カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムは1959年から発売されている「アドナ」という止血剤のジェネリック医薬品です。
止血剤とは出血を止める作用を持つお薬のことで、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムは血管に作用することで出血しにくくなるように作用します。古いお薬ですが、現在でも出血しやすい状態の方を中心に用いられています。
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムはどのような特徴のあるお薬で、どんな作用を持っているお薬なのでしょうか。
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムの効果や特徴・副作用についてみていきましょう。
目次
1.カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムの特徴
まずはカルバゾクロムスルホン酸ナトリウムの全体的な特徴についてみてみましょう。
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムは血管に作用することで止血作用(出血を抑える作用)を発揮します。
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムは止血剤(出血を止めるお薬)の1つですが、ユニークな作用機序を持っています。
止血剤にはいくつかの種類がありますが、多くの止血剤は「凝固・線溶系因子(血液を固まらせる物質)」のはたらきを強める事で止血作用を得ます。
凝固線溶系が活性化すればかさぶた(血液の固まり)が出来やすくなるため、止血効果が得られるという事です。
対してカルバゾクロムスルホン酸ナトリウムは凝固・線溶系因子には作用せず、血管に作用することで血が血管外に漏れにくいようにするお薬でなり、これがカルバゾクロムスルホン酸ナトリウムの大きな特徴になります。
より具体的に言うと、身体の末梢を走っている細小血管に対して、
- 血管透過性を低下させる
- 血管抵抗を増強させる
事によって、止血効果をもたらします。
この詳しい機序については後述しますが、簡単に言えば血管内の物質が血管の外に漏れにくくするように血管の壁を強化するという事です。
出血というのは外傷などによって血管が傷つく事で生じます。であれば血管を増強すれば出血しにくくなるだろう、という理屈です。
副作用はほとんどなく、また重篤な副作用の報告もほとんどありません。
またカルバゾクロムスルホン酸ナトリウムはジェネリック医薬品ですので、先発品と比べて薬価が安いというのもメリットになります。
以上から、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムの特徴として次のようなことが挙げられます。
【カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムの特徴】
・血管を増強することで出血しにくくする止血剤である
・血管透過性を低下させ、血管抵抗性を増強する
・副作用がほとんどなく安全性に優れる
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
2.カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムはどのような疾患に用いるのか
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
○毛細血管抵抗性の減弱及び透過性の亢進によると考えられる出血傾向(例え ば紫斑病等)
○毛細血管抵抗性の減弱による皮膚あるいは粘膜及び内膜からの出血・眼底出 血・腎出血・子宮出血
○毛細血管抵抗性の減弱による手術中・術後の異常出血
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムは「血管を強くする」ことで出血させにくくするお薬になります。
そのため、その一番の適応は「血管が弱くなってしまって出血しやすくなっている方」です。
適応疾患を読むと、難しく・漠然と書かれているため分かりにくいのですが、要するに「血管を強くすることで出血が抑えられる」と判断された場合に投与の適応となると考えてよいでしょう。
古いお薬であるため有効率の詳しい調査は少ないのですが、上記に該当する状態において有意に出血を抑えた事が確認されています。
3.カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムにはどのような作用があるのか
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムはどのような作用機序によって、出血を止めてくれるのでしょうか。
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムは非常に古くからあるお薬ですが、その作用機序というのは実は明確には解明されていません。
ここでは現時点で推測されているカルバゾクロムスルホン酸ナトリウムの作用について紹介させて頂きます。
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムは、
- 血管透過性の低下
- 血管抵抗性の増強
の2つの効果をもたらすことによって止血作用を発揮しています。
「血管透過性」というのは、血管から様々な物質が血管の外に出ていく「出ていきやすさ」になります。
私たちの身体は全身に血管がはりめぐらされていますが、血液はただ全身をグルグル回っているだけではありません。各部位で必要に応じて血管内の水分や栄養、細胞などを血管外へ受け渡しています。血管は全身に必要な物質を届ける「輸送路」なのです。
そのため実は血管(特に末梢血管)は、必要に応じて血管の外に物質が出ていけるような構造になっています。
