アズノールであせもは治るの?医師が教えるあせもに最適な塗り薬とは

「あせも」は、赤ちゃんから老人まで幅広い年代の方に生じ、日常的にもよく遭遇する皮膚疾患の1つです。

日常的に見かける疾患ですので、その治療も「持っている適当な軟膏を塗っておけばいいだろう」と安易に考えられがちですが、治療に適した塗り薬もあれば適していない塗り薬もあります。

あせも自体は重篤化する事は稀ですが、かゆみによって皮膚を掻きむしってしまったりすれば、二次的に湿疹が悪化したり化膿してしまう事もあります。

塗り薬の中で「アズノール(一般名:ジメチルイソプロピルアズレン)」は穏やかで安全な作用を持つお薬であるため、病院からよく処方されるお薬の1つです。あせもに用いている方もいらっしゃるでしょう。

ではアズノールはあせもに対して効果的な塗り薬なのでしょうか。また、あせもに最適な塗り薬というのはどのような作用を持つものなのでしょうか。

ここではアズノールがあせもに適した塗り薬なのかどうかを、あせもの発症機序とアズノールの作用機序の視点から説明させていただきます。

 

1.アズノールはあせもに有効なのか

アズノールは、あせもに対して有効な塗り薬なのでしょうか。

結論から言ってしまうと「有効な塗り薬ではあるが、適さない場合もある」というのが答えになります。

総合的に考えれば、アズノールはあせもに有効だと考えて良いでしょう。

しかしアズノールの特徴を考えると、状況によってはかえってあせもを悪化させてしまう事もあります。そのためアズノールの特徴をよく理解した上で、現在生じているあせもに有効なのかを判断しないといけません。

では具体的にアズノールは、どのような作用があせもに効果を期待でき、どのような作用があせもを悪化させる可能性があるのでしょうか。

その答えを知るためには、

  • あせもはどのような機序で生じる疾患なのか
  • アズノールがどのように効くお薬なのか

を理解する必要があります。

これらについて、出来るだけ分かりやすく説明していきたいと思います。

 

2.あせもはどのような疾患なのか

あせもはどのような疾患なのでしょうか。

あせもは専門的には「汗疹(かんしん)」という疾患になります。

汗疹は、本来は皮膚の表面に分泌される「汗」が、皮膚の中に分泌されてしまう疾患です。これによって皮膚に小さな水疱や湿疹が出来てしまいます。

通常、汗は「汗腺」という部位で作られ、「汗管」という管を通って、「汗孔」という皮膚の表面に空いている穴から分泌されます。水分は蒸発する際に周囲の熱を奪う性質がありますので、汗には体温を下げる役割があります。これを「気化熱」と呼びますが、汗は気化熱によって上昇した体温を下げてくれるのです。

体温が高くなりすぎると、その体温を下げるため汗がたくさん分泌されます。

この時、汗の量があまりに多いと汗の流れが悪くなってしまい、一部の汗が皮膚の表面ではなく表皮の中に分泌されてしまう事があるのです。これによって生じる小さな水疱が「汗疹」です。

表皮の中に汗が分泌されてしまうと、汗は周囲の組織を圧迫します。これが少量であれば特に大きな症状は生じないのですが、ある程度の量が表皮内に分泌されてしまうと周囲の組織を圧迫してダメージを与えてしまうため皮膚に炎症が生じます。これによって皮膚に発赤やかゆみが引き起こされます。

汗疹は、皮膚のどの層に汗が漏れるかによって、

  • 水晶様汗疹(汗が表皮の角質層に漏れる)
  • 紅色汗疹(汗が表皮の有棘層に漏れる)
  • 深在性汗疹(汗が表皮と真皮の境界部に漏れる)

の3つに分ける事ができます。

このうち、みなさんが「あせも」と呼んでいるものは主に「紅色汗疹」になります。

 

3.アズノールはどのようなお薬なのか

次にアズノールがどのような作用を持つ塗り薬なのかを説明させていただきます。

アズノールは、穏やかな抗炎症作用と保湿作用を持つ塗り薬で、主に軽度の皮膚の炎症を改善させるために用いられます。

アズノールは植物由来の成分からなるお薬であり、化学的な物質ではなく天然の物質であるため安全性に優れる点が特徴です。副作用はほとんどなく、眼球以外の全身に塗布する事が出来ます。

敏感な部位である顔や陰部などにも使えますし、肌の弱い赤ちゃんに用いても問題ありません。

具体的にはカミツレというキク科の植物に含まれるグアイアズレン(ジメチルイソプロピルアズレン)が原料となっています。

アズノールには、

  • 抗炎症作用(炎症を抑える作用)
  • 創傷保護作用(傷を保護する作用)
  • 抗アレルギー作用(アレルギーを抑える作用)

があります。

抗炎症作用とは炎症を和らげる作用の事です。炎症とは細胞がダメージを受ける事で生じる反応です。炎症が生じると、「発赤(赤くなる)」「腫脹(腫れる)」「熱感(熱くなる)」「疼痛(痛みが生じる)」が引き起こされます。

みなさんも身体をぶつけたり、化膿したりして皮膚がこのような状態になった事があると思います。これが炎症です。

創傷保護作用とは、皮膚にバリアを張る事でアズノールを塗った部位を保護する作用です。これはアズノールの作用というよりはアズノール軟膏に含まれる基剤である「ワセリン」や「ラノリン」の作用になります。

