バファリン配合錠A81(一般名:アスピリン・ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート・炭酸マグネシウム )は1963年から発売されている「抗血小板剤」になります。
抗血小板剤は血小板のはたらきを抑えることで血液を固まりにくくするお薬のことで、バファリン配合錠に含まれる「アスピリン」にこの作用があります。
アスピリンは非常に古い抗血小板剤ですが、多くの実績やデータがあるお薬であるため、脳梗塞・心筋梗塞など血液を固まりにくくする必要がある患者さんに今でも多く用いられています。
またバファリン配合錠は文字通り複数の成分を「配合」したお薬で、アスピリンを単独で投与するよりも副作用が生じにくくなるように工夫されています。
抗血小板剤にはいくつかの種類があります。どれも「血液を固まりにくくさせる」という作用に違いはありませんが、細かい特徴や作用には違いがあり、医師は患者さんの状態に応じて、一番合う抗血小板剤を処方しています。
バファリン配合錠A81はどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここでは、バファリン配合錠A81の効能や特徴、副作用などを紹介していきます。
目次
1.バファリン配合錠A81の特徴
まずはバファリン配合錠A81の特徴を紹介します。
バファリン配合錠A81は血小板のはたらきを抑えることで、血液を固まりにくくするはたらきを持ちます。
また配合されている制酸剤がアスピリンの副作用である胃腸障害を軽減させてくれるため、アスピリンを単独で服用するよりも安全に用いる事ができます。
バファリン配合錠A81の主成分は「アスピリン(成分名:アセチルサリチル酸)」になります。これは元々はNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)として開発されたお薬です。NSAIDsは炎症を抑えることにより解熱・鎮痛作用をもたらすお薬の事で、現在でも例えば風邪を引いた時の熱冷ましや、腰痛の時の痛み止めとして用いられます。
その後、アスピリンに上記の解熱鎮痛効果だけでなく、血小板のはたらきを抑える抗血小板作用もある事が発見されました。
血小板は血球の1つで血液を固まらせるはたらきがあります。怪我をして皮膚から出血してしまった時を思い出してください。しばらくすると出血は勝手に止まりますよね。これは血小板が活性化し傷口の血液を固まらせたからなのです。
このように血小板は必要な時に血液を固まらせるはたらきを持っています。しかし血管内で血小板が活性化してしまうと、血栓(血の塊)を作ってしまい、これは血管を詰まらせる原因になってしまいます。
これを防いでくれるのが抗血小板剤で、脳梗塞や心筋梗塞といった血管が詰まる事で生じる心血管イベントを予防してくれるはたらきがあるです。
面白いことにアスピリンは高用量で使うと解熱鎮痛効果が得られるのですが、低用量で使うと抗血小板作用が得られるという特徴があります。
ならばアスピリンを低用量にして抗血小板剤として利用しよう、として開発されたのがバファリン配合錠A81です。「A81」というのはアスピリンが81mg含まれていますよ、という意味になります。
ちなみにバファリンには「バファリン配合錠A330」というお薬もありますが、これはアスピリンが330mg含まれているという意味です。こちらは高用量になりますので主に解熱鎮痛剤として用いられています。
またバファリン配合錠は、アスピリンだけではなく「制酸剤」という胃腸を保護する成分が含まれています。
アスピリンをはじめとしたNSAIDsはプロスタグランジンという物質の合成を抑えてしまうという作用があります。プロスタグランジンは胃を保護するために重要な因子ですので、NSAIDsによってプロスタグランジンが減ると胃炎や胃潰瘍などが生じやすくなってしまいます(これをNSAIDs潰瘍と呼びます)。
アスピリンで生じるこのような胃腸障害を少なくするために、バファリンには、
- ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート
- 炭酸マグネシウム
という2つの制酸剤が配合されています。これらのお薬は胃酸を中和する作用(制酸作用)を持ち、胃酸が胃壁を傷付けて胃炎や胃潰瘍を起こすのを防いでくれます。
以上からバファリン配合錠A81の特徴として次のような点が挙げられます。
【バファリン配合錠A81の特徴】
・抗血小板作用(血液を固まりにくくする作用)がある
・制酸剤を配合することで、アスピリンの副作用の胃腸障害を軽減している
・主に心血管イベント(脳梗塞・心筋梗塞)の予防に用いられる
・喘息の方は使用に注意(他のNSAIDsと同様)
2.バファリン配合錠A81はどのような疾患に用いるのか
バファリン配合錠A81はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
〇下記疾患における血栓・塞栓形成の抑制
狭心症(慢性安定狭心症、不安定狭心症)
心筋梗塞
虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作(TIA)、脳梗塞)〇冠動脈バイパス術(CABG)あるいは経皮経管冠動脈形成術(PTCA)施行後における血栓・塞栓形成の抑制
〇川崎病(川崎病による心血管後遺症を含む)
バファリン配合錠A81は低用量のアスピリンを含み、その作用は「血液を固まりにくくする」作用になります。
