ブスコパン錠(一般名:ブチルスコポラミン臭化物)は1956年から発売されている鎮痙剤になります。
鎮痙剤(ちんけいざい)とは難しい呼び方ですが、これは主に消化管の異常なけいれんを抑えるお薬の事を指します。鎮痙薬は胃腸のけいれんによって生じる腹痛を和らげるはたらきがあります。
ブスコパンは非常に古いお薬ですが、確実な効果が期待できるため、現在でも広く用いられています。しかし良くも悪くも「強くしっかり効く」ブスコパンは、時に胃腸の動きを抑えすぎてしまうため使用には注意が必要です。
ブスコパンはどんなお薬で、どんな患者さんに向いているのでしょうか。
ブスコパン錠の効果や特徴についてみていきましょう。
目次
1.ブスコパン錠の特徴
まずはブスコパンの特徴について、かんたんに紹介します。
ブスコパン(一般名:ブチルスコポラミン臭化物)は消化管(胃腸)の異常なけいれんを抑えるはたらきを持ち、主に腹痛を改善させるために用いられるお薬です。
また消化管以外にも胆のう・胆道や泌尿器(尿路、膀胱、尿管)や女性生殖器(子宮、卵巣など)に対しても鎮痙作用を示し、異常なけいれんを抑えてくれます。
古いお薬であるブスコパンが現在でも広く用いられているのは、その強力な作用が理由です。ブスコパンはしっかりと痙攣を抑えてくれるため、非常に頼れるお薬なのです。
しかし一方で副作用には注意が必要です。ブスコパンは副作用の頻度も多めのお薬であり、また「抗コリン作用」という副交感神経のはたらきを抑える作用があるため、緑内障や心疾患、前立腺疾患がある方は使う事が出来ないお薬です。
以上からブスコパンの特徴として次のようなことが挙げられます。
【ブスコパン錠(ブチルスコポラミン臭化物)の特徴】
・強力で確実な鎮痙作用
・消化管のみならず、胆のう、泌尿器、女性生殖器の痙攣も抑える
・副作用は多めであり、注意が必要
2.ブスコパン錠はどんな疾患に用いるのか
ブスコパンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
下記疾患における痙攣並びに運動機能亢進
胃・十二指腸潰瘍、食道痙攣、幽門痙攣、胃炎、腸炎、腸疝痛、痙攣性便秘、機能性下痢、胆のう・胆管炎、胆石症、胆道ジスキネジー、胆のう切除後の後遺症、尿路結石症、膀胱炎、月経困難症
ブスコパンの作用は、「過剰なけいれんを抑えること」です。
主に消化管の異常けいれんに対して用いられますが、それ以外にも胆のう・胆管や泌尿器系・女性生殖器においても異常なけいれんを抑える作用を持っています。
3.ブスコパン錠にはどのような作用があるのか
ブスコパンは、消化管や胆のう・胆管、泌尿器、女性生殖器の異常なけいれんを抑えてくれるはたらきがあります。
これはどのような作用機序で生じている作用なのでしょうか。ブスコパンの作用について紹介します。
Ⅰ.副交感神経を抑制する
ブスコパンの作用機序は、副交感神経のはたらきを抑えることにあります。
副交感神経とは自律神経の1つです。自律神経は、私たちが意識しなくても勝手にはたらいてくれる神経で、主に内臓系に分布しはたらいてくれています。自律神経には興奮性の自律神経である交感神経と、リラックス系の自律神経である副交感神経があります。
腸管では、交感神経は腸管の動きを抑える方向にはたらき、副交感神経は腸管の動きを活性化させる方向にはたらきます。
ブスコパンは副交感神経のはたらきを抑えるため、腸管の運動が抑制されます。
腹痛が生じている時というのは、胃腸が過剰に動いてしまっていたり、けいれんしてしまっていることが多いため、副交感神経を抑えて腸管の動きを低下させると、症状の改善が得られます。
ちなみにブスコパンは消化管だけでなく、胆道や泌尿器、女性生殖器においても同様の機序で異常なけいれんを抑える作用があります。
つまり、胆嚢・胆管や膀胱、子宮などの過剰な収縮によって生じている下腹部痛などにおいても理論上は効果が期待できるという事です。
Ⅱ.胃酸の分泌を抑える
