ダイアート錠(一般名:アゾセミド)は1993年から発売されている利尿剤です。
利尿剤とは尿量を多くするお薬で、尿の量を増やす事で身体の水分を減らし、むくみなどを改善させるはたらきがあります。
下肢などのむくみの改善に用いられる他、心不全や肝不全、腎不全などに伴うむくみなどにも用いられています。
利尿剤の中でダイアートはどのような特徴を持つお薬で、どのような方に向いているお薬なのでしょうか。
ダイアートの特徴や効果・副作用についてみていきましょう。
1.ダイアートの特徴
ダイアートはどのような特徴を持つお薬なのでしょうか。
ダイアートは利尿剤です。利尿剤とは、尿の量を増やす事で体内の水分を減らすお薬になります。
この作用から、利尿剤は身体に余分な水が溜まってしまった時に用いられます。具体的には浮腫(むくみ)などを改善させるの他、肺に水が溜まってしまう「胸水」やお腹に水が溜まってしまう「腹水」を改善させるためにも用いられます。
ダイアートは利尿剤の中でも「ループ利尿薬」という種類に属します。
利尿剤にはループ利尿薬の他にも、「カリウム保持性利尿剤」「チアジド系(サイアザイド系)」「チアジド類似薬」などいくつかの種類があり、それぞれ特徴が異なります。
まずは利尿剤の中でのループ利尿薬がどんな特徴を持ったお薬なのかを紹介しましょう。
【ループ利尿薬の特徴】
・尿量を増やす事でむくみを改善させる利尿剤である |
ループ利尿薬は、尿を作る器官である「尿細管」にある「ヘンレのループ」という部位に作用するお薬になります。ヘンレのループに作用するから「ループ利尿薬」と呼ばれています。
尿細管でループ利尿薬がどのように作用するのかといった詳しい機序については後述しますが、まずは簡単に、尿細管(ヘンレのループ)に作用して尿量を増やすのがループ利尿薬だと覚えてください。
ダイアートをはじめとしたループ利尿薬は、利尿作用(尿量を増やす作用)が強い事が特徴です。利尿剤にはいくつかの種類がありますが、利尿作用だけでみればループ利尿薬が圧倒的に強力です。
しかし他の利尿薬(カリウム保持性利尿薬、チアジド系など)は、利尿作用のみならず降圧作用(血圧を下げる作用)などもあります。しかしループ利尿薬は降圧作用は極めて弱く、尿量を増やす事に特化したお薬です。
そのため、「むくみを取りたい」「胸水を抜きたい」「腹水を抜きたい」など、身体に余計な水分が溜まっていて、それを改善させたいような時に適しています。
では次にループ利尿薬の中でのダイアートの特徴を紹介します。
【ループ利尿剤の中でのダイアートの特徴】
・ゆっくり長く効くループ利尿薬である |
ループ利尿薬にもいくつかのお薬がありますが、その中でダイアートの特徴は、「ゆっくり長く効く」という点です。効果発現は緩やかな方ですが、持続力に優れます。
ループ利尿剤の中でもっとも有名なのは「ラシックス(一般名:フロセミド)」というお薬ですが、ラシックスは即効性があり強力に尿量を増やしますが、作用時間は短めです。
そのためしっかりと効果を持続させたいような場合は1日2回など複数回服用する必要がありますし、急激に水分を引くため脱水によるふらつきや転倒などのリスクも高めになります。
対して、ダイアートは1日1回の服用で十分な事が多く、またゆっくり長く効くため急激に身体の水分量や電解質を変化させないため、身体にも優しいという利点があります。
急いで身体の水を抜かないといけないような急性期にはラシックスの方が適していますが、身体に負担少なく安全に余分な水分を排泄していくような慢性期にはダイアートの方が適しています。
以上からダイアートの特徴を挙げると次のようになります。
【ダイアートの特徴】
・尿量を増やす事でむくみを改善させるループ利尿薬である |
2.ダイアートはどんな疾患に用いるのか
ダイアートはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫
ダイアートは利尿剤に属し、尿量を増やす事で身体の水分を減らす作用があります。そのため身体に余分な水分が溜まっているような方に用いられます。
心性浮腫、腎性浮腫、肝性浮腫というのは、それぞれ「心臓が原因で生じる浮腫」「腎臓が原因で生じる浮腫」「肝臓が原因で生じる浮腫」の事です。
心臓は血液を全身に送り出すはたらきをしていますので、心臓のはたらきが弱くなると血液が送り出せない分、心臓の手前の血管(静脈)に血液が溜まっていきます。この状態が続くと血管にたまった水分は次第に血管外に漏れ出していくため、肺に水がたまったり(肺うっ血、胸水など)、身体に浮腫(むくみ)が生じます。
