アラセナA軟膏・アラセナAクリーム(一般名:ビダラビン)は、1992年から発売されている外用剤(塗り薬)で抗ウイルス薬という種類に属します。
抗ウイルス薬は文字通りウイルス感染に使われるお薬の事ですが、アラセナAはウイルスの中でも「ヘルペスウイルス」の感染に対して用いられます。
アラセナA軟膏は皮膚に塗るお薬ですので、皮膚のヘルペス感染に用いられます。直接塗れる塗り薬ですので、皮膚局所にのみ作用させて効率的に治療を行う事ができます。
ここではアラセナA軟膏・アラセナAクリームの効果や特徴、どのような作用機序を持つお薬でどのような方に向いているお薬なのかについてみていきましょう。
目次
1.アラセナA軟膏の特徴
まずはアラセナA軟膏の特徴について、かんたんに紹介します。
アラセナA軟膏は、主に皮膚に生じたヘルペス感染(単純疱疹と帯状疱疹)の治療薬として用いられます。
外用剤であり病変部位にのみ塗れるため、効率的にウイルス感染を治療する事ができます。
ヘルペスによる感染は様々な病気を引き起こしますが、皮膚のみに限局するものとしては「単純疱疹」が挙げられます。
単純疱疹は、単純ヘルペスウイルスが原因で生じる疾患で、
- 単純へルペスウイルスⅠ型(HSV1)
- 単純ヘルペスウイルスⅡ型(HSV2)
があります。HSV1は主に口唇ヘルペスを引き起こし、HSV2は主に陰部ヘルペスを引き起こします。これらの治療薬としてアラセナA軟膏が用いられます。
また帯状疱疹は
- 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)
が原因で生じる疾患です。帯状疱疹は皮膚表面のみならず、身体の中の神経節にもウイルスが潜んでいる事が多いため、皮膚にアラセナA軟膏を塗るだけだと不十分な治療になってしまう事もありますが、軽症の帯状疱疹には用いられる事があります。また飲み薬の抗ウイルス剤と併用して用いる事もあります。
アラセナAはヘルペスウイルスを「殺す」お薬ではありません。あくまでも「増殖を抑える」お薬だという事です。
そのため、ある程度ヘルペスウイルスが増殖しきってしまってから塗布してもあまり効果は得られません。ウイルスが増殖しきっていない発症初期に塗布する事で高い効果が得られるお薬になります。
アラセナA軟膏・アラセナAクリ-ムは塗り薬であり皮膚局所にしか作用しません。体内にはほとんど吸収されない事が分かっており、そのために副作用も少なく安全性が高いお薬になります。
以上からアラセナAの特徴として次のようなことが挙げられます。
【アラセナA軟膏・アラセナAクリームの特徴】
・皮膚のヘルペスウイルス感染(単純疱疹、帯状疱疹)に用いられる
・ウイルスを殺すのではなく、増殖を抑える作用を持つ
・発症初期に塗らないと高い効果は得られない
・塗り薬で全身に作用しないため安全性が高い
2.アラセナAはどのような疾患に用いるのか
アラセナAはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
帯状疱疹、単純疱疹
アラセナAは、ヘルペスウイルス感染に用いられるお薬になります。しかしヘルペスウイルスの感染であれば何でも効くわけではありません。
ヘルペスウイルスには多くのタイプがあり、
- 単純へルペスウイルスⅠ型(HSV1):口唇ヘルペス、角膜ヘルペス
- 単純ヘルペスウイルスⅡ型(HSV2):陰部ヘルペス
- 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV):水痘・帯状疱疹
- エブスタイン・バーウイルス(EBV):伝染性単核球症
- サイトメガロウイルス(CMV):サイトメガロウイルス感染症
- ヒトヘルペスウイルス6(HHV6):突発性発疹
- ヒトヘルペスウイルス7(HHV7):突発性発疹
- ヒトヘルペスウイルス8(HHV8):カポジ肉腫
などに分類されます。
このヘルペスウイルス属のうち、アラセナAが効くのは、
- 単純へルペスウイルスⅠ型(HSV1):口唇ヘルペス
- 単純ヘルペスウイルスⅡ型(HSV2):陰部ヘルペス
- 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV):水痘・帯状疱疹
の3種類だけです。
正確に言えばその他にも、
- サイトメガロウイルス(CMV):サイトメガロウイルス感染症
- アデノウイルス:咽頭炎や結膜炎の原因となるウイルスの1つ
にも効果を発揮しますが、これらは皮膚のみに限局した感染となる事はほぼないため、ここでは取り扱いません。
ちなみにアラセナA軟膏・アラセナAクリームは目には塗れないため、角膜ヘルペスにも用いません。角膜ヘルペスの場合は抗ウイルス薬の飲み薬か眼軟膏が用いられます。
注意点として水痘・帯状疱疹では、皮膚表面だけでなく身体の中の神経節にもウイルスが存在するため、外用剤だけでは不十分な治療になってしまう事があります。そのため同種の抗ウイルス外用剤である「ゾビラックス軟膏」は帯状疱疹への適応がありません。
アラセナAでもこれは同様で、あくまでも皮膚表面に出てきているVZVウイルスの増殖を抑える効果にとどまる事は知っておく必要があります。
アラセナA軟膏の有効率は、
- 帯状疱疹に対する有効率は95.2%
