デスパコーワ口腔用クリームの効果と副作用【口内炎治療薬】

デスパコーワ口腔用クリームは1965年から発売されている口内炎の治療薬になります。

デスパコーワは口の中に塗るタイプのお薬であり、ステロイドや抗ヒスタミン薬、消毒薬などを配合しています。塗り薬ですので飲み薬のように全身に作用するわけではなく、効かせたい部位にしっかりと効き、余計な部位に作用しないというメリットがあります。

塗り薬はたくさんの種類があるため、それぞれがどのような特徴を持つのか一般の方にとっては分かりにくいと思います。

デスパコーワはどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのでしょうか。デスパコーワの効能や特徴・副作用についてみてみましょう。

 

1.デスパコーワ口腔用クリームの特徴

まずはデスパコーワ口腔用クリームの特徴をざっくりと紹介します。

デスパコーワ口腔用クリームは口の中に塗る外用ステロイド薬であり、口腔内の炎症を抑えてくれます。またステロイドだけでなくアレルギーを抑える成分や、殺菌作用を持つ成分も配合されています。

デスパコーワには、次の4つの成分が配合されています。

  • ヒドロコルチゾン酢酸エステル(ステロイド)
  • ジフェンヒドラミンサリチル酸塩(抗ヒスタミン薬)
  • クロルヘキシジン塩酸塩(殺菌・消毒薬)
  • ベンザルコニウム塩化物(殺菌・消毒薬)

それぞれの成分の持つ作用について簡単に紹介します。

ヒドロコルチゾン(ステロイド外用剤)は免疫反応を抑える作用があります。免疫反応というのは身体の中にばい菌などの異物が侵入してきた時、その異物を排除するために異物を攻撃するシステムの事です。免疫は生体を守るために重要なシステムですが、過剰に反応してしまうと自分の細胞や組織も傷つけてしまう事があります(炎症)。

ステロイドは免疫反応を抑える事によって、免疫が異物を攻撃する程度を弱めます。これにより塗った部位で炎症が生じにくくなります。

ただし安易にステロイドによって免疫を抑えてしまうと、ばい菌などが繁殖しやすくなってしまったり、皮膚・粘膜細胞の増殖を抑えてしまうというデメリットもありますので専門家の指導の下で使用する必要があります。

ジフェンヒドラミン(抗ヒスタミン薬)はアレルギー症状を抑えるはたらきを持ちます。アレルギー症状を誘発する物質(ヒスタミンなど)のはたらきを抑える事で、アレルギー反応を生じにくくさせます。

アレルギーが生じてなくても、局所で炎症が起きるとヒスタミンなどのアレルギー誘発物質が分泌されやすくなり、これにより炎症が更に増悪してしまう事があります。抗ヒスタミン薬はアレルギー誘発物質の作用を抑える事で炎症反応が増悪する事を防ぎます。

クロルヘキシジンとベンザルコニウムはいわゆる「消毒薬」です。細菌などをはじめとした微生物を破壊する作用を持ちます。

クロルヘキシジンは医療現場でもよく用いられている消毒薬です。「ヒビテン」という名称の消毒薬に含まれており、これは手術や処置の前に皮膚を消毒するために用いられています。

ベンザルコニウムは主に細菌をやっつける作用を持つ逆性石鹸の1つです。「ウェルパス」「ヂアミトール」などの名称で医療現場でも用いられています。注意点としてベンザルコニウムは特殊な細菌(結核など)やウイルスには効果がないという点が挙げられます。

このような成分を含むデスパコーワ口腔用クリームは、

  • 口腔内に細菌感染が生じやすい状態である
  • かつ、炎症反応が過剰に生じ過ぎてしまっている

という時に適した外用剤になります。

ちなみに外用ステロイド剤は強さによって5段階に分かれています。

Ⅰ群(最も強力:Strongest):デルモベート、ダイアコートなど
Ⅱ群(非常に強力:Very Strong):マイザー、ネリゾナ、アンテベートなど
Ⅲ群(強力:Strong):ボアラ、リドメックスなど
Ⅳ群(中等度:Medium):アルメタ、ロコイド、キンダベートなど
Ⅴ群(弱い:Weak):コートリル、プレドニンなど

