クロピドグレル(一般名:クロピドグレル硫酸塩)は抗血小板剤であり、2006年から発売されている「プラビックス」というお薬のジェネリック医薬品になります。
抗血小板剤は血小板という血球のはたらきを抑えるお薬の事です。血小板は、血液を固まらせるはたらきがあるため、これを抑える抗血小板剤は血液を固まりにくくするはたらきがあります。
抗血小板剤は、脳梗塞や心筋梗塞といった固まった血液(血栓)が血管に詰まってしまう疾患において効果を発揮します。血栓を溶かしたり、血栓が出来ないようにすることでこれらの疾患を予防・治療することができます。
抗血小板剤にはいくつかの種類があります。どれも「血液を固まりにくくさせる」という作用に違いはありませんが、細かい特徴や作用には違いがあり、医師は患者さんの状態に応じて、一番合う抗血小板剤を処方しています。
クロピドグレルはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここでは、クロピドグレルの効能や特徴、副作用などを紹介していきます。
目次
1.クロピドグレルの特徴
まずはクロピドグレルの特徴を紹介します。
クロピドグレルは血小板のはたらきを抑えることで、血液を固まりにくくするはたらきを持ちます。
その作用は不可逆的であり、一度はたらきを抑えられた血小板は、血小板の寿命が尽きるまで作用を発揮することができません。
クロピドグレルは血小板のはたらきを抑えるはたらきを持つ「抗血小板剤」になります。
血小板は血球の1つで血液を固まらせるはたらきがあります。怪我をして皮膚から出血してしまった時を思い出してください。しばらくすると出血は勝手に止まりますよね。これは血小板が活性化して傷口の血液を固まらせることによって出血を止めたからなのです。
このように血小板は血液を固まらせるはたらきを持っています。
しかし、時に血小板は傷口以外の血管内で活性化してしまう事があります。すると血小板は血管内で血栓(血の塊)を作ってしまい、これは血管が詰まる原因となってしまいます。
このような血小板の不要な活性化は、血管内が傷んでいる場合(動脈硬化)やコレステロールが沈着して炎症が生じている場合などに生じやすい現象です。
脳の血管が血栓で詰まってしまうと脳梗塞が生じます。また冠動脈(心臓を栄養する動脈)が血栓で詰まってしまうと心筋梗塞が生じます。いずれも命の危険もある重篤な状態です。
血圧が高くて動脈硬化が進んでいる方や、血管にコレステロールが沈着してしまっている方はこのような血栓が生じないように予防をしておく必要があります。
これを防いでくれるのが抗血小板剤です。抗血小板剤は血小板の作用を抑えることで血栓を生じにくくし、脳梗塞や心筋梗塞といった血管が詰まる事で生じる心血管イベントを予防するはたらきがあります。
クロピドグレルの特徴は、抗血小板作用が不可逆的だという事が挙げられます。これは、一度クロピドグレルが血小板のはたらきを抑えると、その作用は血小板の寿命が尽きるまで続くという事です。
血小板の寿命は7~10日程度と考えられていますので、ここから考えると一度作用したクロピドグレルの作用を完全になくすには7~10日はかかるという事になります。
これは長期間効くというメリットとも言えますが、お薬の作用を消したい時も7~10日は待たないといけないというデメリットでもあります。
クロピドグレル以外の代表的な抗血小板剤としてアスピリン(商品名:バイアスピリンなど)があります。クロピドグレルはバイアスピリンと異なる作用機序を持つため、両者を併用することでより高い抗血小板作用を得ることができます。
クロピドグレルはジェネリック医薬品である事も大きな特徴です。ジェネリック医薬品のメリットの1つに薬価の安さが挙げられますが、クロピドグレルは先発品のプラビックスと比べて概ね半額以下の薬価になっており、経済的負担の軽減が出来ます。
以上からクロピドグレルの特徴として次のような点が挙げられます。
【クロピドグレルの特徴】
・抗血小板作用(血液を固まりにくくする作用)がある
・主に心血管イベント(脳梗塞・心筋梗塞)の予防に用いられる
・作用は不可逆的であるため、作用を完全に無くすには7~10日かかる
