バキソカプセル(一般名:ピロキシカム)は1982年から発売されているお薬で、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)という種類に属します。
「非ステロイド性消炎鎮痛剤」とは、いわゆる「痛み止め」「熱さまし」のお薬のことです。ステロイドでないお薬で、炎症を和らげる事で痛みや発熱を抑えるはたらきを持つものを非ステロイド性消炎鎮痛剤と呼びます。
NSAIDsにはたくさんの種類があります。どれも大きな違いはありませんが、細かい特徴や作用には違いがあり、医師は痛みの程度や性状に応じて、その患者さんに一番合いそうな痛み止めを処方しています。
NSAIDsの中でバキソはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここでは、バキソの特徴や効果、副作用などを紹介していきます。
1.バキソの特徴
まずはバキソカプセルがどのような特徴を持つお薬なのかを簡単に紹介します。
バキソは炎症を抑える事で熱を下げたり(解熱)、痛みを和らげる(鎮痛)はたらきがあります。作用時間が長く1日1回の投与で良いのが利点ですが、胃腸障害の副作用が多いのが欠点です。
バキソはNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)と呼ばれるお薬で、炎症を抑える作用(消炎作用)を持つお薬です。炎症が抑えられると熱が下がったり痛みが和らいだりするため、バキソは解熱(熱を下げる)、鎮痛(痛みを鎮める)ために用いられます。
バキソはNSAIDsの中でも「オキシカム系」という種類に属し、解熱・鎮痛作用の強さは「やや強め」になります(お薬の効きは個人差があるためあくまでも目安です)。
NSAIDsの中でのバキソの特徴は、
- 作用時間が長く1日1回の服用で効果が持続する
- 胃腸障害の副作用が他のNSAIDsよりも多い
という点が挙げられます。
多くのNSAIDsが1日複数回服用しないと1日を通して効果を持続できないのに対して、バキソは1日1回服用するだけで1日中効果が持続します。バキソの半減期(お薬の血中濃度が半分に落ちるまでにかかる時間)は約36時間であり、これはNSAIDsの中でもかなり長い部類になります。
またほとんどのNSAIDsは副作用として胃腸を痛めてしまうリスクがありますが、バキソは効果が強めである分、胃腸への負担も大きく、他のNSAIDsよりも一層胃腸障害には注意が必要になります。実際、欧州医薬品庁(EMA)は、バキソの胃腸障害の発現率が高さを指摘し、この理由からバキソを使うのは他のNSAIDsでは効果が不十分と考えられるケースのみに限るべきだと提言しています。
またバキソをはじめとしたNSAIDsは喘息を誘発しやすくすることが知られており、喘息の方にはできるだけ服用しない方が良いでしょう。
以上からバキソの特徴として次のような点が挙げられます。
【バキソカプセルの特徴】
・鎮痛作用(痛みを抑える作用)、解熱作用(熱を下げる作用)はやや強め
・作用時間が長く1日1回の服用で1日中効果が持続する
・副作用の胃腸障害に注意(他のNSAIDsより多い)
・喘息の方は使用に注意(他のNSAIDsと同様)
2.バキソはどのような疾患に用いるのか
バキソはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
下記疾患並びに症状の消炎、鎮痛
関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群
バキソは消炎鎮痛剤ですから、炎症によって生じる症状を抑えるために用いられます。
炎症が抑えられると、熱を下がり(解熱)、痛みが和らぐ(鎮痛)ため、NSAIDsは痛みがある疾患や発熱を来たす疾患に用いられるお薬になります。
このうち、バキソは主に痛みを抑える作用についての調査が行われているお薬であるため、主に痛みを来たす疾患に対しての適応を持っています(発熱をきたす疾患に対しても薬理上は効果がありますが、調査が詳しく行われていないため保険的な適応はありません)。
適応疾患には難しい病名がたくさん書かれていますが、おおまかな理解としては「痛みを来たす状態に対して、その症状の緩和に用いる」という認識で良いでしょう。
関節リウマチは自己免疫性疾患の1つです。自己免疫性疾患とは、本来であれば外部から侵入してきた有害な異物(ばい菌など)を攻撃するはずの免疫システムが誤作動してしまい、自分の身体を攻撃してしまう疾患です。
関節リウマチでは、関節を免疫システムが攻撃してしまう事により関節の炎症が生じ、関節が痛むようになります。
