ペキロンクリーム(アモロルフィン)の効果と副作用

ペキロンクリーム(一般名:アモロルフィン)は病院で処方される塗り薬で、「モルホリン系抗真菌薬」という種類のお薬になります。1993年から発売されています。

抗真菌薬とは要するに、真菌(カビ)をやっつけるお薬です。ペキロンは塗り薬ですので、主に皮膚に感染した真菌(皮膚真菌症)に対して用いられます。

日常で感染する皮膚真菌症には、白癬(いわゆる水虫)やカンジダなどがあり、ペキロンはこのような真菌をやっつけるために用いられます。

抗真菌薬にもいくつかの種類があります。どれも総合的な有効率に大きな差はないとも言われていますが、それぞれのお薬ならではの特徴もあります。

ペキロンは抗真菌薬の中でどのような作用を持っていて、どのような効果が期待できるお薬なのでしょうか。

ペキロンの効果・効能や特徴、副作用についてみてみましょう。

 

1.ペキロンの特徴

まずはペキロンの特徴をざっくりと紹介します。

ペキロンは、白癬・カンジダ・癜風など各種真菌に対して、幅広く効果を示します。

ペキロンはモルホリン系という種類の抗真菌薬になります。モルホリン系のお薬は他の抗真菌薬と異なる機序で真菌をやっつけますが、モルホリン系のお薬は現在ペキロンしかありません。

モルホリン系は効果も強力であり確実な効果が期待できます。

またペキロンは塗り薬であるため、全身にお薬が回ることが少なく、大きな副作用がない点も良い特徴です。

しかし皮膚の角質層には長時間留まるため、1日1回の塗布で効果が持続することが確認されており、1日に何回も塗る必要はありません。

デメリットとしては剤型がクリーム剤しかないことが挙げられます。クリームは多くの皮膚状態に適した剤型であるため使い勝手は良いのですが、中には軟膏や外用液(ローション)の方が適した皮膚状態もあり、その場合はペキロンは不向きとなります。

ペキロンをはじめとした皮膚真菌症に対する塗り薬は効果に大きな差はないため、極論を言えばどれを用いても大きな間違いはありません。

その中でペキロンの特徴を挙げると、次のようなことが挙げられます。

【ペキロンクリームの特徴】
・白癬・カンジダ・癜風などに対して効果を発揮する
・唯一のモルホリン系抗真菌薬
・1日1回塗るだけで効果が持続する
・塗り薬で全身に作用しにくいため、副作用も少ない
・剤型が少なく、クリームしかない

 

2.ペキロンはどのような疾患に用いるのか

ペキロンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。

【効能又は効果】

下記の皮膚真菌症の治療

・白癬:足白癬、手白癬、体部白癬、股部白癬
・カンジダ症:指間びらん症、間擦疹(乳児寄生菌性紅斑を含む)、爪囲炎
・癜風

抗真菌薬であるペキロンは、皮膚に真菌(カビ)が感染してしまった時に用いられます。

日常において、皮膚に感染する可能性のある真菌というのはほとんどが白癬菌(皮膚糸状菌)になります。

白癬菌が足に感染すると「足(部)白癬」(いわゆる「水虫」)、
白癬菌が身体に感染すると「体部白癬」(いわゆる「たむし」)、
白癬菌が股(また)に感染すると「股部白癬」(いわゆる「いんきん」)と呼ばれます。

ペキロンはこのような白癬菌の感染に対して殺真菌的に作用します。

カンジダ菌は健常人の腸内にも常在している「常在菌」ですが、これがしばしば悪さをしてしまう事があります。特にストレスや疲れなどで免疫力が低下している時に発症しやすくなります。

具体的には、水仕事をしている方などの指の間に生じやすい「カンジダ性指間びらん症」や爪周囲に生じやすい「カンジダ性爪囲炎」、陰部・股間・脇・乳房の下などの密閉された環境で生じやすい「カンジダ性間擦疹」などがあります。

また乳児はまだ免疫力が低いためカンジダに感染してしまう事があり、これは乳児寄生菌性紅斑と呼ばれます。特にアトピーなどで皮膚にステロイドを塗っていたりすると、生じやすくなります。

ペキロンは、カンジダ菌に対しても効果を示します。

癜風も真菌(カビ)であるマラセチアが原因となる皮膚真菌症ですが、自覚症状が乏しいため気付かれにくい傾向があります。マラセチアは皮脂の多い部位に好発し、脂漏性皮膚炎の原因にもなります。

 

3.ペキロンにはどのような作用があるのか

ペキロンの作用は真菌(白癬・カンジダなど)をやっつける事ですが、どのような機序で真菌をやっつけているのでしょうか。

ペキロンは真菌細胞膜の重要な構成成分である「エルゴステロール」の合成を阻害し、細胞膜を「もろく」する作用があります。

抗真菌薬は真菌細胞を殺すお薬ですが、細胞を殺す作用を持つお薬は同時に「人の細胞」も殺してしまう危険があります。そのため真菌にだけ効いて、人の細胞には効かないような工夫が必要になります。

エルゴステロールは真菌細胞の細胞膜に存在する物質ですが、人の細胞には存在しません。そのためエルゴステロールを標的にすれば、真菌細胞のみ効率的にやっつけることができるというわけです。

ちなみに他の種類の抗真菌薬も、エルゴステロール合成阻害作用にて殺真菌作用を発揮するお薬は多いのですが、モルホリン系のペキロンとその他のお薬では作用する部位が異なります。

