カロナール(一般名:アセトアミノフェン)は1984年から発売されているお薬で、アセトアミノフェン系(AAP)という種類に属します。
アセトアミノフェン系は、「痛み止め」「熱冷まし」として様々な疾患に幅広く用いられています。安全性も高いため、熱が出た時や痛みが生じた時にまず検討するお薬でもあります。
痛み止めや熱さましのお薬としてはNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)も有名です。それぞれ特徴や作用には違いがあり、医師は痛みの程度や性状に応じて、その患者さんに一番合いそうな痛み止めを処方します。
カロナールはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここでは、カロナールの特徴や、効果・効能、副作用について紹介していきます。
1.カロナールの特徴
まずはカロナールの特徴を紹介します。
カロナールは解熱(熱冷まし)や鎮痛(痛み止め)作用を持つお薬です。効果は穏やかですが安全性に優れ、多くの疾患の発熱や痛みに対して用いられています。
カロナールはアセトアミノフェン系(AAP)と呼ばれるお薬で、解熱(熱冷まし)・鎮痛(痛み止め)作用を持ちます。
高い熱が出たり、痛みが出たりする疾患は非常に多くあります。ざっと挙げるだけでも、風邪(急性上気道炎)や肺炎、胃腸炎、尿路感染症、腰痛、頭痛、関節痛、歯痛、癌などがあります。このような多くの疾患に対して、カロナールはその症状を和らげるために用いられます。
解熱鎮痛作用を持つお薬としては、カロナールのようなアセトアミノフェン系(AAP)以外にもNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)もあります。
【NSAIDs】
COX(シクロオキシゲナーゼ)という酵素をブロックすることで炎症を抑え、それにより解熱・鎮痛効果を得るお薬。代表的なものには、
・ロキソニン(一般名ロキソプロフェン)
・ボルタレン(一般名ジクロジフェナク)
・ブルフェン(一般名イブプロフェン)
・セレコックス(一般名セレコキシブ)などがある。
NSAIDsもAAPも同じく解熱鎮痛作用を持ちますが、両者にはいくつかの違いがあります。
効果(熱を下げる強さ・痛みを抑える強さ)としてはNSAIDsの方が強く、よりしっかりと解熱・鎮痛をしてくれます。しかし安全性ではAAPが勝ります。特にNSAIDsで問題となるような消化器症状(胃痛、胃炎、胃潰瘍など)はAAPではほとんど生じません。またNSAIDsは喘息を誘発する事があるため喘息の方には使いずらいのですが、AAPは比較的安全に使えます。
作用的な違いを見ると、NSAIDsは抗炎症作用(炎症を抑える作用)を持ち、それが解熱鎮痛作用となっているのに対して、AAPは抗炎症作用を持ちません。炎症を抑えるのではなく、体温調節中枢に作用したり、痛みに関与する物質(プロスタグランジンやカンナビド、セロトニンなど)に作用することによって解熱・鎮痛作用を発揮している事が分かっています。
色々と書きましたが、ざっくりというと
「効果は穏やかだけど、安全に使えるのがアセトアミノフェン(AAP)」
「効果は強いけど、副作用にも注意が必要なのが非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)」
と言う事です。
またカロナールの利点としては、様々な剤型があるという点が挙げられます。発熱や痛みという、誰でも起こり得る症状に対するお薬であるため、老若男女が幅広く服用できるよう様々な剤型が用意されています。
錠剤、細粒(粉薬)、シロップの他、坐剤(坐薬)もあります。また同じアセトアミノフェンを含む「アセリオ静注液」というものもあり、これは点滴のアセトアミノフェンになります。
坐剤や点滴というのはメジャーな剤型ではありませんが、何らかの理由で口からお薬を飲めない方にとって非常に重宝します。
例えば小さな子供が肺炎でぐったりしてしまい、口を開けてくれない。でも解熱剤を何とかして使って熱を下げて楽にしてあげたい。このような時、飲み薬を無理矢理口の中にねじ込むのは危険ですが、坐薬や点滴なら安全に投与する事が出来ますよね。
