アタラックスP(一般名:ヒドロキシジンパモ酸塩)は1965年から発売されているお薬で抗ヒスタミン薬と呼ばれます。
アタラックスPは、
- アレルギーを抑える作用
- 鎮静・催眠作用
の2つの作用を持つお薬です。前者の作用は主にアレルギー疾患の治療に使われ、後者の作用は不眠や不安・不穏などの精神的な症状の改善に使われます。
アタラックスPはこのような複数の作用を持つお薬であるため幅広く使えますが、一方で古いお薬であり副作用も多いため注意が必要です。
アタラックスPはどのような特徴のあるお薬で、どんな作用を持っているお薬なのでしょうか。
アタラックスPの効果や特徴・副作用についてみていきましょう。
目次
1.アタラックスPの特徴
まずはアタラックスPの全体的な特徴についてみてみましょう。
アタラックスPはヒスタミンのはたらきをブロックすることでアレルギー症状を抑えます。また中枢神経のはたらきを抑制して鎮静・催眠作用をもたらすことで不眠・不安・不穏などにも効果を発揮します。
ヒスタミンはアレルギーを誘発する原因となる物質(ケミカルメディエーター)です。そのため、このヒスタミンのはたらきをブロックできればアレルギー症状を改善させることができます。それを狙っているのがアタラックスPをはじめとした「抗ヒスタミン薬」になります。
抗ヒスタミン薬には古い第1世代抗ヒスタミン薬と、比較的新しい第2世代抗ヒスタミン薬があります。第1世代は効果は良いのですが眠気などの副作用が多く、第2世代は効果もしっかりしていて眠気などの副作用も少なくなっています。
この違いは第1世代は脂溶性(脂に溶ける性質)が高いため脳に移行しやすく、第2世代は脂溶性が低いため脳に移行しにくいためだと考えられています。また第2世代の方がヒスタミンにのみ集中的に作用するため、余計な部位への作用が少なく、これも副作用を低下させる理由となっています。
そのため、現在では副作用が少ない第2世代から使用するのが一般的です。
アタラックスPはというと第1世代の抗ヒスタミン薬になります。今となっては古い抗アレルギー薬になるため、現在では最初から用いることはあまりありません。
またヒスタミンには覚醒作用があり中枢神経を覚醒させるはたらきがあります。そのためヒスタミンをブロックすると反対に中枢神経が抑制され、鎮静・催眠(眠くなる)が生じます。この作用を利用しているのが薬局などで売っている睡眠改善薬で、睡眠改善薬の多くは抗ヒスタミン作用を持つ抗ヒスタミン薬になります。
アタラックスPは中枢神経においても強力にヒスタミンをブロックするため、優れた鎮静・催眠作用を発揮します。これは眠気の副作用となってしまう事もありますが、不眠や不安・不穏などの改善に利用する事も出来ます。
また詳しい機序は不明ですが、アタラックスPには吐き気や痛みを和らげたりする作用も報告されています。
副作用としては眠気に注意が必要です。またアタラックスPのような古い抗ヒスタミン薬はアセチルコリンという物質のはたらきもブロックしてしまう事があります。これを「抗コリン作用」と呼びます。代表的な抗コリン症状としては、口渇(口の渇き)、便秘、尿閉(尿が出にくくなる)などがあります。
以上から、アタラックスPの特徴として次のようなことが挙げられます。
【アタラックスPの特徴】
・蕁麻疹や痒みなどのアレルギー症状を抑える
・鎮静・催眠作用により不眠・不安・不穏症状を改善させる
・吐き気や痛みを抑える作用も報告されている
・鎮静力が強く、眠気やだるさがおきやすい
・古い第1世代抗ヒスタミン薬であり、副作用が多め
・眠気、抗コリン症状に注意
2.アタラックスPはどのような疾患に用いるのか
アタラックスPはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
蕁麻疹、皮膚疾患に伴う瘙痒(湿疹・皮膚炎、皮膚瘙痒症)
神経症における不安・緊張・抑うつ
アタラックスPは主に
- 抗ヒスタミン作用(アレルギー症状を抑える)
- 鎮静・催眠作用
の2つの作用を持っています。