変形性関節症は加齢などにより関節がすり減ったり変形したりしてしまい、それにより関節に痛みが生じる疾患です。
肩関節周囲炎はいわゆる「五十肩」の事で、主に中高齢者に生じる肩の炎症です。
頸肩腕症候群は首・肩・腕の痛みを生じる病態のうち、検査で明らかな異常が認められないものの事です。主に長時間の事務作業やストレスなどが原因になります。
バキソの有効率(中等度以上に改善した率)は、
- 関節リウマチへの有効率は42.6%
- 変形性膝関節症への有効率は57.6%
- 腰痛症への有効率は71.4%
- 肩関節周囲炎への有効率は44.4%
- 頸肩腕症候群への有効率は57.0%
と報告されています。
ただし上記疾患にバキソが有効なのは間違いありませんが、バキソを始めとするNSAIDsは根本を治す治療ではなく、あくまでも対症療法に過ぎないことを忘れてはいけません。
対症療法とは「症状だけを抑えている治療法」で根本を治しているわけではない「その場しのぎの」治療です。
例えば腰の筋力低下によって腰痛が出現している方に対してバキソを投与すれば、確かに痛みは軽減します。しかしこれは原因である腰部の筋肉低下を治しているわけではなく、あくまでも発痛を起こしにくくしているだけに過ぎません。
対症療法が悪い治療法だということではありませんが、対症療法だけで終わってしまうのは良い治療とは言えません。対症療法と合わせて、根本を治すような治療も併用することが大切です。
例えば先ほどの腰痛であれば、バキソを使用しつつも、
- 適度な運動・リハビリをする
- 栄養をしっかり取る
などの根本的な治療法も併せて行う必要があるでしょう。
3.バキソにはどのような作用があるのか
主に「痛み止め」として使われているバキソですが、どのような機序によって鎮痛作用を発揮しているのでしょうか。
バキソは「非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)」という種類に属しますが、NSAIDsの作用はその名のとおり消炎(炎症を抑える)によって鎮痛する(痛みを抑える)事になります。
炎症とは、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
の4つの徴候を生じる状態のことで、感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
みなさんも身体をぶつけたり、ばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあると思います。これが炎症です。
バキソは炎症の原因が何であれ、炎症そのものを抑える作用を持ちます。つまり、発赤・熱感・腫脹・疼痛を和らげてくれるという事です。
具体的にどのように作用するのかというと、バキソなどのNSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)という物質のはたらきをブロックするはたらきがあります。
COXは、プロスタグランジン(PG)が作られる時に必要な物質であるため、COXがブロックされるとプロスタグランジンが作られにくくなります。
プロスタグランジンは炎症や痛み、発熱を誘発する物質です。そのため、バキソがCOXをブロックすると炎症や痛み、発熱が生じにくくなるのです。
バキソはCOXのはたらきをブロックする事で炎症を抑え、これにより
- 熱を下げる
- 痛みを抑える
といった効果が期待できます。そのためバキソのようなお薬を「COX阻害薬」と呼ぶ事もあります。
ちなみにCOXにはCOX1とCOX2の2種類があります。両者の違いは、生理機能(胃粘液分泌など正常時に行われている活動)に主に関係するのがCOX1で、炎症に主に関係しているのがCOX2になります。。
バキソは「非選択的COX阻害薬」と呼ばれ、COX1にもCOX2にもどちらにも作用してしまいます。そのため効果は強めである一方で胃腸への負担も大きく、他のNSAIDsと比べても胃腸障害の副作用が多いお薬になっていると考えられています。
4.バキソの副作用
バキソの副作用にはどのようなものがあるのでしょうか。また副作用はどのくらい多いのでしょうか。
バキソの副作用発生率は3.88%と報告されております。
主な副作用としては、
- 胃・腹部痛
- 胃・腹部不快感
- 浮腫
- 嘔気(悪心)、嘔吐
- 発疹
- 食欲不振
- 胃もたれ感
などががあります。
バキソをはじめとしたNSAIDsには共通する副作用があります。
もっとも注意すべきなのが「胃腸系の障害」です。これはNSAIDsがプロスタグランジンの生成を抑制するために生じます。
