ドキサゾシンは、1990年から発売されている「カルデナリン」という降圧剤（血圧を下げるお薬）のジェネリック医薬品になります。
降圧剤の中でも「α遮断薬（αブロッカー）」という種類に属し、α1受容体という部位をブロックする事で血圧を下げるはたらきを持ちます。
高血圧症の患者さんは日本で1000万人以上と言われており、降圧剤は処方される頻度の多いお薬の1つです。
ドキサゾシンはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ここではドキサゾシンの特徴や効果・副作用について紹介していきます。
目次
１．ドキサゾシンの特徴
まずはドキサゾシンの特徴をざっくりと紹介します。
ドキサゾシンはα受容体をブロックする事で、血圧を下げる作用を持ちます。α遮断薬の中では効果も強く作用時間が長いため、よく用いられています。
ドキサゾシンは、アドレナリンが作用する部位である「アドレナリン受容体」のうち、α（アルファ）1受容体をブロックするはたらきを持つため、「α遮断薬」と呼ばれます。
α1受容体は交感神経に存在する受容体です。そして交感神経は緊張や興奮した時に活性化する神経です。
緊張・興奮状態が引き起こされると、α1受容体が刺激されて交感神経が活性化します。すると交感神経は血管の周りを覆っている筋肉である「平滑筋」を収縮させるため、血管も収縮します。
血管が収縮すると、血管の中にある血液が血管壁を押す力（血圧）が強くなります。これによって血圧が上がります。
ドキサゾシンはα1受容体をブロックする事で、交感神経によって血圧が上昇するこの機序を起こしにくくさせます。血管平滑筋が収縮できなくなるため血管は拡張し、血圧が下がるというわけです。
ドキサゾシンをはじめとしたα遮断薬は、他の降圧剤（血圧を下げるお薬）と比べると降圧力が弱く、そのために高血圧治療の主剤としてはあまり用いられていません。そのため、他の降圧剤のみでは効果不十分な場合に、補助的に用いるお薬という位置づけになります。
ドキサゾシンもα遮断薬ですので、その降圧効果は他の降圧剤と比べると強くはありません。しかしα遮断薬の中では降圧効果が強いため、α遮断薬が検討されるような時にはよく用いられるお薬です。
作用時間も長く、多くのα遮断薬が1日2～3回に分けて服用する必要があるところ、1日1回の投与で効果が得られるのも特徴です。
また適応疾患にはありませんが、ドキサゾシンは血管の平滑筋のみならず、前立腺や尿道の平滑筋も同様にゆるめるはたらきを持つため、前立腺肥大症によって尿の出が悪くなっているような方（排尿障害）にもある程度の効果が期待できます。
つまり、高血圧症と前立腺肥大症による排尿障害を合併している方にとっては1剤で複数の効果を得られる可能性であるお薬なのです。
注意点としては、ドキサゾシンをはじめとしたα遮断薬は、服用初期は急激に血圧を下げてしまう事があります。特にいきなり高用量からはじめると血圧が急に下がりやすいため、α遮断薬は少量より開始し、少しずつ量を増やすようしなければいけません。
急に高用量を使用すると、めまいやふらつきが生じやすくなる他、脳梗塞や心筋梗塞といった重篤な状態になる危険もありますので、必ず用法・用量を守って使用する事が大切です。
またドキサゾシンはジェネリック医薬品ですので、先発品の「カルデナリン」と比べると薬価が安いのもメリットの1つです。
以上からドキサゾシンの特徴として次のような点が挙げられます。
【ドキサゾシンの特徴】
・α1受容体とブロックする事で血圧を下げる作用がある
・他の降圧剤と比べると効果は穏やかだが、α遮断薬の中では効果は強い
・適応疾患にはないが、尿道をゆるめて尿を出しやすくする作用もある
・いきなり高用量からはじめると急激に血圧が下がってしまう事がある
・1日1回の投与で効果が得られる
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
２．ドキサゾシンはどんな疾患に用いるのか
ドキサゾシンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
〇 高血圧症
〇 褐色細胞腫による高血圧症
ドキサゾシンが用いられる疾患は「高血圧症」になります。
しかし高血圧症に対して、ドキサゾシンのようなα遮断薬は最初から用いられるお薬ではありません。高血圧症治療ガイドラインにおいても、
高血圧に対する第一選択薬は、
〇 カルシウム拮抗薬
〇 ARB（アンジオテンシンII 受容体拮抗薬）
〇 ACE阻害薬（アンジオテンシン変換酵素阻害薬）
〇 利尿薬のいずれか
と記載されており、ドキサゾシンのようなα遮断薬は第一選択には入っていません。
