アバプロ錠の効果と副作用

アバプロ錠(一般名:イルベサルタン)は2008年に発売された降圧剤(血圧を下げるお薬)で、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(AngiotensinⅡ Receptor Blocker:ARB)という種類に属します。

アバプロをはじめとしたARBは、血圧を下げる作用の他、心臓や腎臓などの臓器を保護する作用もあるため、臓器障害を有する方にも適した降圧剤になります。

ARBは上手に使えば1剤で複数の効果が期待できます。お薬の作用をしっかりと熟知すれば非常に頼もしいお薬だと言えるでしょう。

血圧を下げる降圧剤にも多くの種類があります。その中でアバプロはどんな特徴のある降圧剤で、どんな患者さんに向いているお薬なのでしょうか。

アバプロ錠の効果や特徴についてみていきましょう。

 

1.アバプロ錠の特徴

アバプロ錠というお薬の特徴についてみてみましょう。

アバプロはARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)という種類の降圧剤になります。ARBはアンジオテンシンⅡという物質のはたらきをブロックすることで、血圧を下げるお薬になります。アンジオテンシンⅡは血圧を上げる作用が強い物質なので、これをブロックすると血圧が下がるのです。

ARBはアバプロ以外にもいくつかあります。まずはARBの特徴について紹介します。

【ARBの特徴】
・血圧を下げる力(降圧力)は中程度
・臓器保護作用があり心不全・腎不全にも用いられる
・お薬によっては血糖値や尿酸値などの改善も期待できる

ARBは降圧剤に属し、血圧を下げるはたらきを狙って投与されるお薬です。しかしそれ以外にも付加的な効果が期待できます。単純に「血圧を下げる力」だけを見れば、カルシウム拮抗薬という降圧剤の方が強力です。しかしARBは、血圧を下げる以外にも付加的な効果があるのです。

その1つが「臓器保護作用」です。ARBは心臓や腎臓を保護してくれる作用が確認されています。

血圧が高いと心臓や腎臓にもダメージを与えます。血液は心臓から全身の血管に届くわけですから、血管が硬くなって血圧が上がれば心臓の負荷が上がり、心臓も痛みやすくなります。

また腎臓は血液から老廃物を取り出し尿を作るはたらきがあります。血管が硬くなっている高血圧の方では、尿を作るのも負荷がかかるようになり腎臓も痛みやすくなります。

このように血圧が高い方というのは、心臓や腎臓といった臓器にもリスクが生じるため、臓器保護作用を持つARBは高血圧による全身へのダメージをより広く守ってくれるお薬だと言えるでしょう。

またARBの中には様々な付加的効果を持つものがあり、糖尿病や高尿酸血症の改善も期待できるものがあります。

では次にARBの中でのアバプロの特徴を紹介します。

・作用時間が長く、1回の服薬で24時間しっかりと効く
・インバースアゴニスト作用がある
・糖尿病を改善させる効果がある
・尿酸値を下げる作用がある

アバプロのARBの中での特徴は「様々な付加効果がある」という点です。

血圧を下げるという本来の目的以外にも、

  • 脳や心臓、腎臓などの各臓器を保護する作用
  • 糖尿病を改善させる作用
  • 高尿酸血症を改善させる作用

といった多くの作用を有しているのです。

そのため、臓器障害(心不全、腎不全など)や糖尿病、高尿酸血症などを合併した高血圧症の方にはメリットの大きいお薬となります。

また血圧はワンポイントで下げるのではなく、一日を通してしっかりと下げることが重要だと考えられています。特に早朝や夜間は血圧が上がりやすいため、この時間帯にしっかりと血圧を下げてくれる降圧剤は理想的な降圧剤だと言えます。

アバプロが半減期(お薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間)が約15時間で、これはARBの中では長めになります。そのため長期間しっかりと効くARBという事が出来ます。

