タガメット(一般名:シメチジン)は1982年から発売されている胃薬になります。
タガメットは胃薬の中でもH2ブロッカーという種類に属し、胃壁細胞のヒスタミン2(H2)受容体をブロックすることで胃酸の分泌を抑えるはたらきがあります。タガメットは一番最初に発売されたH2ブロッカーであり、H2ブロッカーの中でもっとも古い歴史を持つお薬になります。
胃酸の分泌をおさえるお薬には多くのものがあります。H2ブロッカーにもたくさんの種類がありますし、他にも「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」と呼ばれるお薬もあります。これらの中でタガメットはどのような位置付けになるのでしょうか。
タガメットの効果や特徴、どのような方に向いているお薬なのかについてみていきましょう。
目次
1.タガメットの特徴
まずはタガメットの特徴について、かんたんに紹介します。
タガメットは胃酸の分泌を抑えるお薬ですが、免疫を強めたり腫瘍の増殖を抑えたりする作用も持つお薬です。また相互作用するお薬が多いため、お薬の併用には注意が必要なお薬になります。
タガメットはヒスタミン2(H2)受容体をブロックする作用を持つお薬で、そのため「H2ブロッカー」とも呼ばれています。
胃壁に存在する胃壁細胞はヒスタミン2受容体があり、これにヒスタミンという物質がくっつくと胃酸を分泌するシグナル(cAMP)が発信されます。タガメットはヒスタミン2受容体をブロックするため、これにより胃酸分泌のシグナル弱めるはたらきがあるのです。
そのため胃酸が胃に対して悪さをしてしまっている時に効果を発揮するお薬になります。例えば、胃炎や胃潰瘍などでは胃酸が胃壁に出来た傷を攻撃してしまうため、胃酸の分泌を弱めた方が傷が早く治ります。
タガメットは一番古いH2ブロッカーであり、使い勝手はやや悪いところがあります。具体的にはタガメットはCYP3A4とCYP2D6という酵素のはたらきをブロックしてしまいます。これらの酵素は多くのお薬の代謝に関わっているため、タガメットは他の併用薬の作用に影響を来たしてしまうのです。そのためタガメットは併用薬に注意が必要です。
一方でタガメットの面白い作用としては、胃酸分泌を抑えるお薬なのですが、免疫を増強したり腫瘍増殖を抑えたりする作用があるという事が挙げられます。免疫や腫瘍増殖にもヒスタミンが一部関わっているのですが、タガメットはここに作用することでこれらの作用を発揮するのです。
胃酸の分泌を抑えるお薬というとPPI(プロトンポンプ阻害薬)もありますが、PPIとH2ブロッカーには特徴の違いがあるため、症状・経過によって使い分けられます(詳しくは後述します)。
簡単に言うと、H2ブロッカーは効果はPPIに劣るものの、夜間の胃酸分泌の抑制に効果的です。薬価も安く、急性期よりも維持期に使用するのに向いています。
以上からタガメットの特徴として次のようなことが挙げられます。
【タガメット(シメチジン)の特徴】
・ヒスタミン2(H2)受容体をブロックすることで、胃酸の分泌を抑える
・特に夜間の胃酸分泌を抑えてくれる
・相互作用するお薬が多く、併用薬には注意が必要
・免疫増強・腫瘍増殖抑制効果がある
・副作用が少ない
2.タガメットはどんな疾患に用いるのか
タガメットはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
・胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群、逆流性食道炎、上部消化管出血(消化性潰瘍、急性ストレス潰瘍、出血性潰瘍による)
・急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善
タガメットは、胃のヒスタミン2受容体をブロックすることで胃酸の分泌を抑えるはたらきがあります。
胃酸は強力な酸ですので、私たちの細胞をも傷付けてしまいます。普段は胃粘膜には胃酸から細胞を守るようなバリアが張られているのですが、胃に炎症や潰瘍などが生じるとこのバリアが不十分になるため、胃酸が胃壁細胞を傷付けてしまいます。
このような場合はタガメットなどのお薬を使うことで、胃酸を弱めて胃炎・胃潰瘍の治りを早めることができます。
また逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流して食道壁を傷付けてしまう疾患ですが、これもタガメットなどのお薬で胃酸の分泌を抑えると改善が得られます。
適応外ですが、これら以外にも抗血小板薬や抗凝固薬といった「血が固まりにくくなるお薬」を服薬している方に胃出血の予防目的で投与されることもあります。
同様に、NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤、いわゆる「痛み止め」)を長期服薬していると胃が荒れやすくなる副作用が生じることがあるため、このような場合にタガメットを併用して胃潰瘍の予防をすることもあります。
3.タガメットにはどのような作用があるのか
タガメットは主に胃酸の分泌を抑えることで胃を守る作用があります。これはどのような作用機序になっているのでしょうか。タガメットの主な作用について詳しく紹介します。
