クリアナール錠・クリアナール内用液(一般名:フドステイン)は2001年から発売されているお薬です。
いわゆる「痰切り」のお薬で、専門的には「去痰剤(きょたんざい)」と呼ばれます。
痰は風邪や気管支炎など、多くの疾患で認められる症状の1つです。そのためクリアナールをはじめとした痰切り(去痰剤)も、多くの疾患で用いられています。
クリアナールはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに使うお薬なのでしょうか。ここではクリアナールの特徴や効果・副作用について紹介します。
目次
1.クリアナールの特徴
まずはクリアナールの特徴をざっくりと紹介します。
クリアナールは痰を柔らかくしたり、気道の炎症を抑える事で痰を出しやすくするお薬です。
何らかの原因で気道が刺激されると、気道に粘液が分泌されて痰が形成されます。気道を刺激する原因としては、ばい菌の侵入であったり、アレルギーであったりするわけですが、気道にこれらの原因が生じると、痰の量が多くなります。
クリアナールは粘液の分泌を抑えたり、痰を柔らかくする事で、気管の中に溜まっている痰を排出させやすくするはたらきがあります。また気道の炎症を抑えるはたらきもあり、これも痰を少なくする作用になります。
このような作用からクリアナールは痰が増えるような疾患(気管支炎・喘息など)に対して効果が期待できます。
痰切りのお薬にもいくつかの種類があります。大きく分けると、
- 痰を出しやすくするお薬
- 痰を溶かすお薬
の2つに分けられますが、このうちクリアナールは前者になり、主に痰を柔らかくしたり、気道の炎症を抑える事で痰を体外に排出しやすくする作用を持ちます。
似たようなはたらきをするお薬として、他にもムコダイン(一般名:カルボシステイン)、ムコソルバン(一般名:アンブロキソール塩酸塩)などがあります。
一方で、後者の痰を溶かすお薬にはビソルボン(一般名:ブロムヘキシン)などがあります。
クリアナールは基本的には気道の痰を排出する目的で使われますが、適応上は「慢性疾患」に使われます。そのため風邪や肺炎という一時的にしかかからない疾患には適応がなく、喘息や肺気腫、慢性気管支炎など、長期にわたって治療が必要な疾患に処方されます。
これは決して急性疾患に対して効かないというわけではありません。薬理上は急性疾患にも効きますが、保険適応上は慢性疾患にしか使えないというだけです。
クリアナールは時に胃腸系の副作用(食欲低下や下痢、便秘など)が出る事がありますが、基本的には安全性は高いお薬になります。適正に使用していれば重篤な副作用が出現する可能性は極めて低いお薬です。
以上からクリアナールの特徴として次のような点が挙げられます。
【クリアナールの特徴】
・痰の粘性(ネバネバ度)を下げるはたらきがある
・気道の炎症を抑えるはたらきがある
・保険適応上は慢性呼吸器疾患にのみ処方される
2.クリアナールはどんな疾患に用いるのか
クリアナールはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
以下の慢性呼吸器疾患における去痰
気管支喘息、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺結核、塵肺症(じんぱいしょう)、肺気腫、非定型抗酸菌症、びまん性汎細気管支炎
難しい病名がたくさん並んでいますが、簡単に言えば「痰が出るような呼吸器疾患に対して痰切りとして使う」という認識で良いと思います。
ただしクリアナールは保険適応上(健康保険を利用して処方できる適応疾患として)、慢性の呼吸器疾患にしか適応がなく、風邪や肺炎などの急性期疾患には処方できません。
臨床でよく用いられる疾患には気管支炎や肺気腫(COPD:慢性閉塞性肺疾患)、喘息などが挙げられます。
クリアナールはこれらの疾患に対してどの程度効果があるのでしょうか。
クリアナールの総合的な有効率は72.1%と報告されています。
各疾患に対する内訳としては、
- 気管支喘息の去痰に対する有効率は80.9%
- 慢性気管支炎の去痰に対する有効率は72.6%
- 気管支拡張症の去痰に対する有効率は58.0%
- 肺結核の去痰に対する有効率は89.7%
- 塵肺症の去痰に対する有効率は60.5%
- 肺気腫の去痰に対する有効率は78.9%
- 非定型抗酸菌症の去痰に対する有効率は88.9%
- びまん性汎細気管支炎の去痰に対する有効率は66.7%
と報告されています。
3.クリアナールにはどのような作用があるのか
痰切り(去痰剤)として用いられるクリアナールですが、どのような機序で痰を抑えてくれるのでしょうか。
クリアナールには主に次の2つの作用があります。
