SPトローチ「明治」(一般名:デカリニウム)は、1975年から発売されているお薬です。
トローチ剤になり、一般的なお薬のように飲みこむのではなく、飴(アメ)のように口の中で舐めて少しずつ溶かしていくという使い方をします。
SPトローチは口腔・咽頭のばい菌(細菌)をやっつける作用を持ち、主に咽頭炎・扁桃炎など上気道に感染が生じている時に用いられます。
清涼感のあるハッカ味という事もあり、「のど飴」のような感覚で服用している方も多いのではないでしょうか。
もちろんのど飴のような作用も期待できるのですが、抗菌作用がSPトローチの本来の作用です。そのためのど飴と同じような感覚で服用するものではなく、「お薬」だという認識で服用しなくてはいけません。
現在でも広く用いられているお薬ですが、SPトローチはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに適したお薬なのでしょうか。
ここではSPトローチの特徴や効果・副作用について紹介していきます。
1.SPトローチの特徴
まずはSPトローチの特徴をざっくりと紹介します。
SPトローチは舐める事で口腔内・咽頭部のばい菌をやっつける作用(抗菌作用)を持つお薬になります。
そのため、現在でも細菌感染が原因となっている咽頭炎・扁桃炎などに広く処方されています。
SPトローチには「デカリニウム塩化物」という殺菌作用を持つ成分が含まれています。口腔・咽頭部にばい菌が巣食っている場合、SPトローチを舐めることで口腔内・咽頭部に殺菌作用のあるデカリニウムが浸透していくため、ばい菌をやっつける作用が期待できます。
またSPトローチを舐める事で口腔内に唾液が分泌され、これによって口腔内が保湿されるという作用も期待できます。
SPトローチは副作用が少なく、臨床で処方している感覚としては「副作用がほぼない」と言っても良いようなお薬です。安全性が非常に高いところもこのお薬の良いところです。
注意点として、このような使い勝手の良さからSPトローチは「のど飴」感覚で安易に処方されるケースが散見されます。
患者さんの中でもSPトローチを「のど飴」だと認識している方がいますが、これは正確には間違いです。ハッカ味で清涼感のあるSPトローチは、確かにのど飴のような感じがありますが、SPトローチは「口の中のばい菌(細菌)をやっつけるお薬」になります。抗菌作用は穏やかですが、このような作用を持つため主に細菌感染が疑われる時に用いるべきです。
反対にウイルス感染が疑われるような状態(普通の風邪など)では、抗菌作用は必要ないわけですから、普通の市販の「のど飴」で良いわけです(ウイルスには抗菌薬は効きません)。
市販ののど飴は抗菌作用はありませんが、唾液を分泌させて口腔内を保湿する作用はあります。ウイルスに抗菌薬は効きませんので、この場合はのど飴の方がむしろ良いでしょう。
ここから「風邪っぽいからトローチ下さい」と安易に処方をお願いするのは間違いで、風邪症状の中でもSPトローチが必要なものもあれば、不要のものもあるという事を知っておくと良いでしょう。
以上からSPトローチの特徴として次のような点が挙げられます。
【SPトローチの特徴】
・ばい菌(主に細菌)をやっつける作用を持つ |
2.SPトローチの適応疾患と有効率
SPトローチはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
咽頭炎、扁桃炎、口内炎、抜歯創を含む口腔創傷の感染予防
SPトローチは上気道の細菌感染に対して用いられます。あるいは現在は細菌感染していなくても、今後細菌感染を起こす可能性が高い場合にも予防的に用いられます。反対にウイルス感染に対してはあまり効果は期待できません。
症状としては、上気道の症状(咳・痰・咽頭痛など)が出ている場合に用いられるお薬になります。
細菌感染かウイルス感染かは、医師が診察した結果によって判断されますが、一般的に
- 症状が強い
- 高熱(38度以上)が出る
- 血液検査にて白血球が上昇している
ような場合は細菌感染が疑われますのでSPトローチの適応になります。
一方でウイルスはデカリニウムによってやっつける事は出来ませんので、SPトローチはあまり意味がありません。口腔や咽頭・気道の保湿をするだけであれば一般的なのど飴でも可能ですので、ウイルス性が疑われれば、わざわざSPトローチを使う必要はないでしょう。
ではSPトローチはこれらの疾患に対してどのくらいの効果が期待できるのでしょうか。
SPトローチの有効性を見た調査では、
