アテネジン(一般名:アマンタジン塩酸塩)は、1975年から発売されている「シンメトレル」というお薬のジェネリック医薬品になります。
ジェネリック医薬品とは、先発品(シンメトレル)の特許が切れた後に他社から発売された同じ成分からなるお薬の事です。お薬の開発・研究費がかかっていない分だけ、先発品よりも薬価が安くなっているというメリットがあります。
アテネジンは主にパーキンソン病の治療薬として用いられています。
その主な作用はドーパミンの量を増やす事であり、脳のドーパミンが少なくなってしまう事で発症するパーキンソン病に用いられています。またパーキンソン病以外にもいくつかの疾患に適応を持っています。
古いお薬であるため使用される機会は徐々に少なくなってきていますが、面白い機序を持つお薬の1つです。
パーキンソン病の治療薬にはたくさんの種類があり、どのようなお薬をどのような時に用いれば良いのかはなかなか分かりにくいものです。
パーキンソン病治療薬の中でアテネジンはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ここではアテネジンの特徴や効果・副作用を紹介させて頂きます。
1.アテネジンの特徴
まずはアテネジンの全体的な特徴をかんたんに紹介します。
アテネジンはドーパミンを増やす作用を持ち、ドーパミンが少なくなる事で生じる疾患(パーキンソン病や意欲低下など)に用いられます。またA型インフルエンザウイルスの増殖を抑える作用もあります。
アテネジンは主にはパーキンソン病の治療薬として用いられているお薬です。パーキンソン病は、脳のドーパミン量が減少してしまう事で生じますが、アテネジンはドーパミンの分泌を促し、ドーパミンの再取り込み(吸収)を抑制することで脳内のドーパミン量を増やします。
またそれ以外にもアテネジンは意欲改善を狙って用いられる事もあります。ドーパミンは快楽や楽しみにも関係する物質であるため、脳のドーパミン量が低下すると意欲低下や楽しむ力の低下が生じる事もあります。
このような場合も、疾患によってはアテネジンを服薬することで改善が期待できます。日本では脳梗塞後の自発性・意欲低下に対してアテネジンの投与が保険上認められています。
更にアテネジンはA型インフルエンザウイルスの増殖を抑えるという面白い作用も報告されています。そのためA型インフルエンザウイルス感染症に対して使用することも可能です。
またアテネジンはジェネリック医薬品ですので、先発品の「シンメトレル」と比べて薬価が安いのもメリットの1つです。
以上からアテネジンの特徴として次のような点が挙げられます。
【アテネジンの特徴】
・脳のドーパミン量を増やす事でパーキンソン病の症状を改善させる |
2.アテネジンはどのような疾患に用いるのか
アテネジンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
〇 パーキンソン病
〇 脳梗塞後遺症に伴う意欲・自発性低下の改善
〇 A型インフルエンザウイルス感染症
アテネジンの主なはたらきは、
- ドーパミン量を増やす事
- インフルエンザウイルスの増殖を抑える事
の2つです。
ドーパミン量を増やすことでパーキンソン病症状の改善や、意欲・自発性低下の改善が得られます。
またインフルエンザウイルスの増殖を抑える作用により、A型インフルエンザウイルス感染症への投与が認められています。
ではアテネジンはこれらの疾患に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
アテネジンはジェネリック医薬品ですので、有効性に関する詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「シンメトレル」では行われており、その調査結果が参考になります。
シンメトレルの有効性をみた調査では、
- 脳梗塞後遺症に伴う意欲・自発性低下を中等度以上に改善させた率は31.0%
- パーキンソン症候群を中等度以上に改善させた率は44.9%
と報告されています。
また、A型インフルエンザウイルス感染症に対しては、
- プラセボ(偽薬)を投与した群では19例のうち、11例がインフルエンザを発症
- シンメトレル100mg/日を投与した群では20例のうち、3例がインフルエンザを発症
と有意な予防効果を認めております。
同じ主成分からなるアテネジンもこれと同程度の有効率があると考えられます。
3.アテネジンにはどのような作用があるのか
アテネジンは主にパーキンソン病の治療薬として用いられています。
しかし実は元々はインフルエンザの治療薬として発売されたお薬で、パーキンソン病を改善させる作用がある事に気付かれたのはその後なのです。
複数の作用を持つアテネジンのそれぞれの作用機序について説明します。
Ⅰ.パーキンソン症状の改善作用
パーキンソン病は中脳黒質という部位のドーパミン神経細胞が脱落してしまう事で、線条体という部位のドーパミン量が減少してしまう疾患です。
なぜこのような事が起こるのかはまだ明確には解明されていません。
特徴的な症状として、
- 振戦(手足の震え)
- 筋固縮(筋肉が固まる)
- 無動(動かなくなる)
- 姿勢反射障害(身体のバランスが保てなくなる)
