フラベリック錠(ベンプロペリン)の効果と副作用

フラベリック錠(一般名:ベンプロペリンリン酸塩)はいわゆる「咳止め」で、専門的には「鎮咳薬(ちんがいやく)」と呼ばれるお薬です。

鎮咳薬の中でも非麻薬性鎮咳薬であり、耐性や依存性もなく副作用も少ない安全性の高い咳止めになります。

古いお薬ですが、咳は風邪や咽頭炎、気管支炎などをはじめ多くの疾患で認められる症状であり、現在でも一般内科を中心に処方されています。

フラベリック錠はどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんは使うお薬なのでしょうか。フラベリックの効能や特徴を紹介していきたいと思います。

 

1.フラベリック錠の特徴

まずはフラベリック錠の特徴をざっくりと紹介します。

フラベリック錠は、咳を抑える作用・気管支の筋肉を緩める作用を持つ咳止めになります。効果もまずまずあり、副作用も少なく、安全性の高い咳止め薬になります。

咳止め(鎮咳薬)には大きく分けると、「麻薬性」と「非麻薬性」があります。両者の違いをかんたんに言うと、

  • 麻薬性は、効果はしっかりしているけども耐性や依存性があり、便秘などの副作用も起こりやすい
  • 非麻薬性は、効果は麻薬性には劣るが耐性や依存性はなく、副作用も少ない

と言えます。フラベリック錠は非麻薬性に属しますが、咳を抑える効果はまずまず有しており、副作用も少ない安全性の高い咳止めになります。

ちなみに耐性というのは、お薬を連用していると身体がお薬に慣れてしまって徐々に効きが悪くなってくる事です。また依存性というのは、そのお薬に依存してしまう事でお薬を止められなくなってしまう事を言います。

その他の副作用も少なく、安全性に優れるお薬です。

注意点としては、重篤な副作用ではありませんが、

  • 聴覚異常(聞こえ方がいつもと違う)
  • 口の中のしびれ

が生じる可能性があり、これは鎮咳薬の中でもフラベリックに特徴的な副作用になります。

以上からフラベリック錠の特徴として次のような点が挙げられます。

【フラベリック錠(ベンプロペリンリン酸塩)の特徴】

・咳を抑える作用、気管支の筋肉を緩める作用を持つ咳止め
・非麻薬性であり、耐性や依存性もない
・副作用は少なく安全性が高い
・聴覚異常、口の中のしびれといった独特の副作用の可能性がある

 

2.フラベリック錠はどんな疾患に用いるのか

フラベリック錠はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。

【効能又は効果】

下記疾患に伴う咳嗽

感冒、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺結核、上気道炎(咽喉頭炎、鼻カタル)

難しい病名がたくさん並んでいますが、要するに「咳を生じる呼吸器疾患」に対しての咳止めとして使える、という認識で良いと思います。

臨床でよく用いられるのが、風邪(感冒)や気管支炎、咽頭炎、肺炎などに伴う咳ですね。

ただし咳が出たら全てフラベリック錠を飲まないといけないというわけではありません。基本的に咳というのは「痰を除去する」「ばい菌を体外に追い出す」ために必要な生理反応であり、止めない方がいいものなのです。

風邪や肺炎で気管に菌やウイルスがいるのに、お薬で咳を止めてしまったら、菌やウイルスが体外に排出されず、病気の治りも悪くなってしまいます。

咳を止める必要があるのは、

  • 咳があまりにひどくて、かえって気管を傷付けてしまっている場合
  • 咳があまりにひどくて、夜眠れない場合

など、咳によって菌やウイルス・過剰な痰を排出するというメリットよりも、咳のデメリットが上回っている場合に限ります。

 

3.フラベリック錠にはどのような作用があるのか

咳止め(鎮咳薬)として用いられるフラベリック錠ですが、どのような機序で咳を抑えるのでしょうか。

フラベリック錠には次のような作用があると考えられています。

 

Ⅰ.咳中枢を抑制する

私たちが咳をするのは、脳の「延髄」と呼ばれる部位にある咳中枢が深く関わっています。

咽頭や気管に異物が入りこむと、その信号は咳中枢に送られます。信号がある閾値以上に達すると、咳中枢は「咳をして異物を排出する必要がある」と判断し、呼吸筋や横隔膜などに信号を送り、「咳」をするように指示するのです。

