カルブロック錠(一般名:アゼルニジピン)は2003年から発売されている降圧剤(血圧を下げるお薬)になります。降圧剤の中でも「カルシウム拮抗薬」という種類に属します。
カルブロックをはじめとしたカルシウム拮抗薬は、血圧を下げる力が強く、血圧をしっかりと下げたい患者さんに適しています。
高血圧症の患者さんは日本で1000万人以上と言われており、降圧剤は処方される頻度の多いお薬の1つです。
降圧剤にも様々な種類がありますが、その中でカルブロックはどのような特徴を持つお薬で、どのような方に向いているお薬なのでしょうか。
ここではカルブロックの効果や特徴についてみていきましょう。
目次
1.カルブロックの特徴
まずはカルブロックというお薬の全体的な特徴についてみてみましょう。
カルブロックはカルシウム拮抗薬という種類の降圧剤になります。そのため、まずはカルシウム拮抗薬の主な特徴を紹介します。
【カルシウム拮抗薬の特徴】
・ダイレクトに血管に作用するため、血圧を下げる力(降圧力)が確実 |
カルシウム拮抗薬の一番の特徴は、血圧を下げる力が強いというところです。単純に血圧を下げる力だけを見れば、降圧剤の中で一番でしょう。
降圧剤にはカルシウム拮抗薬の他にも、
- ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
- ACE阻害剤(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
- 利尿剤
- α遮断薬
- β遮断薬
などたくさんの種類がありますが、単純に血圧を下げる力だけでみればカルシウム拮抗薬にかなうお薬はありません。
カルシウム拮抗薬は血管を覆っている筋肉(平滑筋)を緩める事で血管を拡張させ、血圧を下げます。血管にダイレクトに作用するため、その降圧力は強力なのです。
またダイレクトに血管に作用するため、その他の部位に作用しにくく、安全性に優れ副作用も多くはありません。
カルシウム拮抗薬は薬価が安いのも大きな特徴です。血圧を下げるコストパフォーマンスという見方をすれば、カルシウム拮抗薬はかなり優れたお薬です。
では次にカルシウム拮抗薬の中でのカルブロックの特徴を紹介します。
【カルシウム拮抗薬の中でのカルブロックの特徴】
・バランスの取れたお薬である |
カルシウム拮抗薬の中のカルブロックの特徴は、良く言えば「バランスが取れている」、悪く言えば「特に特徴がない」というのが特徴になります。
カルブロックは改良を重ねられた第3世代のカルシウム拮抗薬であり、副作用が少なく安全性は高いと言えます。
作用時間もまずまず長く、1日1回の服薬でも1日を通してしっかりと血圧を下げてくれます。血圧を下げる力も他のカルシウム拮抗薬と比べると強くはありませんが弱くもなく、標準的な力があります。
そつのない優等生という印象でしょうか。
カルブロックならではの特徴としては、
- 抗炎症作用
- 腎保護作用
を有することが挙げられます。これはカルブロックがT型のカルシウムチャネルに作用するという特徴を持つためだと考えられています(詳しくは後述します)。
注意点として、カルブロックは他のカルシウム拮抗薬と比べて相互作用するお薬がやや多めです。飲み合わせについては処方医がちゃんと確認してくれますから患者さんが心配する必要はありませんが、若干のデメリットになります。
また腎不全などで腹膜透析をしている方がカルブロックを服薬すると、透析排液が白濁することがあります。知らずに服用してしまうとびっくりしますので事前に知っておく必要があります。
以上からカルブロックの特徴を挙げると次のようになります。
【カルブロックの特徴】
・確実な降圧作用 |
2.カルブロック錠はどんな疾患に用いるのか
カルブロックはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書を見ると、次のように記載されています。
【効能又は効果】
高血圧症
カルブロックは血圧を下げる降圧剤ですから、高血圧症の治療に対して用いられることがほとんどです。
カルブロックはカルシウム拮抗薬に属します。カルシウム拮抗薬は、血管を拡張させることで血圧を下げるため、 血圧を下げたい高血圧症の方にとっては非常に役立ちます。
