ベンダザック軟膏は1980年から発売されている「ジルダザック」という塗り薬(外用剤)のジェネリック医薬品で、「非ステロイド系抗炎症剤」という種類に属します。
非ステロイド系抗炎症剤とは、
- ステロイドではなく
- 主に炎症を抑えたり痛みを和らげる作用を持つ
お薬の総称で、NSAIDsとも呼ばれています。
ベンダザックは塗り薬ですので、皮膚に生じた急性の炎症に対して、炎症を抑えたり痛みを軽減する目的で処方されます。
皮膚に塗る外用剤はたくさんの種類があります。その中でベンダザックはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ここではベンダザック軟膏の特徴や効果・効能、副作用についてみていきましょう。
目次
1.ベンダザックの特徴
まずはベンダザックの特徴をざっくりと紹介します。
ベンダザックは、主に炎症を和らげる(消炎)はたらきと痛みを和らげる(鎮痛)はたらきを持ちます。効果は穏やかですがステロイドではないため、ステロイドが使いにくいような疾患にも向いています。
ベンダザックは「非ステロイド性消炎鎮痛剤」と呼ばれますが、その名の通り「ステロイドではない」「消炎・鎮痛作用がある」ことが特徴です。
ステロイドではないため、ステロイドを塗ることが推奨されないような感染性の湿疹(帯状疱疹など)や酒さ様皮膚炎などにも塗ることが出来ます。
ステロイドは炎症を抑えるのに優れたお薬ですが、免疫力(ばい菌と闘う力)を下げてしまう作用を持つため、ばい菌が感染しているような皮膚には向きません。また酒さ様皮膚炎は、ステロイドの副作用によって皮膚炎を生じている疾患ですので、ステロイドを用いるわけにはいきません。
ベンダザックは主に急性の湿疹に対して用いられることが多く、帯状疱疹など一時的に炎症や痛みが強くなる皮膚疾患において用いられる事が多いお薬です。
またベンダザックの特徴として、NSAIDsの塗り薬には珍しく、「褥瘡」「潰瘍」などといった皮膚の傷にも適応を持っています。
NSAIDsは基本的に炎症や痛みは抑えますが、傷を治す作用はありません。しかしベンダザックは研究によって皮膚の傷の治りを早める作用が報告されたため、褥瘡や潰瘍にも適応を持っています。
デメリットとしては、ベンダザックを塗ることによって接触皮膚炎(いわゆる「かぶれ」)が生じてしまう事が頻度は低いながらもある事です。ちなみにベンダザックと同じ非ステロイド性消炎鎮痛剤のアンダーム(一般名:ブフェキサマク)というお薬は、接触性皮膚炎の副作用の問題などもあり、2010年に販売中止となっています。
またベンダザックはジェネリック医薬品ですので、先発品の「ジルダザック」と比べて薬価が安いというメリットもあります。
以上から、ベンダザックの特徴としては次のようなことが挙げられます。
【ベンダザック軟膏の特徴】
・消炎作用(炎症を抑える)・鎮痛作用(痛みを和らげる)がある
・効果は穏やかであるため、主に軽症例に用いられる
・ステロイドではないため、ステロイドが向かない疾患にも使える
(感染性疾患や酒さ様皮膚炎など)
・褥瘡や潰瘍などに対して、傷の治りを早める作用が報告されている
・接触性皮膚炎に注意
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
2.ベンダザックはどのような疾患に用いるのか
ベンダザックはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
・褥瘡、熱傷潰瘍、放射線潰瘍・接触性皮膚炎、急性湿疹、アトピー性皮膚炎、慢性湿疹、尋常性乾癬、乳幼児湿疹、帯状疱疹
たくさんの病名に対して適応を持っていますが、実際に用いる事が多いのは、
- 急性湿疹
- 酒さ様皮膚炎
- 帯状疱疹
あたりになります。
またNSAIDsとしては珍しく、
- 褥瘡
- 皮膚潰瘍
にも適応を持っていますが、現在では用いられる事は多くはありません。