あるいは寝たきりで飲み込む力が低下している高齢の方が熱を出してしまって苦しそうな時、口からお薬を投与したら誤嚥(薬が気管に入ってしまう)が生じるかもしれません。しかし坐剤や点滴なら安全に投与する事が出来ます。
坐剤・点滴も揃っているという事は、このような状況の患者さんにも使えるという事です。これはいざという状況で非常に助かりますよね。
以上からカロナールの特徴として次のような点が挙げられます。
【カロナールの特徴】
・鎮痛作用(痛みを抑える)、解熱作用(熱を下げる)がある
・NSAIDsと比べると効果は弱いが安全性に優れる
・NSAIDsと異なり抗炎症作用はほとんどない
・NSAIDsと異なり胃腸に負担をかけない、喘息の方にも使いやすい
・剤型が豊富である
2.カロナールはどのような疾患に用いるのか
カロナールはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
〇下記の疾患並びに症状の鎮痛頭痛、耳痛、症候性神経痛、腰痛症、筋肉痛、打撲痛、捻挫痛、月経痛、分娩後痛、がんによる疼痛、歯痛、歯科治療後の疼痛、変形性関節症
〇下記疾患の解熱・鎮痛
急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)
〇小児科領域における解熱・鎮痛
カロナールは解熱・鎮痛作用を持つお薬ですので、
- 熱を下げる
- 痛みを抑える
のどちらかの目的で投与されます。
適応疾患が難しく羅列されていますが、要するに「発熱」「痛み」を生じる場合に用いることが出来ると考えて頂ければ良いでしょう。部位や原因を問わず、「熱がある」「痛い」といった症状に対して効果が期待できます。
カロナールの有効率は、
- 歯痛に対する有効率は71.4%
- 抜歯後の疼痛に対する有効率は56.0%
- 感冒(風邪)による発熱に対する有効率は66.7%
- 頭痛などの疼痛に対する有効率は75.0%
と報告されています。
また癌(ガン)の疼痛に対してカロナールを用いた際に痛みを有意に軽減させた事、腰痛に対してカロナールを用いた際に有意に痛みを改善したことも報告されています。
注意点としては、上記疾患にカロナールが有効なのは間違いありませんが、解熱鎮痛剤は根本を治す治療ではなく、あくまでも対症療法に過ぎないことを忘れてはいけません。
対症療法とは、「症状だけを抑えている治療法」で根本を治している治療ではありません。
例えば肺炎によって高熱を来している方にカロナールを投与すれば、確かに熱は下がるでしょう。しかしこれは肺炎の原因である細菌をやっつけているわけではなく、あくまでも熱を下げているだけに過ぎません。
対症療法が悪い治療法だということはありませんが、対症療法だけで終わってしまうのは良い治療とは言えません。対症療法に加えて、根本を治すような治療も併用することが大切です。
例えば肺炎であれば、カロナールを使用しつつも、
- 細菌をやっつける抗生物質も投与する
- 免疫力を高めるために食事・水分をしっかりとる
などの根本的な治療法も併せて行う必要があるでしょう。
3.カロナールにはどのような作用があるのか
カロナールは「アセトアミノフェン系(AAP)」という種類に属します。このアセトアミノフェンはどのような機序によって解熱・鎮痛作用を発揮しているのでしょうか。
実はアセトアミノフェンは古くから用いられているお薬であるにも関わらず、その作用機序はいまだ明確に解明はされていません。
しかし「恐らくこのような作用機序であろう」という知見はそろってきているため、ここでは現時点で考えられているアセトアミノフェンの作用機序について紹介します。
Ⅰ.解熱作用
カロナールをはじめとしたアセトアミノフェンは、解熱作用(熱を下げる作用)があります。
この作用機序は完全には解明されていませんが、おそらく投与したアセトアミノフェンが脳の視床下部にある体温調節中枢に作用する事で、解熱作用が生じるのではないかと考えられています。
より具体的に言うと、アセトアミノフェンが体温調節中枢に作用すると、
- 身体の水分の移動(発汗を促す)
- 末梢血管の拡張
が生じます。水分というのは温度を調整するのに重要な役割があります。例えば私たちは運動すると汗をかきますが、これは汗を皮膚表面に分泌する事で体温を下げるというはたらきがあるのです。
水分は蒸発する時に周りの熱を奪うことが知られており、これを「気化熱」と呼びます。汗は気化熱によって皮膚の熱を奪い、それによって体温を適切な温度に下げているというわけです。
