エナラプリルマレイン酸塩の効果と副作用【降圧剤】

エナラプリルマレイン酸塩は1986年に発売された「レニベース」という降圧剤(血圧を下げるお薬)のジェネリック医薬品になります。降圧剤の中でもACE阻害薬という種類に属します。

ACE阻害薬は降圧剤ですが、単に血圧を下げるだけでのお薬ではありません。心臓や腎臓を保護したり、糖尿病を改善させたりといった付加的な作用があります。

上手に使えば1剤で複数の効果が期待でき、お薬の作用をしっかりと熟知すれば非常に頼もしいお薬だと言えるでしょう。

血圧を下げる降圧剤にも多くの種類があります。その中でエナラプリルマレイン酸塩はどんな特徴のある降圧剤で、どんな患者さんに向いているお薬なのでしょうか。

エナラプリルマレイン酸塩の効果や特徴についてみていきましょう。

 

1.エナラプリルマレイン酸塩の特徴

まずはエナラプリルマレイン酸塩というお薬の特徴について説明します。

エナラプリルマレイン酸塩は「ACE阻害薬」という種類の降圧剤になります。ACE阻害薬はその名の通り、ACE(アンジオテンシン変換酵素)という酵素のはたらきをブロックすることで血圧を下げるお薬になります。

ACEはアンジオテンシンⅠという物質をアンジオテンシンⅡという物質に変えるはたらきがあります。アンジオテンシンⅡは血圧を上げる作用があるため、ACEがブロックされるとアンジオテンシンⅡが少なくなり、血圧が下がるのです。

ACE阻害薬はエナラプリルマレイン酸塩以外にもいくつかありますが、まずは降圧剤の中でのACE阻害薬の特徴について紹介します。

【ACE阻害薬の特徴】
・血圧を下げる力(降圧力)は中程度
・臓器保護作用があり心不全・腎不全にも用いられる
・糖尿病を改善させる作用がある
・空咳が生じる事があるが、逆手にとって誤嚥予防に用いられることも

ACE阻害薬は降圧剤に属し、血圧を下げるはたらきを狙って投与されます。しかしそれ以外にも付加的な効果があるのが特徴です。

単純に「血圧を下げる力」だけを見れば、カルシウム拮抗薬などより効果が強い降圧剤もあります。しかしACE阻害薬は血圧を下げる作用以外にもいくつかの作用があるのです。

その1つが「臓器保護作用」です。ACE阻害薬は心臓や腎臓を保護してくれる作用が確認されています。

血圧が高いと心臓や腎臓にもダメージを与えます。血液は心臓から血管を通って全身の臓器に送られるわけですから、血管が硬くなって血圧が上がれば心臓の負荷が上がり、心臓も痛みやすくなります。

また腎臓は血液から老廃物を取り出し尿を作るはたらきがあります。血管が硬くなっている高血圧の方では、尿を作るのも負荷がかかるようになり腎臓も痛みやすくなります。

このように血圧が高い方というのは、心臓や腎臓といった臓器にもリスクが生じるため、臓器保護作用を持つACE阻害薬は高血圧による全身へのダメージをより広く守ってくれるお薬だと言えます。

更にACE阻害薬は、インスリンの効きを増強させるはたらきがある事が報告されています。インスリンは血糖値を下げるホルモンですので、インスリンが増強されれば糖尿病の改善も期待できます。

ACE阻害薬に特徴的な副作用としては、「空咳」があります。これはACEをブロックするとサブスタンスPという物質が増えるためだと考えられています。人によっては困る副作用でありますが、この副作用を逆手に取って「誤嚥の予防」に用いることもあります。

高齢者では食べ物を飲み込む力(嚥下能)が低下してしまい、食べたものが食道ではなく気管にあやまって入ってしまうという事が起こり得ます。これを「誤嚥」と言い、誤嚥を起こすと肺に異物が入るため誤嚥による肺炎(誤嚥性肺炎)を引き起こしてしまいます。

誤嚥はサブスタンスPが減ることで咳反射が生じにくくなると起こりやすくなります。サブスタンスPが増えると咳は生じやすくなりますが、誤嚥は起こしにくくなるのです。

元々、咳というのは気管に入った異物を追い出す行為である事を考えれば、これは当然と言えるでしょう。

この作用を利用してACE阻害薬は誤嚥予防に用いられる事もあるのです。

では次にACE阻害薬の中でのエナラプリルマレイン酸塩の特徴を紹介します。

・作用時間が長く、1日1回の服用で効果が持続する
・心不全に対する報告が豊富
・腎排泄性である
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

