クロタミトンクリームは、1957年から発売されている「オイラックス」という外用剤(塗り薬)のジェネリック医薬品になります。
ジェネリック医薬品とは、先発品(オイラックス)の特許が切れた後に他社から発売された同じ成分からなるお薬の事です。お薬の開発・研究費がかかっていない分だけ、先発品よりも薬価が安くなっているというメリットがあります。
クロタミトンは「鎮痒薬」という種類に属し、これはいわゆる「かゆみ止め」になります。
主にかゆみを抑える目的で使われますが、クロタミトンは他のかゆみ止めとは異なった作用機序を持つユニークなお薬です。
また、疥癬をはじめとした一部の寄生虫に対する殺虫作用もあるため、寄生虫への殺虫剤としても用いられることがあります。
塗り薬はたくさんの種類があるため、それぞれがどのような特徴を持つのか分かりにくいという方も多いと思います。
クロタミトンはどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ここではクロタミトンの特徴や効果・副作用を紹介させて頂きます。
目次
1.クロタミトンクリームの特徴
まずはクロタミトンクリームの全体的な特徴を紹介します。
クロタミトンは、かゆみを抑える作用に優れ、またかゆみを抑える機序が他のかゆみ止めと異なる独特なものであるという特徴があります。また一部の寄生虫に対して殺虫作用もあります。
クロタミトンは独特な作用機序によってかゆみを抑えてくれるお薬になります。
抗アレルギー薬のような代表的なかゆみ止めの作用というのは、アレルギー反応を抑えることでかゆみを取ったり、麻酔作用によって感覚を鈍くしてかゆみを抑えたりするものが主です。
しかしクロタミトンはこれらのかゆみ止めとは作用機序が根本的に異なります。クロタミトンは温覚に対しての刺激作用を持っており、皮膚に塗るとヒリヒリするような感覚があるのですが、このヒリヒリ感を生じさせることでその分かゆみを感じにくくさせる、という作用なのです。
クロタミトンのヒリヒリ感という刺激がかゆみと競合することでかゆみ改善として作用するため、クロタミトンは「競合的刺激性止痒剤」とも呼ばれています。
一方でこのヒリヒリ感は時に副作用となってしまうこともあります。実際にクロタミトンの副作用として多いものに、熱感・灼熱感・皮膚刺激症状などが挙げられています。
また、ヒリヒリ感を持つお薬であるため、傷口などの創部や皮膚が荒れている部位に用いる際は注意が必要です。クロタミトンが皮膚を刺激するため、皮膚状態が更に悪化してしまう可能性があるためです。
面白い特徴として、クロタミトンはヒゼンダニ(疥癬の原因寄生虫)など、一部の寄生虫に対して、殺虫作用を持っています。そのため、時にこれらの寄生虫感染症に対して用いられることもあります。
ちなみにクロタミトンにはストロイドは含有されていないため、長期連用しても大きな副作用はほとんどありません。ステロイドを含有したクロタミトンとしては「オイラックスH」というお薬がありますので、皮膚の状態によって使い分ける必要があります。
ちなみにクロタミトンはジェネリック医薬品であり先発品のオイラックスと比べて多少薬価は安くなっていますが、オイラックスもかなり古いお薬で薬価がかなり安いため、ジェネリック医薬品にする事でそこまで「薬価が安くなった!」という実感はありません。
以上からクロタミトンクリームの特徴として、次のような事が挙げられます。
【クロタミトンクリームの特徴】
・かゆみを抑える作用に優れ、他のかゆみ止めとは異なる機序でかゆみを抑える |
2.クロタミトンクリームはどのような疾患に用いるのか
クロタミトンクリームはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
湿疹
蕁麻疹
神経皮膚炎
皮膚そう痒症
小児ストロフルス
難しい専門用語が並んでいますが、ざっくりと言えばクロタミトンはかゆみ止めとしての作用に優れるため、皮膚のかゆみを生じる疾患に有効だという認識で良いでしょう。
「小児ストロフルス」とは小児(乳幼児)が虫に刺された後に生じる、かゆみと湿疹のことです。かゆみが主な症状であるため、クロタミトンが効果を示します。
