アテディオ配合錠(一般名:バルサルタン・シルニジピン)は2014年から発売されている降圧剤(血圧を下げるお薬)になります。
アテディオは「配合錠」という名前からも分かるように、2つの成分が配合された降圧剤です。具体的にはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(AngiotensinⅡ Receptor Blocker:ARB)である「ディオバン(一般名:バルサルタン)」とカルシウム拮抗薬である「アテレック(一般名:シルニジピン)」が配合されています。
2種類の成分を1剤にまとめているためお薬の管理も楽になりますし、服薬する錠数も減らせます。高血圧の方は複数の降圧剤を飲まれている方もいらっしゃいますから、このような配合剤は服用の手間を軽減させてくれます。
近年ではこのような配合剤は多く発売されています。その中でアテディオはどのような特徴の持っていて、どのような患者さんに向いている降圧配合剤なのでしょうか。
ここではアテディオ配合錠の特徴や効果・副作用についてみていきます。
目次
1.アテディオ配合錠の特徴
まずは、アテディオ配合錠の全体的な特徴について紹介します。
アテディオ配合錠は、
- ディオバン(一般名:バルサルタン)
- アテレック(一般名:シルニジピン)
といった2種類の降圧剤(血圧を下げるお薬)が含まれた合剤になります。
要するにアテディオを服用する事は、ディオバンとアテレックの2剤を服用しているのと同じです。なぜ合剤にしてまとめたのかと言うと、服用の手間が軽減するためです。また薬価(お薬の値段)が安くなるというメリットもあります。
アテディオに含まれるディオバン(一般名:バルサルタン)はARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)という種類の降圧剤になります。
ARBはアンジオテンシンⅡという物質のはたらきをブロックすることで、血圧を下げるお薬になります。アンジオテンシンⅡは血圧を上げる作用が強い物質なので、これをブロックすると血圧が下がるのです。
またARBは血圧を下げるだけでなく臓器保護作用があり、心臓や腎臓を保護してくれます。そのため、心不全や腎不全の方にも向いているお薬になります。
ディオバンはARBの中でも強めの降圧作用を持つお薬であり、しっかりと血圧を下げてくれます。これはディオバンの持つ「インバーストアゴニスト作用」によるものだと考えられています(この作用については後述します)。
アテディオに含まれるアテレック(一般名:シルニジピン)はカルシウム拮抗薬という種類の降圧剤になります。カルシウム拮抗薬は血管の平滑筋に存在するカルシウムチャネルというカルシウムが通る穴をふさぐ作用があります。
カルシウムチャネルをカルシウムが通ると平滑筋が収縮します。動脈の周りを覆っている平滑筋が収縮すれば血圧は上がります。カルシウム拮抗薬はこれをブロックするため、血圧を下げることになります。
アテレックは血圧を下げる力はカルシウム拮抗薬の中では標準的ですが、ディオバンと同じく心臓や腎臓といった臓器を保護する作用がある点が特徴になります。アテレックの心臓・腎臓保護作用はディオバンとは異なる機序で発揮されるため、両者を併用する事でよりしっかりと臓器を保護する事が可能となります。
アテディオはこの「アテレック」と「ディオバン」の両方が入っているわけですので、上記の特徴を合わせた降圧剤になります。ちなみにアテディオという名称も「アテレック」+「ディオバン」で「アテディオ」となっています。
以上からアテディオには、次のような特徴が挙げられます。
【アテディオの特徴】
・2つの降圧剤が含まれており、血圧を下げる力がしっかりしている |
2.アテディオ配合錠はどのような疾患に用いるのか
アテディオはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
高血圧症
アテディオは降圧剤ですので「高血圧症」の患者さんに用います。
注意点として、アテディオは2つの降圧剤が配合されているお薬であるため一番最初から用いる事は出来ません。
アテディオを最初から投与するという事は、降圧薬を一気に2つ始めてしまうのと同じことだからです。まずは1剤から始め、それでも効果が不十分な時に初めて2剤目は検討されるべきです。
アテディオは2つの降圧剤が含まれているため、1つの降圧剤で効果が不十分であったときに検討されるお薬になります。
ではアテディオは高血圧に対してどれくらいの効果が期待できるのでしょうか。アテディオは2つの降圧剤を配合しているため、一般的な降圧剤よりは降圧効果は高くなります。
軽症から中等症の本態性高血圧症患者さんに、アテディオの服用を8週間続けて頂いた調査では、
- 収縮期血圧がおおよそ21.3mmHgほど下がる
- 拡張期血圧がおおよそ13.9mmHgほど下がる
と報告されています。
ちなみにアテディオは服薬してからどれくらいで効果を判定すれば良いのでしょうか。