基本的にベンダザックをはじめとしたNSAIDsは消炎作用と鎮痛作用を有していますが、それ以外の作用はほとんどありません。アレルギーを抑える作用や傷を早く治す作用があるわけではなく、炎症を抑える事で「痛み」などの症状を抑えるだけになります。
ただしベンダザックには傷の治りを早める作用が報告されているため、褥瘡や皮膚潰瘍にも保険上適応はあります。
アレルギーが原因であるアトピー皮膚炎に対しては、ステロイドや保湿剤など他の塗り薬を用いることが多いのが実情です。
接触皮膚炎に対しては、ベンダザックは炎症を抑える効果は期待できますが、ベンダザック自体が接触皮膚炎の原因になってしまう事もあるため、あまり用いられることがありません。
ベンダザックは各疾患に対してどのくらいの有効性があるのでしょうか。
ベンダザックはジェネリック医薬品であるため、有効率の詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「ジルダザック」では有効率(著効・有効・やや有効・無効のうち、著効・有効・やや有効と判断された率)は、
- 乾燥性湿疹皮膚炎で、95%
- 皮膚潰瘍類で82.2%
と報告されています。
皮膚潰瘍類の内訳としては、
- 褥瘡への有効率は81.4%
- 熱傷潰瘍への有効率は92.7%
- 放射線潰瘍への有効率は85.2%
と報告されています。
ベンダザックもこれと同程度の有効率を有すると考えられます。
3.ベンダザックにはどのような作用があるのか
ベンダザックは、どのような作用を持つお薬なのでしょうか。
ベンダザックを塗る事で期待できる作用について紹介します。
Ⅰ.抗炎症作用
ベンダザックは、炎症を和らげる作用を持ちます。
炎症とは、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
の4つの徴候を生じる状態のことで、感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
例えば身体をぶつけたり、身体にばい菌が入ったりすると、その部位が赤くなったり熱感を持ったり、腫れたり、痛んだりという状態になりますよね。これが炎症です。
皮膚に炎症が起こることを皮膚炎と呼びます。皮膚炎も外傷でも生じるし、ばい菌に感染することでも生じるし、アレルギーでも生じます。
どのような原因であれ、炎症そのものを抑えてくれる作用が抗炎症作用です。ベンダザックは抗炎症作用があり、発赤・熱感・腫脹・疼痛といった症状を和らげてくれます。
ベンダザックをはじめとしたNSAIDsは、シクロオキシゲナーゼ(COX)という物質をブロックするはたらきがあります。
COXは、プロスタグランジン(PG)が作られる時に必要な物質であるため、COXがブロックされるとプロスタグランジンが作られにくくなります。
プロスタグランジンは炎症や痛みを誘発する物質であるため、ベンダザックがCOXをブロックすると炎症や痛みが生じにくくなるのです。
炎症が起きると血管の透過性が亢進し、血管内から血管外へ様々な物質が移動していきます。これは炎症の原因となっているもの(ばい菌や外傷など)を修復する作用がある一方で、「発赤」「熱感」「腫脹」「疼痛」を引き起こしてしまいます。また浮腫(むくみ)の原因になることもあります。
ベンダザックは、COXの作用をブロックすることで、炎症や浮腫を和らげるはたらきがあるのです。
Ⅱ.鎮痛作用
炎症は疼痛(痛み)も引き起こします。
ベンダザックはCOXをブロックすることで炎症を和らげ、痛みを抑える作用も有しています。
ただしその効果は強くはありません。
Ⅲ.皮膚潰瘍改善作用
他のNSAIDsと異なり、ベンダザックは皮膚潰瘍に対して適応を持っています。
その理由はベンダザックに、
- 抗壊死作用
- 蛋白変性阻止作用
- 潰瘍面の分泌物を減少させる作用
が報告されているためです。
壊死というのは、細胞が死んでしまう事です。傷口の細胞が死んでしまうと傷の治りが悪くなるばかりが壊死組織が細菌繁殖しやすい環境を作ってしまうため、潰瘍は治りにくくなります。
