ベニジピンは、1991年から発売されている「コニール」というお薬のジェネリック医薬品になります。
ジェネリック医薬品とは、先発品(コニール)の特許が切れた後に他社から発売された同じ成分からなるお薬の事です。お薬の開発・研究費がかかっていない分だけ、先発品よりも薬価が安くなっているというメリットがあります。
ベニジピンは降圧剤です。降圧剤とは血圧を下げるお薬の事で、主に高血圧症の治療に用いられるお薬になります。ベニジピンは降圧剤の中でも「カルシウム拮抗薬」という種類に属します。
ベニジピンをはじめとしたカルシウム拮抗薬は血圧を下げる作用に優れるため、まずは血圧をしっかりと下げたいという患者さんに用いられることの多いお薬です。
一般的にカルシウム拮抗薬は血圧以外への作用は少ないのですが、ベニジピンはカルシウム拮抗薬の中では血圧以外にもいくつかの作用を持っており、そのため上手に使えば1剤で様々な効果が期待できるお薬です。
ではベニジピンはどのような特徴のある降圧剤で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ここではベニジピンの特徴や効果・副作用についてみていきましょう。
目次
1.ベニジピンの特徴
まずはベニジピンというお薬の全体的な特徴について紹介します。
ベニジピンはカルシウム拮抗薬という種類の降圧剤になります。そのため、まずはカルシウム拮抗薬の主な特徴について見てみましょう。
【カルシウム拮抗薬の特徴】
・ダイレクトに血管に作用するため、血圧を下げる力(降圧力)が確実 |
カルシウム拮抗薬の最大の特徴は、降圧力(血圧を下げる力)がしっかりとしている点です。
血圧を下げるお薬はカルシウム拮抗薬の他にも、
- ARB
- ACE阻害剤
- 利尿剤
- α遮断薬
- β遮断薬
などたくさんの種類がありますが、単純な降圧力だけをみれば、カルシウム拮抗薬にかなうお薬はありません。
またカルシウム拮抗薬は血管の周りを覆っている筋肉を緩める事で血管を拡張させ、血圧を下げます。血管にダイレクトに作用するためしっかりと効き、またその他の余計な部位に作用しにくいため副作用も少ないというメリットもあります。
ベニジピンはカルシウム拮抗薬の中では血管以外の部位への作用が多いお薬にはなりますが、それでも他の降圧剤に比べると全体的にみて副作用は少なめだと言ってよいでしょう。
またカルシウム拮抗薬は、薬価が安いのも大きな利点です。血圧を下げるコストパフォーマンスという見方をすると、カルシウム拮抗薬はかなり優れたお薬になります。
では次にカルシウム拮抗薬の中でのベニジピンの特徴を紹介します。
【カルシウム拮抗薬の中でのベニジピンの特徴】
・降圧力はカルシウム拮抗薬の中では弱め |
ベニジピンはカルシウム拮抗薬の中では「第2世代」と呼ばれます。カルシウム拮抗薬は第1世代から第3世代まであり、基本的には世代が上であるほど改良されており副作用も少なくなっています。この中でベニジピンはやや古めの第2世代に属します。
カルシウム拮抗薬は降圧力が強いのが大きな特徴ですが、ベニジピンはカルシウム拮抗薬の中では降圧力は弱いお薬になります。
またベニジピンは半減期が非常に短いのも特徴です。半減期はお薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間の事で、お薬の作用時間の1つの目安になる値ですが、ベニジピンの半減期は約1~2時間と非常に短くなっています。
ベニジピンは1日1回の服薬で充分だと添付文書で報告はされていますが、半減期が短いことから、他のカルシウム拮抗薬と比べると作用時間が短く、人によっては1日を通して効果が持続しない可能性があります。
カルシウム拮抗薬は、全身の血管を拡張させるはたらきがあるため、お薬によっては高血圧だけでなく狭心症にも適応があったり、腎臓などを保護するはたらきがあったりします。狭心症は、心臓に栄養を送っている血管(冠動脈)が狭くなることで生じるため、冠動脈も広げる作用を持つカルシウム拮抗薬は狭心症に効果を示します。
狭心症は冠動脈の動脈硬化によって生じるものと、冠動脈のけいれん(攣縮)によって生じるものがありますが、ベニジピンはどちらにも効果があります。
またベニジピンの特徴として、腎保護作用を有することが挙げられます。これはベニジピンがT型とN型のカルシウムチャネルに作用するからだと考えられています。
