カルボシステイン錠(一般名:L-カルボシステイン)は1990年から発売されているお薬でジェネリック医薬品(後発品)になります。1981年から発売されている「ムコダイン」のジェネリックであり、ムコダインよりも薬価が安くなっています。
カルボシステインはいわゆる「痰切り」のお薬で、専門的には「去痰剤(きょたんざい)」と呼ばれます。主に風邪や気管支炎などで痰がからんでしまうような時に痰を出しやすくするお薬として処方されます。
またそれ以外にも鼻水・鼻づまりを改善させる作用などもあります。風邪を引いた時は痰だけでなく鼻水も出る事が多いので、1剤で痰と鼻水の両方に効いてくれるカルボシステインは風邪などの時に頼れるお薬です。
副作用が少なく、剤型も多く使い勝手が良いため、古いお薬でありながら現在でも広く用いられているお薬の1つです。
去痰剤の中でカルボシステインはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。カルボシステインの効能や特徴についてお話させて頂きます。
目次
1.カルボシステインの特徴
まずはカルボシステインの特徴をざっくりと紹介します。
カルボシステインは気道・鼻腔・副鼻腔の粘膜を修復させ、異物(痰や膿など)を排泄しやすくするお薬です。
カルボシステインの主な作用は痰を排出しやすくすることですが、それ以外にも鼻水も同様に排出しやすくする作用があります。そのため痰のみならず鼻症状(鼻水・鼻づまりなど)を認めるような風邪や気管支炎などを中心に現在でも広く処方されています。
痰切りのお薬にもいくつかの種類があります。その作用を大きく分けると、
・痰を出しやすくするお薬
・痰を溶かすお薬
があります。
カルボシステインは前者になり、気道に分泌される粘液を正常化したり、気道の線毛運動を亢進させる事で痰を体外に排出しやすくするお薬です。この種類のお薬は他にも「ムコソルバン(一般名:アンブロキソール)」などがあります。
もう1つが痰を溶かすお薬で、こちらにはビソルボン(一般名ブロムヘキシン)などがあります。
カルボシステインは副作用が少なく、臨床で処方している感覚としては「副作用がほぼない」と言っても良いようなお薬になります。たまに胃不快感などの胃腸系の症状が出ますが、出たとしても軽度であり、安全性はとても高いお薬です。
またジェネリック医薬品であるため、先発品のムコダインよりも薬価が安いという利点もあります。ムコダインも薬価が安いため体感的には安さをあまり感じないかもしれませんが、ムコダインの半額程度になっています。
以上からカルボシステインの特徴として次のような点が挙げられます。
【カルボシステインの特徴】
・痰を排出しやすくするはたらきを持つ
・鼻腔・副鼻腔炎の鼻水・鼻づまりを改善させる作用もある
・副作用が少なく安全性が高い
・ジェネリック医薬品なので薬価が安い
2.カルボシステインはどんな疾患に用いるのか
カルボシステインはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
〇 下記疾患の去痰
上気道炎(咽頭炎、喉頭炎)、急性気管支炎、気管支喘息、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺結核〇 慢性副鼻腔炎の排膿
難しく書かれていますが、基本的には痰が出るような呼吸器疾患に対して、「痰切り」の目的で投与されるという認識で良いでしょう。
加えてカルボシステインには鼻腔や副鼻腔の清浄作用がありますので、副鼻腔炎にも適応があります。
また、実は中耳に溜まった液を排出する作用がありますので「浸出性中耳炎の排液」にも効果があるのですが、これは適応になっていません。
ちなみに先発品のムコダインは小児において「滲出性中耳炎の排液」も適応になっています。カルボシステインも中耳炎の排液に医学上は効果を有するのですが、小児に対する臨床試験を行っていないため、適応が取れていないのです。
3.カルボシステインにはどのような作用があるのか
主に痰切り(去痰剤)として用いられるカルボシステインですが、どのような機序で痰を出しやすくしているのでしょうか。またその他の作用はどのように生じているのでしょうか。
カルボシステインには次のような作用がある事が知られています。
Ⅰ.痰を柔らかくし、出しやすくする
カルボシステインは気道に分泌される粘液を正常化することで、痰を排出しやすくする作用を持ちます。
痰が固くなって出しにくい時というのは、痰の構成成分であるシアル酸・フコースの構成比が崩れていることが知られています。カルボシステインは、これらの構成比を正常化させる作用があり、これによって痰を柔らかくし、排出しやすくします。
また気道粘液中のムチンという粘度の高いタンパク質の生成を抑制することで、痰の粘度を下げ、痰を排泄しやすくするというはたらきもあります。
Ⅱ.気管支の線毛の動きを良くする
気管支の壁には線毛(繊毛)と呼ばれる毛のようなものが付いています。
この毛は、異物が気管に入ると動きが活性化し、体外に異物を運ぶはたらきがあります。
カルボシステインは、上気道炎や気管支炎によって生じた気道粘膜の炎症を修復する作用もあります。これによって気管壁に存在する線毛もしっかりとはたらけるようになり、痰が体外に排出されやすくなります。
Ⅲ.鼻腔・副鼻腔をきれいにする
カルボシステインは「去痰剤」というイメージが強く、気管にしか作用しないと思われがちですが、実は気管だけではなく、鼻腔や副鼻腔にも作用することが分かっています。
元々鼻腔・副鼻腔と気管は分泌液や線毛運動など構造的に似ている部分が多い事が知られています。そのためカルボシステインは気管だけではなく鼻腔・副鼻腔でも同じようにはたらき、余計な物質を排出してくれる作用が期待できるのです。