例えば身体にばい菌が入って炎症が起こった際、炎症周辺の血管は透過性が上昇します。なぜ透過性を上昇させるかというと、白血球などのばい菌と闘う血球が血管の外に出やすくするためです。このように多くの白血球がばい菌が感染した部位に向かう事で、ばい菌の感染拡大を食い止めることができます。
一方で、何の必要ない部位では血管の透過性を低めておく事でその部位に余計な水分・栄養・細胞を漏らさないようにし、これらの物質を届けたい部位まで効率よく送れるようにしています。
このように血管というのは状況に応じて透過性を高めたり低めたりすることで、必要な部位に必要な物質を送っているわけです。
しかし加齢や病気などによって、この血管の透過性が全体的に亢進してしまう事があります。するとあちこちから出血しやすくなってしまったり、むくみや炎症が出現してしまう事になります。
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムは主に細小血管の血管透過性を低下させることによって、このような状態の方の血管透過性を正常レベルにまで戻してあげる効果があるのです。
また「血管抵抗性」というのは、血管が血液を圧迫する力の事で、通常では動脈硬化で血管が固くなったり、血管壁にコレステロールが沈着して動脈が狭くなると上昇します。
血管抵抗性が上昇すると、心臓がより強い力で血液を送らないといけなくなるため、心臓に負担がかかりやすくなります。そのため血管抵抗性が上がることは通常はあまり良い事ではありません。
しかし血管から出血している場合、血管抵抗性が上昇すると、血管が血液を押しかえす力が強くなるため、血管外に血液が出血しにくくなります。これは止血作用につながります。
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムは血管抵抗性を増強する作用もあり、これも止血作用の一因となっています。
血管抵抗性が上がるという事は、「血圧が上がってしまうのではないか」「心不全の原因になってしまうのではないか」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。しかしカルバゾクロムスルホン酸ナトリウムによる血管抵抗性の増強は血圧には影響しない事が動物実験で確認されています。
このような機序によってカルバゾクロムスルホン酸ナトリウムは止血作用をもたらしています。
しかし、このような「血管透過性の低下」「血管抵抗性の増強」がどのような機序によって起きているのかは詳しくは分かっていません。何らかの機序によってこのような作用が生じており、これがカルバゾクロムスルホン酸ナトリウムの止血作用となっているのです。
4.カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムの副作用
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムにはどのような副作用があるのでしょうか。
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムはジェネリック医薬品ですので、副作用発生率の詳しい調査は行われていません。
しかし先発品の「アドナ」では副作用発生率は1.25%と報告されており、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムも同程度だと考えられます。
生じうる副作用には、
- 食欲不振
- 胃部不快感
- 悪心
- 嘔吐
- 掻痒
- 発疹
などがあります。
重篤な副作用の報告もほとんどなく、基本的には安全に使えるお薬という認識で良いでしょう。カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムが古くて作用機序も詳しくは分かっていないお薬であるにも関わらず、現在においても使われているのは、この安全性の高さが1つあると思われます。
また副作用ではありませんが、代謝物の影響によりカルバゾクロムスルホン酸ナトリウム服用中の方は尿検査で尿中ウロビリノーゲンが陽性になったり、尿が橙色っぽくなる事があります。
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムは前述のように、「血管抵抗性を上げる」という作用があるため、「血圧が上がってしまうのではないか」「心不全になってしまうのではないか」「心筋梗塞や脳梗塞になりやすくなるのではないか」と心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、動物実験においてはそのような報告はありません。また実臨床でも50年以上使われていますが、そのような副作用が生じる印象はありません。
5.カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムの用法・用量と剤形
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムは、
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム錠 10mg
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム錠 30mgカルバゾクロムスルホン酸ナトリウム散 10%
といった剤形があります。
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムの使い方としては、
通常、成人1日30~90mgを3回に分割経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
となっています。
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムの作用持続時間は5~6時間と考えられており、そのため1日3回に分けて服用するようになっています。
6.カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムが向いている人は?