ベニジピンはジェネリック医薬品であり、先発品の「コニール」と比べると薬価が安いというのも特徴の1つです。
以上からベニジピンの特徴として次のような点が挙げられます。
【ベニジピンの特徴】
・降圧力はカルシウム拮抗薬の中では弱い |
2.ベニジピンはどのような疾患に用いるのか
ベニジピンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
高血圧症、腎実質性高血圧症
狭心症
実際の臨床では、高血圧症の治療に対して用いられることがほとんどです。
ベニジピンはカルシウム拮抗薬に属します。カルシウム拮抗薬は血圧をしっかりと下げてくれるため、 まずは血圧を下げたいという高血圧症の方にとっては頼りになるお薬です。
ベニジピンは降圧力だけを見ると他のカルシウム拮抗薬には劣りますが、一般的な降圧剤としてみれば十分な力があります。
またベニジピンは腎保護作用や冠動脈に対する作用といった付加的な作用もあるため、総合的に見てベニジピンの恩恵を多く受けられそうな患者さん(例えば血圧も高くて冠攣縮性狭心症もある方であったり、血圧も高くて腎機能障害もある方など)には良い適応となります。
ではベニジピンはこれらの疾患の患者さんに対してどのくらいの効果が期待できるのでしょうか。
ベニジピンはジェネリック医薬品であり有効性に関する詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「コニール」では行われており、コニールを上記疾患に用いた際の有効率は、
- 本態性高血圧症(軽症~中等症)に用いた際の有効率は84.2%
- 重症高血圧症に用いた際の有効率は94.4%
- 腎実質性高血圧症に用いた際の有効率は82.4%
と報告されています。
また狭心症に用いた際の改善率は60.8%と報告されています。
同じ主成分からなるベニジピンもこれと同程度の有効率があると考えられます。
3.ベニジピンの作用機序
ベニジピンは、どのような機序で血圧を下げているのでしょうか。
血圧を下げるお薬にはいくつかの種類がありますが、ベニジピンはその中でも「カルシウム拮抗薬」というお薬に分類されます。カルシウム拮抗薬は、血管の周りを覆っている平滑筋に存在しているカルシウムチャネルのはたらきをブロックするというのが主なはたらきです。
チャネルという用語が出てきましたが、これはかんたんに言うとイオンが通る穴だと思ってください。つまりカルシウムチャネルはカルシウムイオンが通ることが出来る穴です。
本来のカルシウムチャネルのはたらきはカルシウムイオンを通すことです。カルシウムイオンが通るとそれが刺激になり、平滑筋が収縮します。そして平滑筋が収縮すれば血管は締め付けられ、血圧は上がります。
これをブロックするのがベニジピンです。ベニジピンはカルシウムチャネルに蓋をしてしまい、カルシウムイオンが平滑筋細胞内に流入できないようにしてしまいます。すると平滑筋は収縮できなくなるため緩みます。平滑筋が緩めば血管は広がるため、血圧は下がるというわけです。
ちなみにカルシウムチャネルにはL型、T型、N型の3種類があります。このうち、平滑筋に存在しているカルシウムチャネルはほとんどがL型です。
【L型カルシウムチャネル】
主に血管平滑筋・心筋に存在し、カルシウムが流入すると筋肉を収縮させる。ブロックすると血管が拡張し、血圧が下がる【T型カルシウムチャネル】
主に心臓の洞結節に存在し、規則正しい心拍を作る。また脳神経にも存在し神経細胞の発火に関係している【N型カルシウムチャネル】
主にノルアドレナリンなど興奮性の神経伝達物質を放出する
カルシウム拮抗薬のほとんどは、L型のカルシウムチャネルをブロックする事で血圧を下げます。ベニジピンも同様にL型のカルシウムチャネルに作用し、血管平滑筋を弛緩させることで血圧を下げます。
またベニジピンはT型とN型のカルシウムチャネルにも作用することも報告されています。T型カルシウムチャネルは上記の作用の他、抗炎症作用、腎臓の血管を拡張させることによる腎保護作用なども報告されています。またN型カルシウムチャネルをブロックすると興奮性の神経伝達物質弱まるため、血管が拡張し、腎保護作用や心保護作用が得られることが知られています。
4.ベニジピンの副作用
ベニジピンにはどのような副作用が生じる可能性があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