ACE阻害薬の中でのエナラプリルマレイン酸塩の最大の特徴は、1日1回の服用で24時間効果が持続することです。1日に何回もお薬を飲むのは手間になりますので、これはエナラプリルマレイン酸塩の大きなメリットと言えます。

多くの場合、血圧は急いで下げる必要はありません。ゆっくりと確実に下げていくものです。また血圧は一日を通してしっかりと下げる事が望ましいため、降圧薬もゆっくり長く効く事が望まれます。

またACE阻害薬は心臓を保護する作用があるため、心不全の方に用いられることが多いのですが、ACE阻害薬の中でもエナラプリルマレイン酸塩は心不全に対する効果がしっかりと確認されています。

注意点としては、腎排泄性であるという事があります。これは主に腎臓から排泄されるお薬だという事です。腎排泄性のお薬は腎臓が悪い方の場合に注意が必要です。排泄に当たって腎臓に負担がかかるため、慎重に用いる必要があります。

エナラプリルマレイン酸塩はジェネリック医薬品であるという点も大きなポイントです。薬価が安い事がジェネリック医薬品のメリットですが、エナラプリルマレイン酸塩は先発品のレニベースと比べると1/3以下の薬価になっており、非常に安価になっています。

以上からエナラプリルマレイン酸塩の特徴を挙げると次のようになります。

【エナラプリルマレイン酸塩の特徴】

・中等度の血圧を下げる作用がある
・心臓・腎臓などの臓器保護作用がある(特に心不全への報告が豊富)
・糖尿病を改善させる作用がある
・空咳が起こり得るが、これが誤嚥の予防になる事もある
・1日1回の服用で24時間効果が持続する
・腎排泄性である
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

 

2.エナラプリルマレイン酸塩はどんな疾患に用いるのか

エナラプリルマレイン酸塩はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

(1)本態性高血圧症、腎性高血圧症、腎血管性高血圧症、悪性高血圧

(2)下記の状態で、ジギタリス製剤、利尿剤等の基礎治療剤を投与しても十分な効果が認められない場合

慢性心不全(軽症~中等症)

エナラプリルマレイン酸塩は降圧剤ですので、「高血圧症」の患者さんに用います。

本態性高血圧というのは原因が特定されていない高血圧の事で、一般的に言われる高血圧の事です。本態性でない高血圧は「二次性高血圧」と呼ばれ、これは何らかの原因があって二次的に血圧が上がっているような状態を指します。これにはお薬の副作用による血圧上昇、ホルモン値の異常による高血圧(原発性アルドステロン症など)があります。

本態性高血圧のほとんどは単一の原因ではなく、喫煙や食生活の乱れ、運動習慣の低下などが続く事による全身の血管の動脈硬化によって生じます。

腎性高血圧症、腎血管性高血圧症というのは、腎臓に向かう血管である腎動脈が狭窄する事によって生じる高血圧です。腎動脈が狭窄して腎臓の血流が少なくなると、腎臓は「血液が少ない。血圧を上げて血流を増やさなければ!」と考えて血圧を上げるホルモン(レニン)を分泌します。これにより血圧が上がってしまうのが腎性(腎血管性)高血圧です。

悪性高血圧とは顕著な血圧高値による全身臓器の障害が発生してしまい、早急に血圧を下げないと危険な状態である高血圧の事です。先ほど、多くの場合で血圧は急いで下げる必要はないと書きましたが、悪性高血圧は例外です。

またエナラプリルマレイン酸塩は心不全に対する効果の報告が豊富であるため、心不全患者さんへの適応もあります。保険適応上は、「ジギタリスや利尿剤」といった他の心不全の治療薬を使っている方にしか使えないとなっていますが、医学的に見れば心不全の第一選択薬として用いても問題ありません。

実際に心不全の治療ガイドラインではACE阻害薬の使用は第一選択(まず最初に考慮されるべき薬物療法)となっています。

エナラプリルマレイン酸塩はジェネリック医薬品であるため有効率の詳しい調査は行われておりません。しかしレニベースにおいては各種高血圧症に対する総合的な有効率は、78.0%と報告されており、エナラプリルマレイン酸塩も同程度の有効率だと考えられます。

内訳としては、

  • 軽~中等症の本態性高血圧症に対する有効率は76.4%
  • 重症の本態性高血圧に対する有効率は91.0%
  • 腎性高血圧症に対する有効率は80.7%
  • 腎血管性高血圧症に対する有効率は77.8%
  • 悪性高血圧症に対する有効率は80.0%

