エラスチーム錠(一般名:エラスターゼES)は1984年から発売されているお薬で、脂質異常症(高脂血症)の治療薬になります。
脂質異常症の治療薬は現在「スタチン系」がもっとも用いられており、エラスチームが処方される事はあまりありません(スタチン系:クレストール、リピトール、メバロチンなど)。
しかしエラスチームにはスタチン系にない良さもあります。効果は穏やかですが、酵素が主成分であるため安全性に優れます。またスタチン系とは異なる作用機序で高脂血症を改善させてくれるため、スタチン系では効果不十分な方にも効果が期待できます。
エラスチームはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに使うお薬なのでしょうか。今回はエラスチームの特徴や効果・副作用について紹介します。
目次
1.エラスチームの特徴
まずはエラスチームの特徴を紹介します。
エラスチームは、元々人の膵臓にも存在する酵素「エラスターゼ」が主成分です。脂質の分解・排泄を促し、また動脈硬化の進行を防ぐはたらきがあります。
エラスチームはブタの膵臓から抽出されたエラスターゼという酵素が主成分となっています。エラスターゼはエラスチンを分解するはたらきがありますが、それ以外にもいくつかの作用がある事が分かっています。
【エラスチン】
繊維状のたんぱく質。皮膚やじん帯・血管などに弾力と強度を持たせるはたらきがある。
その1つが脂質の分解と排泄の促進です。エラスターゼはリポ蛋白という脂質を含んだたんぱく質の分解・排泄を促す作用があります。
また動脈硬化の進行を抑制する作用もあります。
動脈硬化が生じる原因の1つに、動脈の壁に脂質が沈着してしまう事が挙げられます。これは「粥状硬化」と呼ばれます。
エラスターゼは動脈壁に脂質が沈着するのを防ぐはたらきがあります。また血管の構成成分でもあるエラスチンのうち、古くなったものを分解し、新しいエラスチンを合成するはたらきもあります。
注意点として、エラスチームは服用時に噛んではいけません。噛んでしまうと効果がかなり弱まってしまうからです。
エラスターゼは酸性の環境下では効果が不安定になる事が知られており、普通に服用すると胃酸に触れて効果が減弱してしまいます。それを防ぐため、エラスチームは胃では溶けずに腸で溶けるような特殊なコーティングがされているのです。
ちなmにこのようなコーティングがされているお薬を「腸溶剤」と呼びます。
エラスチームに副作用はほとんどありません。元々私たちの身体に含まれる酵素が主成分ですから、安全性は高いお薬になります。
以上からエラスチームの特徴として次のような点が挙げられます。
【エラスチームの特徴】
・エラスターゼという人にも存在する酵素が主成分である
・脂質の分解・排泄を促進する
・動脈硬化の進行を防ぐ
・腸溶剤であり、噛んではいけない
・副作用はほとんどなく安全性に優れる
2.エラスチームはどんな疾患に用いるのか
エラスチームはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
高脂血症
エラスチームは脂質異常症(高脂血症)に対して用いられるお薬になります。
LDLコレステロール(悪玉コレステロール)を低下させる作用、HDLコレステロール(善玉コレステロール)を上昇させる作用がある他、動脈硬化の進行を防ぐ作用が報告されています。
効果の強さとしては、それほど強い効果はありません。穏やかに効き、安全性が高いお薬になります。
高脂血症に用いられるお薬はいくつかの種類がありますが、それらの薬と比べるとエラスチームの効果は弱めだと言えるでしょう。
3.エラスチームにはどのような作用があるのか
高脂血症の患者さんに対して投与されるエラスチームですが、どのような機序で高脂血症を改善させるのでしょうか。
具体的な作用機序を紹介します。
Ⅰ.脂質の分解・排泄
コレステロールは肝臓で合成されますが、エラスチームは肝臓に作用し、合成されたコレステロールを分解・排泄するはたらきがあります。
またエラスチームはLPL(リポ蛋白リパーゼ)という酵素の活性を高めます。LPLは中性脂肪を脂肪酸に分解する酵素であるため、LPLの活性が高まると血中の中性脂肪が分解されて少なくなります。また中性脂肪を低下させる事で、間接的に悪玉コレステロールを低下させる作用もあります。
ちなみに分解されてできた脂肪酸は、各臓器に取り込まれてエネルギーとして使われます。
Ⅱ.動脈硬化進行の抑制
動脈の壁に脂質が沈着してしまうと動脈硬化が進行したり、血管内腔が狭くなって塞栓(脳梗塞や心筋梗塞)のリスクが高まります。
エラスチームは動脈壁に脂質が沈着するのを防ぐはたらきがあります。またコラーゲンが異常増殖して血管が固くなってしまうのも防ぐはたらきがある事が報告されています。
4.エラスチームの副作用
エラスチームにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。
エラスチームの副作用発生率は0.93%と報告されており、副作用は非常に少ないお薬になります。
生じうる副作用としては、
- 発疹
- 掻痒感(かゆみ)
- 悪心・食欲不振
- 胃障害
- 下痢
などが報告されています。
いずれも程度も軽度である事がほとんどで、重篤な副作用が生じる事は極めて稀です。
5.エラスチームの用法・用量と剤形
エラスチームには、
エラスチーム錠1800単位
の1剤型のみがあります。
エラスチームの使い方は、
通常、成人には1日量3錠を3回に分けて食前に経口投与する。効果不十分の場合は、6錠まで増量できる。ただし、年齢、症状により適宜増減する。
と書かれています。
エラスチームは「食前」に服用するお薬です。「食後」ではありませんので、間違えないように注意が必要です。
食前投与の理由はエラスチームが「腸溶錠(腸で溶けて吸収されるように設計されたお薬)」であり、胃酸に触れると効果が弱まってしまうためです。
食後に服用してしまうと胃の中にエラスチームがとどまる時間が長くなり、効果が弱まりやすくなってしまうため、食後投与となっています。
6.エラスチームが向いている人は?
以上から考えて、エラスチームが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
エラスチームの特徴をおさらいすると、
・エラスターゼという人にも存在する酵素が主成分である
・脂質の分解・排泄を促進する
・動脈硬化の進行を防ぐ
・腸溶剤であり、噛んではいけない
・副作用はほとんどなく安全性に優れる
などがありました。
高脂血症のお薬はスタチン系をはじめ、現在は複数の種類のお薬がありますので、エラスチームが処方される機会というのはあまりないのが現状です。
しかし、
- 他の脂質異常症治療薬で十分に改善しない
- 他の脂質異常症治療薬が合わない
などといった場合に、追加・変薬で試してみる価値はあるでしょう。
元々からだに存在する酵素であり、副作用の少ないお薬になりますので、安全に使用できる点もメリットの1つです。
ちなみに脂質というと、血液検査で中性脂肪(TG:トリグリセリド)とコレステロール(Chol)の2つがありますが、この2つはどう違うのでしょうか。
中性脂肪は、俗に言う「体脂肪」の脂肪分が血液中に流れているもので、これはエネルギー源として使われます。中性脂肪は体脂肪として貯蔵される事で、いざという時に活動するためのエネルギーになるのです。
一方コレステロールはというと「身体を作るための材料」として使われています。コレステロールは細胞を構成する材料となったり、体内で様々なはたらきをしているホルモンを作る材料となったり、胆汁酸やビタミンの材料となったりします。
中性脂肪もコレステロールも、どちらも身体にとって必要なものですが、過剰になりすぎれば害となります。