そのため、血液が固まって血栓が出来てしまう疾患の予防にもちられます。
具体的には、
- 虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)
- 脳梗塞
の2つが該当します。
虚血性心疾患は心臓に栄養を与える血管である冠動脈が詰まってしまう疾患です。脳梗塞は脳の血管が詰まってしまう疾患です。
いずれも「血栓(血の塊)」が原因となる事が多く、血液を固まりにくくさせて血栓を生じにくくさせる抗血小板剤はこれらの疾患の予防が期待できます。
また冠動脈バイパス術(CABG)というのは、冠動脈が詰まってしまった時に、人工的に別の血液回路を作る手術の事です。経皮経管冠動脈形成術(PTCA)はカテーテル治療によって詰まった血管をステントやバルーンなどで広げる治療のことです。
いずれも人工的な治療を施した部位には血栓が出来やすいため、このような治療を行った後には抗血小板剤の服用が推奨されています。
川崎病というのは、主に1歳未満の乳幼児に発症する疾患で、全身に血管炎が生じます。これにより熱が出たり全身に発疹が出たりします。
最も注意すべきなのは冠動脈(心臓に栄養を送る動脈)に瘤(こぶ)を作ってしまう事があることです。これによって冠動脈が詰まってしまうと心筋梗塞となり命に関わることがあります。
バファリン配合錠A81は、
- 炎症を抑える
- 血液をサラサラにすることで冠動脈を詰まりにくくする
- 粉薬であり乳幼児でも飲みやすい
と言った作用があるため、川崎病の患者さんに非常に適しており、現在でも第一選択で使われています。
川崎病に対してバファリンを用いる場合、
- 急性期は消炎作用を期待して高用量を用いる
- 維持期は抗血小板作用を期待して低用量で用いる
ことが多いため、低用量のアスピリンを含むバファリン配合錠A81は主に維持期に用いられることが多くなります(患者さんの体重によって異なります)。
バファリン配合錠A81の効果については、
- 慢性安定狭心症の方の心筋梗塞・突然死を34%減少させた
- 不安定狭心症の方の死亡・心筋梗塞を5.1%減少させた
- 高リスク患者の心血管イベント(脳梗塞・心筋梗塞など)を27%減少させた
- 脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)の方の脳卒中・死亡を18%減少させた
- PTCA・CABG後の心血管イベントを有意に減少させた
- 川崎病の冠動脈異常所見出現頻度を有意に減少させた
という報告があります。
3.バファリン配合錠A81にはどのような作用があるのか
バファリン配合錠A81にはどのような作用があるのでしょうか。
バファリン配合錠A81の主作用は「抗血小板作用」になります。これは血小板のはたらきを抑えることで血液を固まりにくくさせるという作用です。
これ以外にもバファリン配合錠は制酸剤を含んでおり、胃腸への負担を軽減する工夫がなされています。
バファリン配合錠A81の作用について詳しく紹介します。
Ⅰ.血小板凝集抑制効果
難しく書きましたが、要するに血小板のはたらきを抑える事によって血液を固まりにくくさせる作用の事です。
これは低用量のアスピリンを服用した際に得られる作用になります。成人に投与する際のアスピリン81mgというのは低用量になるため、バファリン配合錠A81は血小板凝集抑制作用を持つお薬になります。
バファリン配合錠A81はCOX-1(シクロオキシゲナーゼ)という酵素を変性させ、はたらけなくする作用があります。
COX-1は、トロンボキサンA2(TXA2)が作られる時に必要な物質であるため、COXがはたらけなくなるとトロンボキサンA2が作られにくくなります。
トロンボキサンは血小板を活性化させるのに必要な物質です。
つまりバファリン配合錠A81によってCOX-1が変性すると、血小板が活性化しにくくなる(固まりにくくなる)という事です。
Ⅱ.胃保護作用
バファリン配合錠A81には、
- ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート
- 炭酸マグネシウム
という2つの制酸剤が含まれています。
ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテートは胃酸を中和するはたらきを持ち、これにより胃酸が胃壁を傷付けて胃炎や胃潰瘍を起こすのを軽減させるはたらきを持ちます。
また炭酸マグネシウムも胃酸を中和する制酸作用を持ちます。それに加えて緩下作用(便を柔らかくする作用)もあり、これも胃腸の負担を軽減させるはたらきがあります。
4.バファリン配合錠A81の副作用
バファリン配合錠A81の副作用にはどのようなものがあるのでしょうか。また副作用はどのくらい多いのでしょうか。
バファリン配合錠A81の副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし同成分を含む「小児用バファリン」における副作用発生率は2.8%と報告されており、バファリン配合錠A81の副作用も同程度だと考えられます。
生じうる副作用としては、
- 消化器系障害(胃炎、消化管出血、潰瘍等)
- 血小板・出血凝血障害(血腫、網膜出血等)
- 皮膚・皮膚付属器障害(発疹)
などが報告されています。
バファリン配合錠A81をはじめとしたNSAIDsには共通する副作用があります。
もっとも注意すべきなのが「胃腸系の障害」です。これはNSAIDsがプロスタグランジンの生成を抑制するために生じます。