・アスピリンと併用する事でより高い抗血小板作用が得られる
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
2.クロピドグレルはどのような疾患に用いるのか
クロピドグレルはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
〇虚血性脳血管障害(心原性脳塞栓症を除く)後の再発抑制
〇経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される下記の虚血性心疾患
急性冠症候群(不安定狭心症、非ST上昇心筋梗塞、ST上昇心筋梗塞)、安定狭心症、陳旧性心筋梗塞
クロピドグレルの作用は「血液を固まりにくくすること」ですので、血液が固まって血栓が出来てしまう疾患の予防に用いられます。
具体的には、
- 虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)
- 脳梗塞
などが該当します。
虚血性心疾患は心臓に栄養を与える血管である冠動脈が詰まってしまう疾患です。脳梗塞は脳の血管が詰まってしまう疾患です。
いずれも「血栓(血の塊)」が原因となる事が多く、血液を固まりにくくさせて血栓を生じにくくさせる抗血小板剤はこれらの疾患の予防が期待できます。
ただし虚血性心疾患のうち、心原性脳塞栓症(心臓の不整脈などが原因で血栓が出来てしまい、虚血性心疾患が生じる疾患)には抗血小板剤は推奨されません。心原性脳塞栓に対しては抗血小板剤ではなく、抗凝固薬という凝固因子をブロックすることで血液を固まりにくくさせるお薬の方が高い効果が得られることが分かっているからです。
また経皮経管冠動脈形成術(PCI)は狭くなって詰まりかけている冠動脈をバルーン(風船のようなもの)やステント(金網)など使って広げる治療のことです。
人工的な治療を施した部位には血栓が出来やすいため、このような治療を行った後には抗血小板剤の服用が推奨されています。
ちなみに先発品の「プラビックス」はこれ以外にも
〇末梢動脈疾患における血栓・塞栓形成の抑制
に対しても適応があります。クロピドグレルも理論上はこれらの疾患にも効くはずですが、保険上は現時点では適応が取れていません。
クロピドグレルはジェネリック医薬品であるため有効性に関する詳しい調査は行われていません。しかし先発品のプラビックスにおいては、
- パナルジン(一般名:チクロピジン)と同等の抗血小板作用を示し、副作用の頻度はパナルジンよりも少なかった
- 動脈硬化性疾患(虚血性血管障害、末梢動脈疾患など)に対して、アスピリンと比べて8.7%相対的にリスク現象効果がある事が示された
- 急性冠症候群(非ST上昇)の血管事故リスクを19.6%減少させた
といった報告があり、しっかりとした抗血小板作用がある事が確認されています。
3.クロピドグレルにはどのような作用があるのか
クロピドグレルにはどのような作用があるのでしょうか。
クロピドグレルの主な作用は「抗血小板作用」になります。これは血小板のはたらきを抑えることで血液を固まりにくくさせるという作用です。
クロピドグレルの作用を知るためには、まずは血小板がどのようにして血液を固まらせるのかを知る必要があります。
血小板は血液中に存在している血球の1つです。血液を固まらせる作用を持ちますが、通常の血管では血小板は活性化する事はありません。急に活性化してあちこちで血のかたまりを作ってしまったら、身体のあちこちの血管が詰まってしまって大変なことになってしまいます。
血小板が活性化するのは、血管に「傷」が出来た時です。
例えばあやまってハサミで皮膚を切ってしまったとしましょう。皮膚のすぐ下には血管が走っていますので、皮膚を切ってしまうと血管も傷ついてしまいます。
血管に傷が出来ればそこから血液がどんどん漏れていきます。血液は全身に栄養を運んでいるため、大量に漏れてしまうと全身に十分な栄養を運べなくなってしまいます。大量に失血すれば命に関わることもありますので、一刻もはやく傷口を塞ぐ必要があります。
このような時に傷口をふさいでくれるのが血小板なのです。