Ⅰ.胃酸の分泌抑制作用
タガメットは、胃の壁細胞に存在するヒスタミン2(H2)受容体に作用します。
胃壁細胞のヒスタミン2受容体にヒスタミンがくっつくと、cAMPというメッセンジャーが胃酸を分泌させるシグナルを送り、これによって胃酸が分泌されます。
タガメットはヒスタミン2受容体のはたらきをブロックする作用があり、これによって胃酸の分泌を抑えてくれるのです。
Ⅱ.ペプシンの分泌抑制作用
タガメットはぺプシンという酵素のはたらきをブロックする作用もあります。
ペプシンは胃に存在する酵素の1つで、胃に入ってきたタンパク質を小さく分解する作用があります。
ペプシンはこのように食物中のタンパク質を分解する重要なはたらきがあるのですが、一方で胃炎・胃潰瘍などがある時には、その部位からむき出しになってしまっている生体のタンパク質を攻撃(分解)してしまう事もあります。
このように胃炎・胃潰瘍がある時は、ペプシンの分泌を抑えてあげた方が、傷は早く治るのです。
一方でペプシンの分泌を抑制すると、食物のタンパク質が分解しにくくなるため、これにより時折便秘や腹部膨満感、吐き気などの副作用が生じることがあります。
Ⅲ.胃粘膜保護作用
タガメットには胃粘膜を保護する作用もあります。胃酸の分泌を抑えるという「攻撃因子を減らす」作用だけでなく、胃粘膜を保護するという「防御因子を増やす」作用もあり、2つの方向から胃を保護してくれます。
具体的には、胃粘膜の血流を増やすことで胃粘液の保護能を高めたり、胃粘液の減少を抑えたりして胃を保護しやすくしてくれます。
胃粘液は胃の表面を覆ってくれる粘液で、ヘキソサミンやムチンというたんぱく質などが成分となっています。ヘキソサミンはアルカリ性の物質であり胃酸を中和してくれるため、胃酸から胃壁を守るはたらきがあります。ムチンは粘性のある糖タンパクで、その粘性によって胃壁を保護してくれます。
Ⅳ.止血作用
タガメットは適応疾患として、上部消化管出血に対して適応を持っています。
つまり、胃内で生じた出血を抑える作用があるという事です。
これはタガメットが胃酸やペプシンの分泌を抑制することで、胃のpHが上昇するため、血液の凝固能(固まる力)が活性化されやすくなるためだと考えられています。
であれば、他のH2ブロッカーにも同様の止血作用がある事が推測されます。しかし出血に対しての研究報告をしっかり行っているのはタガメットのみであるため、タガメットは上部消化管出血に効果がある事が確認されていますが、他のH2ブロッカーは「止血作用はあると推測される」という位置づけに留まります。
Ⅴ.免疫増強・腫瘍増殖抑制作用
タガメットは胃酸の分泌を抑えるという目的で使われますが、意外な作用としてヒスタミンのはたらきをブロックすることで、免疫を増強したり、腫瘍の増殖を抑えたりする作用があることが知られています。
同じH2ブロッカーでもこの作用は、タガメットにのみあり、他のH2ブロッカーでは明らかではありません。
タガメットを癌の治療の主剤として用いることはありませんが、この作用はタガメットの意外な作用として知られています。
Ⅵ.関節の石灰化溶解作用
タガメットは前頚部にある副甲状腺という臓器に作用することで、PTH(副甲状腺ホルモン)の分泌を抑える作用があるのではと考えられています。
PTHは血液中のカルシウム濃度を上げるはたらきがあるため、この分泌を抑えるとカルシウムの濃度が下がります。カルシウムが下がることで石灰化を改善する効果があるのではないかと推測されています。
関節の石灰化を溶かすお薬というのは無いため、石灰化による関節痛などがひどい方にはタガメットのようなお薬が試されることがあります。
実際はガスター(ファモチジン)にも同じような作用が確認されており、ガスターの方が副作用が少ないため、このような場合はガスターを試すことが多いようです。
4.タガメットの副作用
タガメットをはじめとするH2ブロッカーは安全性に優れ、副作用が少ないお薬になります。タガメットもその副作用発生率は1.1~1.7%前後と報告されており、安全性は高いお薬となります。
生じうる副作用としては、
- 便秘・下痢
- 発疹
などが報告されています。
また検査数値の異常としては、
- 肝機能障害(AST、ALT上昇)
などが報告されているため、タガメットを長期的に服用する場合は定期的に血液検査を行うことが望まれます。
稀ですが重篤な副作用の報告もあり、
- ショック
- 再生不良性貧血、汎血球減少、無顆粒球症、血小板減少
- 間質性腎炎、急性腎不全
- 中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)
- 房室ブロック
- 意識障害、けいれん
などがあります。注意は必要ですが、臨床で適切に使っている分には見かけることはほとんどありません。
また動物実験において弱い抗男性ホルモン作用が確認されているため、長期・大量に服薬を続けているとホルモンバランスの崩れが生じる可能性があります。実際に頻度は稀ですが、乳汁分泌や月経異常、勃起障害などの副作用が報告されています。
タガメットは一番古いH2ブロッカーであるため、他のH2ブロッカーと比べるとやや使いにくい面があります。その理由は、他のお薬と相互作用しやすいという特徴があるからです。
