ベクラシン軟膏の効果と副作用【外用ステロイド薬】

ベクラシン軟膏・ベクラシンクリーム(一般名:ベクロメタゾンプロピオン酸エステル)は、1972年に発売された「プロパデルム」というお薬のジェネリック医薬品であり、外用ステロイド剤になります。

外用ステロイド剤とは、皮膚に塗るタイプ(塗り薬)のステロイド剤の事で、皮膚の炎症を抑えたり、厚くなった皮膚を薄くする作用などを持ちます。

塗り薬は飲み薬のようにお薬の成分が全身に回らないため、効かせたい部位にのみしっかりと効き、それ以外の部位にほとんど作用しないため安全性に優れます。

塗り薬はたくさんの種類があるため、それぞれがどのような特徴を持つのか一般の方にとっては分かりにくいものです。

ベクラシンはどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここではベクラシンの特徴や効果・効能、副作用についてみてみましょう。

 

1.ベクラシンの特徴

まずはベクラシンの特徴をざっくりと紹介します。

ベクラシンは皮膚に塗る外用ステロイド薬であり、皮膚の炎症を抑えてくれます。外用ステロイド薬の中での強さは「強い」(5段階中3番目)になります。

ステロイド外用剤(塗り薬)の主なはたらきとしては次の3つが挙げられます。

  • 免疫反応を抑える
  • 炎症反応を抑える
  • 皮膚細胞の増殖を抑える

ステロイドは免疫反応(身体がばい菌などの異物と闘う反応)を抑える事で、塗った部位の炎症反応を抑える作用があります。これにより湿疹や皮膚炎を改善させたり、アレルギー症状を和らげたりします。

また皮膚細胞の増殖を抑えるはたらきがあり、これによって厚くなった皮膚を薄くする作用も期待できます。

ベクラシンもステロイド外用剤の1つですが、外用ステロイド剤は強さによって5段階に分かれています。

【分類】 【強さ】 【商品名】
Ⅰ群 最も強力(Strongest) デルモベート、ダイアコートなど
Ⅱ群 非常に強力(Very Strong) アンテベート、ネリゾナ、マイザーなど
Ⅲ群 強力(Strong) ボアラ、リンデロンV、リドメックスなど
Ⅳ群 中等度(Medium) アルメタ、ロコイド、キンダベートなど
Ⅴ群 弱い(Weak) コートリル、プレドニンなど

この中でベクラシンは「Ⅲ群」に属する「プロパデルム」という外用ステロイド剤のジェネリック医薬品なのですが、プロバデルムは2015年に発売中止になってしまったため、現在は先発品がなく、ジェネリックのベクラシンのみ残っているという状態になっています。

Ⅲ群のステロイドは表示上は「強い」となっていますが、外用ステロイドの中では中くらいの強さという位置づけです。

ステロイドはしっかりとした抗炎症作用(炎症を抑える作用)が得られる一方で、長期使用による副作用の問題などもあるため、皮膚症状に応じて適切な強さのものを使い分ける事が大切です。

強いステロイドは強力な抗炎症作用がありますが、一方で副作用も生じやすいというリスクもあります。反対に弱いステロイドは抗炎症作用は穏やかですが、副作用も生じにくいのがメリットです。

ベクラシンは外用ステロイド剤の中での強さは中くらいであるため、成人であれば四肢・体幹などといった通常の厚さの皮膚に塗るのに適しています。

顔や陰部など皮膚が薄い部位は弱いステロイドを使わないと副作用が出やすいため、ベクラシンを使用する際は注意が必要です。また頭部や足の裏など皮膚が厚い部位だとベクラシンでは力不足となってしまう可能性もあります(もちろん症状や程度によっては使う事もあります)。

ステロイドはどれも長期使用すると、皮膚の細胞増殖を抑制したり、免疫力を低下させたりしてしまいます。これによって皮膚が薄くなってしまったり感染しやすくなってしまったりといった副作用が生じる可能性があります。