更にARBにはインバースアゴニストという作用があるものがあります。ARBはアンジオテンシンⅡ受容体という部位に作用するのですが、実はアンジオテンシンⅡ受容体は何も結合していない状態でもある程度勝手に活性化して作用をもたらしています。

この受容体自身が持つ活性をも抑制する作用がインバースアゴニスト作用です。アンジオテンシンⅡ受容体をブロックして、アンジオテンシンⅡが結合した時の活性が生じないようにするほか、アンジオテンシンⅡ受容体自身が持っている活性をもブロックする事でより降圧力・臓器保護作用を高めてくれます。

簡単に言えば、インバースアゴニスト作用が強いARBほど、しっかり血圧を下げ、臓器を保護すると言えます。

アバプロはインバースアゴニスト作用も有しているARBです。これはアバプロがアンジオテンシンⅡ受容体と疎水性結合をするため、しっかりと受容体とくっつくためではないかと考えられています。

以上からアバプロの特徴を挙げると次のようになります。

【アバプロの特徴】

・心臓・腎臓などの臓器保護作用がある
・1日を通してしっかりと血圧を下げる
・糖尿病を改善させる効果がある
・尿酸値を下げる作用がある

 

2.アバプロ錠はどんな疾患に用いるのか

アバプロはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。

【効能又は効果】

高血圧症

アバプロは降圧剤ですので、「高血圧症」の患者さんに用います。

アバプロの有効率は、

  • 軽症・中等症本態性高血圧症への有効率は68.5%
  • 重症高血圧症への有効率は81.8%
  • 腎障害を伴う高血圧症への有効率は73.9%

と報告されています。

これ以外にもアバプロは臓器保護作用を持っており、このためアバプロのようなARBは心不全や腎不全に対しての治療薬としてもよく用いられています。

 

3.アバプロ錠にはどのような作用があるのか

アバプロは具体的にどのような作用を有しているのでしょうか。

アバプロの作用機序について紹介します。

 

Ⅰ.降圧作用

アバプロは「降圧剤」であり、主な作用は血圧を下げる作用になります。

ではアバプロはどのような機序で血圧を下げてくれるのでしょうか。

私たちの身体の中には、血圧を上げる仕組みがいくつかあります。その1つに「RAA系」と呼ばれる体内システムがあります(RAA系とは「レニン-アンジオテンシン-アルドステロン」の略です)。

RAA系は本来、血圧が低くなりすぎてしまった時に血圧を上げるシステムです。

腎臓は血液から老廃物を取り出して尿を作る臓器ですが、ここに「傍糸球体装置」というものがあります。傍糸球体装置は腎臓に流れてくる血液が少なくなると「レニン」という物質を放出します。

レニンはアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンⅠという物質に変えるはたらきがあります。

更にアンジオテンシンⅠはACEという酵素によってアンジオテンシンⅡになります(ちなみにこれをブロックするのがACE阻害薬という降圧剤です)。

アンジオテンシンⅡは、血管を収縮させて血圧を上げるはたらきがあります。また副腎という臓器に作用して、アルドステロンというホルモンを分泌させます。

アルドステロンは血液中にナトリウムを増やします(詳しく言うと、尿として捨てる予定だったナトリウムを体内に再吸収します)。血液中のナトリウムが増えると血液の浸透圧が上がるため、ナトリウムにつられて水分も血液中に引き込まれていきます。これにより血液量が増えて血圧も上がるという仕組みです。

通常であればこのRAA系は、血圧が低くなった時だけ作動する仕組みです。しかし血圧が高い状態が持続している方は、このRAA系のスイッチが不良になってしまい、普段からRAA系システムが作動してしまっていることがあります。

アバプロをはじめとしたARBは、アンジオテンシンⅡのはたらきをブロックすることで、RAA系が作動しないようにします。すると血圧を上げる物質が少なくなるため、血圧が下がるというわけです。

 

