アンタゴスチンカプセル・細粒の効果と副作用【胃薬】

アンタゴスチンカプセル・アンタゴスチン細粒は1971年から発売されている「セルベックス」というお薬のジェネリック医薬品で、主に胃を保護する作用を持ちます。

アンタゴスチンは胃を守る物質(防御因子)を増やしてくれる作用を持ちます。効果は穏やかですが安全性に非常に優れるため古いお薬であるにも関わらず現在でも多く処方されています。

胃薬にはたくさんの種類のお薬があります。これらの中でアンタゴスチンはどのような位置付けになるのでしょうか。

アンタゴスチンの効果や特徴・副作用、どのような作用機序を持つお薬でどのような方に向いているお薬なのかについてみていきましょう。

 

1.アンタゴスチンの効果・特徴

まずはアンタゴスチンの特徴について、かんたんに紹介します。

アンタゴスチンは効果は穏やかですが、副作用が非常に少なく安全性に非常に優れる胃薬です。注意点として食後に服用しないと効果が非常に落ちてしまいます。

アンタゴスチンの作用は穏やかで、劇的に胃腸症状(胃痛や嘔吐など)を治してくれるものではありません。そのため程度の重い胃炎・胃潰瘍に対しては力不足となる事も多く、ある程度進行した胃炎・胃潰瘍に対して主剤として用いられる事はありません。

しかし胃の防御因子を増やしたり、胃を攻撃する悪い因子を減らしたりする作用により、穏やかに胃炎や胃潰瘍を改善させる事が確認されています。

注意点として、アンタゴスチンは空腹時(食前や寝る前など)に服用すると、体内に吸収される割合が極端に下がってしまうため、必ず食後に服用しなくてはいけません。

つまり胃が痛むからといって、空腹時に頓服的に飲んでも効果は乏しいのです。食後に定期的に服用するという使い方が向いているお薬になります。

アンタゴスチンは効果が穏やかな分、副作用も極めて少なく、ここは大きな利点です。臨床的な感覚としては「副作用はほぼ生じない」と考えても良いくらいで、この理由から多くの患者さんに処方されています。

「効果は弱いけども、非常に安全なお薬」というのが、多少乱暴な言い方になりますが、おおまかなアンタゴスチンの位置づけとなります。

またアンタゴスチンはジェネリック医薬品であるため先発品の「セルベックス」と比べると薬価が安く、ここもメリットにはなります。おおよそ先発品の6割程度の薬価になっています。ただしセルベックス自体が安いお薬であるため、あまりこのメリットは感じにくいかもしれません。

以上からアンタゴスチンの特徴として次のようなことが挙げられます。

【アンタゴスチンの特徴】

・効果は穏やか
・胃粘液やプロスタグランジン、重炭酸イオンなどを増やすことで胃を守る
・副作用は極めて少ない
・食事に飲むお薬で、空腹時に飲むと効果が非常に落ちる
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

 

2.アンタゴスチンはどんな疾患に用いるのか

アンタゴスチンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。

【効能又は効果】

○下記疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善
急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期

○胃潰瘍

アンタゴスチンは、穏やかに胃を保護してくれるため、主に軽症例の胃炎や胃潰瘍の治療に用いられます。

アンタゴスチンはジェネリック医薬品であるため有効性に対しての詳しい調査は行われていませんが、先発品の「セルベックス」の有効率(中等度以上改善した率)は、

  • 胃潰瘍への有効率は81%
  • 急性胃炎・慢性胃炎の急性増悪期への有効率は68.6%

と報告されています。アンタゴスチンの有効率も同程度だと推測されます。

 

3.アンタゴスチンにはどのような効果・作用があるのか

アンタゴスチンは胃炎や胃潰瘍といった胃疾患に対して効果を発揮するお薬ですが、具体的にはどのような作用機序で胃疾患を改善させているのでしょうか。

アンタゴスチンの主な効果・作用について詳しく紹介します。

 

Ⅰ.胃粘膜を防御する因子を増やす

アンタゴスチンの作用の1つは胃粘膜を防御する因子を増やすことで、これがアンタゴスチンの主要な作用になります。

具体的には、

  • 胃粘液の分泌を増やす
  • プロスタグランジンを増やす
  • 重炭酸イオンの分泌を促す
  • 胃粘膜の血流を増やす

などの作用が確認されています。

胃粘液というのは胃の表面を覆っている粘液で、ヘキソサミンやムチンというたんぱく質などが成分となっています。ヘキソサミンはアルカリ性の物質であり胃酸を中和してくれるため、胃酸から胃壁を守るはたらきがあります。ムチンは粘性のある糖タンパクで、その粘性によって胃壁を保護してくれます。