血管に傷が出来ると、血管の壁がえぐれますので血管壁の皮下組織が顔を出すようになります。皮下組織にはコラーゲンがあるのですが、このコラーゲンを見つけるとvWF(フォン・ウィルブランド)因子という血液中にある物質がコラーゲンにくっつきます。
このコラーゲンとvWFがくっついているところを血小板が見つけると、血小板もここにくっつきます(血小板の表面にある「血小板膜糖蛋白」という部位がこれを感知します)。
すると血管の傷口に血小板がくっつき、血小板が傷に蓋をする形になります。これによって傷口から血液が漏れるのを防ぐのです。
更に血小板はフィブリノーゲンなどの他の凝固因子(血液を固まらせる因子)を活性化させることによってより強固に傷口をふさぐようになります。
これが血小板の正常なはたらきです。
しかし血小板は時に困ったはたらきをしてしまう事があります。
動脈硬化などで血管に傷ができてしまったり、血管にコレステロールなどが沈着して血管壁に炎症が生じている場合、血小板がこれを「傷だ!」と認識してしまい、その部位で活性化してしまう事があるのです。
するとその部位で血液が固まり始め、血管が詰まってしまいます。脳の血管でこれが生じると脳梗塞が生じ、また心臓を栄養する冠動脈でこれが生じると心筋梗塞が生じます。
これを防ぐのがクロピドグレルのような抗血小板剤です。
血小板がvWFとくっつくための血小板膜糖蛋白は、ADPという物質によって活性化されます。ADPは普段は血小板の中にありますが、血管の傷を見つけると、血液中に分泌されます。
クロピドグレルはこの機序を利用することで血小板の作用を抑えます。
クロピドグレルは血小板の細胞膜上にあるADP受容体という部位に結合する事で、ADPが血小板を活性化しないようにはたらきます。これにより抗血小板作用が得られるわけです。
クロピドグレルは用量依存的に血小板の作用を抑制します。これは「量が増えれば増えるほど、血小板の作用を抑える作用が強まる」という事です。
実際にラットの血管において人工的に血栓を誘発した研究では、
- プラビックスを2.30mg/kgで投与した際の血管閉塞抑制率は70%
- プラビックスを7.66mg/kgで投与した際の血管閉塞抑制率は90%
と報告されており、投与量が多いほど血小板のはたらきを抑える作用が高まることが確認されています(プラビックスはクロピドグレルの先発品です)。
またクロピドグレルの作用は不可逆的だと考えられています。これはつまり、一度クロピドグレルが結合したら、その血小板は永久に活性化できないという事です。
血小板の寿命は7日間前後と考えられていますので、クロピドグレルで血小板が不活性化された場合、血小板の作用が回復するには新しい血小板にある程度完全に入れ替わる1週間は待たないといけません。
クロピドグレルの抗血小板作用は、代表的な抗血小板剤であるアスピリン(バイアスピリンなど)と異なります。
そのためクロピドグレルはアスピリンと併用する事でより高い抗血小板作用を得ることができます。
実際に報告によると、血管内でバルーン(風船のようなもの)を膨らませて血管壁を傷付けたウサギにおける血小板粘着抑制率(≒血小板が作用しなくなる割合)は、
- プラビックスを7.66mg/kg投与した場合は約37%
- アスピリンを10mg/kg投与した場合は約7%
- プラビックスとアスピリンの両方を上記濃度でそれぞれ投与した場合は約94%
と報告されており、併用により高い効果が得られることが確認されています(プラビックスはクロピドグレルの先発品です)。
4.クロピドグレルの副作用
クロピドグレルの副作用にはどのようなものがあるのでしょうか。また副作用はどのくらい多いのでしょうか。
クロピドグレルはジェネリック医薬品であるため、副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし先発品のプラビックスにおいては副作用発生率は13.1%と報告されており、クロピドグレルも同程度だと考えられます。
生じうる副作用としては、
- 肝機能障害
- 貧血
- 発疹
- 胃腸出血
- 紫斑、鼻出血等の出血傾向
- 消化不良
- 腹痛、下痢
が報告されています。
また検査値の異常として、
- AST、ALT、γ-GTP上昇
などが報告されています。