となっています。

また慢性心不全に対する改善率は43.5%と報告されています(いずれも先発品のレニベースにおける報告)。

エナラプリルマレイン酸塩をはじめとしたACE阻害薬は単なる高血圧に使うのではなく、

  • 心肥大を合併した高血圧症
  • 腎機能障害を合併した高血圧症
  • 糖尿病を合併した高血圧症
  • 誤嚥しやすい方に合併した高血圧症

に用いることによって、1剤で複数の効果を得る事が出来ます。

 

3.エナラプリルマレイン酸塩にはどのような作用があるのか

エナラプリルマレイン酸塩は具体的にどのような作用を有しているのでしょうか。

エナラプリルマレイン酸塩の作用機序について紹介します。

 

Ⅰ.降圧作用

エナラプリルマレイン酸塩は降圧剤であり、主となる作用は血圧を下げる作用になります。

ではエナラプリルマレイン酸塩はどのように血圧を下げてくれるのでしょうか。

私たちの身体の中には、血圧を上げる仕組みがいくつかあります。その1つに「RAA系」と呼ばれる体内システムがあります(RAA系とは「レニン-アンジオテンシン-アルドステロン」の略です)。

RAA系は本来、血圧が低くなりすぎてしまった時に血圧を上げるシステムです。RAA系は「腎臓に流れてくる血流量」を元に全身の血圧を推測し、血圧をコントロールするシステムになります。

腎臓は血液から老廃物を取り出して尿を作る臓器ですが、ここに「傍糸球体装置」というものがあります。傍糸球体装置は腎臓に流れてくる血液が少なくなると「血圧が低くなっている!」と判断して「レニン」という物質を放出します。

レニンはアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンⅠという物質に変えるはたらきがあります。

更にアンジオテンシンⅠはACEという酵素によってアンジオテンシンⅡになります。

アンジオテンシンⅡは、血管を収縮させて血圧を上げるはたらきがあります。また副腎という臓器に作用して、アルドステロンというホルモンを分泌させます。

アルドステロンは血液中にナトリウムを増やします(詳しく言うと、尿として捨てる予定だったナトリウムを体内に再吸収します)。血液中のナトリウムが増えると血液の浸透圧が上がるため、ナトリウムにつられて水分も血液中に引き込まれていきます。これにより血液量が増えて血圧も上がるという仕組みです。

通常であればこのRAA系は、血圧が低くなった時だけ作動します。しかし血圧が高い状態が持続している方は、このRAA系のスイッチが不良になってしまい、普段からRAA系システムが作動してしまっていることがあります。

エナラプリルマレイン酸塩は体内でエナラプリラトという物質になり、これがACEのはたらきをブロックし、アンジオテンシンⅡが作られないようにします。血圧を上げる物質であるアンジオテンシンⅡが少なくなるため、血圧が下がるというわけです。

また、ACEをブロックするとキニナーゼⅡという物質の産生も抑える事が分かっています。キニナーゼⅡはブラジキニンという物質の分解を抑えるため、キニナーゼⅡが減ると、ブラジキニンも減ります。

ブラジキニンも血圧を上げる作用があるため、この作用も降圧作用に貢献していると考えられています。

 

Ⅱ.臓器保護作用

エナラプリルマレイン酸塩には臓器保護作用があります。

具体的には心臓・腎臓や脳に対して、これらの臓器が傷付くのを防いでくれるのです。

心臓が傷んでしまい、十分に機能できなくなる状態を「心不全」と呼びます。高血圧は心不全のリスクになるため、エナラプリルマレイン酸塩の降圧作用はそれ自体が心保護作用になります。

またそれ以外にも先ほど説明したRAA系の「アンジオテンシンⅡ」は心筋の線維化(リモデリング)を促進し、これも心臓の力を弱める原因となります。

エナラプリルマレイン酸塩はアンジオテンシンⅡの産生量を少なくしてくれるため、これも心保護作用になります。またアンジオテンシンⅡが減る事によりアルドステロンも減るため、これにより体内の余分な水分が減り、心臓への負担も軽減します。

実際にエナラプリルマレイン酸塩は心肥大の患者さんの心肥大の抑制を認め、心筋リモデリング(心筋の線維化)を抑制する事が報告されています。

また腎臓に対しても同様です。腎臓が傷んでしまい、十分に機能できなくなる状態は「腎不全」と呼ばれ、これも高血圧が発症リスクになるため、エナラプリルマレイン酸塩の降圧作用はそれ自体が腎保護作用になります。

