クロフィブラートの効果と副作用【高脂血症治療薬】

クロフィブラートカプセルは1969年から発売されているお薬で「フィブラート系」という種類に属します。主に中性脂肪を下げ、善玉(HDL)コレステロールを上げる作用を持ち、脂質異常症(高脂血症)の治療薬として用いられています。

脂質異常症の治療薬はクロフィブラートのようなフィブラート系よりも、「スタチン系」と呼ばれるお薬が有名で多く処方されています(スタチン系:クレストール、リピトール、メバロチンなど)。

フィブラート系はスタチン系とは異なった作用を持つため、脂質異常症のタイプによって使い分ける必要があります。

クロフィブラートはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに使うお薬なのでしょうか。今回はクロフィブラートの特徴や効果・副作用について紹介します。

 

1.クロフィブラートの特徴

まずはクロフィブラートの全体的な特徴を紹介します。

クロフィブラートは、脂質の中でも特に中性脂肪(トリグリセリド)を下げ、善玉コレステロール(HDL)を上げる作用に優れます。

そのため、脂質異常症の中でも

・中性脂肪(トリグリセリド)が高い
・善玉コレステロール(HDL)が低い

というタイプに処方される事の多いお薬になります。

もちろんクロフィブラートには悪玉コレステロール(LDL)を下げる作用もあります。しかしこの作用は弱いため、悪玉コレステロールだけを下げたいのであればスタチン系の方が適しています。

副作用としては、肝臓に作用するお薬であるため肝臓の酵素が上昇してしまう事があります。また腎臓が悪い方が使うと、腎臓を更に傷めたり横紋筋融解症という重篤な副作用が出現してしまう可能性が高くなるため、注意が必要です。

クロフィブラートはフィブラート系の中でも古いお薬になります。そのため、有効性や副作用をみたデータも古くてあまり詳しくないものが多く、また服用回数も1日3回と多く手間がかかるため、現在ではあまり処方されていません。

以上からクロフィブラートの特徴として次のような点が挙げられます。

【クロフィブラートの特徴】

・中性脂肪を下げる作用に優れる
・善玉コレステロールを上げる作用に優れる
・悪玉コレステロールを下げる作用は弱い
・肝臓・腎臓が悪い人は要注意
・横紋筋融解症の副作用に注意(特に腎臓の悪い方)
・古いお薬であり、使い勝手はあまりよくない

 

2.クロフィブラートはどんな疾患に用いるのか

クロフィブラートはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

高脂質血症

クロフィブラートは脂質異常症(高脂血症)に対して用いられるお薬になりますが、中でも

  • 中性脂肪が高い方
  • 善玉(HDL)コレステロールが低い方

に高い効果が期待できるお薬です。

 

3.クロフィブラートにはどのような作用があるのか

高脂血症の患者さんに対して、中性脂肪やコレステロールを下げる目的で投与されるクロフィブラートですが、どのような機序で高脂血症を改善させるのでしょうか。

クロフィブラートは「フィブラート系」と呼ばれるお薬です。フィブラート系は肝臓にあるPPARα(peroxisome proliferator-activated receptor α)いう受容体を活性化することが主なはたらきで、それによって脂質異常症を改善する作用を発揮します。

PPARαは「ペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体α」と訳されており、読み方は「ピーパーアルファ」と読みます。

PPARαが活性化されると次のような作用が発揮されます。

・中性脂肪(トリグリセリド)を下げる
・善玉コレステロール(HDL)のコレステロールを増やす
・悪玉コレステロール(LDL)を少し下げる

これらの作用により脂質代謝を総合的に改善させてくれるのです。

それぞれの具体的な作用機序を紹介します。

 

Ⅰ.中性脂肪(トリグリセリド)を下げる

クロフィブラートをはじめとしたフィブラート系は、中性脂肪を下げる作用に優れます。

クロフィブラートはPPARαを活性化する事により、LPL(リポ蛋白リパーゼ)という酵素の活性を高めます。LPLは中性脂肪を脂肪酸に分解する酵素であるため、LPLの活性が高まると血中の中性脂肪が分解されて少なくなるのです。ちなみに分解されてできた脂肪酸は、各臓器に取り込まれてエネルギーとして使われます。

