ビサコジル坐剤は1968年から発売されているお薬で、下剤(便秘に用いる排便を促す薬)になります。
古いお薬ではありますが、便秘に対する良好な効果と坐薬という剤型の特徴から今でも広く用いられています。
ビサコジルはどのような特徴のある下剤で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ここではビサコジル坐薬の特徴や効果・副作用についてみていきましょう。
目次
1.ビサコジル坐薬の特徴
まずはビサコジル坐薬の特徴についてざっくりと紹介します。
ビサコジル坐薬は、大腸を刺激する作用を持つ「大腸刺激性下剤」になります。確実で強力な効果が期待でき、また即効性にも優れます。
注意点としては耐性(慣れ)や挿入する時に肛門を傷付けるリスクが挙げられます。
ビサコジルは下剤ですが、下剤の中でも「大腸刺激性下剤」という種類に属します。
下剤にはいくつかの種類があり、それぞれで便を出す作用機序が異なります。
大腸刺激性下剤は大腸を刺激する事で大腸の動きを活性化させ、排便を促すという作用機序を持つ下剤の事です。
またビサコジルは肛門に入れて使う坐薬ですので、大腸の中でも結腸や直腸といった下の方に集中的に作用し、その他の部位には作用しにくいという特徴があります。
つまり、ビサコジルは結腸や直腸といった大腸の下部の動きが低下して便秘になっている方に向いている下剤だと言う事です。そのため「便が下の方まで下りてきているけど、あと一歩で出ない」というような便秘には適しています。
大腸を刺激して排便を促すという方法は確実で強力な作用を期待できる反面で、使用を続けていると大腸が次第に刺激に慣れてきてしまって効きが悪くなってくるというデメリットもあります。
大腸への刺激を慢性的に続けていると、次第に大腸は刺激に反応しなくなり、必要なお薬の量がどんどんと増えてしまいます。これを「耐性が生じる」と言います。
またビサコジルは「坐薬である」という点も大きな特徴です。
お薬は口から服用する「経口投与」がほとんどですが、飲み薬は飲み込む力が弱い方やお薬の必要性を理解できずに飲む事を拒否してしまう方には不適のお薬です。
しかし坐薬は肛門に入れることで効果を発揮しますので、例えば言葉がうまく伝わらないような小さい子や認知症の高齢者の方にも使いやすいというメリットもあります。
ビサコジルは即効性があるのも大きな特徴です。作用発現までにかかる時間は、肛門に挿入してから早いと5分、遅くても1~2時間以内と報告されています。入れてすぐに作用が得られるため、排便コントロールに使いやすいお薬です。
以上からビサコジル坐薬の特徴として次のようなことが挙げられます。
【ビサコジル坐薬の特徴】
・大腸を刺激して大腸の蠕動運動を亢進させる事で排便を促す |
2.ビサコジル坐薬はどのような疾患に用いるのか
ビサコジル坐薬はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
便秘症
消化管検査時又は手術前後における腸管内容物の排泄
ビサコジルは下剤ですので、使用する疾患は当然「便秘」になります。
実際の臨床現場においても、便秘の改善のために用いられることがほとんどです。
ちなみに「消化管検査時又は手術前後における腸管内容物の排泄」という記載もありますが、これは要するに胃カメラや大腸カメラをする前や手術前後などに腸管を空っぽにする目的で使ってもいいですよ、という事です。
胃カメラや大腸カメラを行う前には、腸管は出来る限り空っぽにしなくてはいけません。食べたものや便がたくさん腸管に残っていると、せっかくカメラで見ても何も見えなくなってしまうからです。
また手術の内容によっては手術前も腸管を空っぽにしておく必要があります。手術後は、しばらく寝たきりで動けない事もあるため、便秘になりやすくなります。
便秘症だけでなく、このような状態の時もビサコジルを使うことができます。
3.ビサコジルの作用機序
主に便秘症に対して用いられるビサコジル坐薬ですが、どのような機序で便秘を改善させているのでしょうか。
ビサコジルは坐薬として肛門に入れることで、直接結腸や直腸といった大腸の下側の腸管壁を刺激し、腸管の動きを促進します。また、同部からの水分吸収を抑えることで便を柔らかくするはたらきもあります。
現在用いられている下剤は、次の2つの作用を持つものに分けられます。
- 便を柔らかくする(酸化マグネシウム、バルコーゼ、アミティーザなど)
- 大腸を刺激して腸を動かす(プルゼニド、アローゼンなど)
どちらも便秘には効果があり、患者さんの便秘の状態に応じて使い分けられます。
