皮膚にお薬を塗る際、とりわけ慎重になるのが「顔へ塗る時」ではないでしょうか。
顔へ医薬品を塗布するとなると、
「安全な塗り薬なのか」
「顔が荒れたり赤くなったりしないか」
と心配される方は少なくありません。
顔は身体の中でも目立つ部位です。特に女性であれば出来るだけ綺麗な状態を保ちたいと思う部位ですので、もしお薬の副作用によって顔が荒れたり赤く腫れたりしてしまえば、非常に困るわけです。
アズノール(一般名:ジメチルイソプロピルアズレン)は病院で処方される塗り薬で、皮膚を保湿しつつ穏やかに炎症を抑える作用を持ちます。植物由来の成分から成るため安全性が高い点が特徴であり、赤ちゃんからお年寄りにまで幅広く処方されています。
このように安全性の高いアズノールは、顔に塗っても大丈夫なのでしょうか。あるいはアズノールと言えども塗る際は何か注意しなければいけない事があるのでしょうか。
ここではアズノールが顔に安全に使える塗り薬なのかを、アズノールの作用の特徴と顔の皮膚の構造上の特徴を踏まえながら説明させて頂きます。
1.アズノールは顔に安全に使えるお薬なのか
アズノールは顔に安全に使える塗り薬なのでしょうか。
結論から言うとアズノールは、顔に対しても安全に用いる事が出来ます。問題となるような副作用が生じる事もほとんどないと言っても良いでしょう。
アズノールは植物由来の成分から作られています。具体的にはカミツレというキク科の植物に含まれるグアイアズレン(ジメチルイソプロピルアズレン)が元になっています。
天然由来の成分であり皮膚に対する刺激性は極めて低く、顔を含めた全身に安全に用いる事が出来ます。
またアズノールには基剤として「ワセリン」「ラノリン」といった油脂性の成分も含まれていますが、これらも人体に対して安全な成分であり、刺激性はほとんどありません。
もちろんどんな人にも100%安全に使えるお薬とまでは断言できませんが、臨床で処方していて問題になるような副作用が生じるケースはまずないと言っても良いレベルです。
このようにアズノールは「顔に安全に使える塗り薬」だと言って良いのですが、その根拠をより詳しく理解するため、
- 顔の皮膚の構造的な特徴とそこから考えられるお薬を使う際の注意点
- アズノールはどのような作用機序を持つお薬なのか
を紹介していき、その上でアズノールを顔の皮膚に塗っても本当に安全なのかを再度考えていきましょう。
2.顔の皮膚の特徴と塗り薬を塗る際の注意点
私たちにとって顔は、身体の中でも一番傷を残したくない部位です。特に女性にとって顔に傷が残ってしまう事は、非常にショッキングな事です。
実際、顔へ使う外用剤や化粧品には気を使う方が多くいらっしゃいます。高額な化粧水・保湿剤であっても「顔の肌を綺麗にする」と評判のものはよく売れていますね。
顔は私たちの身体の中でも目立つ部位で、周囲から評価の対象ともなりやすい部位ですので、顔の皮膚が良い状態に保たれる事に皆さん気を使うのです。
しかし顔の皮膚に気を使わないといけない理由は、実はそれだけではありません。
実は顔の皮膚の厚さは、手足や体幹の皮膚と比べるととても薄いのです。
皮膚が薄いという事は、刺激に弱いという事であり、またお薬などの成分が浸透していきやすいという事です。
そのため同じお薬を塗ったとしても手足に塗るよりも顔に塗る方が、より多く吸収されてしまいます。
例えば代表的な塗り薬である「ステロイド外用剤」を例にとると、腕に塗った場合と顔に塗った場合では、顔に塗った方がステロイドの吸収量が10倍以上も高くなる事が知られています。
顔は皮膚が薄いため、お薬の成分が簡単に身体の中に浸透してしまうわけです。
成分が浸透しやすいのは、身体に害を与えてしまう物質についても同様です。そのため、何か皮膚にダメージを与える成分が顔に塗られてしまった時、手足であれば大したダメージが生じないものであったとしても、顔であれば大きなダメージが生じてしまう事がありうるのです。
顔は皮膚が薄いため、良くも悪くもお薬の作用(副作用も)が出やすい部位なのです。
このような理由から、顔にお薬を塗る場合、極力作用の穏やかなものを塗るべきで強い作用を持つお薬を塗る事は推奨されていません。先ほど例を挙げたステロイドも同様で、ステロイドはその強さによって5段階に分けられていますが、顔に塗れるのは弱いものか、最大でも中くらいの強さを持つものまでです。
また顔というのは、身体の皮膚の中でも「日光」を浴びやすい部位です。日光は紫外線を含むため、過度に浴びれば皮膚細胞を障害します。
同じ皮膚でも体幹や上腕・大腿などは衣服に覆われている事が多いため、紫外線の影響はあまり受けません。しかし顔は紫外線の影響を強く受けるため、ダメージを受けやすいという特徴もあります。
以上をまとめると、顔の皮膚というのは、
- 他の部位と比べて皮膚が薄い
- 紫外線を浴びやすく、皮膚細胞がダメージを受けやすい
という特徴があります。
このような特徴から、他の部位と比べて作用も副作用も生じやすいため、なるべく作用や副作用が穏やかなお薬を用いる必要があるのです。
3.アズノールはどのようなお薬なのか
