セレコックス錠(一般名:セレコキシブ)は2007年から発売されているお薬で、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)という種類に属します。
「非ステロイド性消炎鎮痛剤」というと難しく聞こえますが、これはいわゆる「痛み止め」「熱さまし」として使われているお薬のことです。ステロイドでないお薬で、炎症を和らげ痛みを抑えるはたらきを持つものを非ステロイド性消炎鎮痛剤と呼びます。
NSAIDsにはたくさんの種類があります。どれも大きな違いはありませんが、細かい特徴や作用には違いがあり、医師は痛みの程度や性状に応じて、その患者さんに一番合いそうな痛み止めを処方しています。
NSAIDsの中でセレコックスはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここではセレコックスの特徴や効果・副作用などを紹介していきます。
目次
1.セレコックスの特徴
まずはセレコックスの特徴を紹介します。
セレコックスは炎症を抑える事で鎮痛(痛み止め)・解熱(熱さまし)作用を持ちます。COX2に選択的に作用するため、胃腸障害が少ないという特徴があります。
セレコックスはNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)と呼ばれるお薬で、消炎作用(炎症を抑える作用)を持ちます。「コキシブ系」という系統に属し、同種のNSAIDsの中で効果の強さは中等度になります(お薬の効きは個人差があるためあくまでも目安です)。
NSAIDsの主な用途としては、炎症を抑える事で、
- 解熱作用(熱さまし)
- 鎮痛作用(痛み止め)
を目的として投与されます(ただしセレコックスは主に鎮痛目的での保険適応となっています)。
NSAIDsの中でのセレコックスの特徴は、「COX2選択性が高い」という事です。これは「胃腸障害の副作用が少ない」と言い換える事が出来ます。
NSAIDsはCOX(シクロオキシゲナーゼ)という物質をブロックするで炎症を抑えるというのが基本的なはたらきです。COXにはCOX1とCOX2があるのですが、ざっくりいうと炎症に関係するのがCOX2で、胃腸障害などの副作用に関係するのがCOX1です。
多くのNSAIDsはCOX1にもCOX2にも作用します。そのため炎症も抑えられますが、胃腸障害の副作用も生じてしまうのです。もしCOX2のみに作用することが出来れば、胃腸障害の副作用は少なく、かつ炎症はしっかりと抑える事ができます。
セレコックスは他のNSAIDsと比べてCOX2という炎症に関係する物質を集中的にブロックし、COX1という胃腸障害などの副作用に関係する物質はあまりブロックしないという特徴があります。これにより胃腸障害を起こす頻度が少なくなっています。
NSAIDsは長期使用・大量使用によって胃潰瘍などの胃腸障害が生じてしまう事があり、これは「NSAIDs潰瘍」としてしばしば問題になっています。セレコックスはこのようなリスクが少ない、安全性に優れるNSAIDsだという事ができます。
しかし胃腸系の副作用が絶対に生じないというわけではありません。あくまでも他のNSAIDsと比べると少ないというだけですので、一定の注意は必要です。
またNSAIDsは喘息を誘発しやすくすることが知られており、喘息の方にはできるだけ服用しない方が良いでしょう。
以上からセレコックスの特徴として次のような点が挙げられます。
【セレコックスの特徴】
・鎮痛作用(痛みを抑える)、解熱作用(熱を下げる)は中等度
・COX2に選択的に作用する
・副作用の胃腸障害に注意は必要だが、他のNSAIDsよりは少ない
・喘息の方は使用に注意(他のNSAIDsと同様)
2.セレコックスはどのような疾患に用いるのか
セレコックスはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
〇下記疾患並びに症状の消炎・鎮痛
関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、腱・腱鞘炎
〇手術後、外傷後並びに抜歯後の消炎・鎮痛
セレコックスは消炎鎮痛剤ですので、炎症によって生じる症状を抑えるために用いられます。
実臨床では、
- 痛みを抑える
- 熱を下げる
のどちらかの目的で投与される事がほとんどです。
ただしセレコックスは主に鎮痛(痛みを抑える)目的での投与しか試験を行っていないため、鎮痛目的のみの適応となっています(作用的には解熱作用(熱を下げる作用)も持ってはいます)。
適応疾患には難しい病名が書かれていますが、おおまかな理解としては「痛みが生じる状態に対して、その症状を和らげるために用いる」という認識で良いでしょう。
セレコックスはこれらの疾患に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
セレコックスの有効率(改善率)は、
- 慢性関節リウマチへの有効率は26.4%
- 変形性関節症への有効率は69.9%
- 腰痛症への有効率は65.1%
- 肩関節周囲炎への有効率は64.9%
