コムクロシャンプー(一般名:クロベタゾールプロピオン酸エステル)は2017年から発売されているお薬で、ステロイドを配合する洗髪剤(シャンプー)になります。
ステロイドを洗髪剤に含ませる事により、洗髪によって皮膚の炎症を抑えたり、皮膚細胞の異常な増殖を抑える作用が期待できます。
シャンプーですので頭皮にのみ作用し、全身には作用しないため副作用が少なく安全性にも優れます。
「シャンプーのお薬」というと聞き慣れないものですが、コムクロシャンプーはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ここではコムクロシャンプーの特徴や効果・効能、副作用についてみていきましょう。
目次
1.コムクロシャンプーの特徴
まずはコムクロシャンプーの特徴をざっくりと紹介します。
コムクロシャンプーはステロイドを配合した洗髪剤(シャンプー)で、皮膚の免疫異常によって皮膚が増殖・肥厚してしまう乾癬の治療に用いられます。
コムクロはステロイド外用剤(ステロイドの塗り薬)を主成分に含むお薬ですが、ステロイド外用剤の主なはたらきとしては、次の3つが挙げられます。
- 免疫反応を抑える
- 炎症反応を抑える
- 皮膚細胞の増殖を抑える
ステロイドは免疫反応(身体がばい菌などの異物と闘う反応)を抑える事で、塗った部位の炎症反応を抑える作用があります。
また皮膚細胞の増殖を抑えるはたらきがあり、これによって肥厚してしまった皮膚を薄くする作用も期待できます。
コムクロシャンプーに含まれる「クロベタゾールプロピオン酸エステル」もステロイド外用剤の1つですが、ステロイド外用剤は強さによって5段階に分かれています。
【分類】 | 【強さ】 | 【商品名】 |
Ⅰ群 | 最も強力(Strongest) | デルモベート、ジフラールなど |
Ⅱ群 | 非常に強力(Very Strong) | アンテベート、ネリゾナ、マイザーなど |
Ⅲ群 | 強力(Strong) | ボアラ、リンデロンV、リドメックスなど |
Ⅳ群 | 中等度(Medium) | アルメタ、ロコイド、キンダベートなど |
Ⅴ群 | 弱い(Weak) | コートリル、プレドニンなど |
この中でコムクロは「Ⅰ群」に属します。コムクロの主成分である「クロベタゾールプロピオン酸エステル」は、Ⅰ群に属する「デルモベート」に含まれる主成分と同じであり、炎症を抑える作用が強いステロイドの中でも最強の強さを持つお薬です。
ステロイドはしっかりとした抗炎症作用(炎症を抑える作用)が得られる一方で、長期使用による副作用の問題などもあるため、皮膚症状に応じて適切な強さのものを使い分ける事が大切です。
強いステロイドは強力な抗炎症作用がありますが、一方で副作用も生じやすいというリスクもあります。反対に弱いステロイドは抗炎症作用は穏やかですが、副作用も生じにくいのがメリットです。
コムクロシャンプーは外用ステロイド剤の中でも強力な作用があります。そのため炎症をしっかりと抑えたい時には頼れるお薬ですが、一方で副作用にも細心の注意を払う必要があるのです。
コムクロシャンプーは、皮膚に免疫異常が生じてしまい表皮が肥厚してしまう「尋常性乾癬」に用いるお薬ですが、Ⅰ群のステロイドを含むコムクロを使う状態であるのかは、専門家(皮膚科医)にしっかりと判断してもらうようにしましょう。
以上からコムクロシャンプーの特徴として次のような事が挙げられます。
【コムクロシャンプーの特徴】
・Ⅰ群(もっとも強い)に属するステロイド外用剤を含む |
2.コムクロシャンプーはどんな疾患に用いるのか
コムクロシャンプーはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
頭部の尋常性乾癬
コムクロシャンプーの適応は「尋常性乾癬」です。コムクロシャンプーは頭部に塗りますので、尋常性乾癬の病変が頭部にある際に適応となります。
では尋常性乾癬とはどのような疾患なのでしょうか。
ステロイド外用剤を用いるのは、
- 炎症を抑えたい
- 免疫を抑えたい
- 皮膚の増殖を抑えたい
の3つの状況であり、これらの作用を期待したい時に用いられます。
尋常性乾癬は「炎症性角化症」に属する疾患で皮膚の一部の細胞増殖が異常に亢進していしまい、赤く盛り上がってしまう疾患です。
明確な原因は特定されていませんが、何らかの原因によって皮膚の免疫が異常を来たし、それによって皮膚炎が生じて表皮が肥厚していくと考えられています。
そのため免疫を抑えて表皮を薄くする作用を持つステロイドは尋常性乾癬の治療薬として適しています。
では頭部の尋常性乾癬に対して、コムクロシャンプーはどのくらいの効果があるのでしょうか。コムクロの有効性をみた調査をいくつか紹介します。
