次硝酸ビスマス散の効果と副作用【止瀉剤】

次硝酸ビスマス散(一般名:次硝酸ビスマス)は1979年から発売されている止瀉剤になります。止瀉剤とはいわゆる「下痢止め」のお薬のことです。

以前は下痢止めとして使用されていた次硝酸ビスマスですが、長期使用・大量使用によって困った副作用が出ることがあるため、近年ではあまり処方されなくなってきています。

次硝酸ビスマスはどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているのでしょうか。

次硝酸ビスマスの効果や特徴についてみていきましょう。

 

1.次硝酸ビスマスの特徴

まずは次硝酸ビスマスの特徴について、かんたんに紹介します。

次硝酸ビスマス散(一般名:次硝酸ビスマス)は下痢止めになり、主に軟便や水様便といった下痢症を改善させるために用います。

次硝酸ビスマスの下痢止めとしての作用は主に収斂(しゅうれん)作用によるものになります。収斂作用とは、組織を収縮させる(引き締める)作用の事です。次硝酸ビスマスは腸管粘膜を収縮させることにより、炎症を抑えてくれます。これにより腸管の炎症によって生じていた下痢を改善することが期待できます。

また腸内の異常発酵によって生じる有毒ガスである硫化水素を解毒するはたらきもあり、これも腸内環境を整える作用として下痢を抑えるために貢献します。

次硝酸ビスマスは腸管粘膜に膜を張ることで腸管を保護するはたらきもあるとも言われていますが、これは疑問視する意見もあるため、本当にあるのかどうかは分からないところです。

デメリットとしては、長期使用や大量使用で困った副作用が出てしまう事があります。具体的には不安・無気力などの精神症状や頭痛・ふるえなどの身体症状、また亜硝酸中毒による決悦低下やチアノーゼなどが出現する可能性も稀ながらあります。

このため、次硝酸ビスマスは長期投与する場合は、月に20日以上は使用しないようにという制限がかけられています。

ちなみに下痢というものは、基本的には止めない方が良いものです。そのため下痢止めもなるべくなら使わない方が良いものです。

なせならば下痢が生じている時は、必要があって下痢になっていることが多いからです。

例えば腸管に細菌が感染してしまって下痢が生じている「感染性腸炎」の場合、身体は細菌を早く体外に流し出したいために腸管の動きを活性化させ、その結果下痢になってしまっていることがあります。

この時に次硝酸ビスマスなどで腸管の動きを抑えて細菌を排出させにくくしてしまうと、下痢自体は確かに一時的に治まるでしょうが、細菌は腸内でどんどん増殖してしまうのでしょう。

そのため、下痢をお薬で抑える時には「その下痢は本当にお薬で止めても大丈夫なのか」という事を慎重に判断しないといけず、下痢が生じたら安易に使っていいものではありません。

ここから次硝酸ビスマス末の特徴として次のようなことが挙げられます。

【次硝酸ビスマス散の特徴】

・腸管粘膜を収縮させることで炎症を抑えて下痢を改善させる
・有毒ガスである硫化水素を無毒化する
・長期・大量使用で副作用に注意(精神症状や亜硝酸中毒など)
・下痢止めは極力使うべきではないため、適応は慎重に

 

2.次硝酸ビスマスはどんな疾患に用いるのか

次硝酸ビスマスはどのような疾患に用いられるのでしょうか。次硝酸ビスマスの添付文書を見ると、次のように記載されています。

【効能又は効果】
下痢症

次硝酸ビスマスは下痢止めになりますので、主な適応は下痢症になります。

ただし注意点としては、感染を伴う下痢症への使用は推奨されていません。

細菌やウイルスが腸に感染している場合、私たちの身体は腸を活発に動かすことで菌やウイルスを体外に排泄しようとします。

その時、次硝酸ビスマスなどの下痢止めで腸管の動きを抑えてしまうと、菌やウイルスがなかなか排泄されなくなり、感染がかえって長引いてしまう可能性が高くなるためです。

 

3.次硝酸ビスマスにはどのような作用があるのか

次硝酸ビスマスはどのような作用機序で下痢を抑えているのでしょうか。その作用を紹介します。

 

Ⅰ.収斂作用

次硝酸ビスマスには収斂作用があります。

収斂作用とは、組織や血管を縮めて炎症を抑える作用の事です。次硝酸ビスマスは腸管内に存在するタンパク質を変性させることにより、収斂作用を発揮します。

 

