アボルブカプセルの効果と副作用【前立腺肥大症治療薬】

アボルブカプセル(一般名:デュタステリド)は、2009年から発売されている前立腺肥大症の治療薬です。

前立腺が肥大してしまうと前立腺の中を通っている尿道は押しつぶされてしまうため、前立腺肥大症では排尿障害(尿が出にくくなる事)が生じます。

一般的な前立腺肥大症の治療薬は、尿道や前立腺の筋肉を緩める事で尿道が広がりやすくなるようにし、排尿障害を改善させます。これは確かに排尿障害を改善させてくれるのですが、根本の原因である前立腺が肥大している事に対しては何の作用もないという問題もあります。

これに対してアボルブは、男性ホルモンに作用することで前立腺の肥大を縮小させる作用を持ち、根本に対して直接作用する頼れるお薬になります。

アボルブはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここではアボルブの特徴や効果・副作用について紹介させて頂きます。

 

1.アボルブカプセルの特徴

まずはアボルブの特徴をざっくりと紹介します。

アボルブは男性ホルモンのはたらきを弱める事で、肥大した前立腺を縮小させる作用を持ちます。他の前立腺肥大症治療薬と異なり、前立腺に直接作用するため高い効果が得られるという特徴があります。

代表的な前立腺肥大症の治療薬には、

  • α遮断薬
  • PDE5阻害剤

などがあります。

α遮断薬はα受容体をブロックする事で尿道や前立腺の筋肉を緩め、これによって前立腺肥大によって生じる排尿障害(尿が出にくくなる症状)を軽減させます。

PDE-5阻害薬は、PDE-5という酵素をブロックすることで下部尿路の血管を拡張させ、血流を増やす事で排尿障害を改善させます。

いずれも確かに排尿障害には効果があるお薬なのですが、あくまでも排尿障害を改善させているだけで根本の原因である前立腺の肥大を抑える作用はありません。言うなれば間接的に症状を改善させているだけの対症療法という事も出来ます。

これに対してアボルブは前立腺そのものを縮小させる直接的な作用を持ち、前立腺を小さくする事で排尿障害を改善させるお薬になります。

前立腺が肥大する原因には様々なものがありますが、その一つとして、男性ホルモンが影響している事は間違いないと考えられています。アボルブは男性ホルモンのはたらきを抑えるため、前立腺の肥大及びそれに伴う諸症状をしっかりと改善させることが期待できます。

アボルブは「5α還元酵素阻害薬」と呼ばれています。5α還元酵素は男性ホルモンである「テストステロン」を、より作用の強い男性ホルモンである「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変えるはたらきを持ちます。

アボルブはこの5α還元酵素をブロックするため、テストステロンがジヒドロテストステロンに変化しにくくなり、全体的には男性ホルモンのはたらきが弱まります。男性ホルモンが弱まると前立腺が縮小し、前立腺肥大で生じていた症状の改善も得られます。

また男性ホルモンのはたらきを弱めるというアボルブの作用は、前立腺以外への効果も期待できます。例えばAGA(男性型脱毛症)への効果も確認されており、AGAに対しては「ザガーロ」という商品名で発売されています(アボルブもザガーロも中身は一緒でどちらも「デュタステリド」になります)。

一方で本来分泌されている男性ホルモンのはたらきを弱める事によって副作用が出現する可能性もあります。

具体的には性欲低下、勃起不全などが生じる可能性があります。また胎児や子供にアボルブが影響してしまうと、男性ホルモンのはたらきが弱まってしまい、成長過程に異常が生じてしまう可能性があります。アボルブは皮膚からも吸収されるため、特に妊婦さんやお子様はアボルブにあやまって触る事のないように気を付けないといけません。

アボルブの注意点として、このお薬は前立腺を縮小させる作用を持つため、もし前立腺に癌があった場合、前立腺の肥大やそれに伴う排尿障害が出現しにくくなるため、癌の発見が遅れてしまいやすいというデメリットもあります。

