ブロプレス(一般名:カンデサルタン シレキセチル)は1999年に発売された降圧剤(血圧を下げるお薬)で、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(AngiotensinⅡ Receptor Blocker:ARB)という種類に属します。
ブロプレスをはじめとしたARBは、血圧を下げる作用の他、心臓や腎臓などの臓器を保護する作用もあるため、臓器障害を有する方にも適した降圧剤になります。
ARBは上手に使えば1剤で複数の効果が期待できます。お薬の作用をしっかりと熟知すれば非常に頼もしいお薬だと言えるでしょう。
血圧を下げる降圧剤にも多くの種類があります。その中でブロプレスはどんな特徴のある降圧剤で、どんな患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ブロプレスの効果や特徴についてみていきましょう。
1.ブロプレス錠の特徴
まずはブロプレス錠というお薬の特徴についてみてみましょう。
ブロプレスはARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)という種類の降圧剤になります。ARBはアンジオテンシンⅡという物質のはたらきをブロックすることで、血圧を下げるお薬になります。アンジオテンシンⅡは血圧を上げる作用が強い物質なので、これをブロックすると血圧が下がるのです。
ARBはブロプレス以外にもいくつかあります。まずはARBの特徴について紹介します。
【ARBの特徴】
・血圧を下げる力(降圧力)は中程度
・臓器保護作用があり心不全・腎不全にも用いられる
・お薬によっては血糖値や尿酸値などの改善も期待できる
ARBは降圧剤に属し、血圧を下げるはたらきを狙って投与されるお薬です。しかしそれ以外にも付加的な効果が期待できます。単純に「血圧を下げる力」だけを見れば、カルシウム拮抗薬という降圧剤の方が強力です。しかしARBは、血圧を下げる以外にも付加的な効果があるのです。
その1つが「臓器保護作用」です。ARBは心臓や腎臓を保護してくれる作用が確認されています。
血圧が高いと心臓や腎臓にもダメージを与えます。血液は心臓から全身の血管に届くわけですから、血管が硬くなって血圧が上がれば心臓の負荷が上がり、心臓も痛みやすくなります。
また腎臓は血液から老廃物を取り出し尿を作るはたらきがあります。血管が硬くなっている高血圧の方では、尿を作るのも負荷がかかるようになり腎臓も痛みやすくなります。
このように血圧が高い方というのは、心臓や腎臓といった臓器にもリスクが生じるため、臓器保護作用を持つARBは高血圧による全身へのダメージをより広く守ってくれるお薬だと言えるでしょう。
またARBの中には様々な付加的効果を持つものがあり、糖尿病や高尿酸血症の改善も期待できるものがあります。
では次にARBの中でのブロプレスの特徴を紹介します。
・血圧を下げる力は中程度
・心不全に適応を持っている
ブロプレスは降圧力(血圧を下げる力)はARBの中では中等度です。
ブロプレスのメリットとして心不全に適応がある点が挙げられます。どのARBも心不全に効果はあるのですが、適応疾患に「心不全」と明記されているARBは多くはありません。ブロプレスは「ACE阻害薬の投与が適切ではない場合」という前提はあるものの、心不全に保険適応を持っている点はメリットの1つです。
ブロプレスは1999年発売とARBの中では古い部類に属します。ブロプレスは武田薬品が発売していますが、同社は2012年に「アジルバ」というARBも発売しています。アジルバは作用時間も長く降圧力も強いARBであり、現在ではこちらが多く処方されるようになっています。
そのためブロプレスの処方数というのは現在あまり多くはありません。
以上からブロプレスの特徴を挙げると次のようになります。
【ブロプレスの特徴】
・降圧作用は中程度
・心臓・腎臓などの臓器保護作用がある
・心不全に適応を持っている
2.ブロプレス錠はどんな疾患に用いるのか
ブロプレスはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
1.高血圧症
2.腎実質性高血圧症
3.慢性心不全(軽症〜中等症)(アンジオテンシン変換酵素阻害剤の投与が適切でない場合)
ブロプレスは降圧剤ですので「高血圧症」の患者さんに用います。
またブロプレスは臓器保護作用を持っており、このためブロプレスのようなARBは心不全や腎不全に対しての治療薬としてもよく用いられています。
ブロプレスの有効率は、
- 軽症・中等症本態性高血圧症への有効率は78.1%
- 重症高血圧症への有効率は83.8%
- 腎障害を伴う高血圧症への有効率は72.2%
- 腎実質性高血圧症への有効率は73.3%
と報告されています。
またブロプレスは心保護作用があるため心不全に対して適応を持っています。
実際、心不全患者さんにブロプレスを投与する事で、心不全症状の明らかな悪化が有意に抑制された事が報告されています。