アンタゴスチンは胃粘液を増やす作用が確認されており、動物実験において胃粘膜を修復したり、防御するために重要な物質である高分子糖タンパクやリン脂質の合成を増やすことも確認されています。

またアンタゴスチンは「プロスタグランジン(PG)」という物質を増やす効果があります。プロスタグランジンも胃粘液の分泌を増やす作用があるため、これも胃の防御力を上げるはたらきとなります。

更にアンタゴスチンは胃内に重炭酸イオンを分泌する作用があることも確認されています。重炭酸イオンはアルカリ性のイオンであるため、胃酸を中和するはたらきがあります。これにより、胃酸の力を弱め、胃酸によって胃壁が傷付くのを防ぐことができます。

アンタゴスチンは胃粘膜の血流を増やす作用もあります。血流が増えればそこに栄養分が届きやすくなるため、粘液を作りやすくなったり細胞の合成・修復もしやすくなります。

 

Ⅱ.ヒートショックプロテインを活性化する

アンタゴスチンはヒートショックプロテイン(HSP)と呼ばれる物質を活性化させるはたらきがあり、これも胃の保護に役立ちます。

ヒートショックプロテインは、熱によってダメージを受けたタンパク質を修復するはたらきを持つタンパク質の事です。

私達の身体においてタンパク質というのは非常に重要な役割をしています。タンパク質によって筋肉や臓器などが作られており、これがダメージを受ければ身体に大きな問題が生じることは明らかです。

タンパク質は「熱に弱い」という弱点があります。みなさんも経験があると思いますが、肉をフライパンで熱すると固くなってしまい、二度と元の柔らかさには戻りませんよね。

肉は主にタンパク質からなっていますが、この現象はタンパク質が熱に弱い事を表しています。高熱を加えるとタンパク質はその立体構造が変化してしまい(これを変性と呼びます)、二度と元の柔軟性のある状態には戻りません。

このタンパク質の弱点を補ってくれるのがHSPです。HSPは熱によってダメージを受けて変性しかけているタンパク質を元の状態に修復する作用を持ちます。

HSPが活性化すると、体内の傷付いた細胞が修復されます。胃内においても同様の作用が得られるため、胃壁細胞を修復する作用が期待できます。

 

4.アンタゴスチンの副作用

アンタゴスチンは非常に多く処方されている胃薬です。その一番の理由はアンタゴスチンの安全性の高さにあります。これは言い換えれば「副作用が少ない」という事です。

アンタゴスチンは副作用が非常に少ないお薬です。その副作用発生率については詳しい調査は行われていませんが、先発品のセルベックスの副作用発生率は0.48%と報告されており、アンタゴスチンも同程度だと思われます。

生じうる副作用としては、

  • 便秘、下痢
  • 吐き気
  • 腹痛
  • 発疹
  • 口の渇き

などが報告されています。ほとんどが軽症にとどまり様子を見れる程度のものも少なくありません。

非常に稀ですが重篤な副作用としては、

  • 肝機能障害・黄疸

などが報告されています。

しかしこのような副作用は適正に使用していればあまり見かけることはありません。

 

5.アンタゴスチンの用法・用量と剤形

アンタゴスチンは、

アンタゴスチンカプセル 50mg
アンタゴスチン顆粒 10% 0.5g分包

の2剤型があります。

アンタゴスチンの使い方は、

通常成人には150mgを1日3回に分けて食後に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

となっています。

だいたい1日3回(50mg×3回)服薬するという飲み方をします。カプセルであれば朝・昼・夕食後に1カプセルずつ、細粒であれば500mgずつ(計1.5g)となります。

注意点として、アンタゴスチンは空腹時(食前や寝る前など)に服薬すると体内への吸収率がきわめて低下することが分かっています。しっかりとした効果を得るためにも、必ず食後に服薬するようにしましょう。

 

6.アンタゴスチンが向いている人は?