の4つの代表的な症状を認めます。
簡単に言えばパーキンソン病は脳のドーパミン量が減ってしまって生じているため、脳のドーパミンを増やしてあげればパーキンソン病症状を改善させることが出来るはずです。
アテネジンは、
- ドーパミンの分泌を促進する作用
- ドーパミンの再取り込み(吸収)を抑制する作用
の2つを持ち、両者によって脳内のドーパミン量を増やしてくれます。
これによってパーキンソン症状を改善させていると考えられています。
Ⅱ.意欲低下の改善
ドーパミンは気分に影響を与える物質としても知られています。
気分に影響を与える神経伝達物質を総称して「モノアミン」と呼びますが、ドーパミンもモノアミンの一種です。
モノアミンにはドーパミンの他にもセロトニンやノルアドレナリンなどがあり、それぞれ、
- セロトニン:落ち込みや不安に関係する
- ノルアドレナリン:意欲や気力に関係する
- ドーパミン:楽しみや快楽に関係する
と考えられています。
モノアミンが低下してしまう疾患として「うつ病」がありますが、実際にうつ病の患者さんの脳内では、これらモノアミンの量が低下しているという報告もあります。
アテネジンはドーパミンを中心として、その他のモノアミンの量も増やす作用があり、これが意欲・自発性の改善をもたらすと考えられています。
日本ではアテネジンは「脳梗塞に伴う意欲・自発性改善」と、脳梗塞後への使用しか認められていませんが、薬理的に考えればうつ病などに用いても効果は期待できるはずです。
ちなみに脳梗塞に伴う意欲・自発性改善にアテネジンを用いる場合の注意点として、効果が得られない際は漫然と使い続けることは推奨されていません。
投与12週を超えても効果がない場合は、中止をする事が推奨されています。
Ⅲ.A型インフルエンザの治療・予防
実はアテネジンは元々はA型インフルエンザウイルス感染症の治療薬として開発されたお薬です。
1960年頃、アテネジンの主成分である「アマンタジン」にA型インフルエンザウイルスの増殖を抑える作用がある事が注目され、ここから開発が進められました。
ではアテネジンはどのようにA型インフルエンザウイルスの増殖を抑えてくれるのでしょうか。
インフルエンザウイルスは私たちの細胞内にRNAと呼ばれる遺伝子情報が入っている物質を注入し(脱殻)、細胞内でウイルスを大量に増殖させます。
アテネジンは、インフルエンザウイルスが脱殻しないように作用することで、私たちの細胞内にインフルエンザウイルスのRNAが注入されないようにするのです。
現在ではパーキンソン病に使う事の方が多いアテネジンですが、発売当初は抗インフルエンザ薬であり、パーキンソン病に対する効果というのは発売後に気付かれたものだったのです。
ちなみに現在ではアテネジンはA型インフルエンザウイルス感染症にあまり用いられることはありません。その理由はより効果的にインフルエンザウイルスを抑えるお薬が多く開発されてきたからです。
また、現在ではアテネジンに耐性を持つA型インフルエンザウイルスも多くなってきたため、その適応はかなり限られます。
他の抗インフルエンザ薬だけでは不十分でありそうな免疫力が下がっている方、重症化しやすい方などはアテネジンの投与も検討されることがありますが、第一選択としてA型インフルエンザに使うお薬ではありません。
アテネジンはインフルエンザウイルスの増殖を抑えるお薬になるため、ウイルスが増殖しきってから飲み始めても十分な効果は得られません。発症後48時間以内に服薬を開始することが勧められています。
またインフルエンザウイルスがアテネジン耐性となるのを防ぐため、長期間の服薬は推奨されておらず、最長でも1週間で中止するように決められています。
ちなみにアテネジンはA型インフルエンザウイルスの増殖抑制効果しかなく、B型などA型以外のインフルエンザウイルスには効果を示しません。
4.アテネジンの副作用
アテネジンにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
アテネジンはジェネリック医薬品ですので、副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「シンメトレル」では行われており副作用発生率は、
- パーキンソン症候群における副作用発生率は23.4%
- 脳梗塞後遺症に伴う意欲・自発性低下における副作用発生率は5.8%
- A型インフルエンザウイルス感染症における副作用発生率は2.4%
と報告されており、同じ主成分からなるアテネジンの副作用発生率もこれと同程度であると考えられます。
生じうる副作用としては、
- 消化器系(便秘、下痢、嘔気、嘔吐など)
- 精神・神経系(不眠、眠気、不安、気分高揚、頭痛、など)
- 皮膚(光線過敏症など)
- 全身症状(めまい、立ちくらみ、口喝など)
- 泌尿器系(尿失禁、排尿障害など)
- 心・血管系(血圧低下、動悸など)
- 筋骨格系(振戦、ジスキネジー、脱力など)
が報告されています。
また頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- 悪性症候群
- 中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)