この中でデスパコーワ口腔用クリームに含まれるヒドロコルチゾンは「Ⅴ群(弱い)」に属するステロイドになります。

炎症を抑える作用は強くはありませんが、穏やかに口腔内の炎症を抑えてくれます。口腔などの粘膜部位は外用剤が吸収されやすいため、あまり強いステロイドを用いる事は推奨されていないため、弱いステロイドを配合するデスパコーワは比較的安全に用いる事が出来ます。

以上からデスパコーワ口腔用クリームの特徴として次のような事が挙げられます。

【デスパコーワ口腔用クリームの特徴】

・炎症を抑えるステロイド・抗ヒスタミン薬、細菌をやっつける消毒薬を含む
・口の中に塗る外用剤である
・口腔内に細菌感染が生じやすい状態で炎症が強い場合に用いられる
・V群(弱い)に属する穏やかな作用のステロイドを含む
・ステロイドを含むため、長期使用による副作用に注意

 

2.デスパコーワ口腔用クリームはどんな疾患に用いるのか

デスパコーワ口腔用クリームはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

アフタ性口内炎、孤立性アフタ、褥瘡性潰瘍、辺縁性歯周炎

デスパコーワは炎症を抑えるステロイドや抗ヒスタミン薬、そしてばい菌をやっつける消毒薬を含みますので、ばい菌が感染しやすい状態であり、かつ炎症が過剰に生じてしまっている状態に用いられます。

アフタとは口腔粘膜に出来る浅い潰瘍(かいよう)の事です。見た目としては白っぽい斑点のように見えます。アフタがより深くなると「潰瘍」と呼ばれるようになります。

褥瘡性潰瘍とは、虫歯・入れ歯などが口腔粘膜に当たってしまう事で潰瘍が生じるような状態です。

また辺縁性歯周炎は、口腔内の炎症が歯肉(はぐき)のみならず歯周(奥の骨)にまで進行してしまっている疾患です。

注意点としてデスパコーワはステロイドを含んでいますので、免疫(身体が異物と闘う力)が抑制され、ばい菌に対する抵抗力が弱くなってしまいます。

そのため、細菌やウイルスが口腔内に感染しているような症例でのステロイドの安易な使用は症状を悪化させてしまう事もありますので、ステロイドを使用すべきかどうかは医師にしっかりと判断してもらうべきであり、医療知識の乏しい方が独断で判断する事は勧められません。

デスパコーワ口腔用クリームはこれらの疾患に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。

デスパコーワの有効率は、

  • アフタ性口内炎、孤立性アフタに対する有効率は77.9%
  • 褥瘡性潰瘍に対する有効率は92.9%
  • 編遠征歯周炎に対する有効率は55.2%

と報告されています。

 

3.デスパコーワ口腔用クリームにはどのような作用があるのか

デスパコーワ口腔用クリームにはどのような作用があるのでしょうか。

 

Ⅰ.抗炎症作用・免疫抑制作用

デスパコーワに含まれる「ヒドロコルチゾン」はステロイドです。

ステロイドには様々な作用がありますが、その1つに免疫を抑制する作用があります。

免疫というのは異物が侵入してきた時に、それを攻撃する生体システムの事です。

例えば皮膚から体内にばい菌が侵入してきた時、免疫はばい菌をやっつける細胞を細菌侵入部に向かわせることでばい菌の侵入を阻止します。

免疫は身体にとって非常に重要なシステムですが、時にこの免疫反応が過剰となってしまい身体を傷付けることがあります。

口腔粘膜から細菌が侵入してしまい、口内炎が生じてしまったケースを考えてみましょう。免疫は感染部位(口腔粘膜)に免疫細胞を向かわせ、免疫細胞は口腔粘膜細胞に感染した細菌を攻撃します。

この時、細菌だけをピンポイントで攻撃できればいいのですが、実際はそううまくはいきません。細菌が感染している口腔粘膜の細胞・組織も一緒に攻撃してしまいます。その結果、細菌をやっつける事は出来ますが、同時に自分の細胞・組織もある程度傷付けてしまうのです。

免疫が過剰に反応してしまった場合は、細菌をやっつけるために自分の細胞・組織にも大きなダメージが生じてしまいます。このように免疫が過剰となっている場合は、免疫力を多少抑えてあげた方が良い事があります。