- 咽頭炎に対する有効率は82.65%
- 扁桃炎に対する有効率は86.36%
- 口腔外科手術及び歯科手術後における口腔内消毒における有効率は98.51%
- 各種口内炎に対する有効率は91.49%
と報告されています。
3.SPトローチの作用
咳・咽頭痛・喉の違和感などの上気道症状の緩和に用いられるSPトローチですが、どのような作用を持っているのでしょうか。
SPトローチには、次のような作用が挙げられます。
Ⅰ.抗菌作用
SPトローチの主成分であるデカリニウム塩化物には抗菌作用があります。
具体的には、
- 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus Aureus)
- B群β溶血性レンサ球菌(GBS:GroupB Streptococcus)
- 巨大菌(Bacillus Megaterium)
などといった細菌に対する抗菌作用が報告されています。特に黄色ブドウ球菌は、口腔・咽頭の感染菌としても多い菌になります。
また、
- カンジダ菌(Candida Albicans)
などの一部の真菌(カビ)に対しても抗真菌作用が確認されています。
これらの菌に対してSPトローチは蛋白凝固作用を発揮すると考えられています。蛋白凝固作用とは、文字通り蛋白質を固まらせてしまう作用の事で、凝固した蛋白質は本来のはたらきをできなくなります。
SPトローチは菌の細胞内の蛋白質を凝固させることで、結果的に殺菌作用を発揮しているのだと考えられています。
Ⅱ.唾液分泌作用
これはSPトローチに限らず、一般的なのど飴でも期待できる作用なのですが、SPトローチをなめることで唾液が分泌されます。
唾液は食べ物を分解するはたらきの他、口腔、咽頭を保湿することで、ばい菌の増殖を抑えるはたらきがあります。
SPトローチは、口腔内で徐々に溶かす(「なめる」という事)ことで、保湿効果も期待できるのです。
4.SPトローチの副作用
SPトローチにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
SPトローチの副作用は1,213例の患者さんにおいて調査されましたが、明らかな副作用は報告されませんでした。臨床の感覚から言っても安全性は非常に高いお薬で、副作用は「ほぼ生じない」と考えて良いと思います。
ただしどんなものであっても、体質的に合わないということはありえます。そのような時は、摂取する事で過敏症状(発疹など)が出現することがあります。
SPトローチもそのような副作用が出る可能性はありうるでしょう。
しかしそれ以外の問題となるような副作用は、ほとんど経験しません。
5.SPトローチの用法・用量と剤形
SPトローチには次の剤型が発売されています。
SPトローチ「明治」 0.25mg
SPトローチの使い方は、
通常1回1錠を1日6回投与し、口中で徐々に溶解させる。なお、年齢・症状により適宜増減する。
となっています。
1日6回と書かれていますが、実際は正確に1日6回(4時間置き)服用するのは難しいと思います。
必ず4時間置きにきっちりと服用しなければいけないものではなく、1日3回、4回などある程度ライフスタイルに合った服用法でも問題はありません。
6.SPトローチが向いている人は?
以上から考えて、SPトローチが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
SPトローチの特徴をおさらいすると、
【SPトローチの特徴】
・ばい菌(主に細菌)をやっつける作用を持つ |
などがありました。
ここから、細菌感染が疑われる上気道疾患(咽頭炎・扁桃炎など)で、喉の症状が強い方に適したお薬になります。
安全性も高く、
- 細菌感染がある、あるいは今後可能性が高い
- 上気道症状が強い
といった状態であれば使用するデメリットは少ないため、ある程度積極的に用いても良いでしょう。
反対に細菌感染でない場合(ウイルス感染など)では、あまり服用の意味はなく、何かを使いたい場合は市販ののど飴でもよいかもしれません。
ウイルスには抗菌薬が効きませんので、ウイルス疾患にはSPトローチの抗菌作用は意味がなくなります。となると、保湿作用が得られるだけですので、であれば市販ののど飴でも変わらないわけです。
副作用の非常に少ないSPトローチは、ウイルス疾患に使っても大きなデメリットがあるわけではありませんが、あまり意味がないため「風邪っぽいから何となく処方してもらう」というのは医学的に見れば正しい服用法ではありません。