キョウベリン錠(ベルベリン塩化水和物)は1978年から発売されている止瀉剤になります。止瀉剤とはいわゆる「下痢止め」のお薬のことです。
止瀉剤の中でキョウベリン錠は穏やかに効き、副作用も少ないお薬になります。
キョウベリン錠はどんな作用のあるお薬で、どんな患者さんに向いているのでしょうか。
キョウベリン錠の効果や特徴についてみていきましょう。
目次
1.キョウベリン錠の特徴
まずはキョウベリン錠(ベルベリン塩化水和物)の特徴について、かんたんに紹介します。
キョウベリン錠は下痢止めになり、主に軟便や水様便といった下痢症を改善させるために用います。
キョウベリン錠は主成分が「ベルベリン塩化水和物」と呼ばれる物質です。ベルベリンはキハダ(黄柏)と呼ばれるミカン科の植物やオウレン(黄連)と呼ばれるキンポウゲ科の植物に含まれる成分です。
オウレン(黄連)は消炎作用や健胃作用、整腸作用、抗菌作用を持つことが古くから知られており、漢方薬にも使われている生薬になります。
キョウベリンの錠の具体的な作用としては、
- 腸管の動きを抑える作用
- 抗菌作用
- 腸内の発酵抑制作用
- 胆汁分泌促進作用
などがあり、これらが総合的にはたらき、下痢を抑えるのに役立ってくれます。
植物由来の成分であるキョウベリンは、全体的に効果は穏やかで、それぞれの作用も強くはありません。穏やかに効き、安全性にも優れるお薬になります。
しかし下痢というものは、基本的には止めない方が良いものです。そのため下痢止めもなるべくなら使わない方が良いものです。
なせならば下痢が生じている時は、必要があって下痢になっていることが多いからです。
例えば腸管に細菌が感染してしまって下痢が生じている「感染性腸炎」の場合、身体は細菌を早く体外に流し出したいために腸管の動きを活性化させ、その結果下痢になってしまっていることがあります。
この時にキョウベリンなどで腸管の動きを抑えて細菌を排出させにくくしてしまうと、下痢自体は確かに一時的に治まるでしょうが、細菌は腸内でどんどん増殖してしまうのでしょう。
そのため、下痢をお薬で抑える時には「その下痢は本当にお薬で止めても大丈夫なのか」という事を慎重に判断しないといけず、下痢が生じたら安易に使っていいものではありません。
以上から、キョウベリン錠の特徴として次のようなことが挙げられます。
【キョウベリン錠(ベルベリン)の特徴】
・腸管の動きを抑える作用がある
・抗菌(ばい菌をやっつける)作用がある
・腸内の異常発酵を防止する作用がある
・胆汁の分泌を促し、腸内環境を良好に保つ作用がある
・植物由来の成分であり、作用は穏やかだが安全性も高い
・下痢止めは極力使うべきではないため、適応は慎重に
2.キョウベリン錠はどんな疾患に用いるのか
キョウベリン錠はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
下痢症
キョウベリン錠は下痢止めになりますので、主な適応は下痢症になります。
ただし注意点としては、感染を伴う下痢症への使用は推奨されていません。
細菌やウイルスが腸に感染している場合、私たちの身体は腸を活発に動かすことで菌やウイルスを体外に排泄しようとします。
その時、キョウベリン錠などの下痢止めで腸管の動きを抑えてしまうと、菌やウイルスがなかなか排泄されなくなり、感染がかえって長引いてしまう可能性が高くなるためです。
3.キョウベリン錠にはどのような作用があるのか
キョウベリン錠はどのような作用機序で下痢を抑えているのでしょうか。その作用について詳しくみていきましょう。
Ⅰ.腸管の動きを抑える
キョウベリンは腸管の動きを抑える作用があります。
下痢になっている時というのは、腸管の動きが活性化されすぎていることがあります。腸管がいつもより早く蠕動してしまうと、十分な栄養や水分を吸収できないまま便が排泄されてしまうため、下痢になってしまうのです。
このような状態の時に腸管の動きを抑える作用のあるお薬を投与すると、腸管の動きがちょうど良くなります。
Ⅱ.抗菌作用
キョウベリンには抗菌作用(細菌に抵抗する作用)があります。
細菌の感染によって下痢になっている場合、基本的に下痢止めは使いずらいものなのですが、キョウベリンはこの抗菌作用があるため、下痢止めの中では細菌感染による下痢にも比較的使いやすいお薬になります。
具体的には、食中毒の原因として多いビブリオ菌やカンピロバクター菌、ブドウ球菌などを初め、赤痢菌、チフス菌などに殺菌作用(菌を殺す作用)があることが確認されています。