- 頸肩腕症候群への有効率は70.0%
- 腱・腱鞘炎への有効率は67.1%
と報告されています。
ただし上記疾患にセレコックスが有効なのは間違いありませんが、セレコックスを始めとするNSAIDsは根本を治す治療ではなく、あくまでも対症療法に過ぎないことを忘れてはいけません。
対症療法とは「症状だけを抑えている治療法」で根本を治しているわけではない「その場しのぎの」治療です。
例えば腰の筋力低下によって腰痛が出現している方に対してセレコックスを投与すれば、確かに痛みは軽減します。しかしこれは原因である腰部の筋肉低下を治しているわけではなく、あくまでも発痛を起こしにくくしているだけに過ぎません。
対症療法が悪い治療法だということではありませんが、対症療法だけで終わってしまうのは良い治療とは言えません。対症療法と合わせて、根本を治すような治療も併用することが大切です。
例えば先ほどの腰痛であれば、セレコックスを使用しつつも、
- 適度な運動・リハビリをする
- 栄養をしっかり取る
などの根本的な治療法も併せて行う必要があるでしょう。
3.セレコックスにはどのような作用があるのか
セレコックスはどのような作用機序によって炎症を抑え、痛みや熱を抑えてくれるのでしょうか。
セレコックスは「非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)」に属するお薬ですが、NSAIDsの作用はその名の通り、消炎(炎症を抑える)ことで鎮痛する(痛みを抑える)事です。
炎症とは、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
の4つの徴候を生じる状態のことで、感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
みなさんも身体をぶつけたり、ばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあると思います。これが炎症です。
セレコックスは炎症の原因が何であれ、炎症そのものを抑える作用を持ちます。つまり、発赤・熱感・腫脹・疼痛を和らげてくれるという事です。
具体的にどのように作用するのかというと、セレコックスにはシクロオキシゲナーゼ(COX)という物質をブロックするはたらきがあります。
COXはプロスタグランジン(PG)が作られる時に必要な物質であるため、COXがブロックされるとプロスタグランジンが作られにくくなります。
プロスタグランジンは炎症を誘発し、痛みや発熱を引き起こす物質です。そのため、セレコックスがCOXをブロックすると炎症による痛み、発熱が生じにくくなるのです。
セレコックスはCOXのはたらきをブロックする事で炎症を抑え、これにより
- 熱を下げる
- 痛みを抑える
といった効果が期待できます。そのためセレコックスのようなお薬を「COX阻害薬」と呼ぶ事もあります。
ちなみにCOXにはCOX1とCOX2の2種類があります。両者の違いは、主に生理機能(胃粘液分泌など正常時に行われている活動)に関係するのがCOX1で、主に炎症に関係しているのがCOX2になります。
という事はCOX1にはあまり作用せず、COX2に集中的に作用するお薬があれば胃腸障害などを起こさずに消炎・鎮痛効果が得られるという事になります。
セレコックスはCOX2に選択的に作用するように作られています。ここからセレコックスのような胃腸障害の少ないNSAIDsの事を「選択的COX2阻害薬」と呼ぶこともあります。
4.セレコックスの副作用
セレコックスの副作用にはどのようなものがあるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
セレコックスの副作用発生率は、
- 関節リウマチ、変形性関節症に対しての副作用発生率は24.6%
- 腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、腱・腱鞘炎に対しての副作用発生率は34.6%
- 手術後、外傷後並びに抜歯後の消炎・鎮痛に対しての副作用発生率は13.1%
と報告されております。
数値上は他のNSAIDsよりも高く出ていますが、これはセレコックスは比較的新しいNSAIDsであるため、副作用発生率の調査が昔よりもより厳密に行われたためだと考えられます。臨床的な実感として、セレコックスはNSAIDsの中で特に副作用が多いお薬ではありません。
生じうる副作用としては、
- 傾眠
- 腹痛
- 口内炎
- 下痢
- 発疹
- 腎機能障害(BUN等の上昇)
- 肝機能異常(AST、ALT、ALP等の上昇)
- 悪心、嘔吐
- 腹部膨満
- 胃部不快感
などがあります。
セレコックスをはじめとしたNSAIDsでもっとも注意すべきなのが「胃腸系の障害」です。これはNSAIDsがプロスタグランジンの生成を抑制するために生じます。
プロスタグランジンは胃粘膜を保護するはたらきを持っており、実際にプロスタグランジンを誘導するようなお薬は胃薬として用いられています。そのため、NSAIDsによってこれが抑制されると胃腸が荒れやすくなってしまうのです。