Ⅰ.痰を柔らかくし、出しやすくする
痰は固くなると気管壁にこびりついてしまい、喀出しにくくなってしまいます。これは、痰の粘性(ネバネバ度)が上がってしまう事で生じます。
クリアナールはネバネバした痰の粘性を下げてサラサラにする事で、痰を体外に排出しやすいようにしてくれます。
具体的な機序としては、クリアナールには、
- ムチンの分泌量を低下させる
- 漿液性物質(気道液)の分泌を増やす
というはたらきがあります。
ムチンは粘度の高い物質で、痰のネバネバの原因である物質で、気道が刺激されると気道上皮にある胚細胞(goblet cell)から分泌されます。
クリアナールは胚細胞の過形成を抑えるはたらきがあります。胚細胞が過剰に増えなければ、ムチンの量も過度に多くならないため、痰の粘度が上がるのを抑えられるというわけです。
更にクリアナールは気道への漿液性(サラサラ)の液体の分泌量を増やすはたらきもあり、この作用も痰の粘度を下げてくれます。
また痰が固くなって出しにくい時というのは、痰の構成成分であるシアル酸・フコースの構成比が崩れていることが知られています。クリアナールは、これらの構成比を正常化させる作用があり、これによっても痰を柔らかくし、排出しやすくしています。
Ⅱ.気道の抗炎症作用
気道に菌が入ったり(気管支炎)、気道にアレルギー反応が生じる(気管支喘息)と、気道に炎症が生じます。炎症が生じると気道が刺激されるため、痰も分泌されやすくなってしまいます。
クリアナールは気道の炎症を抑える作用もある事が確認されています。気道の炎症が抑えられれば、気道への刺激が低下し、痰も分泌されにくくなります。
クリアナールは動物実験において、気管支の好中球(炎症が生じると増加する白血球)の増加を優位に抑制した事が報告されています。
4.クリアナールの副作用
クリアナールにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
クリアナールの副作用発生率は7.7%と報告されています。
生じうる副作用としては消化器系のものが多く、
- 食欲不振
- 悪心・嘔吐
- 頭痛
- 腹痛
- 胸やけ
- 下痢・便秘
などが報告されています。
これはクリアナールが胃腸の運動を一過性に高めるためです。しかし重篤となる事は少なく、ほとんどが軽度の症状に留まります。
検査値異常の副作用発生率は9.7%と報告されており、
- AST、ALT上昇
といった肝臓系の酵素の上昇が認められる事があります。クリアナールの使用が長期にわたる場合は定期的に血液検査で肝機能を評価しておく事が望まれます。
また頻度は稀ですが重篤な副作用として、
- 肝機能障害、黄疸
- 皮膚粘膜眼症候群(SJS)、中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)
などの報告もあります。しかし適正に使用していればほとんど遭遇する事はありません。
5.クリアナールの用法・用量と剤形
クリアナールには、
クリアナール錠 200mg
クリアナール内用液 8%
の2剤型が発売されています。
内用液は「液体のお薬」の事で、錠剤が服用しにくいお子様や高齢者の方も服用しやすいようにと発売されています。
クリアナールの使い方は、
通常、成人には1回400mgを1日3回食後経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
と書かれています。
クリアナール錠は服用してからおおよそ1~2時間ほどで血中濃度が最大になり、半減期は2.2時間ほどと報告されています。半減期とは、お薬の血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことで、そのお薬の作用時間の一つの目安になる数値です。
クリアナールは半減期から1日1回の服薬では1日を通して効果は持続しないと考えられており、1日3回に分けて服用する事となっています。
6.クリアナールが向いている人は?
以上から考えて、クリアナールが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
クリアナールの特徴をおさらいすると、
・痰の粘性(ネバネバ度)を下げるはたらきがある
・気道の炎症を抑えるはたらきがある
・保険適応上は慢性呼吸器疾患にのみ処方される
などがありました。
クリアナールは痰切りとしてしっかりとした作用を持つお薬になります。安全性も高く、優秀なお薬だと言ってもいいでしょう。
ここから、痰が生じた時にまず最初に用いるお薬として適していると言えます。
ただし保険適応的には慢性疾患にしか使えないため、いわゆる風邪(急性上気道炎)などに対しては積極的には使う事はあまりありません。