前者は抗ヒスタミン作用を利用した投与になります。抗ヒスタミン作用によりアレルギー症状を和らげる事ができ、アレルギーで生じているじんましんや湿疹、皮膚のかゆみに効果を発揮します。
後者は鎮静・催眠作用を利用した投与になります。抗ヒスタミン作用により中枢神経の覚醒レベルを下げるため、眠くしたりリラックスさせたりする効果が期待できます。
アタラックスPは効果がしっかりとしているお薬ですが第1世代の古いお薬です。眠気・抗コリン作用などの副作用も多く、現在では最初から積極的に使われる位置づけのお薬ではありません。
3.アタラックスPにはどのような作用があるのか
アタラックスPはどのような作用機序によってアレルギーを抑えたり、精神状態を安定させてくれるのでしょうか。
アタラックスPの作用について詳しく紹介させて頂きます。
Ⅰ.抗ヒスタミン作用
アタラックスPの作用の1つに「抗ヒスタミン作用」があります。これはヒスタミンという物質のはたらきをブロックするという作用です。
アレルギー症状を引き起こす物質の1つに「ヒスタミン」があります。
アレルゲン(アレルギーを起こすような物質)に暴露されると、アレルギー反応性細胞(肥満細胞など)からアレルギー誘発物質(ヒスタミンなど)が分泌されます。これが受容体に結合することで様々なアレルギー症状が発症します。
ちなみに肥満細胞からはヒスタミン以外にもアレルギー誘発物質が分泌されますが、これらはまとめてケミカルメディエータ―と呼ばれています。ヒスタミンは主要なケミカルメディエーターの1つなのです。
アタラックスPは、ヒスタミンが結合するヒスタミン受容体をブロックすることでアレルギー症状の出現を抑える作用があります。
アタラックスPはヒドロキシジンという成分からなるお薬ですが、ヒドロキシジンは体内で代謝されセチリジンという物質になります。
ちなみにセチリジンは「ジルテック」という抗ヒスタミン薬の主成分です(ジルテックは第2世代の抗ヒスタミン薬であり現在でもよく用いられているお薬になります)。
これらの作用によりアタラックスPはアレルギー症状を和らげてくれるのです。
Ⅱ.鎮静・催眠作用
アタラックスPは脳(中枢神経)のヒスタミンをブロックする事で鎮静・催眠作用を発揮します。
ヒスタミンは脳の覚醒にも関わっていると考えられています。ヒスタミンをブロックすると脳は覚醒しにくくなるため、眠くなったりボーッとした状態になります。
不眠の方にアタラックスPを使う事で睡眠の改善が期待できます。また緊張したり不安が強くなっている状態の方にアタラックスPを使えば精神状態をリラックスさせることができます。
アタラックスPはこのような用途で用いられることもあります。
しかし抗ヒスタミン作用による眠りは、すぐに耐性(効きが悪くなってくること)が出来てしまうという指摘もあり、現在では最初から用いることは少なくなっています。
また緊張や不安・不穏の改善に対しても、現在は優れた抗不安薬や抗うつ剤が多く発売されているため、副作用の多いアタラックスPが利用される機会は徐々に少なくなっています。
Ⅲ.制吐作用・鎮痛作用
アタラックスPには制吐作用(吐き気を抑える)、鎮痛作用(痛みを抑える作用)なども報告されています。
この作用がどのような機序によって生じているのかは分かっていませんが、おそらく抗コリン作用(アセチルコリンをブロックする作用)が一因となっているのではないかと考えられています。
アタラックスPをはじめとした第1世代の抗ヒスタミン薬には、抗コリン作用があります。これは何故かというとヒスタミンの受容体とアセチルコリンの受容体は構造が類似しているため、抗ヒスタミン薬はアセチルコリン受容体にも多少作用してしまうのです。
特に作りが粗い第一世代抗ヒスタミン薬は抗コリン作用が出やすいお薬です。
抗コリン作用は副作用として困る症状が出てしまう事もありますが、このように役立つ作用となる事もあります。
4.アタラックスPの副作用
アタラックスPにはどんな副作用があるのでしょうか。
古いお薬であり第1世代抗ヒスタミン薬であるアタラックスPは副作用が多めのお薬となります。
副作用として多いのは、
- 眠気
- 倦怠感
- 口渇