ただし血圧を下げる力だけを見ると、同系統のアムロジピン(商品名:ノルバスク、アムロジン)の方がやや強い印象はあります(個人差があります)。
またカルブロックは抗炎症作用、腎保護作用が報告されていますので、蛋白尿が出ていたり腎臓に障害のある患者さんに適したカルシウム拮抗薬になります。
注意点としては、腹膜透析の患者さんに用いると排液が白濁することがあります。それ自体に大きな問題があるわけではないのですが、常に排液が白濁してしまうと腹膜炎などになった時に発見が遅れてしまうため、腹膜透析をしている患者さんにはあまり用いられません。
また相互作用するお薬が若干多めであるため、相互作用する薬物も服薬している場合は、服薬量に注意が必要です。
ではカルブロックは高血圧症の患者さんに対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
高血圧症の患者さんに対して、カルブロックを8~16mg服用してもらった調査では、カルブロックの降圧率(血圧が下降した例数)は、
- 軽症から中等症の本態性高血圧症への降圧率は73.7%
- 重症高血圧症への降圧率は86.7%
- 腎障害と伴う高血圧症への降圧率は69.0%
であったと報告されています。
3.カルブロックの作用機序
血圧を下げるはたらきを持つカルブロックですが、どのような機序で血圧を下げているのでしょうか。
ここでは報告されているカルブロックの作用について紹介します。
Ⅰ.血管を拡張させる
カルブロックは降圧剤であり、その主な作用は血圧を下げる事になります。
ではどのような機序で血圧を下げているのでしょうか。
血圧を下げるお薬にはいくつかの種類がありますが、そのうちカルブロックは「カルシウム拮抗薬」という種類に分類されます。カルシウム拮抗薬は、血管を覆っている平滑筋という筋肉に存在しているカルシウムチャネルのはたらきをブロックするのが主なはたらきです。
チャネルという用語が出てきましたが、これはかんたんに言うと様々なイオンが通る穴だと思ってください。つまりカルシウムチャネルは、カルシウムイオンが通ることが出来る穴です。
カルシウムチャネルはカルシウムイオンを通すことにより、筋肉を収縮させるはたらきがあります。血管の周りを覆っている平滑筋が収縮すれば、血管が締め付けられるため血管壁に血液の圧力(血圧)がより強くかかる事になり、血圧は上がります。
これをブロックするのがカルブロックです。カルブロックの作用で、カルシウムイオンが平滑筋細胞内に流入できなくなると、平滑筋が収縮できなくなるため、緩みます。これによって血管が拡張する(広がる)ため、血圧が下がるというわけです。
ちなみにカルシウムチャネルにはL型、T型、N型の3種類があることが報告されています。このうち、血管の平滑筋に存在しているカルシウムチャネルはほとんどがL型です。
L型カルシウムチャネル:主に血管平滑筋・心筋に存在し、カルシウムが流入すると筋肉を収縮させる。ブロックすると血管が拡張し、血圧が下がる
T型カルシウムチャネル:主に心臓の洞結節に存在し、規則正しい心拍を作る。また脳神経にも存在し神経細胞の発火に関係している
N型カルシウムチャネル:主にノルアドレナリンなど興奮性の神経伝達物質を放出する。
カルシウム拮抗薬のほとんどは、L型のカルシウムチャネルをブロックする事で、血圧を下げます。カルブロックも同様にL型のカルシウムチャネルに作用し、血管平滑筋を弛緩させることで血圧を下げます。
またカルブロックはT型のカルシウムチャネルに作用することも報告されています。T型カルシウムチャネルは上記の作用の他、次項で説明する抗炎症作用や腎保護作用につながります。
Ⅱ.抗炎症作用・腎保護作用
カルブロックは血管平滑筋に存在するL型カルシウムチャネルをブロックする事で血圧を下げます。
またそれ以外にもT型カルシウムチャネルをブロックする作用を持ち、これは炎症を抑えたり、腎臓の血管を拡張させることによる腎保護作用につながると考えられています。
4.カルブロックの副作用
カルブロックにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。
カルブロックの副作用発生率は3.5%と報告されています。
生じうる副作用としては、
- 頭痛、頭重
- めまい、ふらつき
- 胃部不快感、悪心
- ほてり、顔面潮紅
- 肝機能障害(AST、ALT上昇)