また手足の末梢の血管が開くと、そこに多くの血液が集まって熱が放散されやすくなり、これも体温を下げる役割となります。
アセトアミノフェンはこのような機序によって解熱作用を発揮すると考えられています。
ちなみにカロナールをはじめとしたアセトアミノフェンは、高熱を正常な体温に下げる作用はありますが、正常な体温を更に下げてしまうという事はほとんどありません。
Ⅱ.鎮痛作用
カロナールをはじめとしたアセトアミノフェンは、鎮痛作用(痛みを抑える作用)もあります。
この作用機序も完全には解明されていませんが、おそらく投与したアセトアミノフェンが脳の視床と大脳皮質に作用する事で痛みを感じにくくさせているのだと考えられています。
より具体的に言うと、
- プロスタグランジン
- カンナビノイド系
- セロトニン系
などといった痛みに関与する物質に影響を与えると考えられています。
プロスタグランジンは、痛みを誘発する作用を持つ物質です。そのためプロスタグランジンが低下すれば痛みが和らぐと考えられます。実際アセトアミノフェンはプロスタグランジン濃度を低下させることが報告されています。
カンナビノイドは「脳内麻薬」とも呼ばれ、分泌される事で痛みを感じにくくさせます。またセロトニンは主に気分に関わっている物質ですが、痛みにも関与している事が知られています。
セロトニンが低下する事で生じる疾患として「うつ病」がありますが、うつ病患者さんの約6割は症状として頭痛・腰痛・肩痛などの痛みを認めると報告されています。ここからセロトニンの低下は痛みを悪化させ、セロトニンを増やす事で痛みが和らぐという事が推測されます。
4.カロナールの副作用
カロナールにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの割合で生じるのでしょうか。
実はカロナールの副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし同種のアセトアミノフェン系のお薬の副作用発生率を見ると1%未満と非常に少ないものが多く、ここからカロナールも安全性は非常に高いお薬だと考えて良いでしょう。
臨床で投与している実感としても、副作用はほとんど生じることはありません。
生じうる副作用としては、
- 皮疹
- 食欲不振
- 悪心・嘔吐
などが報告されていますが、いずれも重篤となる事は極めて稀です。
また報告されている重篤な副作用としては、
- ショック、アナフィラキシー
- 中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)
- 急性汎発性発疹性膿疱症
- 喘息発作の誘発
- 劇症肝炎、肝機能障害、黄疸
- 顆粒球減少症
- 間質性肺炎
- 間質性腎炎、急性腎不全
が報告されています。
これらの重篤な副作用も一応記載があるものの、臨床をしていてお目にかかることは滅多になく、適正に使用している限りは大きな心配はいりません。
ただし高用量使っている方は「肝臓に負担がかかりやすい」という事は覚えておきましょう。カロナールのようなアセトアミノフェンを長期間・高用量使用し続けている場合は、定期的に肝機能などを測定し、異常を見落とさないようにすべきです。
これはカロナールは多くが肝臓で代謝され、排泄されるためです。カロナールの量が多かったり元々肝臓が弱かったりすると、肝臓がカロナールを代謝しきれなくなり、肝臓に蓄積したカロナールが肝臓を傷付けてしまう事があります。
実際、カロナールを使用する際の警告として、次のように書かれています。
〇本剤により重篤な肝障害が発現するおそれがあることに注意し、1日総量1500mgを超す高用量で長期投与する場合には、定期的に肝機能等を確認するなど慎重に投与すること。
〇本剤とアセトアミノフェンを含む他の薬剤(一般用医薬品を含む)との併用により、アセトアミノフェンの過量投与による重篤な肝障害が発現するおそれがあることから、これらの薬剤との併用を避けること。
いずれも「高用量のアセトアミノフェンを使用する際は肝機能障害に気を付けてね」という内容です。
また、カロナールは次のような方には原則禁忌(基本的には使ってはダメ)となっていますので気を付けて下さい。
1.消化性潰瘍のある方
2.重篤な血液の異常のある方