3.ブロプレス錠にはどのような作用があるのか
ブロプレスは具体的にどのような作用を有しているのでしょうか。
ブロプレスの作用機序について紹介します。
Ⅰ.降圧作用
ブロプレスは「降圧剤」であり、主な作用は血圧を下げる作用になります。
ではブロプレスはどのような機序で血圧を下げてくれるのでしょうか。
私たちの身体の中には、血圧を上げる仕組みがいくつかあります。その1つに「RAA系」と呼ばれる体内システムがあります(RAA系とは「レニン-アンジオテンシン-アルドステロン」の略です)。
RAA系は本来、血圧が低くなりすぎてしまった時に血圧を上げるシステムです。
腎臓は血液から老廃物を取り出して尿を作る臓器ですが、ここに「傍糸球体装置」というものがあります。傍糸球体装置は腎臓に流れてくる血液が少なくなると「レニン」という物質を放出します。
レニンはアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンⅠという物質に変えるはたらきがあります。
更にアンジオテンシンⅠはACEという酵素によってアンジオテンシンⅡになります(ちなみにこれをブロックするのがACE阻害薬という降圧剤です)。
アンジオテンシンⅡは、血管を収縮させて血圧を上げるはたらきがあります。また副腎という臓器に作用して、アルドステロンというホルモンを分泌させます。
アルドステロンは血液中にナトリウムを増やします(詳しく言うと、尿として捨てる予定だったナトリウムを体内に再吸収します)。血液中のナトリウムが増えると血液の浸透圧が上がるため、ナトリウムにつられて水分も血液中に引き込まれていきます。これにより血液量が増えて血圧も上がるという仕組みです。
通常であればこのRAA系は、血圧が低くなった時だけ作動する仕組みです。しかし血圧が高い状態が持続している方は、このRAA系のスイッチが不良になってしまい、普段からRAA系システムが作動してしまっていることがあります。
ブロプレスをはじめとしたARBは、アンジオテンシンⅡのはたらきをブロックすることで、RAA系が作動しないようにします。すると血圧を上げる物質が少なくなるため、血圧が下がるというわけです。
Ⅱ.臓器保護作用
ブロプレスには臓器保護作用があります。
具体的には心臓・腎臓や脳に対して、これらの臓器が傷付くのを防いでくれるのです。
心臓が傷んでしまい、十分に機能できなくなる状態を「心不全」と呼びます。高血圧は心不全のリスクになるため、ブロプレスの降圧作用はそれ自体が心保護作用になります。
またそれ以外にも先ほど説明したRAA系の「アンジオテンシンⅡ」は心臓の筋肉(心筋)の線維化を促進し、これも心臓の力を弱める原因となります。
ブロプレスはアンジオテンシンⅡのはたらきをブロックしてくれるため、これも心保護作用になります。
実際、ブロプレスのようなARBは心不全に対しての第一選択薬となっています。
特にブロプレスは心不全(軽症~中等症)に対して保険適応を持っており、心不全に対する効果がしっかりと調査されています。
ブロプレスによって、
- EF(左室駆出率)の増加
- LVDd(左室拡張末期径)、LVDs(左室収縮末期径)の減少
- CTR(心胸郭比)の減少
- 左室心筋重量の減少
- BNP(脳性ナトリウムペプチド)の減少
が得られる事が報告されています。これらはいずれも心不全の改善を示唆する所見になります。
また腎臓に対しても同様です。
腎臓が傷んでしまい、十分に機能できなくなる状態は「腎不全」と呼ばれ、これも高血圧が発症リスクになるため、ブロプレスの降圧作用はそれ自体が腎保護作用になります。
アンジオテンシンは腎臓の線維化も促進し、これも腎不全の原因になるのですが、ブロプレスは同様の機序で腎臓の線維化を抑え、腎保護作用を発揮します。
4.ブロプレス錠の副作用
ブロプレスの副作用はどのようなものがあるのでしょうか。またブロプレスは安全はお薬なのでしょうか、それとも副作用が多いお薬なのでしょうか。
全体的な印象としてブロプレスをはじめとしたARBは安全性が高いお薬です。高血圧の患者さんは多く、ARBを処方する機会も非常に多いのですが、適正に使用していれば重篤な副作用に出会うことはほとんどありません。
ブロプレスの副作用発生率は約5.2~24.4%(慢性心不全への投与は11.6~48.2%)と報告されています。
生じうる副作用としては、
- 発疹、湿疹、じんましん
- めまい、ふらつき、たちくらみ
- 頭痛
- 不眠
- 悪心・嘔吐
- 倦怠感
- 脱力感
などがあります。頭痛やめまいはブロプレスは血圧を下げてしまうことによって生じる症状です。
また血液検査値の異常の報告もあります。
- 肝酵素(AST、ALT、LDH、ɤGTPなど)上昇
- CK(CPK)上昇
- 総コレステロール上昇
- 赤血球減少
- クレアチニン上昇
- BUN上昇
- カリウム上昇
などです。