そうすれば細菌をやっつけつつ、細胞・組織へのダメージも軽減させる事ができるためです。

デスパコーワに含まれるステロイド(ヒドロコルチゾン)は、このような作用を期待して配合されています。ヒドロコルチゾンにも免疫を抑えるはたらきがあるため、これによって免疫反応が抑えられ、炎症の程度も抑えられます。

ただし免疫を弱めるという事は同時に「身体で悪さをしている細菌への攻撃を弱める」という事でもあり、安易な使用は細菌の増殖を悪化させてしまう事もあります。

 

Ⅱ.抗ヒスタミン作用

デスパコーワに含まれるジフェンヒドラミンサリチル酸塩は、「ヒスタミン」という物質のはたらきを抑える作用があります(これを抗ヒスタミン作用と言います)。

ヒスタミンはアレルギー症状を引き起こす物質の1つで、肥満細胞(マスト細胞)などの「アレルギー誘発細胞」から分泌され、「アレルギー誘発物質(ケミカルメディエーター)」とも呼ばれます。

デスパコーワは口腔内に塗る薬ですので、口腔粘膜に存在する肥満細胞が分泌するヒスタミンのはたらきを抑えてくれるのです。

そもそもアレルギー反応はどのような機序で生じるのでしょうか。

ある物質に対して過剰に身体が反応してしまうのが「アレルギー」です。アレルギーでは、食べ物やダニ、花粉など、通常であれば身体が何の反応を示さないような無害な物質に対して、何らかの原因により身体が「これは危険な物質だ!」と誤った認識をしてしまいます。

なぜこのような事が起こるのか、その原因は不明なところもありますが、遺伝や環境・ストレスなどが指摘されています。しかし、原因不明で生じることも少なくありません。

通常であれば摂取・接触しても問題がないようなものに対して、身体が「危険物質」と誤認識するようになると、様々な不都合が生じます。

例えば、「花粉」という本来無毒である物質に対して身体が過剰に反応してしまうのが「アレルギー性鼻炎」であり、鼻水やくしゃみ、鼻閉などの症状が出てしまいます(この場合、花粉をアレルギーを起こす物質という意味で「アレルゲン」と呼びます)。

アレルギー反応は、アレルゲンに肥満細胞(マスト細胞)が反応して、ヒスタミンをいう物質を分泌することが1つの原因です。

ヒスタミンは血管透過性を亢進させたり、血管を拡張させるはたらきがあり、これにより様々な物質が血液中から皮膚に浸出していき、これによりかゆみや発赤・湿疹などを生じさせます。

デスパコーワは、肥満細胞が分泌したヒスタミンのはたらきを抑える作用があります。

具体的にはヒスタミンが結合する部位である「ヒスタミン受容体」をブロックすることでヒスタミンが作用できないようにするのです。

これによってアレルギー症状を抑えることが可能となります。

口内炎はアレルギーで生じるものではありませんが、炎症が生じている時というのは肥満細胞が刺激されやすく、それに伴ってヒスタミンの分泌も過剰になりやすい状況です。

そのため、ヒスタミンの分泌を抑える事は炎症反応を抑える事につながるのです。

 

Ⅲ.殺菌・消毒作用

デスパコーワ口腔用クリームに含まれる、「クロルヘキシジン塩酸塩」「ベンザルコニウム塩化物」には、殺菌・消毒作用があります。

クロルヘキシジンは菌の細胞膜に障害を与え、細胞中の物質を漏出させる事で殺菌作用を発揮すると考えられています。

クロルヘキシジンは即効性も持続性もあります。塗ってすぐに殺菌効果が得られ、かつその効果は長く続きます。短所としては、殺菌作用がやや弱く、一般細菌、真菌と一部のウイルスに殺菌作用を示しますが、芽胞形成菌にはほとんど効かないという点が挙げられます。

ベンザルコニウムも菌の細胞膜のたんぱく質を変性させる事で、細胞をもろくし殺菌作用を発揮します。短所として結核菌やウイルスには効果がない点が挙げられます。

 

4.デスパコーワ口腔用クリームの副作用

デスパコーワ口腔用クリームの副作用はどのくらいあるのでしょうか。また副作用にはどのようなものがあるのでしょうか。

デスパコーワは副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし口腔内といった局所にのみ作用するお薬ですので、安全性は高いと考えられます。しかしステロイドを含みますので、漫然と塗り続けないように注意は必要です。