頭部の尋常性乾癬を持つ患者さんにコムクロシャンプーを1日1回、4週間使用してもらった調査では、
- PSSIスコアが75%以上改善した患者さんは29.5%
- PSSIスコアが50%以上改善した患者さんは57.7%
と報告されています。
PSSIスコア(Psoriasis Scalp Severity Index)とは、「頭皮乾癬重症度指標」と呼ばれる頭部乾癬の重症度の評価法です。点数が高いほど重症であると判定されます。
比較対象として、プラセボ(何の成分も入っていない偽薬)を4週間使用してもらった群のPSSIスコアが75%以上改善した患者さんの率は7.6%であり、コムクロは有意に頭部尋常性乾癬を改善させる事が分かります。
また、乾癬による皮膚症状がどのくらい生活に支障を来たしているのかを評価する「DLQI(Dermatology Life Quality index)」を用いてコムクロの有効性を評価したところ、DLQIスコアのカテゴリが1段階以上改善した率は60.3%と報告されています。
3.コムクロシャンプーにはどのような作用があるのか
尋常性乾癬の治療に用いられるコムクロシャンプーですが、具体的にはどのような作用があるのでしょうか。
コムクロシャンプーの作用について詳しく紹介します。
Ⅰ.免疫抑制作用
コムクロシャンプーの主成分はステロイドです。
ステロイドには様々な作用がありますが、主な作用として免疫抑制作用があります。
免疫というのは身体の中に異物が侵入してきた時に、それを排除する生体システムの事です。皮膚からばい菌が侵入してきた時には、ばい菌をやっつける細胞を向かわせることでばい菌の侵入や増殖を阻止します。
免疫は身体にとって非常に重要なシステムですが、時にこの免疫反応が過剰となってしまい身体を傷付けてしまうことがあります。
代表的なものがアレルギー反応です。アレルギー反応というのは、本来であれば無害の物質を免疫が「敵だ!」と誤認識してしまい、攻撃してしまう現象です。
アレルギー反応をきたす疾患の1つに「花粉症(アレルギー性鼻炎)」がありますが、これも「花粉」という身体にとって無害な物質を免疫が「敵だ!」と認識して攻撃を開始してしまう疾患です。その結果、鼻水・鼻づまり・発熱・くしゃみなどの不快な症状が生じてしまいます。
同じく尋常性乾癬も皮膚の免疫が誤作動してしまい、本来であれば攻撃する必要のない物質を攻撃してしまい、その結果皮膚に炎症が生じて肥厚していくと考えられています。
このような状態では、過剰な免疫を抑えてあげると良いことが分かります。
ステロイドは免疫を抑えるはたらきがあり、これによって過剰な免疫が生じている状態を和らげる作用が期待できます。
一方で免疫を抑えてしまう事で、ばい菌に感染しやすい状態を作ってしまうというデメリットもあります。
Ⅱ.抗炎症作用
上記のようにステロイドには免疫を低下させる作用があります。免疫がターゲットを攻撃しなくなると炎症が引き起こされなくなるため、これによって炎症を抑える作用(抗炎症作用)が得られます。
炎症とは、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
の4つの徴候を生じる状態のことです。炎症は何らかの原因で身体がダメージを受けた時に生じる現象で、例えば感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーでも生じます。
みなさんも身体をぶつけたり、ばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあると思います。これが炎症です。皮膚に炎症が起こることを皮膚炎と呼びます。皮膚炎も外傷でも生じるし、ばい菌に感染することでも生じるし、アレルギーでも生じます。
ステロイドは免疫を抑制することで、炎症反応を生じにくくさせてくれる作用があります。
そのためステロイド外用剤(ステロイドの塗り薬)は皮膚炎を改善させる作用が期待できます。
尋常性乾癬は炎症性角化症に属し、免疫の異常によって皮膚に炎症が生じています。コムクロは炎症を抑える作用を持ち、これも症状の緩和に役立ちます。
Ⅲ.皮膚細胞の増殖抑制作用
コムクロシャンプーは、塗った部位の皮膚細胞の増殖を抑えるはたらきがあります。
尋常性乾癬では皮膚の異常な増殖が生じ、皮膚が赤く盛り上がってしまうため、コムクロの皮膚増殖抑制作用は、症状の改善に役立ちます。
4.コムクロシャンプーの副作用
コムクロシャンプーの副作用にはどのようなものがあるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
コムクロシャンプーは、78例を対象にした調査にて明らかな副作用は認められていない事が報告されています。
ここから副作用は少なく、安全性は高いものだと考えられますが、副作用が絶対に生じないわけではありません。