- 単純疱疹に対する有効率は94.9%
と報告されています(クリームに関しては調査は行われていません)。
またアラセナAはヘルペスウイルスを「殺す」お薬ではなく、「増殖を抑える」お薬になります。そのため、ある程度増殖しきってしまった後に投与してもあまり効果は得られません。
反対に発症初期であればあるほど効果が高いと考えられています。
3.アラセナA軟膏にはどのような効果・作用があるのか
アラセナAは抗ウイルス薬であり、ウイルスの中でも一部のヘルペスウイルス感染に効果のあるお薬です。
ではこの作用はどのようにしてもたらされているのでしょうか。
アラセナAが効くのはヘルペスウイルス属の中でも、
- 単純へルペスウイルスⅠ型(HSV1)
- 単純ヘルペスウイルスⅡ型(HSV2)
- 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)
- サイトメガロウイルス(CMV)
などになります。
これらのウイルスは私たちの身体の細胞内に侵入すると(これを「感染」と呼びます)、感染細胞中で自らのDNAをどんどん複製し、これによりウイルスがどんどん増殖していきます。
これを食い止めるのがアラセナAです。
アラセナAはウイルスが自らのDNAを合成する時に用いる「DNAポリメラーゼ」という酵素のはたらきをブロックします。するとウイルスはDNAを複製できなくなり、増殖できなくなるというわけです。
このようにアラセナAはウイルス性のDNAポリメラーゼが存在しているウイルス感染細胞にだけ作用するため、正常な細胞には毒性を示さずに効果が得られます。
難しく書きましたが簡単に言えば、アラセナAはウイルスのDNAに作用する事でウイルスの増殖を抑える作用があるという事です。
4.アラセナA軟膏の副作用
アラセナA軟膏はウイルスをやっつける目的で投与されます。となれば、「ウイルスをやっつけるという事は身体にも害があるのではないか」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。
しかしアラセナA軟膏は安全性の高いお薬であり、副作用が生じる頻度は多くはありません。重篤な副作用の報告もほとんどありません。
アラセナA軟膏の副作用発生率は、0.42%と報告されています(クリーム剤の副作用発生率の調査は行われていません)。
生じうる副作用としては、
- 接触皮膚炎様症状(かぶれ)
- 刺激感
- 瘙痒(かゆみ)
などになります。これらも重篤な状態になる事は稀で、多くの場合様子を見れる程度かアラセナAの塗布を中止すれば自然と改善していく程度です。
また副作用ではありませんが、ヘルペスウイルスはアラセナAに耐性を形成する可能性があります。これは、アラセナAに抵抗力を持つヘルペスウイルスが現れてしまうという事です。
耐性形成はヘルペスウイルスがDNAポリメラーゼ(DNAを合成する酵素)を変化させることで、アラセナAが作用できないようにしてしまう事で生じると考えられています。
長期間アラセナAを投与していると、ヘルペスウイルスが耐性を獲得してしまう可能性があります。アラセナAを投与しても改善が乏しい場合は耐性化している可能性がありますので、漫然と投与を続けるのではなく、別の治療法に切り替える必要があります。
5.アラセナA外用剤の用法・用量と剤形
アラセナAの外用剤は、
アラセナA軟膏3% 2g
アラセナA軟膏3% 5g
アラセナA軟膏3% 10gアラセナAクリーム3% 2g
アラセナAクリーム3% 5g
といった剤型があります。
ところでアラセナAという名称に付いている、「A」ってどんな意味があるのでしょうか。アラセナの主成分である「ビダラビン」は通称Ara-Aと呼ばれています。ここから「アラセナA」という名称になっただけです。
そのためアラセナの「A」に何か付加的な意味があるわけではありません。アラセナというお薬に何らかの成分が加わってアラセナAになっているわけではないのです。
ちなみに塗り薬には「軟膏(油性クリーム)」「クリーム」「ローション(外用液)」などいくつかの種類がありますが、これらはどのように違うのでしょうか。
軟膏(油性クリーム)は、ワセリンなどの油が基材となっています。保湿性に優れ、刺激性が少ないことが特徴ですが、皮膚への浸透力は弱めです。べたつきは強く、これが気になる方もいらっしゃいます。
クリームは、水と油を界面活性剤で混ぜたものです。軟膏よりも水分が入っている分だけ伸びがよく、べたつきも少なくなっていますが、その分刺激性はやや強くなっています。
ローションは水を中心にアルコールなどを入れることもある剤型です。べたつきはほとんどなく、遣い心地は良いのですが、保湿効果は長続きしません。浸透性が高いため皮膚が厚い部位(頭部など)に用いられます。
アラセナA軟膏・クリームの使い方は、
患部に適量を1日1~4回、塗布又は貼布する。
となっています。
かなりざっくりとした書き方ですね。
実際の使い方も1日に2~3回、患部に塗れば良く、明確に「何時間置きに塗らないといけない」とシビアに考える必要はありません。
ただし上記の耐性化の問題もあるため、漫然と長期間塗る事はお勧めできません。1週間ほど塗っても改善のない場合は、お薬を変更する必要があります。
6.アラセナA軟膏の使用期限はどれくらい?
