デキサルチン口腔用軟膏(一般名:デキサメタゾン)は1969年から発売されている「アフタゾロン口腔用軟膏」というお薬のジェネリック医薬品になります。ステロイドを含み、主に口の中に出来た口内炎の治療に用いられます。
飲み薬のように全身に作用するわけではなく、病変がある部位にのみ塗るため、効かせたい部位にしっかりと効き、余計な部位に作用しないというメリットがあります。
塗り薬はたくさんの種類があるため、それぞれがどのような特徴を持つのか一般の方にとっては分かりにくいものです。
デキサルチン口腔用軟膏はどんな特徴のあるお薬でどんな患者さんに向いているお薬なのでしょうか。デキサルチン口腔用軟膏の効能や特徴・副作用についてみてみましょう。
目次
1.デキサルチン口腔用軟膏の特徴
まずはデキサルチン口腔用軟膏の特徴をざっくりと紹介します。
デキサルチン口腔用軟膏は口の中に塗る外用ステロイド薬であり、口腔内の炎症を抑えてくれます。外用ステロイド薬の中での強さは「中等度」になります。
ステロイド外用剤(塗り薬)の主なはたらきとしては次の3つが挙げられます。
- 炎症反応を抑える
- 免疫反応を抑える
- 皮膚細胞の増殖を抑える
ステロイドは免疫反応(身体がばい菌などの異物と闘う反応)を抑える事で、塗った部位の炎症反応を抑える作用があります。これにより湿疹や皮膚炎を改善させたり、アレルギー症状を和らげたりします。
また皮膚細胞の増殖を抑えるはたらきもありますが、これは主にステロイドの副作用となります。
外用ステロイド剤(塗るタイプのステロイド)は強さによって5段階に分かれています。
Ⅰ群(最も強力:Strongest):デルモベート、ダイアコートなど
Ⅱ群(非常に強力:Very Strong):マイザー、ネリゾナ、アンテベートなど
Ⅲ群(強力:Strong):ボアラ、リドメックスなど
Ⅳ群(中等度:Medium):アルメタ、ロコイド、キンダベートなど
Ⅴ群(弱い:Weak):コートリル、プレドニンなど
この中でデキサルチン口腔用軟膏は「Ⅳ群(中等度)」に属し、ステロイドの中では比較的穏やかな作用を持つお薬になります。
ステロイドはしっかりとした抗炎症作用(炎症を抑える作用)が得られる一方で、長期使用による副作用の問題などもあるため、皮膚症状に応じて適切に使い分ける事が大切です。
強いステロイドは強力な抗炎症作用がありますが、一方で副作用も生じやすいというリスクもあります。反対に弱いステロイドは抗炎症作用は穏やかですが、副作用も生じにくいのがメリットです。
またステロイドはどれも長期使用すると、皮膚の細胞増殖を抑制したり、免疫力を低下させたりしてしまいます。これによって皮膚が薄くなってしまったり感染しやすくなってしまったりといった副作用が生じる可能性があります。
デキサルチン口腔用軟膏もそういった副作用が生じる可能性はあるため、必要な期間のみ使用し、漫然と塗り続けないことが大切です。
またデキサルチン口腔用軟膏は他の外用ステロイド剤と異なり、口の中という湿潤環境(水分が多い部位)に塗るため軟膏がはがれてしまいやすいという問題があります。
そのためデキサルチン口腔用軟膏は湿潤環境でも創部にとどまりやすいような工夫されています。具体的には基材に粘着性の高い物質を使用する事で、口腔内に塗るのに適した剤型となっているのです。このような理由からデキサルチン口腔用軟膏は他の外用ステロイド剤と異なり、口腔内に特化したステロイドという位置づけになっているのです。
更にデキサルチン口腔用軟膏はジェネリック医薬品であり、先発品と比べて薬価が安いというのもメリットです。
以上からデキサルチン口腔用軟膏の特徴として次のような事が挙げられます。
【デキサルチン口腔用軟膏の特徴】
・Ⅳ群(中等度の強さ)に属する外用ステロイド剤である
・炎症を抑える作用、免疫反応を抑える作用、皮膚細胞の増殖を抑える作用がある
・ステロイドの中で効果は穏やか
・ステロイドであるため、長期使用による副作用に注意
・口の中でも軟膏がはがれにくいように基材に工夫がされている
2.デキサルチン口腔用軟膏はどんな疾患に用いるのか
デキサルチン口腔用軟膏はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
びらん又は潰瘍を伴う難治性口内炎及び舌炎
