セルニルトン錠(一般名:セルニチンポーレンエキス)は、1969年から発売されているお薬です。
前立腺肥大症の治療薬であり、前立腺肥大およびそれに伴う排尿困難(尿が出にくくなる症状)・残尿感・頻尿などに対して用いられています。
植物由来のお薬であるため、副作用が少なく安全性に優れます。そのため、古いお薬ではありますが現在においても軽症例を中心に用いられています。
セルニルトンはどのような特徴のあるお薬でどのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ここではセルニルトンの特徴や効果・副作用を紹介させて頂きます。
目次
1.セルニルトンの特徴
まずはセルニルトンの全体的な特徴を紹介します。
セルニルトンは、植物由来の成分から作られた前立腺肥大症の治療薬です。前立腺の炎症を抑えたり、尿道の筋肉を緩めたりすることで前立腺肥大症及びそれに伴う症状を改善させます。
安全性に優れますが作用も穏やかであり、主に軽症例の前立腺肥大症に適しています。
セルニルトンに含まれる成分は人工的な化学物質ではなく植物由来の成分です。
古来からスウェーデンでは様々な花粉が民間療法に用いられていました。セルニルトンはスウェーデンで民間療法に用いられていた8種の植物の花粉のエキスを配合したお薬になります。
具体的には、
- チモシイ
- トウモロコシ
- ライムギ
- ヘーゼル
- ネコヤナギ
- ハコヤナギ
- フランスギク
- マツ
の8種類の植物の花粉エキスがセルニルトンには配合されています。
これらの成分には、
- 炎症を抑える作用(抗炎症作用)
- 排尿を促す作用(排尿促進作用)
- 前立腺の肥大を抑える作用(抗前立腺肥大作用)
などがあり、これらの作用によって前立腺肥大症およびそれに伴う頻尿・排尿時痛、排尿困難、残尿感などを改善させてくれます。
セルニルトンは自然に存在する植物由来の成分から作られているため安全性に優れており、副作用も少なめになります。
しかし効果も穏やかであり、重度の前立腺肥大症などではセルニルトンのみで症状の劇的な改善を期待するのは難しい面もあります。
このような特徴から、セルニルトンは主に軽症例の前立腺肥大症に用いられる傾向があります。
以上からセルニルトンの特徴として次のような点が挙げられます。
【セルニルトンの特徴】
・慢性前立腺炎・前立腺肥大症に用いられるお薬である |
2.セルニルトンはどのような疾患に用いるのか
セルニルトンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
〇 慢性前立腺炎
〇 初期前立腺肥大症による次の諸症状排尿困難、頻尿、残尿及び残尿感、排尿痛、尿線細小、会陰部不快感
セルニルトンは前立腺疾患に用いられるお薬で、前立腺の炎症や肥大によって排尿困難(尿が出にくい)、頻尿(尿の回数が多い)、残尿感、排尿時痛などが生じている方に用いられるお薬です。
前立腺肥大症とは、その名の通り前立腺が肥大してしまう疾患です。前立腺は前立腺液を作る臓器で、これは精子の一部となる液です。男性にしかない臓器であるため、前立腺肥大症は男性特有の疾患になります。
なぜ前立腺が肥大するのかははっきりとは分かっていませんが、加齢や高血圧、高脂血症、遺伝などが関係すると言われています。特に加齢の影響は大きく、高齢者では高い確率で前立腺肥大症が認められます。
前立腺は膀胱の下部にある尿道を囲むようにして存在しています。そのため、前立腺が肥大すると尿道が圧迫され尿が出にくくなってしまいます。これを「排尿困難」と言います。
尿が出にくくなるため、全ての尿が排出されずに膀胱内に尿が残ってしまい残尿や残尿感が生じることもあります。また排尿困難とは逆に、膀胱が刺激されることによる頻尿が生じることもあります。
ではセルニルトンは慢性前立腺炎・前立腺肥大症に伴う症状に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
前立腺肥大症の方にセルニルトンを投与した試験では、
- 前立腺肥大症への有効率は67.5%
- 慢性前立腺炎への有効率は63.8%
と報告されています。
また自覚症状である排尿困難、残尿感、排尿痛などの改善が認められた事も報告されています。