アンジオテンシンは腎臓の線維化も促進し、これも腎不全の原因になるのですが、エナラプリルマレイン酸塩は同様の機序で腎臓の線維化を抑え、腎保護作用を発揮します。

ただしエナラプリルマレイン酸塩は腎排泄性であり、これにより逆に腎臓に負担をかけてしまう事もありますので、顕著な腎障害のある方には慎重に使わないといけません。

 

Ⅲ.血糖改善作用

エナラプリルマレイン酸塩には血糖値を改善させる作用があります。

その作用は強くはないため単独で糖尿病の治療に用いられる事はありませんが、高血圧に糖尿病を合併しているような場合では1剤で複数の作用を期待できます。

血糖を改善させる作用はエナラプリルマレイン酸塩がアンジオテンシンⅡの産生を抑制するためだと考えられています。アンジオテンシンⅡはインスリンのはたらきを弱める事で、血液中の血糖が筋肉などの組織に取り込まれにくくします。

ACE阻害薬はACEをブロックすることでアンジオテンシンⅡを減らすため、インスリンの作用が減弱されにくくなり、これが血糖改善になるのです。

またACE阻害薬はブラジキニンという物質を増やす作用があります。ブラジキニンは血液中の血糖を筋肉などの組織に取り込むはたらきがあるため、これも血糖改善作用に貢献しています。

このような機序にてエナラプリルマレイン酸塩は血糖値を下げ、糖尿病を改善させてくれます。

 

Ⅳ.咳反射の亢進

エナラプリルマレイン酸塩はACEをブロックする事でサブスタンスPという物質を増やします。

サブスタンスPは咳反射を亢進させる物質です。そのためACE阻害薬は咳が出やすくなるという副作用が生じることがあります。

一方で咳というのは気管に異物が入らないように気管や肺を守るはたらきがあります。特に高齢者では食物を飲み込む力(嚥下能)が弱ってしまい、食道ではなく気管に食べ物が入ってしまうことがあります(これを誤嚥と呼びます)。

エナラプリルマレイン酸塩はACEを阻害して咳反射を亢進させることにより、この誤嚥を起こす頻度を減らす効果があるのではと考えられており、しばしば誤嚥リスクの高い方に投与されます。

エナラプリルマレイン酸塩をはじめとしたACE阻害薬の誤嚥予防効果は強いものではありませんが、誤嚥は誤嚥性肺炎を引き起こし命に関わる事もあるため、その頻度を少しでも減らせることは意味のある事です。

 

4.エナラプリルマレイン酸塩の副作用

エナラプリルマレイン酸塩の副作用はどのようなものがあるのでしょうか。またエナラプリルマレイン酸塩は安全はお薬なのでしょうか、それとも副作用が多いお薬なのでしょうか。

全体的な印象としてエナラプリルマレイン酸塩をはじめとしたACE阻害薬は安全性が高いお薬です。適正に使用していれば重篤な副作用に出会うことはほとんどありません。

エナラプリルマレイン酸塩はジェネリック医薬品であるため、副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし先発品のレニベースでは副作用発生率は約4.6%と報告されており、エナラプリルマレイン酸塩も同程度だと考えられます。

生じうる副作用としては、

  • めまい
  • 咳嗽(咳)
  • 発疹
  • 低血圧
  • 腹痛
  • 倦怠感

などが報告されています。

エナラプリルマレイン酸塩より前に発売されていたACE阻害薬の「カプトリル(一般名:カプトプリル)」は構造上SH基(チオール基)を持つため、味覚異常(味覚がおかしくなる)が生じる事があり、問題となっていました。

しかしエナラプリルマレイン酸塩にはチオール基がないため、カプトリルと異なり味覚異常の副作用の報告はありません。

咳嗽はACE阻害薬がサブスタンスPを増やす事によって生じる副作用で、ACE阻害薬に共通する副作用になります。

頭痛や低血圧、倦怠感はエナラプリルマレイン酸塩は血圧を下げてしまうことによって生じる症状です。

また血液検査値の異常の報告もあり、

  • カリウム上昇
  • BUN、クレアチニン上昇
  • AST、ALT上昇

などが挙げられます。

エナラプリルマレイン酸塩は「アルドステロン」というホルモンのはたらきを弱めますが、アルドステロンは本来、体内のナトリウムを増やし、その代り体内のカリウムを減らすはたらきがあります(ナトリウムを尿から再吸収し、カリウムを尿に排泄します)。