3.重篤な肝障害のある方
4.重篤な腎障害のある方
5.重篤な心機能不全のある方
6.カロナールに過敏症の既往歴のある方
7.アスピリン喘息又はその既往歴のある方
5.カロナールの用法・用量と剤形
カロナールは次の剤型が発売されています。
カロナール細粒20%
カロナール細粒50%カロナール錠 200mg
カロナール錠 300mg
カロナール錠 500mgカロナールシロップ2%
カロナール坐剤小児用50
カロナール坐剤100
カロナール坐剤200
カロナール坐剤400
「熱冷まし」「痛み止め」であるカロナールは小さなお子様から高齢者まで幅広い層の患者さんが使うお薬です。
どの世代の人でも使う事ができるよう、多くの剤型が発売されています。
また、カロナールの使い方は疾患によって異なってきます。
〇下記の疾患並びに症状の鎮痛
頭痛、耳痛、症候性神経痛、腰痛症、筋肉痛、打撲痛、捻挫痛、月経痛、分娩後痛、がんによる疼痛、歯痛、歯科治療後の疼痛、変形性関節症⇒通常、成人には1回300~1000mgを経口投与し、投与間隔は4~6時間以上とする。なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日総量として4000mgを限度とする。また、空腹時の投与は避けさせることが望ましい。
このように痛み止めとして用いる場合は1回300~1000mg、1日量4000mg以内とされています。
〇下記疾患の解熱・鎮痛
急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)⇒通常、成人には1回300~500mgを頓用する。なお年齢、症状により適宜増減する。ただし、原則として1日2回までとし、1日最大1500mgを限度とする。また、空腹時の投与は避けさせることが望ましい。
急性上気道炎(いわゆる風邪)に対しては1回300~500mgで1日2回まで、1日量1500mgまでとされています。実際は1日2回だと1000mgになるはずですから、必要な場合は1日3回投与しても問題ありません。
〇小児科領域における解熱・鎮痛
⇒通常、幼児及び小児には体重1kgあたり1回10~15mgを経口投与し、投与間隔は4~6時間以上とする。なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日総量として60mg/kgを限度とする。ただし、成人の用量を超えない。また、空腹時の投与は避けさせることが望ましい。
小児の場合は体重によって用いる量が異なってきます。
カロナールは投与してから0.5~1時間以内に効果が表れ始め、2~3時間ほどで効果は最大となり、4時間程度は効果は続きます。
カロナールを服用する際の注意点として、糖分の多いもの(アメ、お菓子、ゼリーや炭水化物を多く含む食事)と一緒に服用しないようにしましょう。これらとカロナールを一緒に飲んでしまうと炭水化物とカロナールが複合体を形成してしまい、これによってカロナールの吸収速度が低下して効きが遅くなります。
特になるべく早く解熱鎮痛効果が欲しい時は、これらと一緒にカロナールを服用しない方が良いでしょう。
6.カロナールが向いている人は?
以上からカロナールはどのような方に向いているお薬なのでしょうか。
カロナールの特徴をおさらいすると、
・鎮痛作用(痛みを抑える)、解熱作用(熱を下げる)がある
・NSAIDsと比べると効果は弱いが安全性に優れる
・NSAIDsと異なり抗炎症作用はほとんどない
・NSAIDsと異なり胃腸に負担をかけない、喘息の方にも使いやすい
・剤型が豊富である
といった特徴がありました。
解熱鎮痛剤の中で、カロナールのようなアセトアミノフェンの最大のメリットは安全性に優れるという点になります。
効果は穏やかですが、安全に用いる事ができるため、安全性を重視して解熱・鎮痛を行いたい場合に適したお薬です。
このような特徴からアセトアミノフェンは、解熱・鎮痛の際にまず最初に用いられる事の多いお薬です。まずはアセトアミノフェンから試してみて、効果が不十分であればNSAIDsなどの効果のより高いお薬に切り替えるという使い方がされます。
カロナールはアセトアミノフェン系のお薬の中でもっとも有名なお薬であるため、安全に解熱・鎮痛を行いたい時にまず一番最初に用いるお薬として非常に適しています。