ベンダザックは抗壊死作用があり、これにより潰瘍を治りやすくするようです。
また私たちの身体を構成するたんぱく質は加熱や紫外線や有毒物質によって変性し、作用がなくなってしまう事があります。ベンダザックはたんぱく質がこれらの刺激を浴びても変性しにくいようにはたらいてくれるようです。
また潰瘍に分泌される物質の量を減少されるため、これが潰瘍面を浄化し、新たな組織の形成を促進すると考えられています。
しかしこれらの作用は報告はされているものの、明確な機序が分かっているわけではありません。
4.ベンダザックの副作用
ベンダザックにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。
ベンダザックはジェネリック医薬品であるため、副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「ジルダザック」では副作用発生率は2.6%と報告されており、ベンダザックも同程度だと考えられます。
報告されている副作用としては、
- 刺激感
- 皮疹増悪
- 発赤
などがあります。いずれも重篤となることは少なく、ベンダザックの使用を中止すれば改善することがほとんどです。
またベンダザックは長期間連用していると、皮膚に過敏症状が現れる事がありますので、漫然と使用を続けないようにしましょう。
ベンダザックを使用してはいけない方(禁忌)として、
- ベンダザックの成分に対し過敏症の既往歴のある方
が挙げられています。
5.ベンダザックの用量・用法と剤型
ベンダザックには、
ベンダザック軟膏1% 10g(アルミチューブ)
ベンダザック軟膏1% 500g(プラスチック容器)
といった剤型があります。
ベンダザックの使い方は、
<皮膚潰瘍類>
本品の適量を1日数回患部に塗布する。なお、必要に応じて1日1~2回の貼布療法を行う。<炎症性皮膚疾患>
本品の適量を1日数回患部に塗布する。症状によりODT療法、ステロイド外用剤の併用を行う。
と書かれています。
ODT療法というのは、外用剤(塗り薬)を密封する事で強力に効かせる治療法で、皮膚に外用剤を塗った後、ラップで覆います。これにより薬を何倍も強く作用させる事が出来ますが、その分副作用も出やすくなるというデメリットもあります。
ちなみに塗り薬には、「軟膏」「クリーム」「ローション」などがありますが、これらはどう違うのでしょうか。
軟膏は、ワセリンなどの油が基材となっています。長時間の保湿性に優れ、刺激性が少ないことが特徴ですが、べたつきは強く、これが気になる方もいらっしゃいます。また皮膚への浸透力も強くはありません。
クリームは、水と油を界面活性剤で混ぜたものです。軟膏よりも水分が入っている分だけ伸びがよく、べたつきも少なくなっていますが、その分刺激性はやや強くなっています。
ローションは水を中心にアルコールなどを入れることもある剤型です。べたつきはほとんどなく、遣い心地は良いのですが、保湿効果は長続きしません。しかし皮膚への浸透力は強く、皮膚が厚い部位などに使われます。
それぞれ一長一短あるため、皮膚の状態に応じて主治医とよく相談し、使い分ける事が大切です。
ベンダザックには軟膏剤のみがあります。
6.ベンダザックの使用期限はどれくらい?
ベンダザックの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。
「家に数年前に処方してもらった軟膏があるんだけど、これってまだ使えますか?」
このような質問は患者さんから時々頂きます。
これは保存状態によっても異なってきますので一概に答えることはできませんが、適切な条件で保存されていたのであれば「3年」が使用期限になります。
ベンダザックは基本的には室温で保存するものですので、この状態で保存していたのであれば上記期間持つと考えて良いでしょう。反対に暑い場所で保管していた場合などは、使用期限は短くなる可能性があります。
7.ベンダザックが向いている人は?