次にアズノールがどのような塗り薬なのかをみていきましょう。
アズノールは、穏やかな抗炎症作用と保湿作用を持つ塗り薬で、主に軽度の皮膚の炎症を改善させるために用いられます。
アズノールは植物由来の成分からなるお薬であり、化学的な物質ではなく天然由来の物質であるため安全性に優れる点が特徴です。副作用はほとんどなく、眼球以外の全身に塗布する事が出来ます。
敏感な部位である顔や陰部などにも使えますし、肌の弱い赤ちゃんに用いても問題ありません。
具体的にはカミツレというキク科の植物に含まれるグアイアズレン(ジメチルイソプロピルアズレン)をもとに作られています。
アズノールには、
- 抗炎症作用(炎症を抑える作用)
- 創傷保護作用(傷を保護する作用)
- 抗アレルギー作用(アレルギーを抑える作用)
があります。
抗炎症作用とは炎症を和らげる作用の事です。炎症とは細胞がダメージを受ける事で生じる反応です。炎症が生じると、「発赤(赤くなる)」「腫脹(腫れる)」「熱感(熱くなる)」「疼痛(痛みが生じる)」が引き起こされます。
みなさんも身体をぶつけたり、化膿したりして皮膚がこのような状態になった事があると思います。これが炎症です。
創傷保護作用とは、皮膚にバリアを張る事でアズノールを塗った部位を保護する作用です。これはアズノールの作用というよりはアズノール軟膏に含まれる基剤である「ワセリン」や「ラノリン」の作用になります。
これらは油性の物質であるため、水をはじく性質があります。そのため、皮膚表面に塗れば皮膚から水分が蒸発する事を防いでくれ、保湿が促されます。
更に、皮膚を傷付ける可能性がある水分(尿や便など)から創部を守ってくれるという作用も期待できます。このような作用からアズノールはオムツ内に生じた炎症(臀部や陰部の皮膚トラブル)にもよく用いられています。
アズノールは安全性に優れる点がメリットですが、その分作用は弱めになります。重度の皮膚疾患に対しては力不足であり、使用されるケースはほとんどが軽度の皮膚トラブルになります。
4.アズノールを顔に塗る際に気を付ける事
顔は皮膚が薄く、また紫外線のダメージを受けやすい部位であるため、基本的に刺激性の低い塗り薬を選ぶ必要があります。
そしてアズノールという塗り薬は植物由来の成分からなる安全性の高い塗り薬になります。
以上から考えると、アズノールは顔に塗っても全く問題がない塗り薬です。むしろ刺激性の低いアズノールは「顔に塗るのに適している塗り薬」と言っても良いでしょう。
そのため必要な時に顔に塗って問題ないのですが、更にいくつかの注意点を知っていると、より安全にアズノールを顔に用いる事が出来るようになります。
最後にアズノールを顔に塗る際に気を付ける事を紹介します。
Ⅰ.相性を見るため、まずは少量を顔以外に塗ってみよう
基本的にアズノールは刺激性が低く、身体のどの部位に塗っても問題のない塗り薬です。
とは言ってもお薬である以上、体質的に合わない方もいらっしゃり、顔に塗ってしまうと、塗った部位が赤くなってしまったりかゆくなってしまう事もあるかもしれません。
臨床的にはほとんど経験しない事ですがあり得ない事ではないため、このような心配がある方は、まずは少量のアズノールのお腹や腕などの目立たない部位に塗って様子を見てみましょう。
体質的に合わない場合は、顔に限らず他の部位に塗っても、赤みが出たりかゆみが出てしまうものです。
そのような症状が出てしまった場合は、顔に塗るのも避けた方が良いでしょう。顔に塗った場合、お腹や腕よりもより強い症状が出てしまう可能性があります。
Ⅱ.使用期限に注意
以前に処方してもらった塗り薬を、「また使うかもしれないから」とそのまま保管している方って多いと思います。
しかし、お薬には適正な使用期限があります。数年前に処方されたお薬だと使用期限が切れているものもあるため、久々に使う場合には注意しなければいけません。
長期間経過しているお薬は成分が変性しており、それによって皮膚への刺激性が高まってしまっているものもあります。
ではアズノールの使用期限はどのくらいなのでしょうか。
これは保存状態によっても異なってきますので一概に答えることはできませんが、販売会社によれば「3年」となっています。また、アズノール軟膏の時間による経過を追っていったところ、3年6か月までは規格の濃度以上を保っていたという報告もありますので、これもひとつの目安にはなります。
なおアズノールは基本的には室温・遮光で保存するものですので、この状態で保存していたのであれば「3年」は持つと考えることができます。反対に光などを浴びると徐々に成分が分解されることが分かっているため、暑い場所や光を浴びる場所で保存していた場合は、3年未満でも効能が失われている可能性があります。
また上記は未開封の場合を想定されている事にも注意が必要です。開封した場合はこれより短くなります。
開封したアズノールの使用期限は明記はされていませんが、一度開けたらおおよそ1~2か月程度で使い切った方が良いでしょう。
顔は皮膚がとても薄いため、お薬の成分が変性していた場合、ダメージが生じやすくなりますのでとりわけ気を付けるようにしましょう。