しかし抗菌作用があるとはいっても、他の下痢止めと同じで下痢に安易に使っていいものではなく、その適応は慎重に判断する必要があります。
Ⅲ.腸内容物の腐敗を防止する
腸の調子が悪くなった時に、腸内で異常発酵が起こってしまうことがあります。
胃腸の調子が悪くなった時、放屁の臭いがいつもと異なり悪臭となることがありますが、これは腸内で異常発酵が生じてしまっているのです。
異常発酵が生じると、腸内環境が更に悪くなってしまい、病気の治りも遅くなってしまいます。
腸内発酵が生じる一因として、大腸菌がインドールやスカトールなどの有害物質を産生することが挙げられます。これらは悪臭を放ち、便の悪臭の一因となっています。
キョウベリンに含まれるベルベリン塩化水和物は、大腸菌がインドールやスカトールを産生するのを抑制します。その結果、腸内環境を整えるはたらきがあるのです。
Ⅳ.胆汁の分泌を促進する
胆汁は肝臓で作られ、食事から取った脂肪を体内に吸収しやすくしてくれます。
胆汁がしっかりと分泌されていると脂肪がしっかりと吸収されるため、腸内環境も良好に保たれます。反対に胆汁が少ないと脂肪が体内に吸収されず、腸管内に残ってしまいます。
腸内に残った脂肪は腸内細菌のバランスを崩したり、腸内環境を悪化させてしまうことがあります。
キョウベリンは肝臓で胆汁が作られるのを促進するはたらきがあります。胆汁を作りやすくすることで、腸内環境を良好に保ってくれるのです。
4.キョウベリン錠の副作用
キョウベリン錠の成分は植物由来であることもあり、安全性は高いお薬になります。
キョウベリン錠の詳しい副作用発生率の調査は行われていないため、正確な副作用発症頻度は不明ですが、印象としては副作用の発生率は多くはありません。
参考までにキョウベリンと同じ成分を含んでいる「フェロベリン」の副作用発生率は0.3%と報告されており、副作用は少ないお薬になります。
【キョウベリン】
1錠中にベルベリン100mg配合【フェロベリン配合錠】
1錠中にベルベリン37.5mg、ゲンノショウコエキス 100.0mg配合
キョウベリンで可能性のある副作用としては、
- 便秘
が挙げられます。これはキョウベリンが腸管の動きを抑えすぎてしまう事による副作用です。多くの場合でこの副作用は量を適切に調整すれば改善します。
感染が疑われるような下痢(感染性胃腸炎など)にはキョウベリンをはじめとした止瀉薬は原則として用いてはいけません。感染性腸炎にキョウベリンを用いて腸管の動きを抑えてしまうと、腸管内で悪さをしている病原菌(細菌・ウイルスなど)が増殖しやすくなり、いつまでも腸管から排出されなくなってしまうからです。
現状では感染がある場合でも、抗菌作用のあるキョウベリンは使われることもあります。使うメリットの方が高いと判断されれば用いられることもありますが、少なくとも安易に用いていいものではないのです。
また副作用ではありませんが、キョウベリンは苦味のあるお薬になります。
5.キョウベリンの用法・用量と剤形
キョウベリンは、
キョウベリン錠(ベルベリン塩化水和物) 100mg
の1剤形のみがあります。
キョウベリン錠の使い方は、
通常成人1日150~300mgを3回に分割経口投与する。なお、症状により適宜増減する
と書かれています。
6.キョウベリン錠が向いている人は?
以上から考えて、キョウベリン錠が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
キョウベリン錠の特徴をおさらいすると、
・腸管の動きを抑える作用がある
・抗菌(ばい菌をやっつける)作用がある
・腸内の異常発酵を防止する作用がある
・胆汁の分泌を促し、腸内環境を良好に保つ作用がある
・植物由来の成分であり、作用は穏やかだが安全性も高い
・下痢止めは極力使うべきではないため、適応は慎重に
というものでした。
キョウベリンは植物由来の成分であり、安全性の高さが特徴として挙げられます。
抗菌作用を有している点も大きな特徴で、基本的に感染によって生じている下痢に対して下痢止めは使うべきではないのですが、抗菌作用のあるキョウベリンは細菌性の下痢に比較的使いやすいお薬になります。
またキョウベリンで効果不十分の場合には、ベルベリンにゲンノショウコエキスというものが配合された「フェロベリン配合錠」という止瀉薬(下痢止め)もありますので、こちらに変更するのも一つの方法になります。