皮膚の炎症を抑えてくれるのが外用ステロイド剤になります。デキサルチンは口腔内に用いるため、主に口腔内に炎症が生じている状態に用いられます。
慢性剥離性歯肉炎とは歯肉の皮膚にびらんや潰瘍が出来てしまう事です。また口内炎・舌炎というのはそのままで、口の中や舌の炎症の事を指します。
これらの疾患にデキサルチン口腔用軟膏を用いると、創部の炎症を抑えてくれますので、症状の改善が得られます。
デキサルチン口腔用軟膏の有効率は、放射線口内炎に対して使用した場合、
・著明改善6.1%
・改善26.5%
・改善46.9%
と報告されています。
また先発品の「アフタゾロン口腔用軟膏」の有効率は、71.8%と報告されており、デキサルチンも同程度だと考えられます。
注意点としてステロイドは免疫(身体が異物と闘う力)を抑制するため、ばい菌の感染に弱くなってしまいます。そのため、細菌やウイルスが皮膚に感染しているようなケースでは、そこにステロイドを塗る事は推奨されていません。
3.デキサルチン口腔用軟膏にはどのような作用があるのか
皮膚の炎症を抑えてくれるデキサルチン口腔用軟膏ですが、具体的にはどのような作用があるのでしょうか。
デキサルチン口腔用軟膏の作用について詳しく紹介します。
Ⅰ.抗炎症作用
デキサルチン口腔用軟膏は、ステロイド剤です。
ステロイドには様々な作用がありますが、その1つに免疫を抑制する作用があります。
免疫というのは異物が侵入してきた時に、それを攻撃する生体システムの事です。皮膚からばい菌が侵入してきた時には、ばい菌をやっつける細胞を向かわせることでばい菌の侵入を阻止します。
免疫は身体にとって非常に重要なシステムですが、時にこの免疫反応が過剰となってしまい身体を傷付けることがあります。
代表的なものがアレルギー反応です。アレルギー反応というのは、本来であれば無害の物質を免疫が「敵だ!」と誤認識してしまい、攻撃してしまう事です。
代表的なアレルギー反応として花粉症(アレルギー性鼻炎)がありますが、これは「花粉」という身体にとって無害な物質を免疫が「敵だ!」と認識して攻撃を開始してしまう疾患です。その結果、鼻水・鼻づまり・発熱・くしゃみなどの不快な症状が生じてしまいます。
同じく皮膚にアレルギー反応が生じる疾患にアトピー性皮膚炎がありますが、これも皮膚の免疫が誤作動してしまい、本来であれば攻撃する必要のない物質を攻撃してしまい、その結果皮膚が焼け野原のように荒れてしまうのです。
このような状態では、過剰な免疫を抑えてあげると良いことが分かります。
ステロイドは免疫を抑えるはたらきがあります。これによって炎症が抑えられます。
炎症とは、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
の4つの徴候を生じる状態のことです。今説明したように感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
みなさんも身体をぶつけたり、ばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあると思います。これが炎症です。皮膚に炎症が起こることを皮膚炎と呼びます。皮膚炎も外傷でも生じるし、ばい菌に感染することでも生じるし、アレルギーでも生じます。
ステロイドは免疫を抑制することで、炎症反応を生じにくくさせてくれるのです。
Ⅱ.免疫抑制作用
上記のようにデキサルチン口腔用軟膏をはじめとしたステロイドは免疫力を低下させる作用があります。
デキサルチン口腔用軟膏を長期間塗り続けると、塗った部位の免疫力が低下します。通常はこれはステロイドの副作用となります。
強いステロイドを長期間塗り続けていると免疫力が低下するため、ばい菌(細菌やウイルス、真菌など)に感染しやすくなってしまいます。
Ⅲ.皮膚細胞の増殖抑制作用
デキサルチン口腔用軟膏をはじめとしたステロイド外用剤は、塗った部位の皮膚細胞の増殖を抑えるはたらきがあります。
これも主に副作用となる事が多く、デキサルチン口腔用軟膏を長期間塗り続けていると口の中の表皮が薄くなってしまう事があります。
デキサルチンはステロイドの中では作用が穏やかな部類に入るため、このような副作用は頻度の多い事ではありませんが、一定の注意は必要です。
Ⅳ.湿潤環境でもはがれにくい工夫
デキサルチン口腔用軟膏は、口の中に塗る外用ステロイド剤であるため、一般的な皮膚に塗る外用ステロイド剤とは異なります。