クロピドグレルは血液を固まりにくくするお薬ですので、どうしても出血しやすくなると言うデメリットが生じます。
そのためクロピドグレルを飲んでいる方は、身体をぶつけたりしないよう注意が必要になります。また小手術(抜歯など)でも出血しやすいため、あらかじめ手術する先生に自分が抗血小板剤を服用していることを伝える必要があります。
また胃腸系に負担をかけることで消化不良や腹痛、下痢などといった副作用が生じることもあります。
頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- 出血(頭蓋内出血、胃腸出血等の出血)
- 胃・十二指腸潰瘍
- 肝機能障害、黄疸
- 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
- 間質性肺炎、好酸球性肺炎
- 血小板減少、無顆粒球症、再生不良性貧血を含む汎血球減少症
- 中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)、多形滲出性紅斑
- 急性汎発性発疹性膿疱症
- 薬剤性過敏症症候群
- 後天性血友病
- 横紋筋融解症
が報告されています。
重篤な副作用は稀ではあるものの絶対に生じないわけではありません。クロピドグレルの服薬がやむを得ず長期にわたっている方は定期的に血液検査にて血球などのチェックを行う必要があります。
また、クロピドグレルは次のような方には禁忌(絶対に使ってはダメ)となっていますので注意しましょう。
- 出血している方(血友病、頭蓋内出血、消化管出血、尿路出血、喀血、硝子体出血等)
- クロピドグレルの成分に対し過敏症の既往歴のある患者
出血のリスクを高めるお薬ですので、現在出血している方には使用することは出来ません。
5.クロピドグレルの用法・用量と剤形
クロピドグレルは、
クロピドグレル錠 25mg
クロピドグレル錠 50mg
クロピドグレル錠 75mg
の3剤形があります。
クロピドグレルの使い方は適応疾患により異なります。
1)虚血性脳血管障害(心原性脳塞栓症を除く)後の再発抑制の場合
通常成人には75mg を1日1回経口投与するが、年齢、体重、症状により50mgを1日1回経口投与する。
(特に出血傾向、その素因のある患者等については、 50mg1日1回から投与すること)
抗血小板剤であるクロピドグレルは「血液をかたまりにくくさせる」という利点がある反面、「出血しやすくなってしまう」というリスクがあります。
そのため、特にもともと出血しやすい疾患などがある方では、慎重に少量から始めることが推奨されています。
2)経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される虚血性心疾患の場合
通常成人には、投与開始日に300mgを1日1回経口投与し、その後、維持量として1日1回75mgを経口投与する。
この用法に対しては次のような注意点が書かれています。
1.アスピリン(81~100mg/日)と併用すること
2.ステント留置患者への本剤投与時には該当医療機器の添付文書を必ず参照すること。
3.PCI施行前に75mgを少なくとも4日間投与されている場合、ローディングドーズ投与(投与開始日に300mg を投与すること)は必須ではない
ローディングドーズというのは専門用語ですが、投与開始日に高用量の抗血小板薬を投与することです。これにより短期間で効果が表れるため、冠動脈形成術後に生じやすい塞栓を防ぐことができます。
血管をつまりにくくするために行うPCIですが、血管を触る治療であるため術中や術後はむしろ血栓ができやすくなってしまう事があります。これを防ぐために行われるのがローディングドーズです。
しかし元々クロピドグレルと服用していた方は、すでに血液が固まりにくくなっているためPCI前でも特にローディングドーズを行う必要はありません。
またPCIは血栓を生じさせるリスクが高まるため、クロピドグレル単剤ではなく、アスピリンも併用することで、よりしっかりと血栓の形成を抑えることが推奨されています。
またいずれの用法においても、
空腹時の投与は避けることが望ましい