ブロプレスは「アルドステロン」というホルモンのはたらきを弱めますが、アルドステロンは本来、体内のナトリウムを増やし、その代り体内のカリウムを減らすはたらきがあります(ナトリウムを尿から再吸収し、カリウムを尿に排泄します)。
ブロプレスはこの作用を止めてしまうため、体内のカリウムが増えすぎてしまうことがあるのです。
そのためARBを長期間副作用されている方は定期的に血液検査などで肝機能、腎機能、電解質(カリウムなど)をチェックしておくことが望ましいでしょう。
また、稀ですが重篤な副作用として
- 血管浮腫
- ショック、失神、意識消失
- 急性腎不全
- 高カリウム血症
- 肝機能障害、黄疸
- 無顆粒球症
- 横紋筋融解症
- 間質性肺炎
- 低血糖
などが報告されています。
また、ブロプレスは
- 妊婦又は妊娠している可能性のある方
- ラジレスを投与中の糖尿病の方(ただし、他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く)
は原則服薬することが出来ません。
妊娠中の方が服薬できないのは、妊娠中期及び末期にARBを投与された患者さんの赤ちゃんに羊水過少症、胎児・新生児の死亡、新生児の低血圧、腎不全、 高カリウム血症、頭蓋の形成不全及び羊水過少症によると推測される四肢の拘縮、 頭蓋顔面の変形、肺の低形成等があらわれたという報告があるためです。
難しい名前をたくさん挙げましたが、要するに妊婦さんがブロプレスなどのARBを服薬すると赤ちゃんに奇形が発生する確率が高くなる、という事です。
またラジレスというお薬とブロプレスのようなARBは原則併用できません。これはラジレスとブロプレス(ARB)の併用で非致死性脳卒中、腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧のリスク増加が報告されているためです。
ただし、どうしても他の降圧剤で治療できない高血圧症の方に限り、慎重に併用することは認めれています。
5.ブロプレスの用法・用量と剤形
ブロプレスは、
ブロプレス錠 2mg
ブロプレス錠 4mg
ブロプレス錠 8mg
ブロプレス錠 12mg
の4剤形があります。
ブロプレスの使い方は、
<高血圧症>
通常、成人には1日1回4~8mgを経口投与し、必要に応じ12mgまで増量する。ただし、腎障害を伴う場合には、1日1回2mgから投与を開始し、必要に応じ8mgまで増量する。<腎実質性高血圧症>
通常、成人には1日1回2mgから経口投与を開始し、必要に応じ8mgまで増量する。<慢性心不全(軽症~中等症)>
通常、成人には1日1回4mgから経口投与を開始し、必要に応じ8mgまで増量できる。なお、原則として、アンジオテンシン変換酵素阻害剤以外による基礎治療は継続すること。
と書かれています。
また心不全に用いる際の注意点として、
投与開始時の収縮期血圧が 120mmHg未満の患者、腎障害を伴う患者、利尿剤を併用している患者、心不全の重症度の高い患者には、2mg/日から投与を開始すること。
2mg/日投与は、低血圧関連の副作用に対する忍容性を確認する目的であるので4週間を超えて行わないこと。
本剤の投与により、一過性の急激な血圧低下を起こす場合があるので、初回投与時、及び4mg/日、8mg/日への増量時には、血圧等の観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止する等の適切な処置を行うこと。
と記載されています。心不全に用いる場合は、血圧が下がりすぎないように特に注意して用いる必要があります。
ちなみにブロプレスを服薬してからどれくらいで効果を判定すれば良いのでしょうか。これは明確に決まっているわけではありませんが、通常2週間程度で効果は現れはじめます。しっかりとした効果を判定するには「約1カ月」程度を考えます。
6.ブロプレス錠が向いている人は
以上から考えて、ブロプレスが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ブロプレスの特徴をおさらいすると、
・降圧作用は中程度
・心臓・腎臓などの臓器保護作用がある
・心不全に適応を持っている
というものでした。
ブロプレスは古い部類に属するARBでもあり、今となってはそこまで多く処方されているARBではありません。更にブロプレスを発売している武田薬品は、2012年に「アジルバ」というARBを発売したため、現在はアジルバに力を入れています。そのため、ブロプレスはあまり積極的に宣伝されておらず、更に処方される頻度が少なくなっています。
しかしこれは、ブロプレスが使えないお薬だという事ではありません。
これはARBすべてに言える事ですが、単に血圧を下げるだけでなく臓器保護作用を持つブロプレスは、心不全・腎不全・脳梗塞の既往があるなどの臓器保護が必要な方には良い適応となります。
特にブロプレスは適応疾患に心不全が明記されているため、心不全にARBを検討する際は使用しやすいお薬になります。