メンタックスクリーム・メンタックス外用液・メンタックススプレー(一般名:ブテナフィン)は病院で処方される塗り薬で、「ベンジルアミン系抗真菌薬」という種類のお薬になります。1992年から発売されています。
抗真菌薬とは要するに、真菌(カビ)をやっつけるお薬です。メンタックスは塗り薬ですので、主に皮膚に感染した真菌(皮膚真菌症)に対して用いられます。
日常で感染する皮膚真菌症は白癬(いわゆる水虫)が主ですが、メンタックスはこのような真菌をやっつけるために用いられます。
抗真菌薬にもいくつかの種類があります。どれも総合的な有効率に大きな差はないとも言われていますが、それぞれのお薬ならではの特徴もあります。
メンタックスは抗真菌薬の中でどのような作用を持っていて、どのような効果が期待できるお薬なのでしょうか。
メンタックスの効果・効能や特徴、副作用についてみてみましょう。
目次
1.メンタックスの特徴
まずはメンタックスの特徴をざっくりと紹介します。
メンタックスは、白癬・癜風に対して殺真菌効果を有します。ただしカンジダに対しては効果が弱く適応外となっています。
メンタックスはベンジルアミン系という種類の抗真菌薬になります。メンタックスの注意点としては、皮膚真菌症のうち「カンジダ」への効果は弱いため、適応外となっていることです(全く効かないわけではありません)。
抗真菌薬には「真菌の増殖を抑えるもの(静真菌作用)」と「真菌を殺すもの(殺真菌作用)」がありますが、ベンジルアミン系は後者であり殺真菌的に作用します。
そのため効果も強力であり確実な効果が期待できます。特にベンジルアミン系はカンジダへの効果が弱いという抗菌スペクトラムの狭さがある分、白癬に対しては強力に効きます。
塗り薬であるため、全身にお薬が回ることが少なく、大きな副作用がない点も良い特徴です。
またメンタックスは皮膚浸潤性が良好であり、皮膚の角質層に長時間留まるため、1日1回の塗布で効果が持続することが確認されており、1日に何回も塗る必要はありません。
メンタックスをはじめとした皮膚真菌症に対する塗り薬は効果に大きな差はないため、極論を言えばどれを用いても大きな間違いはありません。
その中でメンタックスの特徴を挙げると、次のようなことが挙げられます。
【メンタックスクリーム・外用液・スプレーの特徴】
・白癬・癜風に対して殺真菌的に作用する
・カンジダへの効果は弱く、適応外
・1日1回塗れば、1日中効果が持続する
・スプレータイプがあり、衛生的に使える
・塗り薬で全身に作用しにくいため、副作用も少ない
2.メンタックスはどのような疾患に用いるのか
メンタックスはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
下記の皮膚真菌症の治療
・白癬:足部白癬、股部白癬、体部白癬
・癜風
抗真菌薬であるメンタックスは、皮膚に真菌(カビ)が感染してしまった時に用いられます。
日常において、皮膚に感染する真菌というのはほとんどが白癬菌(皮膚糸状菌)になります。
白癬菌が足に感染すると「足(部)白癬」(いわゆる「水虫」)、
白癬菌が身体に感染すると「体部白癬」(いわゆる「たむし」)、
白癬菌が股(また)に感染すると「股部白癬」(いわゆる「いんきん」)と呼ばれます。
メンタックスはこのような白癬菌感染症に対して殺真菌的に作用します。
また癜風も真菌(カビ)であるマラセチアが原因となる皮膚真菌症ですが、メンタックスが効果を示します。癜風は自覚症状が乏しいため気付かれにくい傾向があります。皮脂の多いところに生じやすく、脂漏性湿疹の原因にもなります。
ちなみに真菌にはカンジダも含まれます。カンジダは健常人の腸内などにも常在している「常在菌」ですが、特にストレスや疲れなどで免疫力が低下している時にカンジダは悪さをすることがあります。
しかしメンタックスはカンジダに対しての効果は弱いため、適応にはなっていません。カンジダが原因である場合は、メンタックス以外の抗真菌薬を使用するのが良いでしょう。
3.メンタックスにはどのような作用があるのか
メンタックスの作用は真菌(白癬・癜風など)をやっつける事ですが、どのような機序で真菌をやっつけているのでしょうか。
メンタックスは真菌細胞膜の重要な構成成分である「エルゴステロール」の合成を阻害し、細胞膜を「もろく」する作用があります。
抗真菌薬は真菌細胞を殺すお薬ですが、細胞を殺す作用を持つお薬は同時に「人の細胞」も殺してしまう危険があります。そのため真菌にだけ効いて、人の細胞には効かないような工夫が必要になります。
エルゴステロールは真菌細胞の細胞膜に存在する物質ですが、人の細胞には存在しません。そのためエルゴステロールを標的にすれば、真菌細胞のみ効率的にやっつけることができるというわけです。
