圧が下がるというわけです。
また狭心症というのは、心臓に栄養を送る血管である「冠動脈」が狭くなったり痙攣してしまったりすることで、心臓に血液が届かなくなってしまう疾患です。
血管を拡張させる作用を持つノルバスクは冠動脈も拡張させるはたらきがあり、狭心症にも効果は望めます。しかしノルバスクはゆっくりと長く効くお薬であるため、狭心症発作などの急性期の治療薬としては効果は望めない点には注意が必要です。
あくまでも狭心症の発作を予防するような位置づけになります。
では、ノルバスクはこれらの疾患に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
上記疾患の患者さんにノルバスクを投与した調査で、その効果が「有効」と判定された率は、
- 本態性高血圧症での有効率は85.8%
- 腎障害を伴う高血圧症での有効率は80.0%
- 重症高血圧症での有効率は88.9%
- 狭心症での有効率は74.0%
と報告されています。
また降圧力(血圧を下げる力)を見た調査では、ノルバスクの5mg/日または10mg/日投与をを8週間継続したところ、
- 5mg/日群では収縮期血圧が平均で7.0mmHg低下した
- 10mg/日群では収縮期血圧が平均で13.7mmHg低下した
と報告されており、しっかりとした降圧力が確認されています。
3.ノルバスクの作用機序
ノルバスクはどのような機序によって血圧を下げているのでしょうか。
血圧を下げるお薬にはいくつかの種類がありますが、そのうちノルバスクは「カルシウム拮抗薬」という種類に分類されます。
カルシウム拮抗薬は、血管の周りを覆っている平滑筋という筋肉を緩めるはたらきを持ちます。
より具体的に見てみると、平滑筋に存在しているカルシウムチャネルのはたらきをブロックするというのが主なはたらきです。
チャネルという用語が出てきましたが、これはイオンが通れる穴だと考えてください。つまりカルシウムチャネルというのは、カルシウムイオンが通ることが出来る穴です。
通常は、カルシウムチャネルを通ってカルシウムイオンが平滑筋細胞内に入ってくる事で、それが刺激となり、筋肉は収縮するように出来ています。
これをブロックするのがノルバスクをはじめとした「カルシウム拮抗薬」です。
ノルバスクはカルシウムチャネルに蓋をしてしまい、カルシウムイオンがカルシウムチャネルを通って平滑筋細胞内に流入できないようにしてしまいます。すると筋肉は収縮できなくなるわけです。収縮できない平滑筋は緩むため血管は広がり、血圧が下がるというわけです。
ちなみにカルシウムチャネルにはL型、T型、N型の3種類があることが報告されています。このうち、平滑筋に存在しているカルシウムチャネルはほとんどがL型です。
【L型カルシウムチャネル】
主に血管平滑筋・心筋に存在し、カルシウムが流入すると筋肉を収縮させる。ブロックすると血管が拡張し、血圧が下がる【T型カルシウムチャネル】
主に心臓の洞結節に存在し、規則正しい心拍を作る。また脳神経にも存在し神経細胞の発火に関係している【N型カルシウムチャネル】
主にノルアドレナリンなど興奮性の神経伝達物質を放出する
ノルバスクはL型カルシウムチャネルに選択性が高いため、しっかりと血圧を下げてくれ、またT型やN型にあまり作用しないため、その他の余計な作用が出にくいのも良い点です。
4.ノルバスクの副作用
ノルバスクにはどのような副作用が生じる可能性があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
ノルバスクの副作用発生率は3.9~9.93%と報告されています。
生じうる副作用としては、
- ほてり(熱感、顔面潮紅等)
- 眩暈・ふらつき
- 頭痛・頭重
- 動悸
- 浮腫
などが報告されています。
ほてりは顔面の血管が拡張する事で生じます。また浮腫は末梢(手足)の血管が拡張する事で生じます。
頭痛やめまいは脳の血管が拡張する事で生じると考えられています。また動悸はノルバスクが多少T型のカルシウムチャネルに作用してしまうために生じると考えられています。
これらの副作用はノルバスクの服薬量が多いほど高くなる傾向にあります。
また、頻度は稀ですが、重篤な副作用として、
- 肝機能障害、黄疸
- 血小板減少、白血球減少
- 房室ブロック