クロタミトンを使用する場合、皮膚のかゆみであっても、皮膚の傷があったり皮膚があまりに荒れている場合は注意が必要です。クロタミトンは皮膚を刺激する作用を持つため、荒れた皮膚に塗布してしまうと、傷口を刺激して皮膚の荒れを更にひどくしてしまう可能性があるからです。
また保険適応外にはなりますが、クロタミトンはビゼンダニ(疥癬の原因微生物)などの一部の寄生虫に対して殺虫作用があります。そのため、疥癬に対して使用されることもあります。
しかしクロタミトンの殺虫作用はそこまで強くはないため、疥癬の治療薬として単独で用いられることはほとんどありません。他の駆虫薬を主剤として使った上で補助的にクロタミトンも用いる、という使い方がほとんどです。
ではクロタミトンは上記疾患に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
クロタミトンはジェネリック医薬品ですので有効性に対する詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「オイラックスクリーム」では行われており、その調査報告が参考になります。
上記疾患にオイラックスを1日1~数回塗布した調査では、
- 湿疹に対する有効率は73.7%
- じんましんに対する有効率は69.4%
- 神経皮膚炎に対する有効率は82.4%
- 皮膚そう痒症に対する有効率は80.0%
- 小児ストロフルスに対する有効率は76.1%
と報告されています。
同じ主成分からなるクロタミトンもこれと同程度の有効率があると考えられます。
3.クロタミトンクリームにはどのような作用があるのか
主にかゆみ止めを目的として用いられるクロタミトンクリームですが、具体的にはどのような作用機序を持つお薬なのでしょうか。
クロタミトンには主に次の2つの作用がある事が知られています。
Ⅰ.止痒作用
クロタミトンは鎮痒剤であり、止痒作用(皮膚のかゆみを止める作用)を持ちます。
これはクロタミトンを皮膚に塗ると生じる、温覚への刺激作用によるものです。クロタミトンを皮膚に塗ると、温覚が刺激されます。ヒリヒリ感や熱さを感じる方もいらっしゃいます。
このヒリヒリ感が「かゆい!」という感覚と競合するため、ヒリヒリする分だけかゆみを感じにくくなるのです。
このようにクロタミトンの止痒作用は非常にユニークなはたらきを持っています。
また、クロタミトンは皮膚を刺激することでかゆみを抑えるため、用いる部位には気を付ける必要があります。刺激すると悪そうな状態の皮膚には用いるべきではありません。例えば、明らかな傷口を刺激するのは良くないでしょう。傷口が刺激されれば傷が更に悪化してしまいます。
また荒れた皮膚やアトピーなどがひどい皮膚に用いる場合にも注意が必要で、その判断は主治医とよく相談する必要があります。
Ⅱ.殺虫作用
クロタミトンの意外な効果として、一部の寄生虫に対しての殺虫作用があります。
医療的には、ヒゼンダニによる感染で生じる疥癬に対して用いられる事があります。実はクロタミトンは元々かゆみ止めとして開発されたのではなく、疥癬に対する駆虫作用が注目されて開発されたお薬なのです。
ちなみに疥癬は、非常に強いかゆみを生じる疾患ですので、疥癬にクロタミトンを用いると殺虫もできるしかゆみも抑えられ、一石二鳥の効果が期待できます。
ただしクロタミトンの殺虫作用は強くはありません。現在ではクロタミトン以外にも優れた駆虫薬があるため、クロタミトンを疥癬治療に単独で用いることはあまりありません。
ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)などの駆虫薬を中心として使用し、補助的にクロタミトンなども使うという治療法がよく行われます。
4.クロタミトンクリームの副作用
クロタミトンクリームにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいあるのでしょうか。