口の中というのは水分の多い環境であるため、皮膚に塗るのと比べるとせっかく軟膏を塗ってもはがれて流れてしまいやすいという問題があります。
この問題を改善するためデキサルチン口腔用軟膏は、軟膏基材に粘着性の高い物質を使用するという工夫をしています。
具体的には、
・ポリアクリル酸ナトリウム
・流動パラフィン
・プラスティベース
を混合する事で、口の中という水分が多い環境でも創部に軟膏がとどまりやすいように工夫がされているのです。
4.デキサルチン口腔用軟膏の副作用
デキサルチン口腔用軟膏の副作用はどのようなものがあるのでしょうか。
デキサルチン口腔用軟膏は副作用発生率の詳しい調査は行われていません。参考までに同程度の強さのステロイド外用剤の副作用発生率を見てみましょう。
【Ⅳ群(medium)外用ステロイド剤の副作用発生率】
・アルメタ軟膏:0.56~2.86%
・ロコイド軟膏:0.3%、ロコイドクリーム:0.6%
・キンダベート軟膏:0.4~0.6%
ここから考えると、デキサルチン口腔用軟膏の副作用も頻度はかなり少なく、安全性は高いと考えられます。しかしステロイド剤ですので、漫然と塗り続けないように注意は必要です。
生じる副作用もほとんどが局所の皮膚症状で、
- 口腔内のしびれ感
- 味覚異常
- 味覚減退
- 口腔の感染症(細菌性感染症、真菌性感染症)
- 下垂体・副腎皮質系機能の抑制(長期連用による)
などになります。
いずれも重篤となることは少なく、多くはデキサルチン口腔用軟膏の使用を中止すれば自然と改善していきます。長期間使えば使うほど発生する可能性が高くなるため、ステロイドは漫然と使用する事は避け、必要な期間のみしっかりと使う事が大切です。
ステロイド外用剤の注意点としては、ステロイドは免疫力を低下させるため免疫力が活性化していないとまずい状態での塗布はしてはいけません。具体的にはばい菌感染が生じていて、免疫がばい菌と闘わなくてはいけないときなどが該当します。
このような状態の皮膚にデキサルチン口腔用軟膏を塗る事は原則禁忌(基本的にはダメ)となっています。
ちなみに添付文書には次のように記載されています。
【原則禁忌】
口腔内に感染を伴う患者
→感染症の増悪を招くおそれがあるので、やむを得ず使用する必要のある場合には、あらかじめ適切な抗菌剤、抗真菌剤による治療を行うか、又はこれらとの併用を考慮すること。
これらの状態でデキサルチン口腔用軟膏が原則禁忌となっているのは、ステロイドを塗ってしまうと免疫力が低下するため、口腔内にばい菌の感染があった場合にその感染を悪化させてしまうためです。
5.デキサルチン口腔用軟膏の用法・用量と剤形
デキサルチン口腔用軟膏には、
デキサルチン口腔用軟膏 1mg/g 2g
デキサルチン口腔用軟膏 1mg/g 5g
といった剤型があります。
口の中に塗るタイプの軟膏であるため、においや味が気になる方もいらっしゃると思いますが、デキサルチン口腔用軟膏はにおいや味はほとんどありません。
ちなみに塗り薬には「軟膏」「クリーム」「ローション(外用液)」などいくつかの種類がありますが、これらはどのように違うのでしょうか。
軟膏は、ワセリンなどの油が基材となっています。長時間の保湿性に優れ、刺激性が少ないことが特徴ですが、べたつきは強く、これが気になる方もいらっしゃいます。また皮膚への浸透力も強くはありません。
クリームは、水と油を界面活性剤で混ぜたものです。軟膏よりも水分が入っている分だけ伸びがよく、べたつきも少なくなっていますが、その分刺激性はやや強くなっています。
ローションは水を中心にアルコールなどを入れることもある剤型です。べたつきはほとんどなく、遣い心地は良いのですが、保湿効果は長続きしません。しかし皮膚への浸透力は強く、皮膚が厚い部位などに使われます。
デキサルチンは口腔内に塗るものであるため、粘着力が一番強い軟膏が最適であり、そのため軟膏剤しかありません。
デキサルチン口腔用軟膏の使い方は、
通常、適量を1日1~数回患部に塗布する。なお、症状により適宜増減する。
と書かれています。実際は皮膚の状態や場所によって回数や量は異なるため、主治医の指示に従いましょう。
ちなみに間違って飲み込んでしまっても身体に害はありません。
6.デキサルチン口腔用軟膏の使用期限はどれくらい?