α遮断薬は、これら第一選択のお薬と比べると心血管系イベントを抑制する効果が低いという研究結果があり、そういったところが理由となっていると思われます。
そのためα遮断薬は、上記の第一選択薬を使っても十分に血圧が下がらない場合に追加される補助的な降圧剤、という位置づけになっています。
ただし高血圧症の中でも褐色細胞腫に対しては積極的に用いられます。褐色細胞腫は、副腎という臓器にアドレナリンを過剰分泌してしまう腫瘍が出来てしまう病気で、それによって血圧が異常に上昇してしまいます。
治療は腫瘍を手術で摘出するのが原則ですが、一時的にお薬で血圧を下げる事もあります。褐色細胞腫ではアドレナリンの増加が血圧上昇の原因になっていますので、アドレナリン受容体をブロックする作用を持つα遮断薬が良く効きます。
では、ドキサゾシンは高血圧症に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
ドキサゾシンはジェネリック医薬品ですので有効性に対する詳しい調査は行われていません。しかし先発品のカルデナリンでは行われており、その結果が参考になります。
高血圧症に対してカルデナリンを投与した降圧効果を、「著明下降」「下降」「やや下降」「不変」「やや上昇」「上昇」「著明上昇」の7段階で評価した調査では、その効果が「下降」以上と判断された率は、
- 軽症・中等症の本態性高血圧症に対する有効率は76.5%
- 重症高血圧症に対する有効率は89.3%
- 腎障害を伴う高血圧症に対する有効率は79.2%
- 褐色細胞腫による高血圧症に対する有効率は79.2%
と報告されています。ドキサゾシンの有効率もこれと同程度だと考えられます。
「本態性高血圧症」とは、原因が特定されていない高血圧の事です。いわゆる通常の高血圧の事で、高血圧症の9割は本態性高血圧になります。
本態性でない高血圧は「二次性高血圧」と呼ばれ、これは何らかの原因があって二次的に血圧が上がっているような状態を指します。お薬の副作用による血圧上昇、ホルモン値の異常による高血圧（原発性アルドステロン症など）があります。
本態性高血圧のほとんどは単一の原因ではなく、喫煙や食生活の乱れ、運動習慣の低下などの複数の要因が続く事による全身の血管の動脈硬化によって生じます。
３．ドキサゾシンにはどのような作用があるのか
ドキサゾシンはどのような作用を持つお薬なのでしょうか。
ドキサゾシンの作用はアドレナリン受容体のうち、α1受容体をブロックすることになります。
ドキサゾシンの作用機序を理解するために、まずα1受容体がどのように血圧を上げているのかを見ていきましょう。
α1受容体は自律神経の1つである「交感神経」に存在します。交感神経は「緊張状態」を作り出す神経として知られており、例えば人前での発表や、目上の人との面談などといった緊張場面で活性化します。
緊張場面になるとアドレナリンが分泌され、それが自律神経のアドレナリンα1受容体にくっつきます。すると交感神経が活性化します。
交感神経が活性化すると、血管の周りを覆っている平滑筋という筋肉を収縮させます。平滑筋が収縮すると血管が締め付けられるため血管も収縮し、血圧が上がるというわけです。
この血圧が上がる機序をブロックするのがドキサゾシンです。
ドキサゾシンはα1受容体をブロックするはたらきがあります。これはα1受容体にフタをするようなイメージで、これによってアドレナリンがα1受容体にくっつけなくなります。
すると平滑筋が収縮できないため、血管を覆っている平滑筋がゆるみ、血管が広がって血圧が下がるというわけです。
これがドキサゾシンの作用機序になります。
４．ドキサゾシンの副作用
ドキサゾシンにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。
ドキサゾシンはジェネリック医薬品ですので副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「カルデナリン」では行われており、副作用発生率は4.89%と報告されています。
同じ主成分からなるドキサゾシンの副作用発生率もこれと同程度だと考えられます。
生じうる副作用としては、
- めまい・ふらふら感
- 起立性めまい（立ち上がった時にめまいがする）
- 頭痛・頭重
- 動悸・心悸亢進
- 肝機能障害（AST、ALT、ALP上昇）
などが報告されています。
めまいや頭痛は血圧が急に下がるために生じる副作用です。ドキサゾシンをはじめとしたα遮断薬は、降圧効果はそこまで高くないものの、特に飲み始めに急激に効果が出てしまう事があります。
また動悸は、血圧が下がった事で低下した血液量を、心拍数を増やす事で代償的に補おうとするために生じます。