などが報告されています。
頭痛やめまいはカルブロックによって血圧が下がりすぎる事で生じると考えられ、また顔面潮紅やほてりは、顔面の血管が拡張することで生じる副作用だと考えられます。
動悸はカルブロックがT型のカルシウムチャネルに作用してしまう事で生じると考えられます。
また重篤な副作用として、
- 肝機能障害
- 房室ブロック、洞停止、徐脈
が報告されています。
カルブロックは時に肝臓に負担をかけてしまう事がありますので、服用が長期に渡る方は定期的に血液検査などで肝機能をチェックしておく事が望まれます。
カルブロックを投与してはいけない方(禁忌)としては、
- 妊婦又は妊娠している可能性のある方
- カルブロックの成分に対し過敏症の既往歴のある方
- アゾール系抗真菌剤、コビシスタット含有製剤、オムビタスビル・パリタプレビル・リトナビルを投与中の方
が挙げられています。
動物実験で妊娠末期にカルブロックを投与したところ、妊娠期間や分娩時間が延長することが報告されています。
ヒトにおいても同じ事が生じる可能性を考え、妊娠中の方にはカルブロックの使用は禁忌となっています。
また最後の項目は、カルブロックとこれらのお薬を併用する事によって、これらのお薬の血中濃度が上昇する事が分かっており、そのため併用はしてはいけない事となっています。
5.カルブロックの用法・用量と剤形
カルブロックは、
カルブロック錠 8mg
カルブロック錠 16mg
の2剤形があります。
また、カルブロックの使い方は、
通常、成人には8~16mgを1日1回朝食後経口投与する。なお、1回8mgあるいは更に低用量から投与を開始し、症状により適宜増減するが、1日最大16mgまでとする。
となっています。
6.カルブロックの作用時間
カルブロックは製薬会社より、1日1回の服薬で24時間効果が持続する長時間作用型であると報告されています。しかしこれには個人差があり、人によっては1日を通して効果が持続しない可能性もあります。
お薬の作用時間は、服薬する人の代謝能力などによって異なるため、絶対的な値を出すことは難しいのですが、1つの目安として「半減期」というものがあります。
半減期というのは、お薬を服薬して血中濃度が最大になってから、その血中濃度が半分に落ちるまでにかかる時間のことです。血中濃度が半分まで落ちると、薬効もだいぶ消失してくることが予測されるため、半減期はお薬の作用時間のひとつの目安になります。
カルブロックの半減期は2相性に推移すると報告されています。1相では半減期は1時間前後、2相では半減期は19~23時間前後であり、総合して判断すると降圧効果はギリギリ1日通して続くとも考えられますが、人によっては1日持たないこともあります。
しかし実際の薬効は血中と濃度だけから判断できるものではなく、血中濃度が低くなった状態でも組織には成分がしっかりと存在しているということもあるため、半減期だけで実際の作用時間を導くことはできません。
そのため、基本的にカルブロックは1日1回投与で問題ありませんが、この投与法で1日の血圧に波が出てしまう場合は、主治医と相談して1日2回投与にしたり、半減期の長い降圧剤に変更する必要があります。
7.カルブロックが向いている人は?
以上から考えて、カルブロックが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
カルブロックの特徴をおさらいすると、
【カルブロックの特徴】
・確実な降圧作用 |
というものでした。
これはカルシウム拮抗薬全体にいえることですが、血管の平滑筋にダイレクトに作用するカルシウム拮抗薬は、単純に血圧を下げたい時に有用です。
またカルシウム拮抗薬の中でカルブロックならではの特徴として、抗炎症作用・腎保護作用があります。そのたね、腎障害などを持っている方はカルブロックを服薬することは一石二鳥になるかもしれません。蛋白尿やそれに伴う浮腫(むくみ)なども改善してくれる可能性があります。
腹膜透析をしている方は、あえてカルブロックを選択するメリットは乏しいと思われますので、使用できないわけではありませんが、別のカルシウム拮抗薬を使用する方が無難ではないかと思われます。
そのため、
・血圧をしっかりと下げたい方
・腎障害がある方
・経済的になるべく安価に済ませたい方
などにはカルブロックはお勧めしやすい降圧剤になります。