エナラプリルマレイン酸塩はこの作用を止めてしまうため、体内のカリウムが増えすぎてしまうことがあるのです。

また腎排泄性であるため、腎臓が傷むと上昇する酵素(BUN、クレアチニン)が上昇してしまう事があります。

そのためACE阻害薬を長期間副作用されている方は定期的に血液検査などで肝機能、腎機能、電解質(カリウムなど)をチェックしておくことが望ましいでしょう。

稀ですが重篤な副作用として

  • 血管浮腫
  • ショック
  • 心筋梗塞、狭心症
  • 急性腎不全
  • 汎血球減少、無顆粒球症、血小板減少
  • 膵炎
  • 間質性肺炎
  • 剥脱性皮膚炎、中毒性表皮壊死症、皮膚粘膜眼症候群、天疱瘡
  • 錯乱
  • 肝機能障害、肝不全
  • 高カリウム血症
  • 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)

などが報告されています。

また、エナラプリルマレイン酸塩は次の状態の方には禁忌(使用してはダメ)となっています。

  • エナラプリルマレイン酸塩の成分に対し過敏症の既往歴のある方
  • 血管浮腫の既往歴のある方(血管浮腫による呼吸困難が出現する可能性がある)
  • デキストラン硫酸固定化セルロース、トリプトファン固定化ポリビニルアルコール又はポリエチレンテレフタレートを用いた吸着器によるアフェレーシスを施行中の方(ブラジキニンの蓄積によりアフナフィラキシーが生じる可能性がある)
  • アクリロニトリルメタリルスルホン酸ナトリウム膜(AN69®)を用いた血液透析施行中の方(透析中にアナフィラキシーを起こす可能性がある)
  • 妊婦又は妊娠している可能性のある方
  • ラジレスを投与中の糖尿病の方(非致死性脳卒中、腎機 能障害、高カリウム血症及び低血圧のリスクが高まる可能性がある)

妊婦さんに投与できないのは、妊娠中期及び末期にACE阻害薬を投与された際に、羊水過少症、胎児・新生児の死亡、新生児の低血圧、腎不全、高カリウム血症、頭蓋の形成不全及び羊水過少症によると推測される四肢の拘縮、頭蓋顔面の変形などが現れたとの報告があるためです。

難しい用語を並べましたが、要するにACE阻害薬を妊娠中に服用すると赤ちゃんに奇形が生じる確率が上がってしまうため、使用する事が出来ないという事です。

また糖尿病患者さんがラジレスとACE阻害薬は併用すると非致死性脳卒中、腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧のリスク増加が報告されています。

ただしラジレスとの併用に関しては、どうしても他の降圧剤で治療できない高血圧症の方に限り、慎重に用いることは認められています。

 

5.エナラプリルマレイン酸塩の用法・用量と剤形

エナラプリルマレイン酸塩は、

エナラプリルマレイン酸塩錠 2.5mg
エナラプリルマレイン酸塩錠 5mg
エナラプリルマレイン酸塩錠 10mg

の3剤形があります。

エナラプリルマレイン酸塩の使い方は、

【各種高血圧症に用いる場合】

通常、成人に対し5~10mgを1日1回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

但し、腎性・腎血管性高血圧症又は悪性高血圧の患者では2.5mgから投与を開始することが望ましい。

通常、生後1ヵ月以上の小児には、0.08mg/kgを1日1回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

【慢性心不全(軽症~中等症)に用いる場合】

本剤はジギタリス製剤、利尿剤等と併用すること。通常、成人に対し5~10mgを1日1回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。但し、腎障害を伴う患者又は利尿剤投与中の患者では2.5mg(初回量)から投与を開始することが望ましい。

と書かれています。

ただし血清クレアチニン値が3を超えるような腎障害のある方は、減量するか投与間隔を伸ばすこと、小児に投与する際は1日10mgを超えないことが推奨されています。

エナラプリルマレイン酸塩は作用の持続時間が長く、服用後約24時間にわたって効果が持続すると考えられています。1日を通して確実に血圧を下げてくれるのはエナラプリルマレイン酸塩のメリットの1つです。

ちなみにエナラプリルマレイン酸塩を服薬してからどれくらいで効果を判定すれば良いのでしょうか。これは明確に決まっているわけではありませんが、通常2週間程度で効果は現れはじめます。しっかりとした効果を判定するには「約1カ月」程度を考えます。

 