またPPARαが活性化すると、脂肪酸輸送タンパク質(FATP)という蛋白質が増えます。FATPは脂肪酸を肝臓に取り込んだり、脂肪酸からエネルギーを生成するはたらきがあります。これによって脂肪酸から中性脂肪が再合成されにくくなり、これも中性脂肪の低下に貢献します。

つまり、クロフィブラートはPPARαを活性化する事で、

  • 中性脂肪を分解する
  • 中性脂肪を作りにくくする

という作用があるのです。

ちなみに中性脂肪って高いと何で問題になるのでしょうか。

中性脂肪は脂肪酸に分解されることでエネルギー源になるため、ある程度の量は身体にとって必要です。しかし過剰になってしまうと、様々な問題を引き起こす事が知られています。

具体的には、慢性的に中性脂肪が高い状態が続いていると炎症が引き起こされ、ここから膵炎が発症したり、動脈硬化を徐々に進行させ心筋梗塞や脳梗塞の原因となったりするのです。

このような事態を避けるため、中性脂肪は適正値にしておく必要があるのです。

 

Ⅱ.善玉コレステロールを増やす

クロフィブラートはHDLコレステロール、通称「善玉コレステロール」を増やす作用を持ちます。

善玉コレステロールは動脈硬化を抑えるはたらきを持ちます。具体的には動脈にこびりついてしまっているコレステロールを回収して、肝臓に運ぶはたらきがあるのです。動脈にコレステロールがこびりついていると、動脈硬化や狭窄の原因になるため、HDLコレステロールは高いことが良いと考えられています。

クロフィブラートはPPARα を活性化することで、 善玉コレステロールの主要な構成蛋白質である「アポA-I」「アポA-II」を増やす作用があります。これにより善玉コレステロールが作られやすくなり、善玉コレステロールが上昇するのです。

 

Ⅲ.悪玉コレステロールを少し減らす

クロフィブラートは、肝臓内に取り込まれるコレステロールを増やすこと、コレステロールの合成を抑制することが確認されています。

肝臓に取り込まれたコレステロールは肝臓に貯蔵される他、胆汁として排泄されるため、これにより血中のコレステロールが下がります。またコレステロールの原料となる「メバロン酸」という物質を合成させにくくするはたらきがあり、これにより悪玉コレステロールの低下が得られます。

ただし悪玉コレステロール(LDL)を下げる力は強くはありません。

 

4.クロフィブラートの副作用

クロフィブラートにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。

クロフィブラートは古いお薬であり、副作用発生率の詳しい調査は報告されていません。実感としては、副作用は多くはないものの一定の注意は必要です。

もっとも多い副作用は検査値の異常で、

  • CK(CPK)上昇
  • AST、ALT上昇
  • 白血球数の変動

などが報告されています。

CKは筋肉中に含まれる酵素で、筋肉が破壊されると上昇します。クロフィブラートは横紋筋融解症(横紋筋という筋肉を壊してしまう)という副作用が生じるリスクがありますので、CKが上昇していたら要注意です。

AST、ALTは肝機能を表す酵素で、この数値が高いと肝臓が傷んでいる事を示します。クロフィブラートは主に肝臓に作用するため、時に肝臓に負担をかけてしまう事があるのです。

クロフィブラートを服薬している場合は定期的に血液検査を行い、検査値の異常がないかを確認する必要があります。

検査値の異常が認められても、一過性で自然と改善する例も認められますので検査結果についてどう対処するかは主治医とよく相談して判断するようにしましょう。

また、

・胃腸系の副作用(腹痛、吐き気など)
・皮膚症状(発疹など)
・神経系の症状(頭痛、めまい、眠気など)