このうちビサコジル坐薬は、後者の「大腸を刺激して腸を動かす」作用が主であるお薬になりますが、腸管から体内に水分が吸収されるのを抑える作用によって前者の便を柔らかくする作用も併せて持っているお薬になります。
ビサコジルの主な作用を詳しく紹介します。
Ⅰ.結腸・直腸の刺激作用
ビサコジル坐薬は肛門に入れることで、大腸の下側である結腸や直腸の腸管壁に作用し、腸管の蠕動運動を改善させるはたらきがあります。
他の大腸刺激性下剤との違いは、結腸・直腸への選択性が高く、その他の部位(小腸や盲腸など)にはほとんど作用しない事です。そのため、結腸・直腸まで便が下りてきており、「あともう一歩で便が出そう」という便秘の方に適したお薬になります。
Ⅱ.水分吸収抑制作用
ビサコジル坐薬は、結腸・直腸の腸管壁に作用して腸管の動きを改善するだけでなく、腸管から体内に水分が吸収されるのを抑えるはたらきもあります。
腸管から体内に水分を吸収できなくなると、腸管内の水分量が多くなるため、便が水分を含み柔らかくなります。
このようにビサコジルは便を柔らかくして排便を促すという作用も併せ持っているのです。
ちなみにビサコジルは水分の吸収は抑制しますが、結腸や直腸にしか作用しないため栄養分の吸収が抑えられることはほとんどなく、その影響は無視できる程度です。
4.ビサコジル坐薬の副作用
ビサコジル坐薬にはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
センノシドはお薬によって大腸の動きを活性化するため、時に大腸を動かしすぎることによる副作用が生じます。副作用発生率の詳しい調査は行われていませんが、臨床で使用している印象では正しい用法で用いれば副作用の多いお薬ではありません。
生じうる副作用としては、
- 血圧低下
- 発汗、冷感
- 直腸刺激感
- 肛門部痛
- 腹部不快感
などが挙げられています。
血圧低下や発汗、冷感などは肛門にお薬が入ったことによる刺激で反応性に生じた自律神経症状であると考えられます。
また肛門にお薬を挿入するため、入れ方が悪いと肛門部痛などを引き起こす事があります。
ビサコジル坐薬は大腸を刺激するお薬ですので、効きすぎて大腸の動きが活発になりすぎると腹部の不快感や腹痛を感じる事もあります。
ただし、いずれも重篤となる事は稀です。
ビサコジル坐薬を使ってはいけない方(禁忌)としては、
- 急性腹症が疑われる方
- けいれん性便秘の方
- 重症の硬結便のある方
- 肛門裂創、潰瘍性痔核のある方
が挙げられています。
ビサコジル坐薬は大腸を刺激するお薬ですので、腸管を刺激しない方が良いような疾患がある場合は使用してはいけません。
また肛門から挿入するお薬ですので、肛門に明らかな傷がある方は使用してはいけません。
5.ビサコジルの用法・用量と剤形
ビサコジルは、
ビサコジル坐薬 2mg
ビサコジル坐薬 10mg
の2剤形があります。
ビサコジル坐薬の使い方としては、
乳幼児は2mgを、1日1~2回肛門内に挿入する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
成人は10mgを、1日1~2回肛門内に挿入する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
と書かれています。
要するに2mgが子供用、10mgが大人用です。
6.ビサコジル坐薬はどれくらいで作用が発現するのか
ビサコジル坐薬の特徴の一つに、「即効性」があります。
入れてすぐに効くため、排便をしたい時に使え、また排便コントロールの目安を付けやすいのはこのお薬の強みです。
では具体的に使用してからどれくらいで効果が得られるのでしょうか。
個人差はありますが、早いと5分、遅くても1~2時間ほど経てば効果が出現すると考えられています。
2時間以内には効果が出ることを考えて使用する必要がありますので、例えば寝る直前に使うなどといった方法はあまり良くないことが分かります。
7.ビサコジル坐薬が向いている人は?
以上から考えて、ビサコジル坐薬が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ビサコジル坐薬の特徴をおさらいすると、
【ビサコジル坐薬の特徴】
・大腸を刺激して大腸の蠕動運動を亢進させる事で排便を促す |
というものでした。
ここから、
・かなり下まで便が下りてきているけども、あと一歩のところで便が出ない、という方
・乳幼児や認知症の高齢者など、服薬の意義を理解できない方
・排便時間をある程度分かりやすくした方が良い方
などにとっては向いているお薬だといえます。
反対に、
・便が結腸・直腸まで下りてきていない方
にはほとんど効果はありません。ビサコジルは結腸・直腸にしか作用せず、その他の腸管にはあまり作用しないからです。