Ⅱ.臓器保護作用

アバプロには臓器保護作用があります。

具体的には心臓・腎臓や脳に対して、これらの臓器が傷付くのを防いでくれるのです。

心臓が傷んでしまい、十分に機能できなくなる状態を「心不全」と呼びます。高血圧は心不全のリスクになるため、アバプロの強力な降圧作用はそれ自体が心保護作用になります。

またそれ以外にも先ほど説明したRAA系の「アンジオテンシンⅡ」は心臓の筋肉(心筋)の線維化を促進し、これも心臓の力を弱める原因となります。

アバプロはアンジオテンシンⅡのはたらきをブロックしてくれるため、これも心保護作用になります。

実際、アバプロは心筋内層や大動脈のコラーゲン面積・大動脈中膜厚の増加を抑制したり、心臓重量及び左心室壁の断面積の増加を抑制する事が報告されています。ARBは心不全に対しての第一選択薬となっています。

また腎臓に対しても同様です。

腎臓が傷んでしまい、十分に機能できなくなる状態は「腎不全」と呼ばれ、これも高血圧が発症リスクになるため、アバプロの強力な降圧作用はそれ自体が腎保護作用になります。

アンジオテンシンは腎臓の線維化も促進し、これも腎不全の原因になるのですが、アバプロは同様の機序で腎臓の線維化を抑え、腎保護作用を発揮します。

実際、アバプロは腎不全の1つの指標である尿中アルブミン値を減少させることや糖尿病性腎症の発症率を低下させること、腎障害の指標であるCr(クレアチニン)の上昇を抑える事などが報告されています。ARBは、腎不全に対しても第一選択薬となっています。

 

Ⅲ.血糖改善作用

アバプロには血糖値を改善させる作用があります。

その作用は強くはないため単独で糖尿病の治療に用いられる事はありませんが、高血圧に糖尿病を合併しているような場合では1剤で複数の作用を期待できます。

血糖を改善させる作用はアバプロの持つPPARγ(ピーパーガンマ)作用によるものだと考えられています。PPARγとは脂肪細胞に存在する物質で、この物質はアディポネクチンという物質を増やす作用があります。

アディポネクチンには、

  • 血液中の血糖を筋肉などの臓器・組織に取り込む
  • インスリン(血糖を下げるホルモン)の感受性を上げる
  • 炎症を抑える
  • 様々な臓器を保護する

といった様々な作用があります。

血液中の血糖を臓器や組織に取り込むと、血液中の糖分が少なくなるため血糖が下がります。またインスリンは血糖を下げるホルモンですので、その効きを高めれば血糖も下がりやすくなります。

このような機序にてアバプロは血糖値を下げ、糖尿病を改善させてくれます。

試験においても、アバプロ12週間の投与にて糖尿病の指標であるHba1cを有意に低下させた事が報告されています。

 

Ⅳ.尿酸値を下げる作用

ARBの中でのアバプロの特徴の1つとして、尿酸値を下げる作用がある事が挙げられます。

これはARBの中でもアバプロ・イルベタン、ニューロタンにのみ報告されている作用です。イルベタンはアバプロと同じ成分のお薬ですので(発売している会社が違うだけで中身は同じ)、実質2種類のARBにしか認められない作用になります。

アバプロは腎臓にあるURAT1という輸送体をブロックするはたらきがあります。URAT1は尿にある尿酸を体内に再吸収する役割があります。

URAT1がブロックされると、尿酸が再吸収されずにそのまま尿と一緒に排泄される事になり、これによって尿酸値が下がると考えられています。

 

4.アバプロ錠の副作用

アバプロの副作用はどのようなものがあるのでしょうか。またアバプロは安全はお薬なのでしょうか、それとも副作用が多いお薬なのでしょうか。

全体的な印象としてアバプロをはじめとしたARBは安全性が高いお薬です。高血圧の患者さんは多く、ARBを処方する機会も非常に多いのですが、適正に使用していれば重篤な副作用に出会うことはほとんどありません。