ベニジピンはジェネリック医薬品であり副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「コニール」では行われており、副作用発生率は4.7%と報告されています。
同じ主成分からなるベニジピンもこれと同程度の副作用発生率であると考えられます。
生じうる副作用としては、
- 動悸
- 顔面紅潮
- 頭痛
などが報告されています。
顔面紅潮(顔のほてり)は顔面の血管が拡張する事で生じます。また頭痛は脳の血管が拡張する事で生じると考えられています。
動悸はベニジピンがT型のカルシウムチャネルに作用してしまうために生じると考えられています。
これらの副作用はベニジピンの服薬量が多いほど高くなる傾向にあります。
また頻度は稀ですが、重篤な副作用として、
- 肝機能障害、黄疸
などが報告されています。
これらの副作用が生じてしまった場合に早期に対処するためにも、ベニジピンを長期間服用している方は定期的に血液検査などを行うことが望ましいでしょう。
ベニジピンを服用してはいけない方(禁忌)としては、
- 心原性ショックの方
- 妊婦又は妊娠している可能性のある方
が挙げられています。
ベニジピンは動物実験で、妊娠末期に投与すると妊娠期間や分娩時間が延長することが認められています。人でも同様の現象が起こる可能性があるため、妊婦さんへの投与は禁忌となっています。
また心原性ショックによって血圧が低下している方にベニジピンで更に血圧を下げてしまう事は危険であるため、心原性ショックの方にも使用する事は出来ません。
5.ベニジピンの用法・用量と剤形
ベニジピンには、
ベニジピン錠 2mg
ベニジピン錠 4mg
ベニジピン錠 8mg
の3剤形があります。
ベニジピンの使い方は、
<高血圧症、腎実質性高血圧症>
通常、成人には1日1回2~4mgを朝食後経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、効果不十分な場合には、1日1回8mgまで増量することができる。ただし、重症高血圧症には1日1回4~8mgを朝食後経口投与する。
<狭心症>
通常、成人には1回4mgを1日2回朝・夕食後経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
となっています。
5.ベニジピンの作用時間
ベニジピンを服用すると、その薬効はどのくらい続くのでしょうか。
ベニジピンを販売している製薬会社によれば、1日1回の服用で24時間効果が持続すると報告されています。しかしこれには個人差があり、人によっては1日を通して効果が持続しない可能性もあります。
お薬の作用時間は服用する方の代謝能力などによって異なるため絶対的な値を出すことは難しいのですが、1つの目安として「半減期」というものがあります。
半減期というのは、お薬を服用して血中濃度が最大になってから、その血中濃度が半分に落ちるまでにかかる時間のことです。血中濃度が半分まで落ちると、薬効もだいぶ消失してくることが予測されるため、半減期はお薬の作用時間を知る1つの目安になります。
ベニジピンの半減期は非常に短く、約1~2時間と報告されています。そのため、人によっては1日持たないこともあります。
しかし実際の薬効は血中と濃度だけから判断できるものではなく、血中濃度が低くなった状態でも組織には成分がしっかりと存在しているということもあるため、半減期だけで実際の作用時間を導くことはできません。
実際、製薬会社の見解によるとベニジピンは平滑筋の細胞膜に対する親和性が高いため、降圧作用は血中濃度と相関することなく長時間持続すると説明されています。
そのため、ベニジピンは基本的には1日1回投与で良いのですが、それで1日の血圧に波が出てしまう場合は、主治医と相談して1日2回投与にしたり、半減期の長い降圧剤に変更する必要があります。
6.ベニジピンが向いている人は?
以上から考えて、ベニジピンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ベニジピンの特徴をおさらいすると、
【ベニジピンの特徴】
・降圧力はカルシウム拮抗薬の中では弱い |
というものでした。
ここから考えると
- 軽症~中等症など高血圧の程度が軽めの方
- 狭心症(冠攣縮性含む)も持っている方
- 腎障害のある方
- 経済的になるべく安価に済ませたい方
などにベニジピンはお勧めしやすい降圧剤になります。