これらは油性の物質であるため、水をはじく性質があります。そのため、皮膚表面に塗れば皮膚から水分が蒸発する事を防いでくれ、保湿が促されます。

更に、皮膚を傷付ける可能性がある水分(尿や便などでから創部を守ってくれるという作用も期待できます。このような作用からアズノールはオムツ内に生じた炎症(臀部や陰部の皮膚トラブル)によく用いられます。

アズノールは安全性に優れる点がメリットですが、その分作用は弱めです。重度の皮膚疾患に対しては力不足であり、使用されるケースはほとんどが軽度の皮膚トラブルになります。

アズノールのこの作用機序を理解すると、アズノールがあせもに適したお薬なのかどうかが見えてきます。

 

4.あせもに対するアズノールの相性は?

以上を踏まえた上でアズノールをあせも(汗疹)に使ったらどうなるかを考えてみましょう。

汗疹(紅色汗疹)は、本来であれば皮膚表面に分泌されるべき汗が、表皮の中に漏れ出てしまっている状態です。

汗は身体にとって異物ではないため、汗自体が身体に悪さをする事はありません。しかし本来分泌されるべき部位でないところに分泌されてしまうため、汗疹は周囲の組織を圧迫していきます。

圧迫が強くなれば皮膚細胞はダメージを受けるため、これによって炎症が生じます。炎症が生じるとその部位の皮膚が発赤したり、周囲の神経を巻き込んでかゆみを引き起こしたりします。

この時、アズノールを塗るとどうなるでしょうか。

アズノールには穏やかに炎症を抑える作用がありますので、炎症によって生じた発赤やかゆみを和らげる作用が期待できます。またあせもは軽度の皮膚症状にとどまる事が多いため、作用が穏やかで安全性に優れるアズノールはあせもに適している塗り薬だと言えます。

しかし問題点もあります。それはアズノールの保湿作用です。本来、保湿作用は身体にとって良いものです。皮膚は潤わせる事でその活性が高まるためです。

しかしあせもは、本来であれば皮膚表面に分泌されるべき汗が表皮内に漏れ出てしまう疾患です。この状態を治すためには皮膚表面に汗が分泌されやすいようにしてあげる必要があります。

具体的には、

  • こまめに身体を洗って汗管をふさいでしまっている皮脂を取り除いてあげる
  • 入浴して身体を温める事で汗管を開いて汗の通りを良くする
  • 室温を涼しくして汗の分泌量を減らす

などがあせもの基本的な治療になります。

アズノールは前述の通り、ラノリンやワセリンによって皮膚の水分が蒸発しないように閉じ込める作用があります。これは保湿作用となりますが、一方で汗管を脂で塞いでしまうという事にもなります。

汗管の通りが悪くなってしまうと出口を失った汗は、皮膚に漏れ出てしまい、あせもは悪化しやすくなります。

そのためアズノールで皮膚を覆ってしまうとかえってあせもが悪化してしまうリスクもあるのです。

ただし実際にあせもの患者さんにアズノールを使うと、総合的に見れば「まずまず効果がある」事が多いため、アズノールはあせもに向かないお薬ではありません。炎症を抑える作用を持つアズノールは基本的にはあせもに有効なお薬だと考えてよいでしょう。

ただしこのように汗管をふさいでしまうリスクもあるため、アズノールを塗っても改善が乏しいようであれば別の治療法を考えた方が良い事もあります。

特に元々皮脂が多く、汗管が詰まりやすくてあせもが生じているような方は、アズノールのような保湿力の高い塗り薬はあまり向かない事もあるのです。

 

5.アズノールであせもが改善しない場合は?

ではアズノールであせもの改善が得られない場合はどうしたら良いのでしょうか。

あせもは、汗が皮膚の中に分泌されてしまう事で炎症が生じている状態ですので、

  • 汗の量を低下させる事
  • 炎症を抑える事

という治療法が適切だと考えられます。

汗の量を低下させるには、高温多湿の環境を避けるような室温調整・衣服の調整などが挙げられます。

また定期的な入浴によって清潔を保つ事も大切です。入浴は汗管を拡張させる事で汗の通りを良くしますので、そういった意味でもあせもの改善に効果が期待できます。

炎症を抑えるにはアズノールも有効ですが、アズノールより炎症を抑える作用が優れているお薬としてステロイドの塗り薬があります。

ただし汗疹に伴う炎症が悪化して、細菌感染などを併発してしまった際にはステロイドは用いてはいけません。ステロイドは免疫を抑える作用があるためばい菌と闘う力を低下させてしまうからです。このような場合は、抗菌剤の外用剤などを用いる必要があります。

またステロイドでもワセリンを含むような「軟膏」は、アズノールのように汗管をふさいでしまうリスクがありますので、出来れば「クリーム剤」や「ローション剤」といった油性成分の少ない剤型が好ましいでしょう。

また他にも「ウレパール」「ケラチナミン」といった尿素製剤の塗り薬も有効です。

尿素は皮膚の古い角質を溶かす作用があります。古い角質が汗管をふさいでしまってあせもが生じている事もありますので、尿素の角質溶解作用は汗の通り道を詰まりにくくする作用が期待できるためです。