以上から考えて、アンタゴスチンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

アンタゴスチンの特徴をおさらいすると、

・効果は穏やか
・胃粘液やプロスタグランジン、重炭酸イオンなどを増やすことで胃を守る
・副作用は極めて少ない
・食事に飲むお薬で、空腹時に飲むと効果が非常に落ちる
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

というものでした。

ここから、主に軽症の胃腸症状の方に向いているお薬になります。

またNSAIDsの副作用予防として使用することも可能です。

NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤、いわゆる「熱さまし」「痛み止め」)は、プロスタグランジンのはたらきをブロックすることで消炎(炎症を抑える)・鎮痛(痛みを抑える)作用を発揮します。しかし胃のプロスタグランジンも減らしてしまうため、胃腸障害の副作用が生じることがあるのです。

この場合、胃のプロスタグランジンを増やす作用を持つアンタゴスチンを併用することでNSAIDsの副作用の胃腸障害を予防することが出来ます。

(NSAIDs・・・ロキソニン、ボルタレン、セレコックスなど)

ただしアンタゴスチンは空腹時に服用すると効果が非常に落ちるため、NSAIDsと一緒にアンタゴスチンを頓服(調子が悪い時だけ飲む)という方法に服用することは推奨されません。

最大の効果を得るためにも、必ず食後に服用するようにしましょう。

アンタゴスチンは安全なお薬であるため患者さんが胃薬を希望された時に処方しやすいお薬ですが、一方で本格的な胃炎・胃潰瘍には力不足なのも事実です。程度の重い胃腸障害の場合は、アンタゴスチン以外の強力な効果を持つ胃薬が用いられます。

 

7.先発品と後発品は本当に効果は同じなのか?

アンタゴスチンは「セルベックス」というお薬のジェネリック医薬品になります。

ジェネリックは薬価も安く、患者さんにとってメリットが多いように見えます。

しかし「安いという事は品質に問題があるのではないか」「やはり正規品の方が安心なのではないか」とジェネリックへの切り替えを心配される方もいらっしゃるのではないでしょうか。

同じ商品で価格が高いものと安いものがあると、つい私たちは「安い方には何か問題があるのではないか」と考えてしまうものです。

ジェネリックは、先発品と比べて本当に遜色はないのでしょうか。

結論から言ってしまうと、先発品とジェネリックはほぼ同じ効果・効能だと考えて問題ありません。

ジェネリックを発売するに当たっては「これは先発品と同じような効果があるお薬です」という根拠を証明した試験を行わないといけません(生物学的同等性試験)。

発売したいジェネリック医薬品の詳細説明や試験結果を厚生労働省に提出し、許可をもらわないと発売はできないのです、

ここから考えると、先発品とジェネリックはおおよそ同じような作用を持つと考えられます。明らかに効果に差があれば、厚生労働省が許可を出すはずがないからです。

しかし先発品とジェネリックは多少の違いもあります。ジェネリックを販売する製薬会社は、先発品にはないメリットを付加して患者さんに自分の会社の薬を選んでもらえるように工夫をしています。例えば飲み心地を工夫して添加物を先発品と変えることもあります。

これによって患者さんによっては多少の効果の違いを感じてしまうことはあります。この多少の違いが人によっては大きく感じられることもあるため、ジェネリックに変えてから調子が悪いという方は先発品に戻すのも1つの方法になります。

では先発品とジェネリックは同じ効果・効能なのに、なぜジェネリックの方が安くなるのでしょうか。これを「先発品より品質が悪いから」と誤解している方がいますが、これは誤りです。

先発品は、そのお薬を始めて発売するわけですから実は発売までに莫大な費用が掛かっています。有効成分を探す開発費用、そしてそこから動物実験やヒトにおける臨床試験などで効果を確認するための研究費用など、お薬を1つ作るのには実は莫大な費用がかかるのです(製薬会社さんに聞いたところ、数百億という規模のお金がかかるそうです)。

しかしジェネリックは、発売に当たって先ほども説明した「生物学的同等性試験」はしますが、有効成分を改めて探す必要もありませんし、先発品がすでにしている研究においては重複して何度も同じ試験をやる必要はありません。

先発品と後発品は研究・開発費に雲泥の差があるのです。そしてそれが薬価の差になっているのです。

つまりジェネリック医薬品の薬価は莫大な研究開発費がかかっていない分が差し引かれており先発品よりも安くなっているということで、決して品質の差が薬価の差になっているわけではありません。