生じうる副作用としては、

  • 口腔内の感染症
  • 過敏症
  • 舌のしびれ、味覚異常、口内炎、黒舌症
  • 胃部不快感、胃部膨満感、嘔吐、下痢
  • 下垂体・副腎皮質系機能の抑制(長期連用による)

などが報告されています。多くは口腔内局所の症状です。

いずれも重篤となることは少なく、多くはデスパコーワの使用を中止すれば自然と改善していきます。長期間使えば使うほど発生する可能性が高くなるため、漫然と使用する事は避け、必要な期間のみしっかりと使う事が大切です。

デスパコーワを使ってはいけない状態(禁忌)としては次のように記載されています。

【禁忌】

(1)口腔に結核性、ウイルス性、その他化膿性の感染症がある場合〔感染症を悪化させるおそれがある〕

(2)本剤の成分又はクロルヘキシジンに対し過敏症の既往歴のある方

デスパコーワのようなステロイドを含む外用剤は、免疫力を低下させるリスクがあるため、口腔内に明らかにばい菌が感染しているような状態では用いる事は出来ません。

 

5.デスパコーワの用法・用量と剤形

デスパコーワには、

デスパコーワ口腔用クリーム 5g

の1剤型のみがあります。

デスパコーワ口腔用クリーム1g中には、

クロルヘキシジン塩酸塩 3mg
ジフェンヒドラミンサリチル酸塩 1mg
ヒドロコルチゾン酢酸エステル 5mg
濃ベンザルコニウム塩化物液50 0.4mg

が含まれています。

ちなみに塗り薬には「軟膏」「クリーム」「ローション(外用液)」などいくつかの種類がありますが、これらはどのように違うのでしょうか。

軟膏は、ワセリンなどの油が基材となっています。長時間の保湿性に優れ、刺激性が少ないことが特徴ですが、べたつきは強く、これが気になる方もいらっしゃいます。また皮膚への浸透力も強くはありません。

クリームは、水と油を界面活性剤で混ぜたものです。軟膏よりも水分が入っている分だけ伸びがよく、べたつきも少なくなっていますが、その分刺激性はやや強くなっています。

ローションは水を中心にアルコールなどを入れることもある剤型です。べたつきはほとんどなく、遣い心地は良いのですが、保湿効果は長続きしません。しかし皮膚への浸透力は強く、皮膚が厚い部位などに使われます。

デスパコーワ口腔用軟膏の使い方は、

本剤の適量を1日3~4回炎症部位に塗布する。

と書かれています。デスパコーワに限らず口腔内に塗るお薬は、お薬がすぐにはがれてしまいやすいため、やや頻回に塗布する必要があります

また使用後すぐに飲食をしてしまうと、口腔内に塗布したクリームが剥がれ落ちてしまいやすいため、塗布後しばらくは飲食を避ける事が推奨されています。

 

6.デスパコーワ口腔用クリームの使用期限はどれくらい?

デスパコーワ口腔用クリームの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。

「家に数年前に処方してもらった塗り薬があるんだけど、これってまだ使えますか?」

このような質問は患者さんから時々頂きます。

これは保存状態によっても異なってきますので、一概に答えることはできませんが、適正な条件(室温保存)で保存されていたという前提だと、「2年半」が使用期限となります。

 

7.デスパコーワ口腔用クリームが向いている人は?

以上から考えて、デスパコーワ口腔用クリ-ムが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

デスパコーワ口腔用クリームの特徴をおさらいすると、

・炎症を抑えるステロイド・抗ヒスタミン薬、細菌をやっつける消毒薬を含む
・口の中に塗る外用剤である
・口腔内に細菌感染が生じやすい状態で炎症が強い場合に用いられる
・V群(弱い)に属する穏やかな作用のステロイドを含む
・ステロイドを含むため、長期使用による副作用に注意

というものでした。

ここから、主に口の中に炎症が生じており(口内炎や歯肉炎、歯周炎など)、ばい菌が感染する可能性が高いようなケースに適しています。

ステロイドや抗ヒスタミン薬により炎症を抑える事で痛みを軽減させ、かつ消毒薬によってばい菌が創部に感染するのを防いでくれます。

デスパコーワはステロイドを含んでいるため、漫然と使い続けることは良くありません。ステロイドは必要な時期のみしっかりと使い、必要がなくなったら使うのを止めるという、メリハリを持った使い方が非常に大切です。