ドキサゾシンは主に肝臓で代謝されるため、時に肝臓に負荷をかけてしまい肝機能が悪化する事もあります。ドキサゾシンの服用が長期に渡っている方は定期的に血液検査等で肝機能をチェックした方が良いでしょう。
頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- 失神・意識喪失
- 不整脈
- 脳血管障害
- 狭心症、心筋梗塞
- 無顆粒球症、白血球減少
- 血小板減少
- 肝炎、肝機能障害、黄疸
が挙げられています。
失神・意識喪失は血圧の急激な低下で生じます。ドキサゾシンをはじめとしたα遮断薬は投与初期は急激に血圧を下げてしまう事があります。
血圧が急に下がると、めまい・ふらつきが急に生じ、意識を失ってしまう事があります。また稀に脳梗塞や狭心症・心筋梗塞などを引き起こしてしまう事もあります。
特に高用量をいきなり投与するとこのようなリスクが生じやすくなるため、α遮断薬は少量から開始し、少しずつ増量するように決められています。
またドキサゾシンは主に肝臓で代謝されるため、肝臓に負担がかかって肝炎や肝機能障害、黄疸が生じることがあります。
特に肝障害が元々ある方は特に注意しなければいけませんので、事前に主治医に自分の病気についてしっかりと伝えておきましょう。
ドキサゾシンを投与してはいけない人（禁忌）としては、
- ドキサゾシンの成分に対し過敏症の既往歴のある方
が挙げられています。これはドキサゾシンに限らずあらゆる薬で設定されている禁忌項目になります。
５．ドキサゾシンの用法・用量と剤形
ドキサゾシンは、
ドキサゾシン錠 0.5mg
ドキサゾシン錠 1mg
ドキサゾシン錠 2mg
ドキサゾシン錠 4mg
といった剤型が発売されています。
ドキサゾシンの使い方は、
通常、成人には1日1回0.5mgより投与を始め、効果が不十分な場合は1～2週間の間隔をおいて1～4mgに漸増し、1日1回経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日最高投与量は8mgまでとする。
ただし、褐色細胞腫による高血圧症に対しては1日最高投与量を16mgまでとする。
と書かれています。
ドキサゾシンをはじめとしたα遮断薬は、必ず少量から始め、少しずつ増やしていく必要があります。
これは急激に増やすと急激な血圧の低下で、めまいやふらつきといった副作用や、脳梗塞・心筋梗塞といった重篤な状態を引き起こすリスクが高くなるからです。
ドキサゾシンは半減期が10～16時間とα遮断薬の中ではなく、1日1回投与で治療効果が確認されている数少ないα遮断薬です。
この使い勝手の良さから、ドキサゾシンはα遮断薬の中でももっともよく処方されています。
６．ドキサゾシンが向いている人は？
以上から、ドキサゾシンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ドキサゾシンの特徴をおさらいすると、
・α1受容体とブロックする事で血圧を下げる作用がある
・他の降圧剤と比べると効果は穏やかだが、α遮断薬の中では効果は強い
・適応疾患にはないが、尿道をゆるめて尿を出しやすくする作用もある
・いきなり高用量からはじめると急激に血圧が下がってしまう事がある
・1日1回の投与で効果が得られる
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
などがありました。
臨床でドキサゾシンを用いるのは、
・他の降圧剤だけでは効果不十分な時
・高血圧と前立腺肥大症を合併している時
・交感神経の活性化によって血圧が上がっている時
などがあります。
高血圧に対して、ドキサゾシンのようなα遮断薬は最初に選択されるお薬にはなりません。
使われるのは他の降圧剤（ARB、ACE阻害薬、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、利尿剤など）を用いても効果が不十分な時になります。
ドキサゾシンは血圧を下げるだけでなく、尿道をゆるめて尿を出しやすくするはたらきがありますので、高血圧と前立腺肥大症を合併している方は、1剤で2つの疾患へ効果が得られるドキサゾシンはメリットがあり、選択される事があります。
またドキサゾシンは緊張の神経である交感神経を抑える事で血圧を下げるという作用機序を持ちます。ここから動脈硬化による高血圧ではなく、不安や緊張などが過度に高まる事で血圧が上昇しているような心因性の高血圧にも効果が期待できます。
ドキサゾシンはジェネリック医薬品ですので薬価が安いのもメリットの1つです。治療に当たってなるべく経済的負担を軽減したい方も勧めやすいお薬になります。