以上から考えて、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムの特徴をおさらいすると、
・血管を増強することで出血しにくくする止血剤である
・血管透過性を低下させ、血管抵抗性を増強する
・副作用がほとんどなく安全性に優れる
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
といったものがありました。
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムは古いお薬ではありますが、
- 安全性が高く
- 止血作用を持っている
お薬になります。
そのため、
- 手術後で出血が心配な場合
- 出血を止めた後で、再出血が心配な場合
- 出血が予測される疾患を発症した場合
など、出血を抑えてあげたい場合に広く用いられています。
安全性が高いため、使用しやすいお薬ですが、劇的な止血作用があるわけではなくその作用はおだやかです。
そのため、明らかな出血をカルバゾクロムスルホン酸ナトリウムだけで抑えるというのは困難です。
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムによる止血はあくまでも補助的なものです。必要な止血処置を行った上で、「念のため」カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムも投与しておこうという使い方をするお薬になります。
7.先発品と後発品は本当に効果は同じなのか?
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムは「アドナ」というお薬のジェネリック医薬品になります。
ジェネリックは薬価も安く、患者さんにとってメリットが多いように見えます。
しかし「安いという事は品質に問題があるのではないか」「やはり正規品の方が安心なのではないか」とジェネリックへの切り替えを心配される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
同じ商品で価格が高いものと安いものがあると、つい私たちは「安い方には何か問題があるのではないか」と考えてしまうものです。
ジェネリックは、先発品と比べて本当に遜色はないのでしょうか。
結論から言ってしまうと、先発品とジェネリックはほぼ同じ効果・効能だと考えて問題ありません。
ジェネリックを発売するに当たっては「これは先発品と同じような効果があるお薬です」という根拠を証明した試験を行わないといけません(生物学的同等性試験)。
発売したいジェネリック医薬品の詳細説明や試験結果を厚生労働省に提出し、許可をもらわないと発売はできないのです、
ここから考えると、先発品とジェネリックはおおよそ同じような作用を持つと考えられます。明らかに効果に差があれば、厚生労働省が許可を出すはずがないからです。
しかし先発品とジェネリックは多少の違いもあります。ジェネリックを販売する製薬会社は、先発品にはないメリットを付加して患者さんに自分の会社の薬を選んでもらえるように工夫をしています。例えば使い心地を工夫して添加物を先発品と変えることもあります。
これによって患者さんによっては多少の効果の違いを感じてしまうことはあります。この多少の違いが人によっては大きく感じられることもあるため、ジェネリックに変えてから調子が悪いという方は先発品に戻すのも1つの方法になります。
では先発品とジェネリックは同じ効果・効能なのに、なぜジェネリックの方が安くなるのでしょうか。これを「先発品より品質が悪いから」と誤解している方がいますが、これは誤りです。
先発品は、そのお薬を始めて発売するわけですから実は発売までに莫大な費用が掛かっています。有効成分を探す開発費用、そしてそこから動物実験やヒトにおける臨床試験などで効果を確認するための研究費用など、お薬を1つ作るのには実は莫大な費用がかかるのです(製薬会社さんに聞いたところ、数百億という規模のお金がかかるそうです)。
しかしジェネリックは、発売に当たって先ほども説明した「生物学的同等性試験」はしますが、有効成分を改めて探す必要もありませんし、先発品がすでにしている研究においては重複して何度も同じ試験をやる必要はありません。
先発品と後発品は研究・開発費に雲泥の差があるのです。そしてそれが薬価の差になっているのです。
つまりジェネリック医薬品の薬価は莫大な研究開発費がかかっていない分が差し引かれており先発品よりも安くなっているということで、決して品質の差が薬価の差になっているわけではありません。