ベネットの効果と副作用【骨粗しょう症治療剤】

ベネット(一般名:リセドロン酸ナトリウム)は2002年から発売されている骨粗しょう症の治療薬で「ビスホスホネート系」という種類に属します。

骨粗しょう症とは、加齢などに伴い骨がもろくなってしまう疾患です。高齢化社会によって患者さんの数も増えており、現在日本では約1000万人以上の方が骨粗しょう症になっていると推定されています。

骨粗しょう症になると、些細な刺激でも骨折しやすくなったり、骨や関節に痛みが生じやすくなってしまいます。

ベネットは、このような方に対して骨を丈夫にする作用を持ちます。全体的に見れば安全性に優れるお薬ですが、使用にはいくつかの注意点が必要なお薬でもあります。

骨粗しょう症のお薬にもいくつかの種類があり、それぞれ特徴が異なります。骨粗しょう症治療薬の中でベネットはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。

ここではベネットの特徴や効果・副作用などを紹介していきます。

 

1.ベネットの特徴

まずはベネットというお薬の全体的なイメージとその特徴をお話します。

ベネットは破骨細胞(骨を壊す細胞)のはたらきを抑え、骨が破壊されないようにするお薬です。

食道や胃への刺激性があるため、多くの水で服用したり服用後30分は横になれないなどの服用の制限があります。

剤型が揃っているのがメリットで、毎日服用する2.5mg、週1回服用する17.5mg、月1回服用する75mgとライフスタイルに合わせて剤型を選ぶ事が出来ます。

デメリットとしては重度の腎機能障害がある方は使用できません(他のビスホスホネート系は慎重に使用できます)。

ベネットは骨粗しょう症の治療薬で「ビスホスホネート系」という種類に属します。

骨粗しょう症というのは、主に加齢などが原因で骨がもろくなってしまい、転倒などの軽いダメージで骨折しやすい状態になってしまう事です。

骨の形成には、「骨芽細胞(骨を作る細胞)」と「破骨細胞(骨を壊す細胞)」の2つの細胞が関わっています。破骨細胞によって古い骨が壊され、骨芽細胞によって新しい骨が作られるというサイクルで、私たちの骨は常に強度を保てているのです。

しかし骨粗しょう症では骨芽細胞よりも破骨細胞の活性が高くなってしまっており、骨が作られるよりも破壊されるペースが速くなるため、骨がどんどんともろくなってしまいます。

ベネットは破骨細胞のはたらきを抑える事で、相対的に骨芽細胞のはたらきを高め、これにより骨粗しょう症の改善をはかるお薬になります。

骨の形成を促進するというわけではなく、骨の分解を抑えるという防戦重視のお薬であるため、その作用は強力とは言えません。しかし服用を続けることで穏やかに骨粗しょう症を改善させてくれます。

ベネットは、

  • 毎日服用する2.5mg錠
  • 週に1回服用する17.5mg錠
  • 月に1回服用する75mg錠

があります。どれも効果は同じですが、週1回や月1回が服用の手間が少ないため好まれています。

ただし月1回のベネットは服用数日以内にインフルエンザ様の症状(発熱、咽頭痛、倦怠感など)が認められる事があります。これは実際にはインフルエンザにかかっているわけではないため、多くは1週間以内に自然と改善します。

ベネットのデメリットとしては、食道・胃などへの刺激性が挙げられます。ベネットは食道や胃粘膜に刺激性があるため、食道炎・食道潰瘍などを引き起こす事があります。これはベネットに限らずビスホスホネート系の飲み薬に共通する特徴です。

そのためベネットを服用する際には多くの水(180ml程度)で服用し、服用後になるべく早く胃内に到達させるために30分は横になってはいけない事が求められています。

骨粗しょう症の患者さんは高齢者が多く、お水を一気にたくさん飲めなかったり、体力が落ちていて30分も座っていられないという方もいらっしゃいます。このような方にはベネットはあまり向かないお薬になります。

以上からベネットの特徴として次のような点が挙げられます。

【ベネットの特徴】

・骨の分解を抑制する事により骨を丈夫にする
・骨粗しょう症による骨折を予防したり、骨の痛みの改善が期待できる
・毎日服用の2.5mg錠、週1回服用の17.5mg錠、月1回服用の75mg錠と剤型が揃っている
・服用時は多くの水とともに飲み、服用後は30分は横になってはいけない
・75mg錠は服用後数日はインフルエンザ様症状が生じる事がある