エルゴステロールは、アセチルCoAという物質からいくつかの段階を経てエルゴステロールになります。簡略化して書くと、

アセチルCoA⇒スクアレン⇒ラノステロール⇒エルゴステロール

といった経路でエルゴステロールは合成されます。

よく使われる抗真菌薬であるイミダゾール系(ルリコン、ニゾラールなど)は、ラノステロールから次の物質に変化させる酵素を阻害します。

他の抗真菌薬、例えばアリルアミン系(ラミシールなど)、ベンジルアミン系(メンタックスなど)やチオカルバミン酸系(ゼフナートなど)は、スクアレンから次の物質に変化させる酵素を阻害します。

一方でモルホリン系のペキロンはというと、ラノステロールより更に先で作用する△14-レダクターゼという酵素と△8-△7-イソメラーゼという酵素を阻害することでエルゴステロールの合成を阻害します。2つの酵素を選択的に阻害することで強力な抗真菌効果を発揮するのです。

このように、同じ抗真菌薬でも種類によって作用点が異なるのです。

 

4.ペキロンの副作用

ペキロンの副作用は多くはありませんが、真菌を「殺す」お薬であるため、時にヒトの身体にも害を及ぼすことがあります。

ペキロンは塗り薬であり、全身に投与するものではないのでその副作用も局所に留まる事がほとんどです。

そのため、全身性の重篤な副作用はほとんどありません。

報告されている副作用としては、

  • 接触性皮膚炎
  • 刺激感
  • かゆみ
  • 紅斑・発赤

などの局所の副作用です。

いずれも重篤となることは少なく、多くはペキロンの使用を中止すれば自然と改善していきます。

 

5.ペキロンの用量・用法と剤型

ペキロンは、

ペキロンクリーム0.5%(アモロルフィン) 10g

と1つの剤型のみがあります。

ペキロンの使い方は、

1日1回患部に塗布する。

と書かれています。

ペキロンは1回塗れば、長時間にわたって皮膚の角質層に留まるため、1日1回の塗布で十分効果が持続します。

ちなみに塗り薬には、「軟膏」「クリーム」「外用液」などがありますが、これらはどう違うのでしょうか。

軟膏は、ワセリンなどの油が基材となっています。保湿性に優れ、刺激性が少ないことが特徴ですが、べたつきは強く、これが気になる方もいらっしゃいます。

クリームは、水と油を界面活性剤で混ぜたものです。軟膏よりも水分が入っている分だけ伸びがよく、べたつきも少なくなっていますが、その分刺激性はやや強くなっています。

外用液(ローション)は水を中心にアルコールなどを入れることもある剤型です。べたつきはほとんどなく、遣い心地は良いのですが、保湿効果は長続きしません。刺激性が強めというデメリットがある反面で、浸透力が高く、皮膚が厚い部位でも効果が期待できます。

それぞれ一長一短あるため、皮膚の状態に応じて主治医とよく相談し、使い分ける事が大切です。

ペキロンにはクリームしかありません。そのため、もし軟膏や外用液の方が適切な部位に生じた皮膚真菌症であれば、ペキロン以外のお薬の方が良いこともあります。

軟膏のメリットは保湿性に優れ、刺激性が低いことですので、クリームを塗ると刺激感が強かったり痛かったりするような部位であれば、ペキロン以外で軟膏剤がある抗真菌薬を選択した方が良いかもしれません。

また外用液のメリットはべたつかないため使い心地がよく、また浸透力が高いため皮膚が厚い部位でも効果が期待できることです。例えば頭皮や足の裏など皮膚が厚い部位で、強くお薬を浸透させたい場合も、ペキロン以外で外用液がある抗真菌薬が良いかもしれません。

 

6.ペキロンが向いている人は?

以上から考えて、ペキロンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

ペキロンの特徴をおさらいすると、

・白癬・カンジダ・癜風などに対して効果を発揮する
・唯一のモルホリン系抗真菌薬
・1日1回塗るだけで効果が持続する
・塗り薬で全身に作用しにくいため、副作用も少ない
・剤型が少なく、クリームしかない

というものでした。

皮膚真菌症に対する塗り薬はいくつかの種類がありますが、極論を言えばどれを使っても大きな違いはありません。

「この水虫は絶対にペキロンじゃないとダメだ!」というケースはほとんどなく、実際はどれを使ってもある程度の改善は期待できます。

そのため、自分の使いやすさや好みである程度選択しても構わないでしょう。

ペキロンは白癬菌、カンジダ菌、マラセチアなどの幅広い真菌に対して効果があり、作用時間も長いため使い勝手の良いお薬です。また他の抗真菌薬と異なる作用点を持ち、唯一のモルホリン系ですので、他の抗真菌薬で効果が不十分な症例でも試してみる価値はあります。

しかしペキロンはクリームの剤型しかないのはデメリットになります。クリームはもっともよく使われる剤型ですので多くの皮膚状態に対応できるのですが、中にはクリームでは向かない皮膚状態もあります。

ペキロンは刺激性の低い軟膏剤がないため、刺激感が強い部位への塗布はあまりお勧めできません。著しいびらん面や、敏感な部分(陰部など)に塗布する場合は、刺激感が気になるようであれば軟膏剤のある抗真菌薬の方が良いでしょう。

また、浸透力が高い外用液もありません。外用液は頭皮などの皮膚が厚い部位に適しています。皮膚の厚い部位にしっかりと浸透させたい場合もペキロン以外が良いかもしれません。