また腎臓は尿を作るはたらきをしていますので、腎臓のはたらきが弱まると尿を作りにくくなり、尿として排泄できない分だけ血管に水分が溜まっていきます。この状態が続くと、同様に血管にたまった水分は次第に血管外に漏れ出していくため、浮腫が生じます。
肝臓は解毒作用をもつ臓器で、全身を巡り終わった血液は門脈という静脈を通じて肝臓に入っていきます。肝臓のはたらきが悪くなり肝硬変になると、門脈から肝臓に血液が入りにくくなります。すると門脈より手前の血管(静脈)に血液が溜まっていき、この状態が続くと血管にたまった水分は次第に血管外に漏れ出していくため、お腹に水がたまったり(腹水)、浮腫が生じます。
ダイアートはこれらの疾患に対してどのくらい効果があるのでしょうか。
上記疾患に対してダイアートを投与した調査では、
- 心性浮腫に対する有効率は61.2%
- 腎性浮腫に対する有効率は45.3%
- 肝性浮腫に対する有効率は57.0%
であったと報告されています。
3.ダイアートにはどのような作用があるのか
ダイアートにはどのような作用があるのでしょうか。ダイアートの作用機序について紹介します。
Ⅰ.尿中に電解質を排泄し、尿量を増やす
ダイアートの主な作用は、尿の量を増やす事です。
尿量が増えれば身体の水分の量が減りますので、身体に溜まってしまった余計な水分を抜く事が出来ます。
ダイアートの作用機序を更に深く理解するためには、尿がどのように作られるのかを知る必要があります。
尿は腎臓で作られます。腎臓に流れてきた血液は、腎臓の糸球体という部位でろ過され、尿細管に移されます。このように尿細管に移された尿の素(もと)は、「原尿」と呼ばれます。
糸球体は血液をざっくりとろ過しておおざっぱに原尿を作るだけですので、原尿には身体にとって必要な物質がまだたくさん含まれています。
原尿をそのまま尿として排泄してしまうと、身体に必要な物質がたくさん失われてしまいます。それでは困るため、尿細管には原尿から必要な物質を再吸収する仕組みがあります。
つまり糸球体でざっくりと血液がろ過されて原尿が作られ、尿細管によって原尿から必要な物質が体内に戻され、最終的に排泄される尿が出来上がるわけです。
原尿から必要な物質が再吸収されて最終的に作られた尿は、腎臓から尿管を通り膀胱に達し、そこで一定時間溜められます。膀胱に尿がある程度溜まって膀胱が拡張してくると、その刺激によって尿意をもよおし、排尿が生じます。
これが尿が作られる主な機序になります。
ループ利尿薬は、原尿から必要な物質を再吸収する尿細管の仕組みの1つをブロックするお薬になります。
尿細管は糸球体に近い方から「近位尿細管」「ヘンレのループ(ヘンレ係蹄)」「遠位尿細管」「集合管」の4つの部位に分けられています。
このうち「ヘンレのループ」に作用するのがループ利尿薬です。ループ利尿薬の「ループ」はヘンレのループから来ているのです。
ヘンレのループにはNa+(ナトリウムイオン)、K+(カリウムイオン)、Cl-(クロールイオン)を体内に再吸収する仕組みがあります。
ダイアートをはじめとしたループ利尿剤は、この仕組みをブロックします。つまりNa+、K+、Cl-が体内に再吸収されるのをブロックするという事です。これにより、Na+、K+、Cl-は尿としてそのまま排泄されてしまいます。
ちなみにNa+は一緒に水分も引っ張る性質があります。Na+が増えると、その液体の浸透圧が上がるため、水を引き寄せるようになるのです。難しい説明はここでは省略しますが、体内では水はNa+と一緒に動く性質があると覚えてください。
つまり、ダイアートは尿中のNa+(とK+、Cl-)を増やす事によって尿中の水分も増やすという事です。これによって尿量を増やします。
これがダイアートをはじめとしたループ利尿剤の基本的な作用機序になります。
Ⅱ.抗ADH(バソプレシン)作用
上記以外の作用として、ダイアートは「ADH(バソプレシン)」というホルモンのはたらきをブロックする作用も報告されています。
ADHは脳の視床下部で作られ、下垂体という部位から分泌されるホルモンで、尿細管の集合管に作用し、原尿から水分を体内に再吸収するはたらきがあります。
ADHは「抗利尿ホルモン」とも呼ばれており、その名の通り水分を原尿から体内に戻す事で尿量を少なくする(抗利尿)ホルモンなのです。
ダイアートは腎臓でプロスタグランジン(PG)という物質を活性化させるはたらきがあります。プロスタグランジンは様々な作用を持つ物質ですが、腎臓ではADHのはたらきをブロックする作用があり、これによって水分が体内に戻りにくくなります。
これはつまり水分がそのまま尿として排泄されやすくなるという事です。この作用によっても尿量が増えます。
4.ダイアートの副作用
ダイアートにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。