コムクロシャンプー作用が強力であるため副作用には注意が必要です。必要な期間の塗布に留め、漫然と塗り続けてはいけません。
頭部に生じる副作用としては
- 皮膚萎縮
- 毛包炎
- 刺激感
などが考えられます。
ステロイドは免疫を低下させてしまうため、ばい菌に感染しやすくなって毛包炎や真菌感染を起こしてしまうリスクがあります。
また皮膚の細胞増殖を抑制する事で、皮膚を薄くして皮膚萎縮が生じたり、皮膚に刺激感が生じたりする事があります。
いずれも長期間使えば使うほど発生する可能性が高くなるため、ステロイドは漫然と使用する事は避け、必要な期間のみ使う事が大切です。
また重篤な副作用として、コムクロが目周囲についてしまった場合、
- 後囊白内障・緑内障
などが生じる可能性があります。
またコムクロシャンプーの禁忌(絶対に使ってはダメ)として、添付文書には次のように記載されています。
【禁忌】
(1)コムクロの成分に対し過敏症の既往歴のある方
(2)頭部に皮膚感染症のある方
(3)頭部に潰瘍性病変のある方
これらの状態でコムクロシャンプーが禁忌となっているのは、皮膚の再生を遅らせたり、感染を悪化させてしまう事によって重篤な状態になってしまう恐れがあるためです。
5.コムクロシャンプーの用法・用量と剤形
コムクロシャンプーには、
コムクロシャンプー0.05% 125ml
の1剤型のみがあります。
コムクロシャンプーの使い方は、
通常、1日1回、乾燥した頭部に患部を中心に適量を塗布し、約15分後に水又は湯で泡立て、洗い流す。
と書かれています。
コムクロシャンプーは「シャンプー」ではありますが、一般的なシャンプーとは使い方が異なります。
通常のシャンプーは髪を濡らしてから頭皮に塗布して泡立てるものですが、コムクロは髪が乾いた状態で塗ります。
頭皮全体に塗る事もありますが、乾癬が生じている特定の部位にだけ塗る事もあります。これは状態によって異なってきますので主治医とよく相談してください。
頭皮全体に塗るのであれば手のひらに500円玉程度の大きさを取り、それを約3回分でおおよそ頭皮全体の量になります。
その後、15分ほどそのままの状態で置きます。
そして15分が経過したら、お湯を髪にかけて普通のシャンプーみたいに泡立てて、洗い流します。
普通のシャンプーみたいに最初から髪を濡らして泡立てないのは、そうしてしまうとシャンプーの成分が顔についたり目に入ってしまう恐れがあるためです。コムクロは強いステロイドを含むため、あまり顔に長い時間塗布されたり目に入ってしまう事は望ましくありません。
またコムクロシャンプーを頭皮に塗って15分間待っている間は、シャワーキャップなどはかぶってはいけません。シャワーキャップのようなもので頭皮を覆ってしまうと、密封療法(ODT)と同じ状態になってしまいます。
ODTはステロイドを密封する事で患部にステロイドを強力に作用させる治療法です。皮膚に強力にステロイドを効かせたい時には有効ですが、コムクロは元々が最強クラスのステロイドですので、密封療法で更に作用を強めてしまう事は好ましくありません。
6.コムクロシャンプーの使用期限はどれくらい?
コムクロシャンプーの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。
これは保存状態によっても異なってきますので一概に答える事は難しいのですが、適正な条件(室温保存)で保存されていたという前提だと「3年」が使用期限となります。
ただしこれは未開封の場合です。開封した場合は使用期限は「4週間」となり、4週間を超えての成分の安定性は確認されていません。
7.コムクロシャンプーが向いている人は?
以上から考えて、コムクロシャンプーが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
コムクロシャンプーの特徴をおさらいすると、
【コムクロシャンプーの特徴】
・Ⅰ群(もっとも強い)に属するステロイド外用剤を含む |
というものでした。
コムクロシャンプーは尋常性乾癬の頭部病変を認める患者さんに用いられるお薬になります。
シャンプーとして洗髪時に投与できるのがメリットですが、15分間以上置かないといけないため、時間はまずまずかかります。生活スタイルの中でこれが毎日実行可能な方でないと難しいでしょう。
ただ「入浴」「洗髪」という日常生活の行動の一環で行われる治療法になるため、塗り忘れを少なくする事が期待できます。ついお薬を塗り忘れてしまい、それで症状がなかなか改善しない事が多いという方には良いかもしれません。
強いステロイドになりますので、漫然と使用を続ける事は避けるべきです。明らかな効果がない場合は4週間を1つの目安として、必要性を再検討するようにしましょう。