ベクラシンもそういった副作用が生じる可能性はあるため、必要な期間のみ使用し、漫然と塗り続けないことが大切です。

またベクラシンはジェネリック医薬品ですので、薬価が安いという利点もあります。

以上からベクラシンの特徴として次のような事が挙げられます。

【ベクラシンの特徴】

・Ⅲ群(強い)に属する外用ステロイド剤である
・炎症を抑える作用、免疫反応を抑える作用、皮膚細胞の増殖を抑える作用がある
・成人の四肢・体幹などへの使用に適している
・ステロイドであるため、長期使用による副作用に注意
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

 

2.ベクラシンはどんな疾患に用いるのか

ベクラシンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。

【効能又は効果】

〇 湿疹・皮膚炎群(進行性指掌角皮症、女子顔面黒皮症、ビダール苔癬、放射線皮膚炎、日光皮膚炎を含む)、痒疹群(じん麻疹様苔癬、ストロフルス、固定じん麻疹を含む)
〇 虫さされ
〇 乾癬
〇 掌蹠膿疱症
〇 扁平苔癬
〇 慢性円盤状エリテマトーデス

難しい専門用語がたくさん並んでいますね。これを見ただけではどのような疾患に使えばいいのかイメージが沸かないかと思います。

ステロイド外用剤を用いるのは、

  • 炎症を抑えたい
  • 免疫を抑えたい
  • 皮膚の増殖を抑えたい

の3つの状況であり、これを期待したい時に用いられます。

それぞれの疾患の簡単な特徴とステロイドのどのような作用を狙って使用するのかを説明します。

進行性指掌角皮症とはいわゆる「手荒れ」の事で、水仕事などで手を酷使する事により手の皮膚が傷付いてしまい、炎症を起こしてしまう状態です。

女子顔面黒皮症とは、主に化粧品などによる接触性皮膚炎が慢性的に続く事によって皮膚に黒ずみが生じてしまう疾患です。

ビダール苔癬とはストレスなどが原因となり皮膚の一部に痒みや苔癬が生じる疾患です。主に首の後ろや大腿部などに生じやすいと言われています。

放射線皮膚炎とは放射線によって皮膚が炎症を起こしてしまう疾患で、放射線による癌治療などで認められる事があります。日光皮膚炎とは日光(紫外線)によって皮膚が炎症を起こしてしまう疾患です。

これらの疾患にはベクラシンの炎症を抑えるはたらきが効果を発揮します。

ストロフルスはアレルギー反応の1つで、主に虫に刺された後に生じる皮膚の腫れです。じんま疹もアレルギーの一種です。

掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)は自己免疫疾患です。自己免疫疾患は免疫(ばい菌と闘う力)が何らかの原因によって暴走してしまい、自分自身を攻撃してしまう病気です。掌蹠膿疱症では、免疫の異常によって手足に膿胞(膿が溜まった皮疹)が出来てしまいます。

アレルギー疾患や自己免疫疾患は、免疫が過剰にはたらいてしまっている結果生じているため、ベクラシンの免疫力を低下させる作用が効果を発揮します。

乾癬(かんせん)とは皮膚の一部の細胞増殖が亢進していしまい、赤く盛り上がってしまう疾患です。

扁平苔癬は表皮の角化(表皮が異常に増殖して肥厚する事)が生じる疾患です。

これらの疾患にはベクラシンの皮膚細胞増殖を抑制するはたらきが効果を発揮します。

慢性円板状エリテマトーデスは原因は不明ですが、皮膚の露出部(日光が当たる部位)に円板状の紅斑が生じます。慢性円板状エリテマトーデスもステロイドにより症状の改善が得られます。

注意点としてステロイドは免疫(身体が異物と闘う力)を抑制するため、ばい菌の感染に弱くなってしまいます。そのため、細菌やウイルスが皮膚に感染しているようなケースでは、そこにステロイドを塗る事は推奨されていません。

 

3.ベクラシンにはどのような作用があるのか

皮膚の炎症を抑えてくれるベクラシンですが、具体的にはどのような作用があるのでしょうか。

ベクラシンの作用について詳しく紹介します。

 

Ⅰ.免疫抑制作用

ベクラシンは、ステロイド剤です。

ステロイドには様々な作用がありますが、主な作用として免疫抑制作用があります。

免疫というのは身体の中に異物が侵入してきた時に、それを排除する生体システムの事です。皮膚からばい菌が侵入してきた時には、ばい菌をやっつける細胞を向かわせることでばい菌の侵入や増殖を阻止します。