前立腺ガンはPSAという腫瘍マーカーを測定することで疑われることが多いのですが、アボルブは前立腺を縮小させることでPSA値も低くしてしまいます。

アボルブを服用していると前立腺癌が見つかりにくくなるため、アボルブの服用を開始する際は、前立腺癌がないか事前にしっかりとチェックを行い、服用中もPSA値のみで前立腺を評価するのではなく他の検査も併用して異常がないか確認していく必要があります。

またアボルブは男性ホルモンのはたらきを弱めることで前立腺を縮小させますが、男性ホルモンが弱まったからといって即座に前立腺が縮小することはありません。効果が得られるまでには数か月(おおよそ6か月程度)かかると考えられており、他の前立腺肥大症の治療薬と比べて効果発現までに時間がかかる点もデメリットになります。

以上からアボルブの特徴として次のような点が挙げられます。

【アボルブの特徴】

・男性ホルモンのはたらきを弱めることで前立腺の肥大を縮小させる
・男性ホルモンのはたらきを弱めるため、副作用として性欲低下などが生じることがある
・他の前立腺肥大症治療薬と比べて、効果を得られるまでには時間がかかる(半年ほど)
・男性ホルモンのはたらきを抑えるため、妊婦や小児が触ると成長過程に異常が生じる恐れがある
・前立腺の肥大やPSA値を下げてしまうため、前立腺癌が見つかりにくくなるというデメリットがある

 

2.アボルブカプセルはどのような疾患に用いるのか

アボルブはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

前立腺肥大症

アボルブは男性ホルモンのはたらきを弱めることで前立腺を縮小させるはたらきがありますので、前立腺肥大そのものに対しての効果が期待できます。

前立腺肥大症とは、その名の通り前立腺が肥大する疾患です。前立腺は前立腺液を作る臓器で、これは精子の一部となる液です。男性にしかない臓器であるため、前立腺肥大症は男性特有の疾患になります。

なぜ前立腺が肥大するのかははっきりとは分かっていませんが、加齢や高血圧、高脂血症、遺伝などが関係すると言われています。特に加齢の影響は大きく、高齢者では高い確率で前立腺肥大症が認められます。また男性ホルモンが影響している事もほぼ間違いないと考えられています。

前立腺は膀胱の下部にある尿道を囲むようにして存在しています。そのため、前立腺が肥大すると尿道が圧迫され尿が出にくくなってしまいます。これを排尿障害といいます。また、尿が出にくくなるため、全ての尿が排出されず、膀胱内に尿が残ってしまい残尿感が生じることもあります。排尿障害とは逆に、膀胱が刺激されることによる頻尿が生じることもあります。

アボルブは肥大した前立腺を縮小させ、前立腺肥大によって生じていた様々な症状(排尿障害、残尿、頻尿など)を改善させる効果があります。

ではアボルブは具体的にどのくらいの有効性があるのでしょうか。

前立腺肥大症の患者さんにアボルブ0.5mg1日1回の投与を52週間(約1年間)続けた調査では、

  • IPSSが5.3点低下
  • 最大尿流率が2.2mL/sec上昇
  • 前立腺容積が33.8cc低下

と前立腺肥大が改善している所見が得られています。

前立腺肥大症の症状の程度を評価するための方法として、IPSS(国際前立腺症状スコア)というものがあります。

前立腺肥大症の症状を点数化し、0~8点を軽症、9~20点を中等症、20以上を重症と判断します。

前立腺肥大症に伴う排尿障害を有している患者さんにアボルブ0.5mg/日を52週間投与した試験では、IPSSが約5.3点低下した事が報告されています。

また排尿障害(尿の出にくさ)が改善された指標として、最大尿流率の改善が挙げられます。これは簡単に言えば「どれだけ勢いよく尿が出るか」という事で、排尿障害があると尿はチョロチョロとしかでないため、最大尿流率は低下します。