ちなみによく用いられている抗真菌薬にはイミダゾール系抗真菌薬があります。イミダゾール系にもエルゴステロール合成阻害作用がありますが、イミダゾール系とメンタックスのようなベンジルアミン系では同じエルゴステロール合成阻害作用であっても、阻害する部位が異なります。
エルゴステロールは、アセチルCoAという物質からいくつかの段階を経てエルゴステロールになりますが、ベンジルアミン系の方がイミダゾール系よりも、より初期の変化の段階でブロックするのです。
4.メンタックスの副作用
メンタックスの副作用は多くはありませんが、真菌を「殺す」お薬であるため、時にヒトの身体にも害を及ぼすことがあります。
メンタックスは塗り薬であり、全身に投与するものではないのでその副作用も局所に留まる事がほとんどです。
そのため、全身性の重篤な副作用はほとんどありません。
報告されている副作用としては、
- 接触性皮膚炎
- 刺激感
- 発赤・紅斑
などの局所の副作用が主です。
いずれも重篤となることは少なく、多くはメンタックスの使用を中止すれば自然と改善していきます。
5.メンタックスの用量・用法と剤型
メンタックスは、
メンタックスクリーム1%(ブテナフィン) 10g
メンタックス外用液1%(ブテナフィン) 10ml
メンタックススプレー1%(ブテナフィン) 10ml
と3つの剤型があります。
メンタックスの使い方は、
1日1回患部に塗布(噴霧)する。
と書かれています。
メンタックスは1回塗れば、長時間にわたって皮膚の角質層に留まるため、1日1回の塗布で十分効果が持続します。
ちなみに塗り薬には、「軟膏」「クリーム」「外用液」などがありますが、これらはどう違うのでしょうか。
軟膏は、ワセリンなどの油が基材となっています。保湿性に優れ、刺激性が少ないことが特徴ですが、べたつきは強く、これが気になる方もいらっしゃいます。
クリームは、水と油を界面活性剤で混ぜたものです。軟膏よりも水分が入っている分だけ伸びがよく、べたつきも少なくなっていますが、その分刺激性はやや強くなっています。
外用液は水を中心にアルコールなどを入れることもある剤型です。べたつきはほとんどなく、使い心地は良いのですが、保湿効果は長続きしません。刺激性が強めというデメリットがある反面で、浸透力が高く、皮膚が厚い部位でも効果が期待できます。
またスプレー剤は、基本的な成分は外用液と同じです。ただしスプレーにて吹きかけるタイプになるため、直接手を汚すことなく塗布できるのがメリットです。
それぞれ一長一短あるため、皮膚の状態に応じて主治医とよく相談し、使い分ける事が大切です。
メンタックスには軟膏がありません。そのため、もし軟膏の方が適切な部位に生じた皮膚真菌症であれば、メンタックス以外のお薬の方が良いこともあります。実際、メンタックスクリーム・外用液適用上の注意として「著しいびらん面には使用しないこと」と記載されています。
軟膏のメリットは保湿性に優れ、刺激性が低いことですので、クリームや液剤を塗ると刺激感が強かったり痛かったりするような部位であれば、メンタックス以外で軟膏剤がある抗真菌薬を選択した方が良いかもしれません。
6.メンタックスが向いている人は?
以上から考えて、メンタックスが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
メンタックスの特徴をおさらいすると、
・白癬・癜風に対して殺真菌的に作用する
・カンジダへの効果は弱く、適応外
・1日1回塗れば、1日中効果が持続する
・スプレータイプがあり、衛生的に使える
・塗り薬で全身に作用しにくいため、副作用も少ない
というものでした。
強いての特徴を挙げましたが、皮膚真菌症に対する塗り薬は極論を言えばどれを使っても大きな違いはありません。
「この水虫は絶対にメンタックスじゃないとダメだ!」というケースはほとんどなく、実際はどれを使っても改善が得られます。
そのため、自分の使いやすさや好みである程度選択しても構わないでしょう。
原則として、メンタックスはカンジダへは適応がないため、カンジダが原因である皮膚症状にはメンタックス以外を使用した方がいいでしょう。
反対に明らかに白癬菌が原因であることが確認できている場合は、メンタックスは向いています。
メンタックスは刺激性の低い軟膏剤がないため、刺激感が強い部位への塗布はあまりお勧めできません。著しいびらん面や、敏感な部分(陰部など)に塗布する場合は、刺激感が気になるようであれば軟膏剤のある抗真菌薬の方が良いでしょう。
またメンタックスはスプレータイプがある数少ない抗真菌薬です。スプレーは直接皮膚を触ることなく噴霧できるため、衛生的に治療できます。スプレーを使いたい方・スプレーを使うことが好ましい皮膚状態の場合であれば、メンタックスを選択するのは良いかもしれません。