プロスタグランジンは胃粘膜を保護するはたらきを持っており、実際にプロスタグランジンを誘導するようなお薬は胃薬として用いられています。そのため、NSAIDsによってこれが抑制されると胃腸が荒れやすくなってしまうのです。
腹部不快感や胃痛・腹痛などをはじめとして、胃炎や胃潰瘍などになってしまうこともあります。このため、NSAIDsは漫然と長期間使用し続けないことが推奨されています。
バキソは特に胃腸系の副作用が生じやすいお薬であるため、一層の注意が必要です。必要な期間、必要な量のみ使い、漫然と使い続けないようにしましょう。
頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- 消化性潰瘍(穿孔を伴うことがある)、吐血,下血等の胃腸出血
- ショック、アナフィラキシー様症状(蕁麻疹、潮紅、血管浮腫、呼吸困難など)
- 中毒性表皮壊死症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)
- 再生不良性貧血、骨髄機能抑制
- 急性腎不全、ネフローゼ症候群
- AST、ALTの上昇等を伴う肝機能障害、黄疸
が報告されています。
重篤な副作用は稀ではあるものの絶対に生じないわけではありません。バキソの服薬がやむを得ず長期にわたっている方は定期的に血液検査にて肝機能・腎機能などのチェックを行う必要があります。
また、バキソは次のような方には禁忌(絶対に使ってはダメ)となっていますので注意しましょう。
1.ノービア(リトナビル)を投与中の方
2.消化性潰瘍のある方
3.重篤な血液の異常のある方
4.重篤な肝障害のある方
5.重篤な腎障害のある方
6.重篤な心機能不全のある方
7.重篤な高血圧症の方
8.妊娠末期の方
9.バキソに対して過敏症の既往歴のある方
10.アスピリン喘息の方
ノービア(一般名:リトナビル)はHIVウイルス治療薬です。ノービアとバキソを併用するとバキソの血中濃度が顕著に上昇してしまい、副作用が生じやすくなってしまうため両者を併用する事は出来ません。
胃を荒らす可能性のあるお薬ですので、胃腸に潰瘍がある方はそれを更に増悪させる可能性があり用いてはいけません。
また心臓、肝臓、腎臓といった臓器にダメージを与える可能性がありますので、これらの臓器に重篤な機能不全がある場合もバキソは用いてはいけません。
また動物実験においてバキソを妊娠中に投与すると、胎児の動脈管収縮や分娩遅延が生じる可能性がある事が報告されています。ヒトにおいても同様の副作用が生じる可能性はあり、ここから妊婦さんに使用する事はできません。
5.バキソの用法・用量と剤形
バキソは次の2剤型が発売されています。
バキソカプセル 10mg
バキソカプセル 20mg
バキソの使い方は、
通常、成人には20mgを1日1回食後に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜減量する。
と書かれています。
バキソは作用時間が非常に長いため、1日1回の投与で効果が持続します。半減期(お薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間で、作用時間の1つの目安になる値)は約36時間であり、NSAIDsの中でも最長クラスのお薬になります。
またバキソを初めとしたNSAIDsは空腹時に投与すると、胃腸へのダメージが更に生じやすくなるため、なるべく食後に服用するようにしましょう。
6.バキソが向いている人は?
バキソはどのような方に向いているお薬なのでしょうか。
バキソの特徴をおさらいすると、
・鎮痛作用(痛みを抑える作用)、解熱作用(熱を下げる作用)はやや強め
・作用時間が長く1日1回の服用で1日中効果が持続する
・副作用の胃腸障害に注意(他のNSAIDsより多い)
・喘息の方は使用に注意(他のNSAIDsと同様)
といった特徴がありました。
基本的にNSAIDsはどれも大きな差はないため、処方する医師が使い慣れているものを処方する傾向があります。
バキソはNSAIDsの中でも胃腸障害が生じやすい事が指摘されているお薬ですので、現在ではあまり用いられるお薬ではありません。お薬は安全性の高いものから使用する事が基本だがらです。
しかし作用が強めである事、作用時間が長い事から、
- 痛みの程度が強く、他のNSAIDsでは効果不十分の方
- 一日を通して慢性的に痛みが続いている方
には向いているお薬になります。
このようなケースでは、副作用の胃腸障害に特に注意しながらバキソを慎重に使用する事もあります。