 

3.アボルブカプセルにはどのような作用があるのか

アボルブは「5α還元酵素阻害薬」と呼ばれており、5α還元酵素のはたらきをブロックするのが主な作用になります。

5α還元酵素は、男性ホルモンである「テストステロン」を「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変換する酵素になります。

DHTはテストステロンよりも強い男性ホルモンであるため、アボルブによってDHTへの変換がブロックされると、全体的な男性ホルモンのはたらきが弱まるというわけです。

前立腺が肥大する原因には様々なものがありますが、その1つとして「男性ホルモン」が影響しているのは間違いないと考えられています。

その根拠として、

  • 去勢して男性ホルモンの分泌がなくなった男性には、前立腺肥大症が生じない
  • 下垂体機能不全症で男性ホルモンの分泌が低下した男性にも、前立腺肥大症がほぼ生じない

ことが挙げられます。

そのため男性ホルモンのはたらきを弱めるアボルブは前立腺肥大症の治療に有効であり、前立腺を縮小させるはたらきがあるのです。

 

4.アボルブカプセルの副作用

アボルブにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。

アボルブの副作用発生率は10.9%と報告されています。

アボルブは5α還元酵素をブロックして男性ホルモンを弱めるはたらきを持ちます。そのため男性ホルモン低下の症状が副作用として出現することがあります。

比較的多く認められるのが、

  • 性欲低下
  • 勃起不全

などの性機能障害の副作用です。また男性ホルモンが弱まるという事は相対的に女性ホルモンが高くなるという事なので、

  • 乳房障害

が出現することがあります。これは女性化乳房といって女性のように胸部が膨らんできたり、それに伴って乳房痛や乳房不快感などが生じる症状です。

アボルブは主に肝臓で代謝されるため、肝機能障害が生じることもあります。肝機能障害が生じると血液検査でAST、ALTといった肝臓系酵素の上昇が認められることがあります。

元々肝臓が悪いという方は特に注意しなければいけませんので、事前に主治医に自分の病気についてしっかりと伝えておき、また定期的に血液検査を行うようにしましょう。

 

5.アボルブカプセルの用法・用量と剤形

アボルブは次の剤型が発売されています。

アボルブカプセル 0.5mg

アボルブの使い方は、

通常成人には1回0.5mgを1回2錠、1日1回経口投与する。

となっています。

アボルブはわずかに食事の影響を受けますが、その程度は無視しても問題ない程度です。そのため、食後・空腹時問わずに服薬することが可能です。

 

6.アボルブカプセルが向いている人は?

最後にアボルブが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

アボルブの特徴をおさらいすると、

【アボルブの特徴】

・男性ホルモンのはたらきを弱めることで前立腺の肥大を縮小させる
・男性ホルモンのはたらきを弱めるため、副作用として性欲低下などが生じることがある
・他の前立腺肥大症治療薬と比べて、効果を得られるまでには時間がかかる(半年ほど)
・男性ホルモンのはたらきを抑えるため、妊婦や小児が触ると成長過程に異常が生じる恐れがある
・前立腺の肥大やPSA値を下げてしまうため、前立腺癌が見つかりにくくなるというデメリットがある

などがありました。

前立腺肥大症を根本から治してくれるのがこのお薬の良い点になりますが、一方で効果が得られるまでに時間がかかる事や前立腺癌が見つかりにくくなる事などがデメリットになります。

ここから、排尿障害や残尿感といった症状の改善をある程度待てる方に適しています。一方で「すぐに症状を治してくれないと困る」という場合には他の前立腺肥大症治療薬(α遮断薬など)の方が良いかもしれません。

また他の前立腺肥大症治療薬とは異なる作用を持つため、他のお薬で効果がなかった前立腺肥大症の方も試す価値があるお薬になります。

PSA値を下げて前立腺癌を発見しにくくしてしまうため、前立腺ガン発症リスクが高い方には慎重に用いなくてはいけません。