これは明確に決まっているわけではありません。通常2週間程度で効果を判定できますが、しっかりと判定するためには「約1カ月」程度は見ておく方が良いでしょう。
3.アテディオ配合錠にはどのような作用があるのか
アテディオは具体的にどのような作用機序によって血圧を下げてくれるのでしょうか。
アテディオの作用機序について紹介します。
Ⅰ.降圧作用(アンジオテンシンⅡのブロック)
アテディオにはディオバン(一般名:バルサルタン)というARBと同じ成分が含まれており、これに血圧を下げる作用があります。
ではディオバンはどのように血圧を下げるのでしょうか。
私たちの身体の中には、血圧を上げる仕組みがいくつかあります。その1つに「RAA系」と呼ばれる体内システムがあります(RAA系とは「レニン-アンジオテンシン-アルドステロン」の略です)。
RAA系は本来、血圧が低くなりすぎてしまった時に血圧を上げるシステムです。
腎臓は血液から老廃物を取り出して尿を作る臓器ですが、ここに「傍糸球体装置」というものがあります。傍糸球体装置は腎臓に流れてくる血液が少なくなると「レニン」という物質を放出します。
レニンはアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンⅠという物質に変えるはたらきがあります。
更にアンジオテンシンⅠはACEという酵素によってアンジオテンシンⅡになります(ちなみにこれをブロックするのがACE阻害薬という降圧剤です)。
アンジオテンシンⅡは副腎という臓器に作用して、アルドステロンというホルモンを分泌させます。
アルドステロンは血液中にナトリウムを増やします(詳しく言うと、尿として捨てる予定だったナトリウムを体内に再吸収します)。血液中のナトリウムが増えると血液の浸透圧が上がるため、ナトリウムにつられて水分も血液中に引き込まれていきます。これにより血液量が増えて血圧も上がるという仕組みです。
通常であればこのRAA系は、血圧が低くなった時だけ作動する仕組みです。しかし血圧が高い状態が持続している方は、このRAA系のスイッチが不良になってしまい、普段からRAA系システムが作動してしまっていることがあります。
ディオバンをはじめとしたARBは、アンジオテンシンⅡのはたらきをブロックすることで、RAA系が作動しないようにします。すると血圧を上げる物質が少なくなるため、血圧が下がるというわけです。
更にディオバンは「インバートアゴニスト作用」という作用を持ち、これによって高い降圧力を発揮します。
ARBにはインバースアゴニストという作用を持つものがあります。ARBはアンジオテンシンⅡ受容体という部位に作用する事でアンジオテンシンⅡのはたらきをブロックしますが、実はアンジオテンシンⅡ受容体は何も結合していない状態でもある程度勝手に活性化して作用をもたらしてしまっています。
この受容体自身が持つ活性をも抑制する作用がインバースアゴニスト作用です。アンジオテンシンⅡ受容体をブロックして、アンジオテンシンⅡが結合した時の活性が生じないようにするほか、アンジオテンシンⅡ受容体自身が持っている活性をもブロックする事でより降圧力・臓器保護作用を高めてくれるのです。
Ⅱ.降圧作用(カルシウムチャネルのブロック)
アテディオにはアテレック(一般名:シルニジピン)というカルシウム拮抗薬と同じ成分が含まれており、これも血圧を下げる作用があります。
ではアテレックはどのように血圧を下げるのでしょうか。
カルシウム拮抗薬は、血管の平滑筋という筋肉に存在しているカルシウムチャネルのはたらきをブロックするというのが主なはたらきです。
チャネルという用語が出てきましたが、これはかんたんに言うと、様々なイオンが通る穴だと思ってください。つまりカルシウムチャネルは、カルシウムが通ることが出来る穴です。
カルシウムチャネルはカルシウムイオンを通すことにより、筋肉を収縮させるはたらきがあります。これをブロックするのがカルシウム拮抗薬です。
この作用でカルシウムイオンが流入できなくなると、筋肉が収縮できなくなるため拡張します。そして血管を覆っている平滑筋が拡張する(広がる)と、血圧は下がります。
ちなみにカルシウムチャネルにはL型、T型、N型の3種類があることが報告されています。このうち、平滑筋に存在しているカルシウムチャネルはほとんどがL型です。
【L型カルシウムチャネル】
主に血管平滑筋・心筋に存在し、カルシウムが流入すると筋肉を収縮させる。ブロックすると血管が拡張し、血圧が下がる【T型カルシウムチャネル】
主に心臓の洞結節に存在し、規則正しい心拍を作る。また脳神経にも存在し神経細胞の発火に関係している【N型カルシウムチャネル】
主にノルアドレナリンなど興奮性の神経伝達物質を放出する。
アテレックはL型カルシウムチャネルに選択性が高いため、しっかりと血圧を下げてくれます。
またN型にもある程度作用するのが特徴で、これにより興奮性神経のはたらきを抑えて身体をリラックスさせ、後述の心臓や腎臓を保護するはたらきも持ちます。
Ⅲ.臓器保護作用
ディオバン、アテレックには臓器保護作用があります。
それぞれ心臓・腎臓・脳といった重要臓器を保護してくれる作用を持ちますが、それぞれの作用機序は異なります。