クロタミトンはジェネリック医薬品ですので、副作用発生率を見た詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「オイラックスクリーム」では行われており、副作用発生率は6.1%と報告されています。
同じ主成分からなるクロタミトンもこれと同程度の副作用発生率であると考えられます。重篤な副作用はほとんどなく、安全性は高いお薬です。
生じうる副作用としては、
- 熱感・灼熱感
- 刺激症状(ピリピリ感、ひりひり感など)
- 発赤
- 発赤増強・紅斑増悪
- 分泌物増加
- 浸潤傾向
などが報告されています。
これらの症状はクロタミトンが温覚を刺激するために生じます。
塗った部位が刺激されて、熱くなったり赤くなったりしてしまう事がありますが、クロタミトンの使用を中止すれば自然と改善するものが多く、重篤な副作用となるものはほとんどないと言ってよいでしょう。
5.クロタミトンの用法・用量と剤形
クロタミトンは、
クロタミトンクリーム10% 10g(チューブ)
クロタミトンクリーム10% 500g(瓶)
の2つの剤型があります。
クリーム剤のみになり、10gはチューブに入っており、500gは壺のようなガラス瓶に入っています。
塗り薬には「軟膏」「クリーム」「ローション」などいくつかの剤型がありますが、それぞれどのような違いがあるのでしょうか。
軟膏は、ワセリンなどの油が基材となっています。保湿性に優れ、刺激性が少ないことが特徴ですが、べたつきは強く、これが気になる方もいらっしゃいます。
クリームは、水と油を界面活性剤で混ぜたものです。軟膏よりも水分が入っている分だけ比べて伸びがよく、べたつきも少なくなっていますが、その分刺激性はやや強くなっています。
ローションは水を中心にアルコールなどを入れることもある剤型です。べたつきはほとんどなく、遣い心地は良いのですが、保湿効果は長続きしません。
クロタミトンクリームの使い方は、
通常症状により適量を1日数回患部に塗布または塗擦する。
と書かれています。実際は皮膚の状態や場所によって回数や量は異なるため、主治医の指示に従いましょう。
6.クロタミトンクリームの使用期限はどれくらい?
クロタミトンクリームの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。
「家に数年前に処方してもらった軟膏があるんだけど、これってまだ使えますか?」
このような質問は患者さんから時々頂きます。
これは保存状態によっても異なってきますので、一概に答えることはできませんが、製薬会社による記載では室温保存(なるべく涼しい場所に保存)にて「3年」となっています。
室温で涼しい場に保存していたのであれば、「3年」は持つと考えることができます。しかし、そうではない場所で保存していた場合は、3年未満でも効能が失われている可能性があります。
また、上記は未開封の場合を想定されています。開封した場合はこれより短くなります。
7.クロタミトンクリームが向いている人は?
以上から考えて、クロタミトンクリームが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
クロタミトンクリームの特徴をおさらいすると、
【クロタミトンクリームの特徴】
・かゆみを抑える作用に優れ、他のかゆみ止めとは異なる機序でかゆみを抑える |
というものでした。
ここから、かゆみの症状が主である皮膚に用いる際に良いお薬であると言えます。
一方で、かゆみもあるけども強い炎症や傷・アレルギーなどもある皮膚にはあまり向いていません。その理由は、クロタミトンの皮膚刺激作用によって皮膚の荒れをより悪化させてしまう可能性があるからです。
このような場合クロタミトンは不適ですが、クロタミトンにステロイドを配合した「オイラックスH」は適している可能性がありますので主治医とよく相談してみましょう。
また、クロタミトンはヒゼンダニに対する殺虫作用がありますので、疥癬治療を行う際の補助薬としても利用される事があります。
疥癬によって生じる強いかゆみを抑えつつ、ビゼンダニもやっつけてくれるという一石二鳥の効果が期待できます。