ボチシート(貼付剤型亜鉛華軟膏)は、1995年から発売されている貼付剤(貼り薬)です。亜鉛華軟膏という物質が含まれており、貼ることで皮膚に亜鉛華軟膏を塗るのと同様の効果が得られます。
主に軽症の皮膚トラブルを中心に用いられており、その安全性の高さから赤ちゃんからお年寄りまで幅広く使われています。
皮膚に使うお薬にはたくさんの種類があるため、それぞれがどのような特徴を持つのか分かりにくいと思います。ボチシートがどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのか、その効果・効能や特徴、副作用についてみてみましょう。
目次
1.ボチシートの特徴
まずはボチシートの特徴をざっくりと紹介します。
ボチシートは有効成分である酸化亜鉛が、組織や血管を収縮させるはたらきがあります。これによって傷口を小さくしたり、乾燥させたり、保護するといった効果が得られます。
ボチシートは創部を乾燥させるはたらきがありますが、これはメリットでもありデメリットでもあります。
例えば汗によるムレなどで皮膚トラブルが生じる場合は、この乾燥させる作用によって良い効果が期待できます。
しかし傷口に対しての使用は注意が必要です。昔は「傷口は乾燥させる方が良い」と考えられていましたが、近年では「湿潤療法(Moist Wound Healing)」という創部治療が推奨されており、傷口は乾燥させずに湿潤環境(潤った環境)で治した方が、早く・きれいに・痛み少なく治ることが分かってきたのです。
傷口を乾燥させるというのは、分泌物が多くて管理が大変な傷口には良いかもしれませんが、そうでない場合はかえって治療を遅くしてしまうリスクもあるため、その適応は慎重に判断しなくてはいけません。
例えば、
・重度のアトピーで浸出液が多量に出ている
・汗をかきやすい部位のあせも、かぶれを予防したい
という時にボチシートを使うというのは効果が期待できるでしょう。しかし湿潤療法で治した方が良さそうな傷に対してボチシートを貼るのはあまり良くありません。
ちなみに重症の熱傷においては傷口を乾燥させてしまうボチシートは「禁忌(絶対に使ってはいけない)」となっています。熱傷部の乾燥を助長して、傷の治りを遅くしてしまう可能性があるからです。
ボチシートは亜鉛華軟膏が含まれており、その効果は亜鉛華軟膏を塗るとの同等です。ボチシートが発売されるまでは創部を乾燥させたい時には亜鉛華軟膏を塗り、その上にガーゼを置いていました。
ボチシートのメリットはこの手間は簡略化できることです。ボチシートであれば同様の皮膚に対して貼付剤を1枚貼るだけで済み、簡便に処置を行うことが出来ます。
以上から、ボチシートの特徴としては次のようなことが挙げられます。
【ボチシートの特徴】
・創部を乾燥させるため、乾燥させた方が良い皮膚には適している
・創部を乾燥させるため、傷の治りを遅くする可能性がある
・重症の熱傷には使ってはいけない
・貼るだけで良いため、塗り薬+ガーゼよりも簡便に処置できる
2.ボチシートはどんな疾患に用いるのか
ボチシートはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
〇下記疾患の収斂・消炎・保護・緩和な防腐
外傷、熱傷、凍傷、湿疹・皮膚炎等、肛門そう痒症、白癬、面皰、癰(せつ)、よう〇その他の皮膚疾患のびらん・潰瘍・湿潤面
様々な皮膚トラブルに対して用いる事が可能ですが、主に軽症例に用いられることが多いです。
また皮膚トラブルの中で、
・乾燥させた方が良い皮膚(浸出液があまりに多量であったり、汗が皮膚トラブルの原因になっている場合など)
に用いられます。
傷は基本的には乾燥させずに湿潤させて治すことが勧められていますので、ボチシートを使うべき皮膚トラブルは限定されます。その傷を本当にボチシートで治して良いのかは主治医にしっかりと判断してもらいましょう。
ボチシートは、
・収斂作用(傷の組織を収縮させる)
・消炎作用(炎症を和らげる)
・保護作用(傷を保護する)
・穏やかな防腐作用(傷が腐敗するのを防ぐ)
の4つの作用を有しています。これら4つの作用について詳しくは後述します。
副作用もほとんどなく安全性が高いため、赤ちゃんからお年寄りまで幅広く用いられており全身に用いることができます(眼は除く)。
3.ボチシートにはどのような作用があるのか
ボチシートには具体的にはどのような作用があるのでしょうか。
ボチシートには大きく分けると次の3つの作用があります。
Ⅰ.収斂作用
「収斂作用」という用語は聞き慣れないかもしれません。これは「組織を収縮させる作用」です。
組織を収縮させることによってどのような効果が得られるかというと、
- 傷口が小さくなる(創部を保護する)
- 分泌物が減少し、創部が乾燥しやすくなる
- ばい菌が入り込みにくくなる
といった効果が期待できます。
ボチシートの主成分である酸化亜鉛は、組織を収縮させるだけでなく毛細血管を収縮させることで透過性を低下させ、分泌物の減少をもたらします。また血液中の白血球が組織中に出てきにくくなるため、これが後述する消炎作用をもたらします。