アラセナA軟膏・アラセナAクリームの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。
「家に数年前に処方してもらった軟膏があるんだけど、これってまだ使えますか?」
このような質問は患者さんから時々頂きます。
保存状態によっても異なってきますので一概に答えることはできませんが、適切に保存されていた前提(高温を避けて室温保存)で考えれば、
- アラセナA軟膏の使用期限は「5年」
- アラセナAクリームの使用期限は「3年」
となっています。
7.アラセナA軟膏が向いている人は?
以上から考えて、アラセナA軟膏・アラセナAクリームが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
アラセナA軟膏の特徴をおさらいすると、
・皮膚のヘルペスウイルス感染(口唇へルペスや陰部ヘルペス)に用いられる
・ウイルスを殺すのではなく、増殖を抑える作用を持つ
・発症初期に塗らないと高い効果は得られない
・塗り薬で全身に作用しないため安全性が高い
というものでした。
軟膏やクリームといった外用剤のメリットは、病気が生じている局所にのみ治療が行える点です。一方で飲み薬は全身の隅々にまでお薬が回ってしまうため、幅広く効果を得られる反面、余計な作用が出やすいというデメリットもあります。
軟膏・クリームを使うメリットがある状況というのは、ヘルペス感染が局所にとどまっている状況であり、
- 軽度の単純疱疹(口唇ヘルペス、陰部ヘルペス)
- 軽度の帯状疱疹
などに対して安全に治療したい際に向いているお薬になります。
特に帯状疱疹に関しては、同種の抗ウイルス外用剤である「ゾビラックス軟膏」は適応がありませんので、外用剤を使いたい場合はアラセナA軟膏・クリームが良いでしょう。
一方で例えアラセナAが効くタイプのヘルペス感染であっても、程度が重かったり、感染範囲が広かったり、皮膚以外にも感染を認めるような場合は、軟膏・クリーム製剤でない方が良いでしょう。
またこれは多くの抗ウイルス薬に共通する事ですが、耐性化には注意しないといけません。ウイルスは変異する事があり、これによってアラセナAが効かない菌が出現する事もあります。
このような状態でアラセナAの塗布を続けていても意味はありません。一定期間アラセナAを塗布しても改善が乏しい場合は、耐性化の可能性も考えて治療方針を再検討する必要があります。
8.ヘルペス感染に効果がある市販薬は?
アラセナAは病院で処方してもらうしかありませんが、同様の成分を持つお薬で薬局で購入できるものもあります。
始めてのヘルペス感染の場合は、病院を受診し医師に診断をしてもらう事をお勧めしますが、何度も再発している方や病院を受診できないような場合は、このような市販薬を検討しても良いでしょう。
アクチビア軟膏は病院で処方される抗ヘルペス薬である「ゾビラックス(一般名:アシクロビル)」というお薬と同じ成分が含まれています。病院処方薬であるゾビラックスと同じく5%のアシクロビルが含まれており、同程度の効果が期待できます。
アラセナSは「アラセナA(一般名:ビダラビン)」と同じ成分が含まれています。病院処方薬であるアラセナAと同じく3%のビダラビンが含まれており、同程度の効果が期待できます。
アラセナAとアラセナSはほぼ同じ成分で病院で処方されるのがアラセナA、薬局で買えるのがアラセナSです。
なぜ名称を分けているかというと薬局で買えるアラセナSは適応上は「ヘルペスの再発」にしか使えません。これは初発の場合はアラセナSで自己治療しないで、病院で医師にちゃんと診断してもらってね、という意味になります。
ドッズは皮膚と同じような色のパッチ剤(皮膚に貼るシール)です。ヘルペスによって水疱が出来てしまった部位を目立ちにくくし、保護する役割があります。
抗ヘルペス薬が入っているわけではなく、あくまでも「傷を隠す」「傷を保護する」目的になります。
有効成分が入っているわけではありませんが創部を保護しますので、治りを多少早める事が期待できます。またヘルペスの水疱が見た目的に気になってしまう方(女性など)にとっては、水疱を目立ちにくくしてくれ、重宝します。