ブスコパンには胃酸の分泌量を減らす作用があることも報告されています。これもブスコパンの持つ副交感神経の抑制作用によるものだと考えられます。
この作用からブスコパンは、胃潰瘍や胃炎に対しても効果が期待できます。
4.ブスコパン錠の副作用
ブスコパンは副作用に注意が必要なお薬です。強力な効果がある分、副作用の発生率も多めのお薬です。また、「副交感神経のはたらきを抑える」というお薬の作用上、時に重篤な副作用が生じる可能性があるため、使用は慎重に判断しないといけません。
ブスコパンの副作用発生率20%前後と報告されており、副作用が少ないお薬とは言えません。
頻度の多い副作用としては、
- 口渇(口の渇き)
- 便秘
- 眼の調節障害
- 心悸亢進(動悸や心拍数増加)
- 鼓腸(お腹が張る事)
などがあります。これらは全て副交感神経が抑制されることによって生じる症状です。ブスコパン量を適切に調整すれば改善することもありますが、どうしても改善が得られない場合は別のお薬に変薬する必要もあります。
またブスコパンは時に重篤な副作用が生じる可能性があるため、そのようなリスクが高い方は使用することが出来ません。その理由は主に2つあります。
1つ目はブスコパンの持つ「副交感神経を抑制する」という作用です。副交感神経が抑制されると相対的に交感神経が優位になります。稀ですが、交感神経が活性化しすぎると眼圧が上がったり、心臓に負荷がかかりすぎたり、尿が出なくなってしまったりといった重篤な副作用が生じることがあります。
そのためブスコパンは、
- 緑内障の方
- 前立腺肥大による排尿障害のある方
- 重篤な心疾患のある方
への使用は「禁忌(絶対にダメ)」となっています。
もう1つがブスコパンの胃腸の動きを抑える作用です。これは胃腸に細菌やウイルスなどが感染してしまった感染性腸炎においては好ましい作用ではありません。
感染性腸炎では下痢や腹痛が生じるため、一見ブスコパンの適応に見えますが、ブスコパンのような腸の動きを抑えるお薬を使ってしまうと、腸が動かなくなることでばい菌がいつまでも腸から排出されなくなってしまうのです。
これでばい菌はどんどん増殖してしまい、症状もどんどん悪化してしまいます。そのため、ブスコパンは
- 出血性大腸炎
という腸管出血性大腸菌や赤痢菌の感染で生じる疾患への使用も「禁忌」となっています。またそれ以外の細菌性の下痢においても「原則禁忌」になっています。
5.ブスコパンの用法・用量と剤形
ブスコパンは、
ブスコパン錠(ブチルスコポラミン臭化物) 10mg
の1剤形のみがあります。
ブスコパンの使い方は、
通常成人には1回1~2錠を1日3~5回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する
となっています。
6.ブスコパン錠が向いている人は?
以上から考えて、ブスコパンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ブスコパンの特徴をおさらいすると、
・強力で確実な鎮痙作用
・消化管のみならず、胆のう、泌尿器、女性生殖器の痙攣も抑える
・副作用は多めであり、注意が必要
というものでした。
ブスコパンはけいれんを抑えることで、腹痛などを強力に抑えてくれます。そのため、非常につらい腹痛などがある時でもしっかりと効く頼れるお薬になります。
しかし一方で副作用にも注意が必要なお薬で、安易に飲み続けて良いお薬ではありません。
このような特徴からブスコパンは、「どうしても腹痛などの症状がつらい時の頓服」として用いられることが多いお薬です。
どうしても症状がつらい時には、強力な効果のあるブスコパンは非常に頼れるお薬だからです。
しかし副作用の問題を考えると、漫然と飲み続けることは好ましくないため、「一時的に使うお薬」という使い方が向いていると思われます。
緑内障の方、重篤な心疾患のある方、前立腺疾患の方、感染性腸炎の方など、ブスコパンが禁忌(あるいは不適)である方もいますので、自分がブスコパンを使えるかどうかというのは専門家の医師にしっかりと確認してください。