 

2.ベネットはどのような疾患に用いるのか

ベネットはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

〇骨粗鬆症

〇骨ページェット病(17.5mgのみ)

ベネットは骨粗しょう症の治療薬になりますので、その適応はもちろん「骨粗しょう症」です。また骨ページェット病という骨疾患にも適応があります。

ベネットを骨粗しょう症に対して使用する場合、骨粗しょう症の診断をしっかりと確定させてからでないと服用を開始する事は出来ません。

骨粗しょう症は骨がもろくなってしまう疾患ですが、その診断には、

  1. 椎体または大腿骨近位部の脆弱性骨折
  2. その他部位の脆弱性骨折があり骨密度が成人平均値の80%未満
  3. 骨密度が低く、成人平均値の70%以下または-2.5SD以下

のいずれかを満たす事が必要です。

脆弱性骨折というのは、転倒などの軽い外力によって容易に骨折してしまう事です。

特に椎体(背骨)や大腿骨近位部(足の付け根付近)に脆弱性骨折が生じた場合、それだけで骨粗しょう症と診断が出来ます。転倒による腰椎圧迫骨折や大腿骨頸部骨折というのは、骨粗しょう症の患者さんに非常に多い骨折になります。

それ以外の部位で脆弱性骨折が生じた場合は、骨折に加えて骨密度が成人平均値の80%未満である事を確認する必要があります。

また脆弱性骨折が生じていない状態では、骨密度が成人平均値の70%以下であるか、-2.5SD以下であれば診断できます。

ちなみに骨密度はレントゲン撮影やエコー検査などで測定する事が出来ます。

骨ページェット病とは、原因不明に身体の骨の一部の骨形成・骨破壊が活性化してしまう疾患です。骨を作る骨芽細胞と骨を壊す破骨細胞が異常に活性化してしまうため、骨の変形を来たしたり、部分的に骨がもろくなってしまいます。

骨ページェット病は日本人には少なく、国内には数百人程度の患者さんがいると報告されています。

骨粗しょう症に対してベネットはどのくらいの効果があるのでしょうか。

骨粗しょう症の患者さんにベネット2.5mg/日を48週間服用してもらった調査では、

  • 腰椎の骨密度が約4.9%増加

した事が報告されています。またベネット17.5mgの週1回服用、ベネット75mgの月1回服用でもほぼ同等の効果が得られる事が確認されています。

腰椎は骨粗しょう症の方が良く骨折する部位ですので、この部位でしっかりと骨密度の上昇が得られたという事は、骨折リスクを減少させる効果がある事を示しています。

また骨ページェット病の患者さんにベネット17.5mgを1日1回、8週間服用してもらった試験では、

  • 投与開始24週後のExcess血清ALP値は85.3%低下
  • 投与開始48週後のExcess血清ALP値は82.1%低下

した事が報告されています。

ALPというのは「アルカリフォスファターゼ」という肝臓や骨に存在する酵素です。骨や肝臓がダメージを受けると上昇するため、骨ページェット病では疾患の活動度を表す指標として利用されます。

Excess血清ALP値というのは、患者さんのALP値から正常ALP値を引いたもので、高いほど骨がダメージを受けていう事を示しています。

 

3.ベネットにはどのような作用があるのか

ベネットはどのような機序によって骨粗しょう症を改善させるのでしょうか。

骨粗しょう症は加齢などによって骨がもろくなってしまい、骨折しやすくなってしまう疾患ですが、骨粗しょう症の治療薬は大きく分けると2つの種類があります。

  • 骨形成促進薬:骨の形成を促進する事で骨を強くする
  • 骨吸収抑制薬:骨が分解されるのを抑える事で骨が弱くならないようにする

このうち、ベネットは後者の「骨吸収抑制薬」になります。

ベネットは服用後、全身の骨組織に沈着します。骨は古くなってくると破骨細胞によって壊されてしまうのですが、破骨細胞がベネットの沈着した骨組織を壊す際に、ベネットは破骨細胞内に取り込まれます。

破骨細胞内に取り込まれると、ベネットはFPPS(ファルネシルピロリン酸合成酵素)という酵素のはたらきをブロックする作用を発揮します。

FPPSは破骨細胞の細胞骨格を作るのに必要な酵素です。そのため、これがブロックされると破骨細胞は細胞骨格を維持できなくなり、アポトーシス(細胞死)が引き起こされます。