免疫は身体にとって非常に重要なシステムですが、時にこの免疫反応が過剰となってしまい身体を傷付けてしまうことがあります。

代表的なものがアレルギー反応です。アレルギー反応というのは、本来であれば無害の物質を免疫が「敵だ!」と誤認識してしまい、攻撃してしまう現象です。

アレルギー反応をきたす疾患の1つに「花粉症(アレルギー性鼻炎)」がありますが、これも「花粉」という身体にとって無害な物質を免疫が「敵だ!」と認識して攻撃を開始してしまう疾患です。その結果、鼻水・鼻づまり・発熱・くしゃみなどの不快な症状が生じてしまいます。

また掌蹠膿疱症のような自己免疫疾患も同じく免疫が何らかの原因によって暴走してしまい、自分自身の皮膚を攻撃してしまいます。その結果、手足に膿胞(膿が溜まった皮疹)が出来てしまいます。

このような状態では、過剰な免疫を抑えてあげると良いことが分かります。

ステロイドは免疫を抑えるはたらきがあり、これによって過剰な免疫が生じている状態を和らげる作用が期待できます。

一方で免疫を抑えてしまう事で、ばい菌に感染しやすい状態を作ってしまうというデメリットもあります。

 

Ⅱ.抗炎症作用

上記のようにステロイドには免疫を低下させる作用があります。免疫がターゲットを攻撃しなくなると炎症が引き起こされなくなるため、これによって炎症を抑える作用(抗炎症作用)が得られます。

炎症とは、

  • 発赤 (赤くなる)
  • 熱感 (熱くなる)
  • 腫脹(腫れる)
  • 疼痛(痛みを感じる)

の4つの徴候を生じる状態のことです。炎症は何らかの原因で身体がダメージを受けた時に生じる現象で、例えば感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーでも生じます。

みなさんも身体をぶつけたり、ばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあると思います。これが炎症です。皮膚に炎症が起こることを皮膚炎と呼びます。皮膚炎も外傷でも生じるし、ばい菌に感染することでも生じるし、アレルギーでも生じます。

ステロイドは免疫を抑制することで、炎症反応を生じにくくさせてくれる作用があります。

そのため外用ステロイド剤(ステロイドの塗り薬)は皮膚炎を改善させる作用が期待できます。

 

Ⅲ.皮膚細胞の増殖抑制作用

ベクラシンをはじめとしたステロイド外用剤は、塗った部位の皮膚細胞の増殖を抑えるはたらきがあります。

これは主に副作用となる事が多く、強いステロイドを長期間塗り続けていると皮膚が薄くなっていき毛細血管が目立って赤みのある皮膚になってしまう事があります。

しかし反対に皮膚が肥厚してしまうような疾患(乾癬や角化症など)においては、ステロイドを使う事で皮膚細胞の増殖を抑え、皮膚の肥厚を改善させることも出来ます。

 

4.ベクラシンの副作用

ベクラシンの副作用にはどのようなものがあるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。

ベクラシンはジェネリック医薬品であるため、副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「プロパデルム」では行われており、副作用発生率は軟膏で0.07%・クリームで0.25%と報告されています。同じ主成分からなるベクラシンも同程度の副作用発生率だと考えられます。

ベクラシンは塗り薬で全身に投与するものではないため、副作用が多いお薬ではありません。ステロイド剤ですので、漫然と塗り続けないように注意は必要ですが、正しく用いれば安全に使う事は十分に可能です。

生じる副作用としては

  • 皮膚刺激
  • 軽度の熱感
  • 色素沈着
  • 毛細血管拡張
  • 皮膚乾燥
  • 毛包炎・せつ

などになります。

ステロイドは免疫を低下させてしまうため、ばい菌に感染しやすくなって毛包炎やせつ(いわゆる「おでき」)、真菌感染を起こしてしまうリスクがあります。

またステロイドの長期塗布は皮膚を薄くしてしまうため、それによって刺激感が認められたり皮膚の乾燥が生じる事があります。

いずれも長期間使えば使うほど発生する可能性が高くなるため、ステロイドは漫然と使用する事は避け、必要な期間のみしっかりと使う事が大切です。

また滅多にありませんが、重篤な副作用として、

  • 緑内障(眼圧亢進)
  • 白内障

などの可能性が報告されています。

また、ステロイドは免疫力を低下させるため、免疫力が活性化していないとまずい状態での塗布はしてはいけません。具体的にはばい菌感染が生じていて、免疫がばい菌と闘わなくてはいけないときなどが該当します。