といった副作用も時に認められます。

頻度は稀ですが注意すべき重篤な副作用としては、

  • 横紋筋融解症
  • 無顆粒球症

などが報告されています。

横紋筋融解症は、筋肉が破壊されて筋肉中の酵素が腎臓に流れて腎障害を生じる疾患です。特に腎機能が元々悪い方に生じやすいと考えられており、腎機能が悪い方はクロフィブラートの使用は慎重に考えなくてはいけません。

クロフィブラートを使ってはいけない患者さん(禁忌)としては、

  • 胆石またはその既往歴のある方
  • 妊婦または妊娠している可能性のある方
  • 授乳婦

が挙げられています。

クロフィブラートはコレステロールを胆汁中へ排泄させる作用があります。そのためコレステロール胆石を作りやすくする可能性があり、元々胆石がある方は服用できない事となっています。

クロフィブラートは妊娠中の患者さんに服用させたときの安全性については十分に確立しておらず、また胎盤から胎児に移行する事が確認されているため、妊娠中の方が服用する事も禁止となっています。

同様に乳汁中に移行する事も確認されているため、授乳を行っている方も服用してはいけません。

また原則禁忌(基本的には使ってはいけないが、やむを得ない場合のみ慎重に使用できる)として、

  • 腎機能に異常が認められる方に、クロフィブラートとHMG‒CoA還元酵素阻害薬(スタチン系)を併用する事

が挙げられています。

クロフィブラートをはじめとしたフィブラート系と、同じく高脂血症治療薬であるスタチン系はともに横紋筋融解症を稀ながら生じるリスクがあるお薬です。

両者を併用する事で横紋筋融解症のリスクが高まる可能性があり、また腎機能が悪いとお薬が身体から抜けにくいため、よりリスクが高まる可能性があるため、原則として腎機能が悪い方に両者を併用する事は出来ません。

しかし最近の研究では両者を併用しても横紋筋融解症の発症リスクは上がらないという報告もあり、必要な症例においては両者を慎重に併用することもあります。

 

5.クロフィブラートの用法・用量と剤形

クロフィブラートには、

クロフィブラートカプセル 250mg

の1剤型のみがあります。

クロフィブラートの使い方は、

通常成人1日750〜1500mgを2〜3回に分けて経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

と書かれています。

最近のフィブラート系は1日1回の服用で良いものもありますが、古いお薬であるクロフィブラートは1日3回服用しないといけず、やや手間となります。

 

6.クロフィブラートが向いている人は?

以上から考えて、クロフィブラートが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

クロフィブラートの特徴をおさらいすると、

・中性脂肪を下げる作用に優れる
・善玉コレステロールを上げる作用に優れる
・悪玉コレステロールを下げる作用は弱い
・肝臓・腎臓が悪い人は要注意
・横紋筋融解症の副作用に注意(特に腎臓の悪い方)
・古いお薬であり、使い勝手はあまりよくない

などがありました。

現在では新しいフィブラート系も多く発売されているため、クロフィブラートが処方される機会というのはあまりありません。

使うのであれば、

・特に中性脂肪が高い方
・特に善玉(HDL)コレステロールが低い方

には向いているお薬だと言えます。

反対に

・悪玉(LDL)コレステロールが高い方
・肝障害や腎障害がある方

などはクロフィブラートのようなフィブラート系ではない方がよいでしょう。

ちなみに脂質というと、血液検査で中性脂肪(TG:トリグリセリド)とコレステロール(Chol)の2つがありますが、この2つはどう違うのでしょうか。

中性脂肪は、俗に言う「体脂肪」の脂肪分が血液中に流れているもので、これはエネルギー源として使われます。中性脂肪は体脂肪として貯蔵される事で、いざという時に活動するためのエネルギーになるのです。

一方コレステロールはというと「身体を作るための材料」として使われています。コレステロールは細胞を構成する材料となったり、体内で様々なはたらきをしているホルモンを作る材料となったり、胆汁酸やビタミンの材料となったりします。

中性脂肪もコレステロールも、どちらも身体にとって必要なものですが、過剰になりすぎれば害となります。