またFPPSは破骨細胞内での情報伝達の役割も持つため、ブロックされると「骨を破壊しなさい」という破骨細胞の主な機能の情報伝達がうまく行えなくなります。これによって破骨細胞の機能が低下します。

このように破骨細胞の機能が低下し、また破骨細胞のアポトーシス(細胞死)が誘導されると、骨が壊されるよりも、骨が作られる率の方が高くなります。

このような機序によって骨がもろくなるのを防ぐのがベネットです。

 

4.ベネットの副作用

ベネットにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。

ベネットの副作用は、

  • 2.5mgで12.6%
  • 17.5mgで7.1%(骨ページェット病への投与では25.0%)
  • 75mgで22.0%

と報告されています。

ベネットで生じる主な副作用としては、

  • 胃・腹部不快感
  • 悪心
  • 便秘
  • 下痢
  • 上腹部痛
  • 消化不良
  • 胃炎
  • めまい
  • 肝機能障害(AST、ALT、γ GTP増加など)

などで、多くは胃腸系の副作用になります。

これはベネットが、口腔・食道・胃などの消化管粘膜に刺激性を持つためです。そのため、時にこれらの粘膜を傷付けてしまう事があり、これにより上記の副作用が生じてしまいます。

このような副作用をなるべく生じさせないように、ベネットは多くの水とともに服用する必要があり、また服用後30分は横になってはいけないという決まりがあります。

 

また、これ以外にも75mg錠は服用後数日以内に「インフルエンザ様症状」が認められる事があります。発熱や頭痛、倦怠感、関節痛、無力症などが生じますが、多くは1週間以内に自然と改善します。

頻度は稀ですが重篤な副作用としては、

  • 食道穿孔、食道狭窄、食道潰瘍、胃潰瘍、食道炎、十二指腸潰瘍等の上部消化管障害
  • 肝機能障害、黄疸
  • 顎骨壊死・顎骨骨髄炎
  • 外耳道骨壊死
  • 大腿骨転子下及び近位大腿骨骨幹部の非定型骨折

が報告されています。

ベネットをはじめとしたビスホスホネート系のお薬には、前述の消化管粘膜に対する刺激性の他に、もう1つ注意すべき副作用があります。

それは「骨の壊死」が生じるリスクが稀ながらあるという事です。特に顎骨壊死には注意が必要で、これは顎の骨が壊死してしまう(死んでしまう)副作用になります。特に抜歯などの歯科治療をした際に生じやすい事が知られています。

ベネットを服用している方で歯科治療をする際は、必ず歯科医にベネットを服用している事を伝える必要があります。また現在歯科治療中の方は、可能であればベネットの服用は歯科治療が終了してから開始するのが無難でしょう。

ベネットは次のような方には禁忌(絶対に使ってはダメ)となっていますので注意しましょう。

  • 食道狭窄又はアカラシア(食道弛緩不能症)等の食道通過を遅延させる障害のある方
  • ベネットの成分または他のビスホスホネート系薬剤に対し過敏症の既往歴のある方
  • 低カルシウム血症の患者
  • 服用時に立位あるいは坐位を30分以上保てない方
  • 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
  • 高度な腎障害のある方(Ccr>30)

ベネットは消化管粘膜(特に食道)に対して刺激性がありますので、元々食道の通りが悪くなるような疾患を持っている方は服用する事が出来ません。

食道狭窄症とは文字通り食道が狭窄している疾患です。またアカラシアというのは、食道と胃の堺にある下部食道括約筋という筋肉が緩みにくく、食道から胃に食べ物が移動しにくくなってしまう疾患です。

またベネットは破骨細胞のはたらきを抑えますので、これにより低カルシウム血症が生じる事があります。

破骨細胞は骨を破壊しますので、破骨細胞が活動すると骨に含まれるカルシウムが血中に遊離し、血中カルシウム濃度は増える方向となります。しかしベネットによって破骨細胞のはたらきが抑えられると、骨に含まれるカルシウムが血中に遊離しにくくなりますので、その分カルシウムが下がりやすくなるのです。

元々血中カルシウム値が低い低カルシウム血症の方は、更に血中カルシウム値を下げてしまう危険があるためベネットを使用する事は出来ません。

ベネットは妊娠中ラットにおける動物実験で、胎児出生率の低下や母動物の死亡が報告されています。人でも同様の事が生じる可能性があるため、妊娠中の方への投与も禁忌となっています。