ダイアートの副作用発生率は4.51%と報告されています。
生じうる副作用としては、
- 高尿酸血症
- 低カリウム血症
- BUN上昇
- クレアチニン上昇
などが報告されています。
ダイアートは身体の水分を減らす事で脱水状態にしてしまうリスクがあります。その結果、BUN、Cr(クレアチニン)といった腎臓系の酵素を上昇させてしまう事があります。また脱水になると尿酸値も上昇してしまいます。
また、ダイアートはNa+、K+、Cl-といった電解質の再吸収をブロックしますから、これらの電解質が少なくなってしまう副作用が生じえます。
このような副作用の可能性から、ダイアートを長期にわたって服用する際は定期的に血液検査を行う事が望ましいでしょう。
ダイアートで生じうる重篤な副作用としては、
- 電解質異常(低カリウム血症、低ナトリウム血症など)
が報告されています。
ダイアートは作用機序上、Na+(ナトリウムイオン)、K+(カリウムイオン)、Cl-(クロールイオン)をたくさん尿に出すため、体内のこれらのイオン量が少なくなる事があるのです。
ナトリウムイオンがあまりに少なくなると、倦怠感、食欲不振、嘔気、嘔吐、痙攣、意識障害などといった症状が出現します。カリウムイオンが少なくなると、倦怠感、脱力感、不整脈などが生じます。
ダイアートを長期にわたって使用する際は定期的に血液検査でナトリウム、カリウムなどの電解質をチェックする必要があります。
ダイアートを投与してはいけない方(禁忌)としては、
- 無尿の方
- 肝性昏睡の方
- 体液中のナトリウム・カリウムが明らかに減少している方
- スルフォンアミド誘導体に対し過敏症の既往歴のある方
が挙げられています。
ダイアートは尿の排泄を増やす事で血圧を下げるお薬ですので、尿が出ない状態にある方(無尿)に投与しても意味がありません。
またダイアートは血中の脱水状態を誘発する事によりアンモニアを上昇させる可能性があるため、肝性昏睡(肝不全によってアンモニアが蓄積し、意識レベルが低下する状態)の方に投与すると、状態をより悪化させる可能性があります。
ダイアートはナトリウム、カリウムといった電解質の排泄をお薬によって増やしてしまうお薬です。そのため低ナトリウム血症、低カリウム血症など、元々電解質に異常がある方が服用すると更に電解質の異常を悪化させてしまう危険があります。
またダイアートはスルフォンアミド誘導体の1つであるため、似た化学構造を持つスルフォンアミド誘導体のお薬が合わない方は投与する事は出来ません。
5.ダイアートの用法・用量と剤形
ダイアートは、
ダイアート錠 30mg
ダイアート錠 60mg
の2剤形があります。
ダイアートの使い方は、
通常成人1日1回60mgを経口投与する。なお、年齢・症状により適宜増減する。
となっています。
ダイアートはループ利尿剤の中では即効性は弱く、緩やかに長く効く特徴があります。しかし、そうは言っても服用した日から尿量の増加は認められます。また、長く効くとは言っても24時間尿が出っぱなしになるという事はありません。
具体的には、ダイアートの利尿作用は服用してから1時間以内に認められ、9~12時間ほど続くと報告されています。
ダイアートは服用する時間は厳密には決められてはいませんが、基本的には朝の服用が推奨されています。これは夜に服用してしまうと、夜間眠っている時に利尿作用が最大となってしまい、何度もトイレで起きるようになってしまうためです。
朝に服用すれば就寝時の頃には利尿作用は弱まっていますので、夜間の睡眠に悪影響をきたす可能性は低くなります。
6.ダイアートが向いている人は?
以上から考えて、ダイアートが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ダイアートの特徴をおさらいすると、
【ダイアートの特徴】
・尿量を増やす事でむくみを改善させるループ利尿薬である |
というものでした。
ループ利尿薬であるダイアートは、身体の余分な水分(浮腫や胸腹水など)を取りたいというケースにおいて有用です。
ループ利尿剤の中では緩やかに長く効くダイアートは、「今すぐに水を抜かないと大変だ!」といった急性期よりも、「ある程度落ち着いているから緩やかに水を抜いていこう」「大分落ち着いてきたからこれから再発しないように緩やかに水を引き続けよう」といった慢性期の治療・維持において向いています。
ただしダイアートに限らずループ利尿薬は水分を抜く力が強いため、漫然と使っていると脱水状態を引き起こしてしまう事があります。そのため、定期的に身体所見や血液検査を見て脱水に至っていないか注意する必要があります。