私たちの身体はこのような咳中枢のはたらきによって、異物を排出することが出来るのです。

フラベリック錠は、気管支が刺激を受けた時に咳中枢に信号を送りにくくするというはたらきがあります。また延髄の咳中枢の感度を鈍くする(閾値を上げる)はたらきがあります。これにより、咳中枢は「咳をしなさい」という信号を送りにくくなり、咳が発生しにくくなります。

フラベリックは、「気管支⇒咳中枢」の信号と「咳中枢⇒気管支」の信号の両方を抑えてくれるのです。

 

Ⅱ.気管支筋弛緩作用

フラベリック錠は、気管支の平滑筋という筋肉を緩める(弛緩させる)作用があります。

平滑筋が緩みやすくなると、咳中枢から「咳をしなさい」という刺激がきた時も気管支が強く収縮しないため、咳の強さが弱まります。

 

4.フラベリック錠の副作用

フラベリック錠にはどんな副作用があるのでしょうか。

フラベリック錠は非麻薬性の鎮咳薬に属するため、その副作用は少なく安全性に優れています。副作用発生率は約5%ほどと報告されています。

生じえる副作用としては、

・食欲不振
・腹痛
・眠気
・めまい
・口渇
・倦怠感

などがあります。いずれも重症となる事は稀で、程度は軽度である事がほとんどです。

またちょっと意外な副作用として

・聴覚異常

があります。これは「いつもより音の聞こえ方が違う」という症状で、特に絶対音感を持っている方で生じやすいようです。なぜ生じるのか、その原因はよく分かっていません。

フラベリックは、その成分にしびれ感があるものが含まれています。そのためフラベリック錠にはフィルムコートがされているのですが、それでも時に口の中のしびれを感じてしまう事もあります。

 

 

ちなみに麻薬性の鎮咳薬などでは、

・耐性
・依存性

などの副作用が生じますが、フラベリック錠においてはこれらの副作用は認めません。

 

5.フラベリックの用法・用量と剤形

フラベリックは次の剤型が発売されています。

フラベリック錠(ベンプロペリンリン酸塩) 20mg

と、1剤型のみが発売されています。

フラベリック錠の使い方は、

通常成人1回20mgを1日3回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

と書かれています。

フラベリック錠はその成分により口の中にしびれを感じることがあります。それを防ぐため、フラベリックにはフィルムコートがされています。

このような特徴があるためフラベリック錠は噛まないように気を付けて下さい。

添付文書上は1日3回の服用となっており、1日を通して咳を抑えたいのであればこのような服用法が好ましいと言えます。しかし特定の時間だけの咳を抑えたいのであれば、主治医と相談の上で、1日1回投与なども可能です。「夜寝る時だけ咳を抑えたい」という事であれば、主治医が許可してくれれば、1日1回就寝前投与でも問題はありません。

 

6.フラベリック錠が向いている人は?

以上から考えて、フラベリック錠が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

フラベリック錠の特徴をおさらいすると、

・咳を抑える作用、気管支の筋肉を緩める作用を持つ咳止め
・非麻薬性であり、耐性や依存性もない
・副作用は少なく安全性が高い
・聴覚異常、口の中のしびれといった独特の副作用の可能性がある

などがありました。

咳を抑える作用は強力というほどではありませんが、ある程度の力は有します。また非麻薬性であり、重篤な副作用は少ないため

  • 軽度~中等度の咳症状を認める方

にも向いています。副作用も少ないフラベリック錠は咳を抑えたい時にまず検討すべきお薬として適しています。

まずはフラベリック錠などの非麻薬性の鎮咳薬から開始し、それでも咳が抑えられない時は麻薬性鎮咳薬などのより強力な鎮咳薬を試すのがよいでしょう。

注意点として、「聴覚異常」の副作用は音に敏感な方や絶対音感を持っている方にとっては不快に感じることが多いようです。この副作用はフラベリック錠の副作用を中止すれば改善するものであり、重篤なものではありませんが、気になる方はフラベリック錠以外の鎮咳薬の方がいいかもしれません。