アバプロの副作用発生率は約13.0%と報告されています。

生じうる副作用としては、

  • めまい
  • 咳嗽
  • 頭痛
  • 悪心・嘔吐
  • 発疹・掻痒

などがあります。頭痛やめまいはアバプロは血圧を下げてしまうことによって生じる症状です。

また血液検査値の異常の報告もあります。

  • カリウム(K)上昇
  • 肝臓系酵素(AST、ALTなど)の上昇
  • 腎臓系酵素(BUN、クレアチニンなど)の上昇
  • CK(CPK)上昇

などです。

アバプロは「アルドステロン」というホルモンのはたらきを弱めますが、アルドステロンは本来、体内のナトリウムを増やし、その代り体内のカリウムを減らすはたらきがあります(ナトリウムを尿から再吸収し、カリウムを尿に排泄します)。

アバプロはこの作用を止めてしまうため、体内のカリウムが増えすぎてしまうことがあるのです。

そのためARBを長期間副作用されている方は定期的に血液検査などで肝機能、腎機能、電解質(カリウムなど)をチェックしておくことが望ましいでしょう。

また、稀ですが重篤な副作用として

  • 血管浮腫
  • 高カリウム血症
  • ショック、失神、意識消失
  • 腎不全
  • 肝機能障害、黄疸
  • 低血糖
  • 横紋筋融解症

などが報告されています。

また、アバプロは

  • 妊婦または妊娠している可能性のある方
  • ラジレスを投与中の糖尿病の方

は原則服薬することが出来ません。

妊娠中の方が服薬できないのは、妊娠の中期及び末期に他のARBを投与されていた患者さんにおいて胎児・新生児の死亡を含め、新生児に障害が発現したとの報告があるためで、アバプロに限らずARBは全て妊娠中の方は服用できないようになっています。

またラジレスとアバプロ(ARB)は併用すると非致死性脳卒中、腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧のリスク増加が報告されています。

ただしラジレスとの併用に関しては、どうしても他の降圧剤で治療できない高血圧症の方に限り、慎重に用いることは認められています。

 

5.アバプロの用法・用量と剤形

アバプロは、

アバプロ錠 50mg
アバプロ錠 100mg
アバプロ錠 200mg

の3剤形があります。

アバプロの使い方は、

通常、成人には50~100mgを1日1回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日最大投与量は200mgまでとする。

と書かれています。

ちなみにアバプロを服薬してからどれくらいで効果を判定すれば良いのでしょうか。これは明確に決まっているわけではありませんが、通常2週間程度で効果は現れはじめます。しっかりとした効果を判定するには「約1カ月」程度を考えます。

 

6.アバプロ錠が向いている人は

以上から考えて、アバプロが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

アバプロの特徴をおさらいすると、

・心臓・腎臓などの臓器保護作用がある
・1日を通してしっかりと血圧を下げる
・糖尿病を改善させる効果がある
・尿酸値を下げる作用がある

というものでした。

アバプロの最大の売りは、糖尿病の改善(PPARγ作用)、尿酸値の改善(URAT1阻害作用)などの様々な付加的な作用が認められる点です。

そのため、

・糖尿病、高尿酸血症、臓器障害(心不全、腎不全)などの合併症のある方

に良い適応となります。

また、1日を通してしっかりと効きますので、

・夜間や早朝などに血圧が上がってしまいやすい方

にもアバプロはお勧めしやすい降圧剤になります。

通常私たちは夜間早朝は血圧が低くなります。これを「dipper」と呼びます。高血圧になってしまうと夜間血圧が下がらなくなったり(non-dipper)、むしろ上がってしまう(riser)ことがあり、これは脳梗塞や心筋梗塞などの心血管イベントのリスクとされています。

24時間にわたってしっかりと血圧を下げるアバプロはnon-dipperやriserの方にもおすすめしやすい降圧剤になります。