アズノール軟膏(一般名:アズレン)は、1958年から発売されている外用剤(塗り薬)です。
穏やかに炎症を抑え、傷の治りを早める作用を持つお薬で、皮膚に生じた軽度の炎症や傷・潰瘍の治療などに用いられています。
アズノールには強力な作用はないものの、安全性に非常に優れるという利点があります。目以外であれば身体のどこに塗っても大丈夫であり、皮膚が薄くて敏感な赤ちゃんにも安全に用いる事ができます。
このような特徴から、アズノールは「痔」に対して処方される事もあります。
アズノールの適応疾患には「痔」とは書かれていませんが、果たして痔に対してアズノールは効果があるのでしょうか。またその際に注意すべき点はあるのでしょうか。
ここではアズノール軟膏を痔に用いる際の有効性や注意点などを紹介させていただきます。
1.アズノール軟膏は痔に対して有効なのか
アズノール軟膏は、痔に対して有効なのでしょうか。
結論から言ってしまうと、「軽症の痔であれば有効である」というのが答えになります。
痔というのは「肛門の周囲に生じた疾患」を総称した用語になり、
- 痔核(いわゆる「いぼ痔」)
- 裂肛(いわゆる「きれ痔」)
などがあります。
いずれも肛門周囲の皮膚や粘膜が障害され、表皮や粘膜上皮に炎症が生じている状態です。
アズノールには炎症を抑える作用があります。また創部を保護する事で障害された表皮細胞・粘膜上皮細胞の治りを早める作用もあります。そして植物由来の安全な成分ですので肛門内に塗布しても身体に害をきたすものではありません。
このような機序から、アズノールは痔の治癒を早める作用が期待でき、また肛門であっても安全に用いる事が出来るのです。
またアズノールの添付文書を見ると適応疾患として、
【効能又は効果】
湿疹
熱傷・その他の疾患によるびらん及び潰瘍
と書かれています。
ここに「痔」という疾患名は記載されていませんが、痔のいうのは肛門粘膜周辺に生じた皮膚のびらんや潰瘍だと考える事が出来ます。
そのため保険適応上も痔に対してアズノールを用いて問題ないのです。
2.アズノールの作用
アズノールは痔に対して有効であるという事が分かりました。
ではここからはより詳しく、「なぜアズノールが痔に有効なのか」を医学的に考えていきましょう。
そのためにはまず、アズノールがどのような作用を持つお薬なのかを知らなくてはいけません。
アズノールは植物由来の成分からなるお薬です。そのため効果は穏やかで安全性に優れる塗り薬になります。
古来からヨーロッパでは、カミツレ(カモミール)というキク科の植物の頭花には傷を治す作用がある事が知られていました。1900年台に入ると研究者によって、これはカミツレに含まれる「アズレン」という成分が炎症を抑える作用を持つために得られている作用だという事が発見されました。
アズノールはこの「アズレン」の類縁体である「グアイアズレン」が主成分になります。アズレンと同じく炎症を抑えて傷の治癒を早める作用があります。またアズレンと同じく安全性にも優れます。
アズノールの具体的な作用機序としては、炎症を引き起こす原因になる白血球が創部に過度に遊走してくるのを抑えるはたらきがあります。また炎症を引き起こすアレルギー性細胞のはたらきも抑える作用を持ち、これらの作用によって穏やかに炎症を抑えてくれるのです。
また保湿性の高い基剤を配合している事によって創部を物理的に保護してくれる作用も期待できます。
これらの作用によってアズノールは皮膚や粘膜に生じた炎症を抑え、傷の治りを早めてくれるのです。
3.痔とはどのような疾患なのか
次に「痔」というのはどのような疾患なのかを見ていきましょう。
痔(Hemorrhoids)は「肛門の周囲に生じた疾患」の総称で、
- 痔核(いわゆる「いぼ痔」)
- 裂肛(いわゆる「きれ痔」)
などがあります。
実は私たち人間は、肛門に圧力がかかりやすく痔になりやすい生物なのです。
その理由はいくつかあるのですが、1つは他の多くの動物と違い私たちは二足歩行で生活しており、頭部の位置に比べてお尻(肛門)の位置が低い事が挙げられます。
肛門の位置が低いという事は、重力に従って肛門側に血液が溜まりやすいという事です。そして肛門に溜まった血液を体幹や頭部に押し返すには強い圧力をかけなくてはいけません。すると肛門周辺の血管は腫れやすくなります。
また私たちは「座る」という動作をします。一日の大半を座って過ごしている人も多いと思いますが、実はこの「座る」という行為も肛門に負担をかける行為なのです。座れば肛門付近が圧迫されるため血流が障害されやすいのです。
このような理由から私たち人間は肛門周辺に疾患を発症しやすく、それらをまとめて「痔」と呼んでいます。
代表的な痔について簡単に説明します。
Ⅰ.痔核
痔核(いぼ痔)というのは、肛門周辺の血管に負荷がかかりすぎて、その部位に腫れが生じる事です。同部に炎症が生じる他、血管が障害されて肛門周辺から出血する事もあります。
Ⅱ.裂肛
裂肛(きれ痔)というのは、文字通り肛門の粘膜が切れてしまう事です。硬い便が粘膜を傷付けて発症する事が多く、便秘が原因になります。
4.痔にアズノールを用いる際の注意点
ここまで痔に対してアズノール軟膏の効果についてみてきました。
痔では肛門周囲に炎症が生じており、皮膚や肛門の粘膜上皮が荒れてしまっています。ここにアズノールを塗布すれば、炎症を抑えられる他、皮膚・粘膜上皮の治りもうながすため、効果はあると考える事が出来ます。
では痔にアズノールの塗布を検討する場合、どのような事に注意すればよいでしょうか。
Ⅰ.基本的には軽症の痔に用いる
アズノールは良くも悪くも、穏やかなお薬です。
副作用もほとんどありませんが、炎症を抑える作用も「穏やか」です。そのため、重度の炎症には適しておらず、あくまでも軽症の疾患が適応となります。
痔においても同じで、アズノールは基本的には軽症の痔に用いるべきです。
炎症がかなり強い場合は、他の痔の治療薬(ステロイドなど)の方が適している事もあります。
Ⅱ.塗布時に不潔にならないよう注意
痔の治療薬は肛門周辺に塗るため、処置のしかたによっては軟膏が入っているチューブなどを不潔にしてしまう事があります。
例えば軟膏をチューブから指に出して、その指で肛門に塗布するような場合、そのまま肛門を触った指でチューブを触ってしまうと、チューブ内のアズノールも汚染されてしまい、これはあまりよくありません。
痔専用のお薬というのは、このような事が起こらないように、坐薬や一回使い切りタイプの軟膏になっていたりと不潔にならない工夫がされている事も多いのですが、アズノールは痔にのみ用いるお薬ではありませんので、そのような工夫はされていません。
そのため痔にアズノールを用いる場合は、不潔にならないよう処置のやり方を正しく行う事が大切です。
Ⅲ.生活習慣の改善も忘れずに
痔に対してアズノールをはじめとしたお薬はもちろん有効です。
しかしお薬を使う前に、痔を引き起こしやすい生活習慣になっていないかを見直し、思い当たる原因がある際はその生活習慣の改善も合わせて行う事も重要です。
例えば、痔を悪化させる生活習慣として、
- 喫煙
- 過度のアルコール
- 刺激物の摂取
- 長時間の座位
- ストレス
- 便秘・下痢
などが挙げられます。
思い当たる生活習慣がある方は、ただアズノールを塗布するだけでなく生活習慣の改善も合わせて行うようにしましょう。