胃痛や悪心などをはじめとして、胃炎や胃潰瘍などになってしまうこともあります。このため、NSAIDsは漫然と長期間使用し続けないことが推奨されています。
セレコックスはCOX2に選択性が高いため、他のNSAIDsと比べると胃腸系の副作用が少ないという特徴がありますが、胃腸系の副作用が絶対に生じないわけではありませんので、注意して使わなければいけません。
頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- ショック、アナフィラキシー様症状
- 消化性潰瘍、消化管出血、消化管穿孔
- 心筋梗塞、脳卒中
- 心不全、うっ血性心不全
- 肝不全、肝炎、肝機能障害、黄疸
- 再生不良性貧血、汎血球減少、無顆粒球症
- 急性腎不全、間質性腎炎
- 中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、多形紅斑、急性汎発性発疹性膿疱症、剥脱性皮膚炎
- 間質性肺炎
が報告されています。
重篤な副作用は稀ではあるものの絶対に生じないわけではありません。セレコックスの服薬がやむを得ず長期にわたっている方は定期的に血液検査にて肝機能・腎機能などのチェックを行う必要があります。
また、セレコックスは次のような方には禁忌(絶対に使ってはダメ)となっていますので注意しましょう。
1.セレコックスの成分又はスルホンアミドに過敏症の既往歴のある方
2.アスピリン喘息の方
3.消化性潰瘍のある方
4.重篤な肝障害のある方
5.重篤な腎障害のある方
6.重篤な心機能不全のある方
6.冠動脈バイパス再建術の周術期の方
7.妊娠末期の方
セレコックスは構造として「スルホンアミド基」を持っています。そのため、同様にスルホンアミド基を持っているお薬に過敏症のある方はセレコックスでも過敏反応が出てしまう可能性が高いため、使用する事は出来ません。
ちなみにスルホンアミド基を持っているお薬としては、
- ラシックス(一般名:フロセミド)【利尿剤】
- ダイアート(一般名:アゾセミド)【利尿剤】
- ルプラックス(一般名:トラセミド)【利尿剤】
- ヒドロクロロチアジド【利尿剤】
- アマリール(一般名:グリメピリド)【糖尿病治療薬】
などがあります。
胃を荒らす可能性のあるお薬ですので、胃腸に潰瘍がある方はそれを更に増悪させる可能性があり用いてはいけません。
また心臓、肝臓、腎臓といった臓器にダメージを与える可能性がありますので、これらの臓器に重篤な機能不全がある場合もセレコックスは用いてはいけません。
COX2阻害薬には、冠動脈バイパス術の周術期(手術前後)に投与すると、心筋梗塞や脳梗塞を発症しやすくなる可能性が指摘されているものがあります。セレコックスもCOX2阻害薬ですので同様の病態が出現する可能性があり、このような状態の方に用いる事は出来ません。
また動物実験においてセレコックスを妊娠後期に投与すると、胎児動脈管収縮、分娩障害が生じる可能性があることが報告されています。ここから人においても妊娠末期の妊婦さんがセレコックスを服用することは禁忌となっています。
5.セレコックスの用法・用量と剤形
セレコックスは次の2剤型が発売されています。
セレコックス錠 100mg
セレコックス錠 200mg
セレコックスの使い方は疾患によって異なり、
〇関節リウマチ
通常、成人には1回100~200mgを1日2回、朝・夕食後に経口投与する。〇変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、腱・腱鞘炎
通常、成人には1回100mgを1日2回、朝・夕食後に経口投与する。〇手術後、外傷後並びに抜歯後の消炎・鎮痛
通常、成人には初回のみ400mg、2回目以降は1回200mgとして1日2回経口投与する。なお、投与間隔は6時間以上あけること。
頓用の場合は、初回のみ400mg、必要に応じて以降は200mgを6時間以上あけて経口投与する。ただし、1日2回までとする。
となっています。
セレコックスを初めとしたNSAIDsは空腹時に投与すると、胃腸へのダメージが更に生じやすくなるため、なるべく食後に服用するようにしましょう。
6.セレコックスが向いている人は?
セレコックスはどのような方に向いているお薬なのでしょうか。
セレコックスの特徴をおさらいすると、
・鎮痛作用(痛みを抑える)、解熱作用(熱を下げる)は中等度
・COX2に選択的に作用する
・副作用の胃腸障害に注意は必要だが、他のNSAIDsよりは少ない
・喘息の方は使用に注意(他のNSAIDsと同様)
といった特徴がありました。
基本的にNSAIDsはどれも大きな差はないため、処方する医師が使い慣れているものを処方する傾向があります。
セレコックスの最大の特徴はCOX2阻害薬であり、胃腸系の副作用が他のNSAIDsと比べて低めである事です。
ここから、胃腸系の副作用をなるべく起こしたくない方に向いているお薬となるでしょう。
どうしてもNSAIDsを使う必要があるが、胃腸系が元々弱く、胃腸系の副作用に特に注意が必要である方に処方される事の多いお薬になります。