Ⅲ.硫化水素の無毒化

腸の調子が悪くなった時に、腸内で異常発酵が起こってしまうことがあります。

胃腸の調子が悪くなった時、放屁の臭いがいつもと違うことがありますが、これは腸内で異常発酵が生じてしまっているのです。

これが生じると、腸内環境が更に悪くなってしまい、病気の治りも遅くなってしまいます。

腸内異常発酵が生じると、硫化水素と呼ばれる物質が生成されます。硫化水素は腐った卵のような匂いを発し、温泉などでも匂うことのあるものです。

硫化水素は毒性がありますが、次硝酸ビスマスはこの硫化水素と結合することで解毒作用を有します。

 

4.次硝酸ビスマスの副作用

次硝酸ビスマスは、腸管の炎症を抑えたり、硫化水素を無毒化するはたらきがあります。一方で副作用はどうなのでしょうか。

次硝酸ビスマスの詳しい副作用発生率の調査は行われていないため、正確な副作用発症頻度は不明ですが、次硝酸ビスマスは副作用に注意すべきお薬になります。

可能性のある副作用として、

  • 吐き気
  • 食欲不振
  • 便秘

などが挙げられます。これらは次硝酸ビスマスが下痢を抑えるために出現する作用になり、お薬の量を適正にすることで多くの場合改善が得られます。

次硝酸ビスマスは長期・大量の使用を続けていると、精神症状が現れることがあります。これが問題で、これによって次硝酸ビスマスは近年あまり使われなくなりました。

具体的には、

  • 不安感
  • 無力感
  • 混迷
  • 錯乱

などといった症状の他、

  • 頭痛
  • ふるえ、けいれん
  • 運動障害

などが出現することもあります。

また、頻度は稀ながらも

  • 亜硝酸中毒(血圧低下、皮膚の潮紅、チアノーゼなど)

が起こる可能性もあります。これは次硝酸ビスマスが腸内で亜硝酸イオンになることが理由です。亜硝酸イオンは血管拡張作用があり、血圧低下などを来たします。

これら精神症状・中毒の問題から、ビスマスは長期投与を避ける必要があり、やむを得ず長期使用する場合は、1ヶ月に20日程度の投与に留めるようにとされています。

また次硝酸ビスマスは、胃潰瘍などの重篤な消化管潰瘍がある方に用いてはいけません。潰瘍部からビスマスが体内に吸収されてしまい、上記のような副作用を生じるリスクが高まるためです。

感染が疑われるような下痢(感染性胃腸炎など)にも原則として用いてはいけません。感染性腸炎に次硝酸ビスマスを用いて腸管の動きを抑えてしまうと、腸管内で悪さをしている病原菌(細菌・ウイルスなど)が増殖しやすくなり、いつまでも腸管から排出されなくなってしまうからです。

副作用ではありませんが、次硝酸ビスマスを服用すると便の色が黒くなることがあります。これは次硝酸ビスマスが硫化水素と結合して硫化ビスマスになるためです。

 

5.次硝酸ビスマスの用法・用量と剤形

次硝酸ビスマスは、

次硝酸ビスマス散 500g

の1剤形のみがあります。

とは言っても、500gの瓶をそのまま処方される事は少なく、薬局で1gなどに分けて袋に入れてくれます。

次硝酸ビスマスの使い方は、

通常、成人1日2gを2~3回に分割経口投与する。なお、症状により適宜増減する

と書かれています。

 

6.次硝酸ビスマスが向いている人は?

以上から考えて、次硝酸ビスマスが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

次硝酸ビスマスの特徴をおさらいすると、

・腸管粘膜を収縮させることで炎症を抑えて下痢を改善させる
・有毒ガスである硫化水素を無毒化する
・長期・大量使用で副作用に注意(精神症状や亜硝酸中毒など)
・下痢止めは極力使うべきではないため、適応は慎重に

というものでした。

次硝酸ビスマスは現在においては、副作用を考えると積極的に使われる下痢止めではありません。

まずはより安全性の高い下痢止めから用いる事が多く、次硝酸ビスマスを使用するのはそういったお薬が効かないなど、やむを得ないケースになります。

また下痢は基本的にはお薬で無理矢理抑えない方が良いものです。下痢がひどくて、その下痢を止めるメリットが止めないメリットよりも大きい場合にのみ、服薬するようにしましょう。

例えば、このまま下痢が続けば脱水になってしまいそう、電解質のバランスが崩れてしまいそう、という時には検討しても良いでしょう。

適応を主治医に慎重に見極めてもらい、必要な時にのみ使用するようにしましょう。