などがあります。抗ヒスタミン薬はどれも眠気の副作用が生じるリスクがあります。特にアタラックスPは第一世代の抗ヒスタミン薬であり、脳へ移行しやすいため眠気を起こしやすいお薬になっています。
頻度は稀ですが、重大な副作用として、
- ショック、アナフィラキシー
- QT延長、心室頻拍(torsades de pointesを含む)
- 肝機能障害、黄疸
などが報告されています。
またアタラックスPは次のような方は使用することが出来ませんので注意が必要です。
- 本剤の成分、セチリジン、ピペラジン誘導体、アミノフィリン、エチレンジアミンに対し過敏症の方
- ポルフィリン症の方
- 妊婦又は妊娠している可能性のある方
アタラックスPを投与された妊婦さんが口蓋裂などの奇形児を出産したという報告があります。また妊娠中のアタラックスPの投与により赤ちゃんに傾眠、筋緊張低下、離脱症状、錐体外路障害、間代性運動、 中枢神経抑制等、新生児低酸素症が出現したという報告があります。
これらの報告から、妊婦さんはアタラックスPを使用してはいけない事となっています。
5.アタラックスPの用法・用量と剤形
アタラックスPは、
アタラックスPカプセル 25mg
アタラックスPカプセル 50mgアタラックスPドライシロップ 2.5%
アタラックスP散 10%
といった剤形があります。
アタラックスPの使い方としては、
皮膚科領域には、通常成人1日50~75mgを2~3回に分割経口投与する。
神経症における不安・緊張・抑うつには、通常成人1日75~150mgを3~4回に分割経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。
となっています。
ちなみにアタラックスPと似た名前のお薬に「アタラックス」があります。アタラックスとアタラックスPは何が違うのでしょうか。
実はこの2つは同じ効果のお薬だと考えて問題ありません。
アタラックスは「ヒドロキシジン塩酸塩」で、アタラックスPは「ヒドロキシジンパモ酸塩」でどちらもヒドロキシジンになります。
アタラックスPの「P」は「パモ酸塩(Pamoate)」のPだと思われます。
強いて言えばヒドロキシジンパモ酸塩(アタラックスP)はヒドロキシジン塩酸塩(アタラックス)と比べて苦味がやや軽減されているという特徴があります。
またアタラックスは錠剤であるのに対し、アタラックスPはカプセル・散剤・ドライシロップと剤型の違いがあります。
6.アタラックスPが向いている人は?
以上から考えて、アタラックスPが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
アタラックスPの特徴をおさらいすると、
・蕁麻疹や痒みなどのアレルギー症状を抑える
・鎮静・催眠作用により不眠・不安・不穏症状を改善させる
・吐き気や痛みを抑える作用も報告されている
・鎮静力が強く、眠気やだるさがおきやすい
・古い第1世代抗ヒスタミン薬であり、副作用が多め
・眠気、抗コリン症状に注意
といったものがありました。
アタラックスPは、第1世代抗ヒスタミン薬になり、じんましんや皮膚のかゆみなどに対して用いられるお薬になります。また鎮静・催眠作用もあり、不眠・不安・不穏などの精神症状に用いられる事もあります。
しかし古いお薬で副作用も多いため、現在では最初から用いられる事はほとんどありません。
アレルギー疾患の場合、副作用の少ない第2世代抗ヒスタミン薬を使っても十分な効果が得られない場合、何らかの理由で第2世代抗ヒスタミン薬が使用できない場合にやむを得ず検討されるお薬になります。
また鎮静・催眠作用で使用する場合でも、副作用のより少ない他の精神に作用するお薬(向精神薬)をまず使う事が優先されます。
ただし抗アレルギー作用と鎮静・催眠作用の両方が欲しい場合にはアタラックスPは1剤で2つの効果が得られるため処方される事があります。
例えば、かゆみで眠れないという場合などが挙げられます。
この場合かゆみも抑えてくれて、眠りも導いてくれるアタラックスPは一石二鳥の効果が期待できるからです。