デキサルチン口腔用軟膏の使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。
「家に数年前に処方してもらった塗り薬があるんだけど、これってまだ使えますか?」
このような質問は患者さんから時々頂きます。
これは保存状態によっても異なってきますので、一概に答えることはできませんが、適正な条件で保存されていたという前提(室温保存)だと、4年が使用期限となります。
7.デキサルチン口腔用軟膏が向いている人は?
以上から考えて、デキサルチン口腔用軟膏が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
デキサルチン口腔用軟膏の特徴をおさらいすると、
・Ⅳ群(中等度の強さ)に属する外用ステロイド剤である
・炎症を抑える作用、免疫反応を抑える作用、皮膚細胞の増殖を抑える作用がある
・ステロイドの中で効果は穏やか
・ステロイドであるため、長期使用による副作用に注意
・口の中でも軟膏がはがれにくいように基材に工夫がされている
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
というものでした。
ここから主に口の中(口内や舌など)に生じた、ばい菌が原因でない炎症に用いるのに向いています。
これはステロイド全てに言えることですが、漫然と使い続けることは良くありません。ステロイドは必要な時期のみしっかりと使い、必要がなくなったら使うのを止めるという、メリハリを持った使い方が非常に大切です。
デキサルチン口腔用軟膏は粘着性の高い基材を使う事で、水分が多い口腔内でも軟膏が流れにくいように工夫されています。しかしそうはいってもながれてしまう事もあります。
同系統のお薬として、シールのようなものを貼るタイプのものもあります(アフタッチなど)。これはデキサルチン口腔用軟膏よりも更にはがれにくくなるため、軟膏がすぐにはがれて困っている方は、このような剤型に変更してみるのも方法です。
8.先発品と後発品は本当に効果は同じなのか?
デキサルチンは「アフタゾロン」というお薬のジェネリック医薬品になります。
ジェネリックは薬価も安く、剤型も工夫されているものが多く患者さんにとってメリットが多いように見えます。
しかし「安いという事は品質に問題があるのではないか」「やはり正規品の方が安心なのではないか」とジェネリックへの切り替えを心配される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
同じ商品で価格が高いものと安いものがあると、つい私たちは「安い方には何か問題があるのではないか」と考えてしまうものです。
ジェネリックは、先発品と比べて本当に遜色はないのでしょうか。
結論から言ってしまうと、先発品とジェネリックはほぼ同じ効果・効能だと考えて問題ありません。
ジェネリックを発売するに当たっては「これは先発品と同じような効果があるお薬です」という根拠を証明した試験を行わないといけません(生物学的同等性試験)。
発売したいジェネリック医薬品の詳細説明や試験結果を厚生労働省に提出し、許可をもらわないと発売はできないのです、
ここから考えると、先発品とジェネリックはおおよそ同じような作用を持つと考えられます。明らかに効果に差があれば、厚生労働省が許可を出すはずがないからです。
しかし先発品とジェネリックは多少の違いもあります。ジェネリックを販売する製薬会社は、先発品にはないメリットを付加して患者さんに自分の会社の薬を選んでもらえるように工夫をしています。例えば飲み心地を工夫して添加物を先発品と変えることもあります。
これによって患者さんによっては多少の効果の違いを感じてしまうことはあります。この多少の違いが人によっては大きく感じられることもあるため、ジェネリックに変えてから調子が悪いという方は先発品に戻すのも1つの方法になります。
では先発品とジェネリックは同じ効果・効能なのに、なぜジェネリックの方が安くなるのでしょうか。これを「先発品より品質が悪いから」と誤解している方がいますが、これは誤りです。
先発品は、そのお薬を始めて発売するわけですから実は発売までに莫大な費用が掛かっています。有効成分を探す開発費用、そしてそこから動物実験やヒトにおける臨床試験などで効果を確認するための研究費用など、お薬を1つ作るのには実は莫大な費用がかかるのです(製薬会社さんに聞いたところ、数百億という規模のお金がかかるそうです)。
しかしジェネリックは、発売に当たって先ほども説明した「生物学的同等性試験」はしますが、有効成分を改めて探す必要もありませんし、先発品がすでにしている研究においては重複して何度も同じ試験をやる必要はありません。
先発品と後発品は研究・開発費に雲泥の差があるのです。そしてそれが薬価の差になっているのです。
つまりジェネリック医薬品の薬価は莫大な研究開発費がかかっていない分が差し引かれており先発品よりも安くなっているということで、決して品質の差が薬価の差になっているわけではありません。