6.エナラプリルマレイン酸塩が向いている人は

以上から考えて、エナラプリルマレイン酸塩が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

エナラプリルマレイン酸塩の特徴をおさらいすると、

・中等度の血圧を下げる作用がある
・心臓・腎臓などの臓器保護作用がある(特に心不全への報告が豊富)
・糖尿病を改善させる作用がある
・空咳が起こり得るが、これが誤嚥の予防になる事もある
・1日1回の服用で24時間効果が持続する
・腎排泄性である
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

というものでした。

エナラプリルマレイン酸塩は1日1回で効果が24時間持続し、心不全に対する効果もしっかりと確認されているため、特に心不全を合併した高血圧症の患者さんに適したお薬です。

最近ではARBなどのより新しい降圧剤によって、エナラプリルマレイン酸塩のようなACE阻害薬が処方されることが少なくなりましたが、どんな場合もARBの方が優れているという事はありません。

ARBはACE阻害薬と比べて空咳が生じにくいなどのメリットもありますが、一方で薬価が高いというデメリットもあります。また心筋リモデリングの抑制効果はARBよりもACE阻害薬の方が優れているという報告もあります。

古いお薬ではありますが、正しく使えば現在でも十分な効果を期待できるお薬なのです。

腎保護作用もあるため腎機能障害を合併している高血圧患者さんにも使えますが、一方で腎排泄性であり逆に腎臓を傷めてしまう事もありますので、腎障害の方に使う時には注意が必要になります。

またジェネリック医薬品であり、先発品のレニベースと比べると1/3以下の薬価で処方してもらう事ができますので、経済的負担が心配な方にもお勧めしやすいお薬となります。

 

7.先発品と後発品は本当に効果は同じなのか?

エナラプリルマレイン酸塩は「レニベース」というお薬のジェネリック医薬品になります。

ジェネリックは薬価も安く、患者さんにとってメリットが多いように見えます。

しかし「安いという事は品質に問題があるのではないか」「やはり正規品の方が安心なのではないか」とジェネリックへの切り替えを心配される方もいらっしゃるのではないでしょうか。

同じ商品で価格が高いものと安いものがあると、つい私たちは「安い方には何か問題があるのではないか」と考えてしまうものです。

ジェネリックは、先発品と比べて本当に遜色はないのでしょうか。

結論から言ってしまうと、先発品とジェネリックはほぼ同じ効果・効能だと考えて問題ありません。

ジェネリックを発売するに当たっては「これは先発品と同じような効果があるお薬です」という根拠を証明した試験を行わないといけません(生物学的同等性試験)。

発売したいジェネリック医薬品の詳細説明や試験結果を厚生労働省に提出し、許可をもらわないと発売はできないのです、

ここから考えると、先発品とジェネリックはおおよそ同じような作用を持つと考えられます。明らかに効果に差があれば、厚生労働省が許可を出すはずがないからです。

しかし先発品とジェネリックは多少の違いもあります。ジェネリックを販売する製薬会社は、先発品にはないメリットを付加して患者さんに自分の会社の薬を選んでもらえるように工夫をしています。例えば使い心地を工夫して添加物を先発品と変えることもあります。

これによって患者さんによっては多少の効果の違いを感じてしまうことはあります。この多少の違いが人によっては大きく感じられることもあるため、ジェネリックに変えてから調子が悪いという方は先発品に戻すのも1つの方法になります。

では先発品とジェネリックは同じ効果・効能なのに、なぜジェネリックの方が安くなるのでしょうか。これを「先発品より品質が悪いから」と誤解している方がいますが、これは誤りです。

先発品は、そのお薬を始めて発売するわけですから実は発売までに莫大な費用が掛かっています。有効成分を探す開発費用、そしてそこから動物実験やヒトにおける臨床試験などで効果を確認するための研究費用など、お薬を1つ作るのには実は莫大な費用がかかるのです(製薬会社さんに聞いたところ、数百億という規模のお金がかかるそうです)。

しかしジェネリックは、発売に当たって先ほども説明した「生物学的同等性試験」はしますが、有効成分を改めて探す必要もありませんし、先発品がすでにしている研究においては重複して何度も同じ試験をやる必要はありません。

先発品と後発品は研究・開発費に雲泥の差があるのです。そしてそれが薬価の差になっているのです。

つまりジェネリック医薬品の薬価は莫大な研究開発費がかかっていない分が差し引かれており先発品よりも安くなっているということで、決して品質の差が薬価の差になっているわけではありません。