- 視力低下を伴うびまん性表在性角膜炎、角膜浮腫様症状
- 心不全
- 肝機能障害
- 腎障害
- 意識障害、精神症状(幻覚、妄想、せん妄、錯乱)、痙攣、ミオクローヌス
- 横紋筋融解症
が報告されています。
複数の疾患に適応を持つアテネジンですが、その作用はかんたんに言うと「ドーパミン量を増やす事」になります。そのため、ドーパミン増加に伴う副作用が時に出現します。
比較的認められるのが、便秘・嘔吐・腹痛・口渇などといった消化器症状です。これは消化管にもドーパミン受容体が分布しているため、アテネジンが消化管のドーパミン受容体に作用してしまうために生じると考えられています。
また精神症状も時に認められ、幻覚・錯乱・不眠などが生じる事があります。重篤な場合は異常行動による事故や自殺企図などに至る可能性も稀ながらありえます。
ドーパミンは興奮・快楽に関係する物質であり、その量が増えすぎると興奮したり幻覚が生じたりすることもあります。
実際、覚せい剤は幻覚が生じますがこれは脳内ドーパミン量が増えるためだと考えられています。また幻覚が生じる統合失調症の原因もドーパミンの過剰ではないかとも指摘されています(ドーパミン仮説)。
これらの例から分かるように、ドーパミンは増えすぎると幻覚・興奮などの精神症状を引き起こす可能性があるのです。
その他もドーパミンによって心臓の仕事量が増える事で、浮腫や心不全悪化などが生じる可能性もあります。
悪性症候群は急激にドーパミン量が増減する事で生じる疾患で、高熱、神経症状(錐体外路症状)、血圧上昇、動悸、横紋筋融解などが生じます。適切な治療を行わないと命に関わる可能性もある危険な副作用です。
またアテネジンを使用してはいけない方(禁忌)としては、
- 透析を必要とするような重篤な腎障害のある方
- 妊婦または妊娠している可能性のある婦人および授乳婦
- アテネジンの成分に対し過敏症の既往歴のある方
が挙げられています。
アテネジンは主に腎臓で排泄されます。そのため時に腎障害が生じることがあります。また重度の腎機能障害が元々ある方はアテネジンを服用することができませんので、事前に主治医に自分の病気についてしっかりと伝えておきましょう。
またアテネジンには催奇形性(奇形児が生まれてしまう危険)の報告が動物実験であったため、妊婦は服用してはいけません。
5.アテネジンの用法・用量と剤形
アテネジンには次の剤型が発売されています。
アテネジン錠 50mg
アテネジン錠 100mg
アテネジン細粒 10%
アテネジンの使い方は適応疾患により異なっており、
パーキンソン病に用いる際には、
通常成人には初期量100mgを1~2回に分割経口投与し、1週間後に維持量として1日200mgを2回に分割経口投与する。なお、症状、年齢に応じて適宜増減できるが、1日300mgを3回分割経口投与までとする。
となっています。
脳梗塞後遺症に伴う意欲・自発性低下の改善に用いる際には、
通常成人には1日100~150mgを2~3回に分割経口投与する。なお、症状、年齢に応じて適宜増減する。
となっています。
またA型インフルエンザウイルス感染症に用いる際には、
通常成人には1日100mgを1~2回に分割経口投与する。なお、症状、年齢に応じて適宜増減する。ただし、高齢者及び腎障害のある患者では投与量の上限を1日100mgにすること。
となっています。
適応疾患によって用いる用量に多少の違いがあります。
アテネジンは半減期が約10~12時間ほどのお薬です。半減期とは、お薬の血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことで、そのお薬の作用時間の一つの目安になる数値です。アテネジンはその半減期から1日1回の服薬では1日を通して効果は持続しないと考えられており、1日2~3回の服用が指示されています。
6.アテネジンが向いている人は?
アテネジンはどのような時に検討されるお薬なのでしょうか。
アテネジンの特徴をおさらいすると、
【アテネジンの特徴】
・脳のドーパミン量を増やす事でパーキンソン病の症状を改善させる |
というものでした。
現在ではアテネジンをA型インフルエンザに用いることはほとんどありません。他の抗インフルエンザ薬が用いられない場合か、他の抗インフルエンザ薬だけでは不十分である事が予測される患者(感染に弱い方や重篤化しやすい方など)に限って慎重に検討されるくらいです。
またアテネジンの先発品である「シンメトレル」は1975年発売の古いお薬です。近年はパーキンソン病も優れたお薬がどんどん出てきているため、アテネジンが使われる機会は少しずつ減ってきています。
というのもアテネジンは脳内で枯渇しているドーパミンの分泌を無理やり促したり、分泌されたドーパミンが吸収されないように留まらせておくはたらきがありますが、パーキンソン病が進行すると無理してドーパミンを絞り出させても、あまり出なくなってしまうからです。
現在のパーキンソン病治療薬の中心となっているのはドーパミンそのものを投与し、脳内のドーパミンを増やす方法で、この方法の方が無理がありません。
アテネジンは現在では、他の抗パーキンソン薬が使えなかったり、効果不十分である時に検討されるお薬という位置づけになっています。