セルニルトンの効果は穏やかであるため、適応上も「初期前立腺肥大症」となっており、ある程度進行した前立腺肥大症に対しては力不足である事も少なくありません。
3.セルニルトンにはどのような作用があるのか
セルニルトンはどのような作用機序によって前立腺炎や前立腺肥大症、そしてそれに伴う症状を改善させているのでしょうか。
セルニルトンには、
- チモシイ
- トウモロコシ
- ライムギ
- ヘーゼル
- ネコヤナギ
- ハコヤナギ
- フランスギク
- マツ
の8つの植物の花粉由来のエキスが含まれており、これらによって主に次の3つの作用をもたらします。
Ⅰ.抗炎症作用
セルニルトンは炎症を抑えるはたらき(抗炎症作用)があることが確認されています。
実は前立腺肥大症の発症は、炎症が関係しているのではないかという報告があります。
前立腺が肥大して尿道が圧迫されて尿が出にくくなると、膀胱壁内の神経や膀胱排尿筋の損傷が引き起こされ、炎症が生じます。
この炎症が前立腺肥大を更に悪化させてしまい、更に尿道が圧迫されてしまうという悪循環が前立腺肥大症では生じており、これによって症状が悪化しているのではないかという指摘があります。
このような機序が生じているのであれば、セルニルトンは炎症を抑えるはたらきがあるため前立腺肥大症に効果があるということになります。
ラットを用いた動物実験では、人工的に誘発した前立腺炎に対してセルニルトンは炎症性細胞の浸潤を抑制し、前立腺の炎症を低下させたことが報告されています。
Ⅱ.排尿促進作用
前立腺は尿道を囲むように位置しているため、前立腺が肥大すると尿道が押しつぶされ、尿が出にくくなります。これは「排尿困難」と呼ばれます。
セルニルトンには排尿を促す作用があるため、前立腺肥大症による排尿困難に効果が期待できます。
ラットやマウスを用いた動物実験において、セルニルトンは、
- 排尿時の膀胱内圧を増大させる
- 尿道筋を弛緩させる
といった作用がある事が報告されています。
膀胱内圧を増大させるという事は、排尿時に膀胱がより強く収縮するようになるという事で、尿が排泄される勢いが強くなるため、尿は出やすくなります。
また尿道筋は、尿道を収縮させる事で尿が体外に排泄されないようにする筋肉です。いわゆる「おしっこを我慢する時」に収縮し、尿をせき止める筋肉になります。
セルニルトンは尿道筋を弛緩させる(緩める)ことによって、尿のせき止めを軽減させ、排尿しやすい状態を作ります。
Ⅲ.抗前立腺肥大作用
セルニルトンは、前立腺が肥大するのを抑える作用があります。
実際、ラットを用いた動物実験ではセルニルトンは前立腺の重量増加を抑制した事が確認されています。
前立腺が肥大すればするほど、前立腺の中を通っている尿道は強く押しつぶされ、排尿困難や残尿感、排尿時痛といった症状は強くなります。
セルニルトンは前立腺の肥大を抑制する事によって、これらの症状の進行を抑えるはたらきがあります。
4.セルニルトンの副作用
セルニルトンにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
セルニルトンの副作用発生率は2.85%と報告されています。
セルニルトンは植物性の製剤であるため安全性は高く、副作用も少ないお薬になります。
生じうる副作用としては、
- 胃腸障害
- 胃部不快感
- 食欲不振
などが報告されており、そのほとんどが消化器系の副作用になります。
いずれも軽度である事がほとんどで、重篤になる事はまずありません。
5.セルニルトンの用法・用量と剤形
セルニルトンは、
セルニルトン錠
の1剤型のみが発売されています。
セルニルトンの使い方は、
1回2錠、1日2~3回経口投与する。症状に応じて適宜増減する
となっています。
6.セルニルトンが向いている人は?
以上から考えて、セルニルトンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
セルニルトンの特徴をおさらいすると、
【セルニルトンの特徴】
・慢性前立腺炎・前立腺肥大症に用いられるお薬である |
などがありました。
ここから軽症の前立腺肥大症であり、安全性を重視して治したい方に向いているお薬であると言えます。
効果も副作用も少ないお薬ですから、前立腺肥大症の初期の治療薬として適してます。
一方で強力な効果は期待しずらいところがあり、重症例の前立腺疾患にはほとんど効果が得られない可能性があります。