タガメットはCYP3A4とCYP2D6という酵素のはたらきを強くブロックします。
この2つの酵素は、多くのお薬の代謝(分解、排泄)に関わっているため、タガメットを飲んでいるとこれらの酵素で代謝されるお薬の血中濃度が上がりやすくなってしまうのです。
一例を挙げると、
- 抗凝固薬(ワーファリンなど)
- ベンゾジアゼピン系(セルシン、ハルシオンなど)
- 抗てんかん薬(テグレトールなど)
- 抗うつ剤(三環系、SSRIなど)
- β遮断薬(インデラル、セロケンなど)
- カルシウム拮抗薬(アダラートなど)
- キサンチン系薬(テオドール、ネオフィリンなど)
と非常に多くのお薬の効きを強めてしまう可能性があります。これらのお薬とタガメットは併用できないわけではありません。しかし併用する際は用量を慎重に主治医に判断してもらう必要があります。
5.タガメットの用法・用量と剤形
タガメットは、
タガメット錠(シメチジン) 200mg
タガメット錠(シメチジン) 400mgタガメット細粒(シメチジン) 20%
の3剤型があります。
タガメットの使い方は、
【胃潰瘍、十二指腸潰瘍】
通常成人には、1日800mgを2回(朝食後及び就寝前)に分割して経口投与する。また1日量を4回(毎食後及び就寝前)投与することもできる。なお、年齢・症状により適宜増減する。【吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群、逆流性食道炎、上部消化管出血(消化性潰瘍、急性ストレス潰瘍、出血性胃炎による)】
通常成人には、1日800mgを2回(朝食後及び就寝前)に分割して経口投与する。また1日量を4回(毎食後及び就寝前)投与することもできる。なお、年齢・症状により適宜増減する。ただし、上部消化管出血の場合には、通常注射剤で治療を開始し、内服可能となった後は経口投与に切り替える。【急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善】
通常成人には、1日400mgを2回(朝食後及び就寝前)に分割して経口投与する。また1日量を1回(就寝前)投与することもできる。なお、年齢・症状により適宜増減する。
となっています。
タガメットは腎臓でも排泄されるお薬ですので、腎機能が悪い患者さんでは注意が必要です。腎機能が悪い方では、お薬が身体から抜けにくくなるため、量を減らしたり、服薬回数を少なくするなどの必要があります。主治医と良く相談しましょう。
6.H2ブロッカーとPPIの違い
タガメットはH2ブロッカーに属しますが、同じように胃酸の分泌を抑えるものとしてPPI(プロトンポンプ阻害薬)もあります。
この2つはどう違うのでしょうか。
まず強さとしてはPPIの方が強力です。その理由はPPIの方が胃酸分泌をより直接的にブロックするためです。
そのため、急性期の胃潰瘍などではまずはPPIを使うことが多くなっています。
即効性で言えば、H2ブロッカーの方が速く効きます。おおよそですが、H2ブロッカーは効くまでに約2~3時間、PPIは約5~6時間ほどと言われています。
また効く時間帯にも特徴があり、PPIは主に日中の胃酸分泌を強く抑え、H2ブロッカーは主に夜間の胃酸分泌を強く抑えると言われています。
最後に保険的な話になってしまうのですが、PPIは投与制限が設けられているものも多く(4週間までしか投与してはいけませんよ、など)、長くは使えないものも少なくありません。
そのため胃潰瘍の治療では、まずは効果の高いPPIから初めて、保険が通らなくなる時期が来たらH2ブロッカーに切り替えるというのが良く行われている方法になります。
7.タガメットが向いている人は?
以上から考えて、タガメットが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
タガメットの特徴をおさらいすると、
・ヒスタミン2(H2)受容体をブロックすることで、胃酸の分泌を抑える
・特に夜間の胃酸分泌を抑えてくれる
・相互作用するお薬が多く、併用薬には注意が必要
・免疫増強・腫瘍増殖抑制効果がある
・副作用が少ない
というものでした。
H2ブロッカーには多くの種類がありますが、極論を言えばどれを使っても総合的な効果にあまり差はありません。ガスター(一般名:ファモチジン)が一番有名で処方されていますが、どのH2ブロッカーを処方するかは、先生が使い慣れているお薬が選択されることが多いようです。
タガメットをはじめとしたH2ブロッカーは、急性期にPPIで治療された胃潰瘍の維持期に用いたり、主に夜間の胃酸分泌亢進で困っている方に用いられる胃薬になります。
タガメットは、H2ブロッカーの中では一番古いお薬であるため、現在では処方される事はあまりありません。相互作用するお薬が多いため、使いずらいことも一因だと思われます。
免疫増強作用や腫瘍増殖抑制作用が報告されていますが、これらの作用を狙ってH2ブロッカーを処方する機会もそこまでありません。
現在は多くのH2ブロッカーがあり、それ以外にもプロトンポンプ阻害薬(PPI)などの優れた胃炎・胃潰瘍治療薬があるため、あまりタガメットを使う機会はないというのが実情です。