などが報告されています。
これらの副作用が生じてしまった場合に早期に対処するためにも、ノルバスクを長期間服薬している方は定期的に血液検査・心電図検査などを行うことが望ましいでしょう。
ノルバスクを服用してはいけない方(禁忌)としては、
- 妊婦又は妊娠している可能性のある方
- ジヒドロピリジン系化合物に対し過敏症の既往歴のある方
が挙げられています。
ノルバスクは動物実験で、妊娠末期に投与すると妊娠期間や分娩時間が延長することが認められています。人でも同様の現象が起こる可能性があるため、妊婦さんへの投与は禁忌となっています。
またノルバスクが属するジヒドロピリジン系化合物に対して過敏症のある方には投与する事は出来ません。
5.ノルバスクの用法・用量と剤形
ノルバスクには、
ノルバスク錠 2.5mg
ノルバスク錠 5mg
ノルバスク錠 10mgノルバスクOD錠 2.5mg
ノルバスクOD錠 5mg
ノルバスクOD錠 10mg
といった剤形があります。
OD錠というのは「口腔内崩壊錠」の事です。OD錠は口の中にお薬を入れると唾液で溶けるため、水なしでも飲める剤形です。外出先などの水が飲めない時に服用するケースが多い方や、飲み込む力が弱くなっている高齢者などに適しています。
ノルバスクの使い方は、
<高血圧症>
通常、成人には2.5~5mgを1日1回経口投与する。なお、症状に応じ適宜増減するが、効果不十分な場合には1日1回10mgまで増量することができる。<狭心症>
通常、成人には5mgを1日1回経口投与する。なお、症状に応じ適宜増減する。
となってます。
6.ノルバスクの作用時間
ノルバスクの利点として、作用時間が長いことが挙げられます。そのため1日1回の服用で良く、1回服用すれば24時間を通して効果が持続します。
では具体的にノルバスクの作用時間はどのくらいなのでしょうか。
お薬の作用時間は、服用する方の代謝能力などによっても異なるため、絶対的な値を出すことはできません。しかし、それを知る1つの目安として「半減期」というものがあります。
半減期というのは、お薬を服用して血中濃度が最大になってから、その血中濃度が半分に落ちるまでにかかる時間のことです。血中濃度が半分まで落ちると、薬効もだいぶ消失してくることが予測されるため、半減期はお薬の作用時間を知るひとつの目安になります。
ノルバスクの半減期は35.1時間と報告されています(OD錠も同様に35.1時間)。これはカルシウム拮抗薬の中でも最長であり、ノルバスクはカルシウム拮抗薬の中でも一番長く薬効が続くお薬だと考えられます。
7.ノルバスクが向いている人は?
以上から考えてノルバスクが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ノルバスクの特徴をおさらいすると、
【ノルバスクの特徴】
・強力な降圧作用 |
というものでした。
ノルバスクに限らずカルシウム拮抗薬全体にいえることですが、血管平滑筋にダイレクトに作用するカルシウム拮抗薬は、単純に血圧を下げたいという時に一番頼りになります。
降圧剤には他にもACE阻害剤やARBなどもあり、近年ではこれらの降圧剤もたくさん処方されています。
ACE阻害剤やARBももちろん優れたお薬です。血圧を下げる作用だけでなく、腎臓を保護したり、血糖も改善させたりと様々な付加効果があります。これらの特徴をうまく利用すれば1剤で様々な効果が得られる利点になります。
しかし「単純に血圧だけを下げたい」という場合には、カルシウム拮抗薬にかなうお薬はありません。
またノルバスクは第3世代のカルシウム拮抗薬であり、カルシウム拮抗薬の中でも副作用が少ないお薬になります。カルシウム拮抗薬は元々副作用は少ないのですが、半減期もカルシウム拮抗薬の中で最長であるノルバスクは、ゆっくり長く効くため身体に反動が生じることが少なく、特に副作用は生じにくいのです。
そのため、
- 血圧のみをしっかりと下げたい方
- 副作用を少なく治療したい方
- 服薬回数が少ない方が良い方
- 経済的になるべく安価に済ませたい方
などといった方にはノルバスクはお勧めしやすい降圧剤になります。
ノルバスクは日本はもちろん、世界的にも広く使われているお薬であり、そのため研究結果やデータも豊富にあります。そのような意味でも、安心して使える降圧剤だということが出来ます。