このような状態の皮膚にベクラシンを塗る事は禁忌(絶対にダメ)となっています。

ちなみに添付文書には次のように記載されています。

【禁忌】

(1)細菌・真菌・スピロヘータ・ウイルス皮膚感染症の方
(2)本剤に対して過敏症の既往歴のある患者
(3)鼓膜に穿孔のある湿疹性外耳道炎
(4)潰瘍(ベーチェット病は除く)、第2度深在性以上の熱傷・凍傷

これらの状態でベクラシンが禁忌となっているのは、皮膚の再生を遅らせたり、感染しやすい状態を作る事によって重篤な状態になってしまう恐れがあるためです。

 

5.ベクラシンの用法・用量と剤形

ベクラシンには、

ベクラシン軟膏0.025% 10g (チューブ)
ベクラシン軟膏0.025% 500g (ポリエチレン容器)

ベクラシンクリーム0.025% 500g (ポリエチレン容器)

といった剤型があります。

ちなみに塗り薬には「軟膏」「クリーム」「ローション(外用液)」などいくつかの種類がありますが、これらはどのように違うのでしょうか。

軟膏は、ワセリンなどの油が基材となっています。長時間の保湿性に優れ、刺激性が少ないことが特徴ですが、べたつきは強く、これが気になる方もいらっしゃいます。また皮膚への浸透力も強くはありません。

クリームは、水と油を界面活性剤で混ぜたものです。軟膏よりも水分が入っている分だけ伸びがよく、べたつきも少なくなっていますが、その分刺激性はやや強くなっています。

ローションは水を中心にアルコールなどを入れることもある剤型です。べたつきはほとんどなく、遣い心地は良いのですが、保湿効果は長続きしません。しかし皮膚への浸透力は強く、皮膚が厚い部位などに使われます。

ベクラシンの使い方は、

本剤適量を1日数回患部に塗布する。

と書かれています。実際は皮膚の状態や場所によって回数や量は異なるため、主治医の指示に従いましょう。

 

6.ベクラシンの使用期限はどれくらい?

ベクラシンの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。

「家に数年前に処方してもらった塗り薬があるんだけど、これってまだ使えますか?」

このような質問は患者さんから時々頂きます。

これは保存状態によっても異なってきますので、一概に答えることはできませんが、適正な条件(室温保存)で保存されていたという前提だと、「3年」が使用期限となります。

 

7.ベクラシンが向いている人は?

以上から考えて、ベクラシンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

ベクラシンの特徴をおさらいすると、

【ベクラシンの特徴】

・Ⅲ群(強い)に属する外用ステロイド剤である
・炎症を抑える作用、免疫反応を抑える作用、皮膚細胞の増殖を抑える作用がある
・成人の四肢・体幹などへの使用に適している
・ステロイドであるため、長期使用による副作用に注意
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

というものでした。

ここから、皮膚の免疫反応が過剰となって炎症が生じている時、皮膚が異常に厚くなってしまっている時に使用する塗り薬だと考えられます。

ステロイドの中での効果は中くらいであり、主に成人の四肢・体幹に生じた皮膚疾患に対して用いられます。

子供の皮膚や成人の顔・陰部などは皮膚が薄く敏感であるため、ベクラシンを用いる際は注意が必要で、一般的にはより弱い外用ステロイドから始めます。

また頭部が足の裏などの皮膚が厚い部位は、ベクラシンだと力不足となってしまう事もあり、場合によってはより強い外用ステロイドを用いる事もあります。

また、これはステロイド全てに言えることですが、ステロイドは漫然と使い続けることは良くありません。副作用をなるべく起こさないためには、必要な時期のみしっかりと使い、必要がなくなったら使うのを止めるという、メリハリを持った使い方が非常に大切です。