プロスタグランジンは胃粘膜を保護するはたらきを持っており、実際にプロスタグランジンを誘導するようなお薬は胃薬として用いられています。そのため、NSAIDsによってこれが抑制されると胃腸が荒れやすくなってしまうのです。
バファリン配合錠A81は制酸剤を配合しているため、このような胃腸系の副作用は少なくはなりますが、それでも生じないわけではありません。NSAIDsは漫然と長期間使用し続けないように注意しなければいけません。
またバファリン配合錠A81は血液を固まりにくくする作用があります。これは血栓を出来にくくするという良い作用が期待できる一方で、小さな傷でも出血しやすくなってしまったり、出血した際に止まりにくくなってしまうという副作用の原因にもなります。
また、頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- ショック、アナフィラキシー
- 出血
- 中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群
- 再生不良性貧血
- 喘息発作の誘発
が報告されています。
重篤な副作用は稀ではあるものの絶対に生じないわけではありません。バファリン配合錠A81の服薬がやむを得ず長期にわたっている方は定期的に血液検査にて血球などのチェックを行う必要があります。
また、バファリン配合錠A81は次のような方には禁忌(絶対に使ってはダメ)となっていますので注意しましょう。
- バファリン配合錠またはサリチル酸系製剤に対し過敏症の既往歴のある方
- 消化性潰瘍のある方
- 出血傾向のある方
- アスピリン喘息またはその既往歴のある方
- 出産予定日12週以内の妊婦の方
- 低出生体重児、新生児又は乳児の方
胃を荒らす可能性のあるお薬ですので、胃腸に潰瘍がある方はそれを更に増悪させる可能性があり用いてはいけません。
バファリン配合錠A81に含まれるアスピリンは妊娠中の使用で、妊娠期間の延長、動脈管の早期閉鎖、子宮収縮の抑制、分娩時出血の増加につながるおそれがある事が報告されており、この理由から出産前の方に用いることは出来ません。
また川崎病に対して使用する関係で乳幼児に用いることもありますが、小さなお子さんは錠剤をうまく飲み込めない事が多いため、特に低出生体重児や新生児・乳児には用いてはいけません。アスピリンが必要な際は粉末製剤(粉薬)のアスピリンを使用するようにしましょう。
5.バファリン配合錠A81の用法・用量と剤形
バファリン配合錠A81は、
バファリン配合錠A81
の1剤形のみがあります。
バファリン配合錠A81は、いくつかの成分が含まれた配合錠ですが、その内訳は、
アスピリン 81mg
ダイアルミネート(ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート) 11mg
炭酸マグネシウム 22mg
となっています。
アスピリンが抗血小板作用をもち、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテートと炭酸マグネシウムが制酸作用を持ちます。
バファリン配合錠A81の使い方は適応疾患により異なります。
〇狭心症(慢性安定狭心症、不安定狭心症)、心筋梗塞、虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作(TIA)、 脳梗塞)における血栓・塞栓形成の抑制
〇冠動脈バイパス術(CABG)あるいは経皮経管冠動脈形 成術(PTCA)施行後における血栓・塞栓形成の抑制に使用する場合通常、成人には1錠を1回量として、1日1回経口投与する。なお、症状により1 回4錠まで増量できる。
〇川崎病(川崎病による心血管後遺症を含む)に使用する場合
急性期有熱期間は、アスピリンとして1日体重1kgあたり30~50mgを3回に分けて経口投与する。解熱後の回復期から慢性期は、アスピリンとして1日体重1kgあたり3~5mgを1回経口投与する。なお、症状に応じて適宜増減する。
と書かれています。
6.バファリン配合錠A81が向いている人は?
バファリン配合錠A81はどのような方に向いているお薬なのでしょうか。
バファリン配合錠A81の特徴をおさらいすると、
・抗血小板作用(血液を固まりにくくする作用)がある
・制酸剤を配合することで、アスピリンの副作用の胃腸障害を軽減している
・主に心血管イベント(脳梗塞・心筋梗塞)の予防に用いられる
・喘息の方は使用に注意(他のNSAIDsと同様)
といった特徴がありました。
バファリン配合錠A81は抗血小板剤としてのアスピリンに加えて、アスピリンの副作用を軽減させる制酸剤が配合されています。
そのため脳梗塞や心筋梗塞を予防するために検討されるお薬の1つになります。
ただし近年では、胃腸障害を予防するためにより安全で効果の高いお薬が増えてきたことから、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテートと炭酸マグネシウムはあまり用いられなくなっています。
代わりに
などが用いられることが多くなっています。
これの伴いバファリン配合錠が使われる頻度も少なくなってきており、代わりに、バイアスピリンに上記のH2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬を加えるという処方が主流となってきています。