カルボシステインは炎症などによって傷ついた鼻腔・副鼻腔の粘膜を修復してくれる作用が確認されています。また鼻腔・副鼻腔の線毛運動を正常化することにより鼻汁の排泄を促したり、鼻閉(鼻づまり)を改善させます。
風邪の症状の他、副鼻腔炎の鼻漏、後鼻漏、鼻閉などの症状の改善も期待できます。
4.カルボシステインの副作用
カルボシステインにはどんな副作用があるのでしょうか。
カルボシステインはジェネリックであるため、副作用発生率の詳しい調査は行われていません。先発品のムコダインにおいては副作用の発生率は0.9%程度と報告されており、カルボシステインもこれと同程度だと考えられます。
カルボシステインは、副作用が非常に少ないといって良いお薬です。また生じる副作用の程度も軽いものがほとんどで重篤な副作用はほぼ起こらないといってもよいでしょう。
頻度は少ないものの、生じうる副作用としては消化器系のものが多く、
・食欲不振
・下痢
・腹痛
・発疹
などが報告されています。
非常に稀ではありますが重篤な副作用として、
・皮膚粘膜眼症候群(SJS)
・中毒性表皮壊死症(TEN)
・肝機能障害
・黄疸
・ショック
などが報告されています。
肝臓に対する副作用が稀にあるため、元々肝機能の悪い方は主治医にあらかじめ伝えておく必要があります。
これらの重篤な副作用は報告があるため一応の注意は必要ですが、臨床においてほとんど見かけることはありません。
5.カルボシステインの用法・用量と剤形
カルボシステインは多くの剤型が発売されています。
カルボシステイン錠 250mg
カルボシステイン錠 500mgカルボシステイン ドライシロップ 50%
カルボシステイン シロップ(小児用) 5%
などの剤型が発売されています。
錠剤だけでなく、ドライシロップ(粉薬)、シロップ(液剤)も揃っています。小さいお子様やお年寄りの方などではこのような剤型の方が良いこともありますので、そのような際にはありがたい剤型です。
カルボシステインの使い方は、
通常成人1回500mgを1日3回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
と書かれています。
6.カルボシステインが向いている人は?
以上から考えて、カルボシステインが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
カルボシステインの特徴をおさらいすると、
・痰を排出しやすくするはたらきを持つ
・鼻腔・副鼻腔炎の鼻水・鼻づまりを改善させる作用もある
・副作用が少なく安全性が高い
・ジェネリック医薬品なので薬価が安い
などがありました。
カルボシステインは効果もしっかりとあり、安全性も高いため、使い勝手が良いお薬です。またジェネリック医薬品であり、薬価も安くなっています。
ここから、呼吸器疾患に伴う痰が生じた時に、まず最初に用いるお薬として適していると言えます。臨床では風邪(急性上気道炎)や気管支炎などの痰切り・鼻水改善を目的に非常に多く処方されているお薬です。
7.先発品と後発品は本当に効果は同じなのか?
カルボシステインは「ムコダイン」という去痰剤のジェネリック医薬品になります。
ジェネリックは薬価も安く、剤型も工夫されているものが多く患者さんにとってメリットが多いように見えます。
しかし「安いという事は品質に問題があるのではないか」「やはり正規品の方が安心なのではないか」とジェネリックへの切り替えを心配される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
同じ商品で価格が高いものと安いものがあると、つい私たちは「安い方には何か問題があるのではないか」と考えてしまうものです。
カルボシステインというジェネリックは、ムコダインと比べて本当に遜色はないのでしょうか。
結論から言ってしまうと、先発品(ムコダイン)とジェネリック(カルボシステイン)は同じ効果・効能だと考えて問題ありません。
ジェネリックを発売するに当たっては「これは先発品と同じような効果があるお薬です」という根拠を証明した試験を行わないといけません(生物学的同等性試験)。
発売したいジェネリック医薬品の詳細説明や試験結果を厚生労働省に提出し、許可をもらわないと発売はできないのです、
ここから考えると、先発品とジェネリックはおおよそ同じような作用を持つと考えられます。明らかに効果に差があれば、厚生労働省が許可を出すはずがないからです。
しかし先発品とジェネリックは多少の違いもあります。ジェネリックを販売する製薬会社は、先発品にはないメリットを付加して患者さんに自分の会社の薬を選んでもらえるように工夫をしています。例えば飲み心地を工夫して添加物を先発品と変えることもあります。
これによって患者さんによっては多少の効果の違いを感じてしまうことはあります。
では先発品とジェネリックは同じ効果・効能なのに、なぜジェネリックの方が安くなるのでしょうか。これを「先発品より品質が悪いから」と誤解している方がいますが、これは誤りです。
先発品は、そのお薬を始めて発売するわけですから、実は発売までに莫大な費用が掛かっています。有効成分を探す開発費用、そしてそこから動物実験やヒトにおける臨床試験などで効果を確認するための研究費用など、お薬を1つ作るのには実は莫大な費用がかかるのです(製薬会社さんに聞いたところ、数百億という規模のお金がかかるそうです)。
しかしジェネリックは、発売に当たって先ほども説明した「生物学的同等性試験」はしますが、有効成分を改めて探す必要もありませんし、先発品がすでにしている研究においては重複して何度も同じ試験をやる必要はありません。
先発品と後発品は研究・開発費に雲泥の差があるのです。そしてその薬価の差なのです。決して品質の差が薬価の差になっているわけではありません。