となっています。これは空腹時の投与にて胃腸に負担をかけ、消化管出血(胃腸から出血してしまう)のリスクを高めてしまうためです。
6.ローディングドーズの意味と効果
抗血小板剤の効果を出来るだけ早く欲しい時に「ローディングドーズ」という方法がとられます。
これは初期に抗血小板剤を多く服用してもらう事で、血液が固まりにくくなる効果を早く発揮させる方法です。
クロピドグレルは1日75mgで服用しますが、ローディングドーズをする場合は1日300mgという高用量を服用してもらいます。
普通に1日75mgのクロピドグレルを服用した場合、服用初日の血小板凝集抑制率(血小板が固まらない割合)は15%程度ですが、ローディングドーズをする事で服用初日の血小板凝集抑制率は30~40%まで上がり、ローディングドーズと行う事は実際に効果がある事が確認されています(先発品のプラビックスにおいて確認されています)。
ではローディングドーズはどのような時に行われるのでしょうか。
それは血栓ができてしまい、その血栓を取るための血管内治療を行う場合です。
例えば心筋梗塞は心臓に栄養を与える血管である「冠動脈」が詰まってしまって生じます。この治療としては、詰まっている冠動脈をバルーン(風船)やステント(金網)を使って広げることです。
手や足の血管からカテーテルと呼ばれる細い管を入れて冠動脈まで持っていき、詰まっている部位を広げるのです。
この時、血管にカテーテルを入れたり、バルーンやステントを広げる事であちこちの血管を触ってしまいます。場合によっては小さな傷を作ってしまう事もあります。
するとこの手術の操作自体が血栓を作る原因になってしまうのです。
そうしないためには、血液をある程度サラサラにしておく必要があります。
心筋梗塞が生じた場合、出来るだけ早期に詰まった血管を広げてあげないと心臓が死んでしまいます。そのため、「抗血小板剤が効くまで数日待とう」なんて余裕はありません。
早期に抗血小板剤の効果を得て、安全にカテーテル治療を行うため、ローディングドーズを行う必要があるのです。
7.クロピドグレルを中止する際の注意点
クロピドグレルのような抗血小板剤は、しばしば服用の中止の必要が生じる場面があります。
血液を固まりにくくし、血栓を出来にくくさせることが抗血小板剤のメリットですが、反対にいうと出血しやすくなってしまうというデメリットもあります。
例えば何らかの理由で大きな手術をしなくてはいけない場合、抗血小板剤を飲んでいると出血量が増えることになります。場合によっては手術中に大量出血で重篤な状態になってしまう事もありえます。
このような場合は手術前に抗血小板剤を中止しなければいけません。
中止すると血栓ができるリスクは上がってしまいますが、出血のリスクは下がります。これは「血栓が生じるリスク」と「手術で出血多量となってしまうリスク」のどちらを取るかという問題になります。
主治医が慎重に判断し、必要があれば抗血小板剤を中止するという方法がとられます。
ちなみに抗血小板剤を手術で中止しないといけない場合、クロピドグレルはいつから中止すればいいのでしょうか。
クロピドグレルは一度血小板にくっつくと永久にくっつき続け、その作用は不可逆的だと言われています。そのためその血小板の寿命が来て壊れてしまうまで作用は持続します。
血小板の寿命は7~10日程度だと考えられています。ここから考えると手術の10日以上前にクロピドグレルを中止しないと、クロピドグレルの作用が完全になくならないまま手術に入ってしまうことになります。
いつからクロピドグレルを中止するのかは主治医の判断になりますが、おおむね手術の10~14日前から中止することが多いようです。
また、中止している間の血栓が生じるリスクが心配な場合は、アンプラーグ(一般名:塩酸サルポグレラート)などの作用時間が短い抗血小板剤に切り替えてから、手術直前に中止するという方法が取られることもあります。
アンプラーグが抗血小板作用を示すのは服用後1日前後ですので、これであれば手術1~2日前まで服用する事が出来ます。
服用中止期間が短い方が血栓が生じるリスクが少なくなるわけですから、血栓が生じるリスクの高い方では、このような方法が取られる事もあります。
8.クロピドグレルが向いている人は?