Ⅱ.消炎作用
ボチシートには、穏やかに炎症を抑える作用があります。
炎症とは、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
の4つの徴候が生じる状態のことで、感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
みなさんも身体をぶつけたり、ばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあると思います。これが炎症です。皮膚に炎症が起こることを皮膚炎と呼びます。皮膚炎も外傷でも生じるし、ばい菌に感染することでも生じるし、アレルギーでも生じます。
どのような原因であれ、炎症を抑えてくれるのが消炎作用です。ボチシートは穏やかな消炎作用を持ち、発赤・熱感・腫脹・疼痛を和らげてくれます。
この消炎作用は、ボチシートが組織を収縮させることによって、白血球などのばい菌と闘う細胞が創部に出てきにくくなるために生じると考えられています。
Ⅱ.創部保護作用
ボチシートは、塗る事によって創部を保護するバリアになります。
傷口を軟膏が覆うことで、外部からばい菌が侵入してくるのを防げます。また傷口を密封することで肉芽形成を促し、傷の治りを促進します。
ボチシートの主成分である酸化亜鉛は、皮膚のたんぱく質に結合することで膜を形成します。これが、
・保護作用
・防腐作用
を発揮すると考えられています。
4.ボチシートの副作用
ボチシートには副作用はほとんどありません。
稀ですが貼付剤が合わずに皮膚がかぶれたり刺激性を感じる方がいますが、多くは使用を中止すれば速やかに改善します。
またボチシートは重度又は広範囲の熱傷には「禁忌(絶対に用いてはならない)」となっています。
重症熱傷は皮膚の乾燥が症状の1つです。ボチシートも皮膚を乾燥させる作用があるため、熱傷に使ってしまうと、更に熱傷の症状を悪化させてしまう可能性があるからです。
ボチシートは、組織や血管を収斂させ、分泌物を減少させる作用があります。小さな病変であれば、この作用によって創部管理がしやすくなるというメリットもあるのですが、実は分泌物には傷を治す成分も含まれています。
そのため、広範囲にわたる傷にボチシートを使ってしまうと、分泌物を減少させ、組織修復を遅らせてしまう可能性があるのです。
5.ボチシートの用法・用量と剤型
ボチシートには、
ボチシート20% 10cm×15㎝
といった剤型があります。
ボチシート1枚には亜鉛華軟膏が30gが含まれています。
ボチシートの使い方は、
通常、患部の大きさに合わせ適当な大きさに切り、症状に応じ1日1~数回患部に貼付する。
と書かれています。
また患部に直接塗布すると、創部を乾燥させてしまうため、「重層療法」といって、創部には湿潤させるような軟膏を塗り、その上にボチシートを塗るという方法もあります。この方法だと、傷口を直接乾燥させることなく、しかし余分な浸出液はボチシートが吸い取ってくれます。
ただし常に重層療法が良いというわけではありません。用法は処方された医師の指示に従うようにしましょう。
6.ボチシートの使用期限はどれくらい?
ボチシートの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。
「家に数年前に処方してもらったお薬があるんだけど、これってまだ使えますか?」
このような質問は患者さんから時々頂きます。
これは保存状態によっても異なってきますので、一概に答えることはできませんが、各製薬会社による記載では「2年」となっています。
なおボチシートは基本的には室温にて遮光した気密容器で保存するものですので、この状態で保存していたのであれば「2年」は持つと考えることができます。反対に一回開封してしまった場合などでは、気密環境ではなくなっていますので、使用期限は短くなります。
7.ボチシートが向いている人は?
以上から考えて、ボチシートが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ボチシートの特徴をおさらいすると、
・創部を乾燥させるため、乾燥させた方が良い皮膚には適している
・創部を乾燥させるため、傷の治りを遅くする可能性がある
・重症の熱傷には使ってはいけない
・貼るだけで良いため、塗り薬+ガーゼよりも簡便に処置できる
というものでした。
ここから、「軽症の皮膚疾患」であり、乾燥をさせることで創部の改善や予防になる場合には向いているお薬だと言えます。
臨床の経験としては、
・あせもやおむつかぶれの予防(汗が原因となるため、ボチシートの吸湿作用を利用する)
・浸出液が多量で管理困難な創部(ボチシートが余分な浸出液を吸ってくれる)
に利用することが多いと感じます。
しかし傷口は基本的に乾燥させて治すものではないと現在では考えられていますので、ボチシートを使用すべき皮膚状態なのかどうかというのは、主治医とよく相談して判断してください。