心臓が傷んでしまい、十分に機能できなくなる状態を「心不全」と呼びます。高血圧は心不全のリスクになるため、ディオバン・アテレックの降圧作用はそれ自体が心保護作用になります。
またそれ以外にも先ほど説明したRAA系の「アンジオテンシンⅡ」は心臓の筋肉(心筋)の線維化を促進し、これも心臓の力を弱める原因となります。
ディオバンはアンジオテンシンⅡのはたらきをブロックしてくれるため、これも心保護作用になります。実際、ディオバンのようなARBは心不全に対しての第一選択薬となっています。
またアテレックもN型カルシウムチャネルをブロックする事で交感神経のはたらきを抑え、興奮性に血管が収縮して血圧が上がり心臓にダメージが生じるのを防いでくれます。
腎臓に対しても同様です。
腎臓が傷んでしまい、十分に機能できなくなる状態は「腎不全」と呼ばれ、これも高血圧が発症リスクになるため、ディオバン・アテレックの降圧作用はそれ自体が腎保護作用になります。
アンジオテンシンは腎臓の線維化も促進し、これも腎不全の原因になるのですが、ディオバンは同様の機序で腎臓の線維化を抑え、腎保護作用を発揮します。
またアテレックはもN型カルシウムチャネルをブロックする事で交感神経のはたらきを抑え、心臓の時と同様に腎臓にダメージが生じるのも防いでくれます。
4.アテディオ配合錠の副作用
アテディオの副作用はどのようなものがあるのでしょうか。またアテディオは安全はお薬なのでしょうか、それとも副作用が多いお薬なのでしょうか。
アテディオの副作用発生率は12.0%と報告されています。
生じうる副作用としては、
- 高尿酸血症
- 肝機能異常(AST、ALT上昇)
- 頭痛
- 顔面潮紅(ほてり)
- 便秘
- カリウム上昇
- 高脂血症
などがあります。
ARBを長期間副作用されている方は定期的に血液検査などで検査異常が出現していないかをチェックしておくことが望ましいでしょう。
また、稀ですが重篤な副作用として
- 血管浮腫(顔面、口唇、咽頭、舌の腫脹など)
- 肝炎、肝機能障害、黄疸
- 腎不全、高カリウム血症
- ショック、失神、意識消失
- 無顆粒球症、白血球減少、血小板減少
- 間質性肺炎
- 低血糖
- 横紋筋融解症
- 中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)、多形紅斑
- 天疱瘡、類天疱瘡
などが報告されています。
また、アテディオは
- アテディオの成分に対して過敏症の既往歴のある方
- 妊婦
- ラジレスを投与中の糖尿病患者様
は原則服薬することが出来ません。
アテディオに含まれる「ディオバン」は、妊婦さんに投与する事で児の奇形の発生率が高まるという報告があり、このような理由から妊婦さんへの投与は禁忌となっています。
最後の項目に関しては、どうしても他の降圧剤で治療できない高血圧症の方に限り、慎重に用いることは認められていますが、両者の併用が禁忌となっているのはラジレスとディオバン(ARB)の併用で非致死性脳卒中、腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧のリスク増加が報告されているためです。
5.アテディオの用法・用量と剤形
アテディオは、
アテディオ配合錠 (バルサルタン80mg/シルニジピン10mg)
の1剤形のみがあります。
アテディオの使い方は、
成人には1日1回1錠を朝食後に経口投与する。本剤は高血圧治療の第一選択薬として用いない。
となっています。
2つの成分を含むアテディオは高血圧治療を行う時に最初に用いてはいけません。まずはディオバンやアテレックといった単剤で治療をはじめ、それでも効果不十分な時にのみ、アテディオのような合剤が検討されます。
またアテディオは空腹時よりも食後に服用した方が血中濃度が高くなり、しっかり効く事が確認されています。そのため朝食後に服用する事となっています。
6.アテディオ配合錠が向いている人は
以上から考えて、アテディオが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
アテディオの特徴をおさらいすると、
【アテディオの特徴】
・2つの降圧剤が含まれており、血圧を下げる力がしっかりしている |
というものがありました。
アテディオは、実績あるARBである「ディオバン」とるカルシウム拮抗薬である「アテレック」を合体させたお薬です。
2つの降圧剤を配合する事で高い降圧作用を発揮してくれます。
ARBは心保護作用・腎保護作用といった臓器保護作用を持ちますが、アテディオはカルシウム拮抗薬であるアテレックにも臓器保護作用があるのが大きな特徴です。
そのため、
・血圧をしっかりと下げたい方
・心臓や腎臓といった臓器をしっかりと保護したい方
に向いているお薬となります。心不全や腎不全などを持っている方には適しているでしょう。
更にアテディオのような配合剤は2剤を配合することにより、1剤ずつで処方してもらうよりも薬価が安くなっており、これも配合剤のメリットです。