またベネットは高度の腎機能障害のある方は、排泄が遅延してしまう可能性があるため服用できません。

高度、というのは具体的にはCcr(クレアチニン・クリアランス)が30mL/分未満になります。

 

5.ベネットの用法・用量と剤形

ベネットは次の剤型が発売されています。

ベネット錠 2.5mg
ベネット錠 17.5mg
ベネット錠 75mg

ベネットの使い方は、

【ベネット錠2.5mg】

通常、成人には1日1回、起床時に十分量(約180mL)の水とともに経口投与する。

なお、服用後少なくとも30分は横にならず、水以外の飲食並びに他の薬剤の経口摂取も避けること。

【ベネット錠17.5mg】
<骨粗鬆症の場合>
通常、成人には17.5mgを1週間に1回、起床時に十分量(約180mL)の水とともに経口投与する。

なお、服用後少なくとも30分は横にならず、水以外の飲食並びに他の薬剤の経口摂取も避けること。

<骨ページェット病の場合>
通常、成人には17.5mgを1日1回、起床時に十分量(約180mL)の水とともに8週間連日経口投与する。

なお、服用後少なくとも30分は横にならず、水以外の飲食並びに他の薬剤の経口摂取も避けること。

【ベネット錠75mg】
通常、成人には75mgを月1回、起床時に十分量(約180mL)の水とともに経口投与する。

なお、服用後少なくとも30分は横にならず、水以外の飲食並びに他の薬剤の経口摂取も避けること。

と書かれています。

ベネット2.5mgは毎日服用する必要がありますが、ベネット17.5mgは週に1回、更にベネット75mg錠は月に1回の服用になります(ただし骨ページェット病に対しては17.5mgを毎日服用します)。

ベネットは服用後30分は横になれないため、毎日の服用は手間に感じる方も多く、週1回の17.5mgや月に1回の75mgが人気があります。

ベネットは服用時に注意点があります。

それは、

  • 起床時(朝食の30分以上前)に服用する必要がある
  • 180ml程度の水分とともに服用する
  • 服用後少なくとも30分は横にならず、他のお薬や食べ物を食べない

という制限がある点です。

ベネットは口腔内や食道、胃に長く停滞していると口腔潰瘍や食道潰瘍などを生じさせてしまうリスクがあります。そのため、なるべくたくさんの水分と一緒に摂取し、服用後は速やかに消化吸収させるために横にならない事が推奨されています。

またベネットは電解質を含んだ食事や飲料と一緒に服用してしまうと、吸収率が低下する可能性があります。そのため何も食べていない状態で服用する事が望ましく、添付文書では起床時の服用が勧められています。

骨ページェット病でベネット17.5mgを服用する際は、週1回ではなく1日1回となるため間違えないようにしましょう。

骨ページェット病では服用期間は8週間になりますが、継続の必要がある時は少なくとも2カ月間はお薬を休薬したうえで再開する事が推奨されています。

 

6.ベネットが向いている人は?

ベネットはどのような方に向いているお薬なのでしょうか。

ベネットの特徴をおさらいすると、

・骨の分解を抑制する事により骨を丈夫にする
・骨粗しょう症による骨折を予防したり、骨の痛みの改善が期待できる
・毎日服用の2.5mg錠、週1回服用の17.5mg錠、月1回服用の75mg錠と剤型が揃っている
・服用時は多くの水とともに飲み、服用後は30分は横になってはいけない
・75mg錠は服用後数日はインフルエンザ様症状が生じる事がある

といった特徴がありました。

ベネットは全体的に見れば安全性の高いお薬になりますが、服用に当たっていくつかのルールがあるお薬です。

  • 起床時(朝食の30分以上前)に服用する必要がある
  • 180ml程度の水分とともに服用する
  • 服用後少なくとも30分は横にならず、他のお薬や食べ物を食べない

この3つを守れる方でなければ使用するのは難しいでしょう。

例えば水を一気にたくさんは飲めない、30分も座っておく事が出来ない、という場合はベネット以外のお薬を選ぶ必要があります。

また毎日服用する2.5mg製剤と、週1回服用する17.5mg製剤、月に1回の服用である75mg製剤がありますが、現在用いられているほとんどは17.5mgあるいは75mg製剤です。

どちらも効果はほとんど同じで、17.5mg、75mg製剤の方が服用の手間が各段に少なくなりますから、メリットが大きいためです。

ただし週1回、月1回だと「飲み忘れてしまう」という方もいらっしゃり、そのような場合には2.5mg製剤を毎日服用してもらう事もあります。