クロピドグレルはどのような方に向いているお薬なのでしょうか。
クロピドグレルの特徴をおさらいすると、
・抗血小板作用(血液を固まりにくくする作用)がある
・主に心血管イベント(脳梗塞・心筋梗塞)の予防に用いられる
・作用は不可逆的であるため、作用を完全に無くすには7~10日かかる
・アスピリンと併用する事でより高い抗血小板作用が得られる
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
といった特徴がありました。
クロピドグレルは現在よく用いられている代表的な抗血小板剤で、脳梗塞や心筋梗塞を予防する際にまず検討されるお薬の1つになります。
同じく代表的な抗血小板剤であるバイアスピリン(アスピリン製剤)と作用機序が異なり、併用することでより高い抗血小板作用が得られます。
しっかりとした作用が得られますが、作用が不可逆的であるため手術などで中止が必要な際には10~14日前から中止しないといけず、これはクロピドグレルのデメリットになります。
また先発品のプラビックスはまずまず高い薬価になっております。基本的に抗血小板剤は長期間(場合によっては一生涯)服用するものですので、経済的負担もかなりのものになります。
クロピドグレルはプラビックスと比べて半額以下の薬価に設定されており、長期間服用される方にとっては経済的にも非常に助かるため、経済的な意味でもメリットがあります。
9.先発品と後発品は本当に効果は同じなのか?
クロピドグレルは「プラビックス」というお薬のジェネリック医薬品になります。
ジェネリックは薬価も安く、患者さんにとってメリットが多いように見えます。
しかし「安いという事は品質に問題があるのではないか」「やはり正規品の方が安心なのではないか」とジェネリックへの切り替えを心配される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
同じ商品で価格が高いものと安いものがあると、つい私たちは「安い方には何か問題があるのではないか」と考えてしまうものです。
ジェネリックは、先発品と比べて本当に遜色はないのでしょうか。
結論から言ってしまうと、先発品とジェネリックはほぼ同じ効果・効能だと考えて問題ありません。
ジェネリックを発売するに当たっては「これは先発品と同じような効果があるお薬です」という根拠を証明した試験を行わないといけません(生物学的同等性試験)。
発売したいジェネリック医薬品の詳細説明や試験結果を厚生労働省に提出し、許可をもらわないと発売はできないのです、
ここから考えると、先発品とジェネリックはおおよそ同じような作用を持つと考えられます。明らかに効果に差があれば、厚生労働省が許可を出すはずがないからです。
しかし先発品とジェネリックは多少の違いもあります。ジェネリックを販売する製薬会社は、先発品にはないメリットを付加して患者さんに自分の会社の薬を選んでもらえるように工夫をしています。例えば使い心地を工夫して添加物を先発品と変えることもあります。
これによって患者さんによっては多少の効果の違いを感じてしまうことはあります。この多少の違いが人によっては大きく感じられることもあるため、ジェネリックに変えてから調子が悪いという方は先発品に戻すのも1つの方法になります。
では先発品とジェネリックは同じ効果・効能なのに、なぜジェネリックの方が安くなるのでしょうか。これを「先発品より品質が悪いから」と誤解している方がいますが、これは誤りです。
先発品は、そのお薬を始めて発売するわけですから実は発売までに莫大な費用が掛かっています。有効成分を探す開発費用、そしてそこから動物実験やヒトにおける臨床試験などで効果を確認するための研究費用など、お薬を1つ作るのには実は莫大な費用がかかるのです(製薬会社さんに聞いたところ、数百億という規模のお金がかかるそうです)。
しかしジェネリックは、発売に当たって先ほども説明した「生物学的同等性試験」はしますが、有効成分を改めて探す必要もありませんし、先発品がすでにしている研究においては重複して何度も同じ試験をやる必要はありません。
先発品と後発品は研究・開発費に雲泥の差があるのです。そしてそれが薬価の差になっているのです。
つまりジェネリック医薬品の薬価は莫大な研究開発費がかかっていない分が差し引かれており先発品よりも安くなっているということで、決して品質の差が薬価の差になっているわけではありません。