以上から考えて、ベンダザックが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ベンダザックの特徴をおさらいすると、
・消炎作用(炎症を抑える)・鎮痛作用(痛みを和らげる)がある
・効果は穏やかであるため、主に軽症例に用いられる
・ステロイドではないため、ステロイドが向かない疾患にも使える
(感染性疾患や酒さ性皮膚炎など)
・褥瘡や潰瘍などに対して、傷の治りを早める作用が報告されている
・接触性皮膚炎に注意
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
というものでした。
ベンダザックは穏やかに炎症を抑え、痛みを取ってくれるため、主に軽症の皮膚疾患に用いるお薬になります。しっかりと症状を抑える必要がある場合は、より強い効果が得られるステロイドなどを検討する必要があるでしょう。
ベンダザックはステロイドではないため、ステロイドが好ましくないような皮膚状態で、かつ消炎・鎮痛をした方が良い皮膚には向いているお薬です。
具体的には、
- 感染性の皮膚疾患(帯状疱疹など)
- 酒さ様皮膚炎
などが挙げられます。
また、皮膚の傷を治す作用の報告もある事から、皮膚に軽度の傷(発赤や表皮剥離など)がある上記疾患には向いているかもしれません。
ただしベンダザックはあくまでも炎症を抑えているだけで根本を治しているわけではない事は知っておく必要があります。
例えば帯状疱疹に用いれば、帯状疱疹で生じる皮膚のピリピリした痛みは和らぎますが、原因であるヘルペスウイルスをやっつける作用はありません。ベンダザックで痛みを抑えながらも抗ウイルス薬も併用していく必要があります。
8.先発品と後発品は本当に効果は同じなのか?
ベンダザックは「ジルダザック」というお薬のジェネリック医薬品になります。
ジェネリックは薬価も安く、患者さんにとってメリットが多いように見えます。
しかし「安いという事は品質に問題があるのではないか」「やはり正規品の方が安心なのではないか」とジェネリックへの切り替えを心配される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
同じ商品で価格が高いものと安いものがあると、つい私たちは「安い方には何か問題があるのではないか」と考えてしまうものです。
ジェネリックは、先発品と比べて本当に遜色はないのでしょうか。
結論から言ってしまうと、先発品とジェネリックはほぼ同じ効果・効能だと考えて問題ありません。
ジェネリックを発売するに当たっては「これは先発品と同じような効果があるお薬です」という根拠を証明した試験を行わないといけません(生物学的同等性試験)。
発売したいジェネリック医薬品の詳細説明や試験結果を厚生労働省に提出し、許可をもらわないと発売はできないのです、
ここから考えると、先発品とジェネリックはおおよそ同じような作用を持つと考えられます。明らかに効果に差があれば、厚生労働省が許可を出すはずがないからです。
しかし先発品とジェネリックは多少の違いもあります。ジェネリックを販売する製薬会社は、先発品にはないメリットを付加して患者さんに自分の会社の薬を選んでもらえるように工夫をしています。例えば使い心地を工夫して添加物を先発品と変えることもあります。
これによって患者さんによっては多少の効果の違いを感じてしまうことはあります。この多少の違いが人によっては大きく感じられることもあるため、ジェネリックに変えてから調子が悪いという方は先発品に戻すのも1つの方法になります。
では先発品とジェネリックは同じ効果・効能なのに、なぜジェネリックの方が安くなるのでしょうか。これを「先発品より品質が悪いから」と誤解している方がいますが、これは誤りです。
先発品は、そのお薬を始めて発売するわけですから実は発売までに莫大な費用が掛かっています。有効成分を探す開発費用、そしてそこから動物実験やヒトにおける臨床試験などで効果を確認するための研究費用など、お薬を1つ作るのには実は莫大な費用がかかるのです(製薬会社さんに聞いたところ、数百億という規模のお金がかかるそうです)。
しかしジェネリックは、発売に当たって先ほども説明した「生物学的同等性試験」はしますが、有効成分を改めて探す必要もありませんし、先発品がすでにしている研究においては重複して何度も同じ試験をやる必要はありません。
先発品と後発品は研究・開発費に雲泥の差があるのです。そしてそれが薬価の差になっているのです。
つまりジェネリック医薬品の薬価は莫大な研究開発費がかかっていない分が差し引かれており先発品よりも安くなっているということで、決して品質の差が薬価の差になっているわけではありません。